どうも、ふぁもにかです。多分、ギャグを容赦なく放り込めるのは前回が最後だったでしょうから、今回からは従来通りのシリアス基調の物語となりましょう。そして現状の見通しだと、後15話もすれば最終話を迎えそうな気がします。意外や意外、現時点で物語は割と佳境なのです。『冒険譚(※スケールがしょぼい)』のタグは伊達じゃないのです。
第零鎮守府の応接室にて。暁型駆逐艦四番艦・電と海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168は暁型駆逐艦二番艦・響と向かい合う形でソファーに座り、今まさに情報交換を始めようとしていた。
「とりあえず、まずは私の方から今の境遇について一通り話すことにしよう。何か聞きたいことがあれば、その都度質問を挟んで構わない。私の話が終わり次第、今度は電と――すまない。そういえばまだ君の名前を聞いていなかったね」
「伊168よ。イムヤって呼んでちょうだい、響さん」
「了解。では、私のターンが終わったら、次は電とイムヤが話す。これでどうかな?」
「構わないわ。それが一番効率的だと思うしね」
「わかった。では、始めようか」
響と伊168は情報交換の方法について事前に取り決めを行う。その手早い決定に電の意思がまるで入っていないのは、この手のことに関して、電はイエスマンにしかならないというのが伊168と響の共通認識だからだ。
「まず、私と球磨、あと不知火は元々第伍鎮守府所属の艦娘だ。12、3日ぐらい前に第伍鎮守府からこっそり行方をくらませて、正式に第零鎮守府を立ち上げた」
「エ!? 響オ姉チャン、第伍鎮守府カラ出テイッタノデスカ!?」
「そうなるね。つまり、私たちは第伍鎮守府から独立したのさ。イメージ的には企業勤めのサラリーマンが新事業のアイディアとともに退職し、起業したイメージでいい。第零鎮守府のコンセプトは『艦娘と深海棲艦との共存』。艦娘は元第伍鎮守府所属が3名、ここで建造されたのが3名の計6名。深海棲艦は姫級が2名、その他が3名の計5名。皆もれなく球磨のスカウトで第零鎮守府に所属している。艦娘と深海棲艦、全部合わせて11名。これに妖精さんたちを加えて、こぢんまりと第零鎮守府を運営しているよ。もちろん、大本営や深海棲艦側は第零鎮守府のことを認知していない。艦娘と深海棲艦とが共に生きる第零鎮守府の存在が知れたら大惨事だからね」
「でしょうね。それにあんなオーバーテクノロジーな防犯システムがある以上、大本営も深海棲艦側もここのことを認識していないのは納得だわ。でもあんな突拍子もないシステム、どうやって生み出したのよ?」
響は両手を口の前で組んで意識的に提督っぽい雰囲気を醸造しつつ、己の立場を語り始める。時折投げかけられる電と伊168の問いへの返答を織り交ぜながら、言葉を紡いでいく。
「二人は二種類の妖精さんがいることは知っているかい?」
「ハイナノデス。人類ニ味方スル妖精サント深海棲艦ニ味方スル黒妖精サンデスヨネ?」
「あぁ。電はそう呼んでいるんだね。私は深海棲艦に味方する妖精さんを暫定的に『深海妖精』と銘打っている。で、だ。私が第零鎮守府をこの島に作るにあたって、妖精さんと深海妖精さんとを引き合わせてみたんだ。艦娘と深海棲艦が歩み寄るだけじゃ意味がないからね。当初は妖精さんたちはいがみ合っていたのだが、案外すぐに仲良くなってね。その結果、妖精さんたちの技術が凄まじく進化した。原理はわからないが、おそらく妖精さんと深海妖精さんたちの持つ専門知識が共有されたからだと私は考えている。この島を知る者が手を握ってくれない限り部外者が絶対にこの第零鎮守府を認知できないシステムはその成果の1つさ。ちなみに今、妖精さんたちは深海棲艦でも美味しく食べられる料理や空気から資材を生み出すプラントの開発に取り掛かっていたりする」
「もう、何でもありね……」
「第零鎮守府提督としては頼もしい限りだよ」
どうやら第零鎮守府の保持する規格外の技術は、本来一緒に活動することのない妖精と黒妖精とが協力関係を構築した産物らしい。妖精と黒妖精のタッグのあまりのぶっ飛び具合に思わずドン引きする伊168に、響は何ともなさそうな表情で言葉を返す。色々と常識外れな第零鎮守府において、この程度のことはもはや驚くに値しないのだろう。
「それで、私が第零鎮守府を設置した理由だけど……声が聞こえたからだね」
「声、ナノデス?」
「あぁ。深海棲艦の声だ。深海棲艦には人語を扱える個体とそうでない個体がいる。だが、私は人語を扱えない深海棲艦が何を喋っているのかがわかるんだ。……最初は深海棲艦との戦闘時に少し頭の中にノイズが走る程度だった。でも、戦闘を重ねる内に、深海棲艦の鳴き声から彼女たちの言葉が理解できるようになっていった。深海棲艦は人類への殺意、人類への復讐を邪魔する艦娘への憎しみを咆哮とともに叩きつけてくる。そのくせ、轟沈間際には上司や仲間への謝罪の言葉を残したり、死にたくないと願ったり、妙に人間らしくなるんだ。……気づけば、私は深海棲艦にトドメを刺せなくなった。それをきっかけに、私は段々深海棲艦と戦えなくなった。深海棲艦を撃つと、苦しむ声が鼓膜を打って、その度に胸が締め付けられる。その声がいつまで経っても頭から消えなくなっていく。何が正しくて何が間違っているか、わからなくなった。人類を守るという大義名分の元で、酷く罪深い残虐行為をしでかしているような気持ちに駆られるようになったんだ」
「……響オ姉チャン」
響の心情の吐露に電は少し意外そうに目を見開く。己もまた、深海棲艦を沈めることがとても残酷で、可哀想で、間違ったことのように思えることで悩んでいるだけに、電には自分と同じようなことを姉もまた考えていた事実が思いがけないものだったのだ。
「逃げたかった。深海棲艦と戦いたくなくて仕方なかった。でも、私は艦娘だ。人類を深海棲艦の侵略から守るために妖精さんに生み出された以上、深海棲艦との戦争からただ尻尾を巻いて逃げることは許されない。艦娘の責務として、逃げるなら逃げるなりに何らかの形で深海棲艦との戦争に関わらないといけない。なるべく人類に不利益が降りかからないように戦争を終結させないといけない。……悩んだよ。艦娘のこと。深海棲艦のこと。己の望み。第伍鎮守府の立ち位置。大本営の認識。深海棲艦側の見解。様々な要素を比較衡量して、思いついたのが――艦娘と深海棲艦との共存の道。深海棲艦と敵対せず、双方の立場の妥協の道を探るための鎮守府を非公式ながら新設すること。後は簡単、普段から一緒に行動することの多い球磨と不知火、それととりわけ親交を深めていた一部の妖精さんに協力者になってもらって、この島を見つけて、深海棲艦の同志も見つけつつ深海妖精との協力も取り付けて、この島に作った工廠で艦娘を建造して、そして今の第零鎮守府があるわけだね」
「ソウダッタノデスネ……」
「もしかして、第零鎮守府って名付けた理由って――」
「――お察しの通りだよ。私たち第零鎮守府は艦娘や深海棲艦に決して敵対しない。でも、艦娘や深海棲艦のいずれかに味方するわけでもない。プラスでもなければマイナスでもなく、どちらの立場にもすり寄らない。『零』は私たちが中立であるという象徴ってわけさ」
響は自身が話すべきことはすべて話し終えたと言わんばかりに軽くため息を吐き、『今度は電たちの番だよ』との視線を向けてくる。その響の視線に促されるままに、前に伊168に話した時のように、電は自身の境遇を簡潔に語り始めた。
轟沈をきっかけに深海棲艦になってしまったこと。今の自分が元の艦娘の体を取り戻すための旅をしていること。魂甲棲姫から遊撃の役目をもらっていること。深海棲艦を生み出した何者かが存在すること。その深海棲艦の生みの親と接触することを現時点の旅の目標としていること。第弐鎮守府との戦いのこと。奈落棲姫や伊168のこと。などなど。
「……なるほどね」
電の話を、特に言葉を挟むことなく聞き入っていた響は神妙な表情を浮かべる。その後、「災難だったね、電。そして、赤裸々に話してくれてありがとう。おかげで参考になったよ」と正直に感謝の言葉を告げて、電にペコリと頭を下げる。
「何か、得心がいったって顔ね。何かわかったことでもあるのかしら?」
「いや。わからないことだらけだよ。艦娘の深海棲艦化についても、深海棲艦の艦娘化についても、未知の領域すぎて私から言えることは何もない。……けれど、君たちの境遇を聞いて、1つ仮説が生まれたよ」
「仮説ナノデス?」
「あぁ。私が元々深海棲艦で、今はその記憶がないだけ。だから人語を扱えない深海棲艦が何を言っているかがわかるのではないかという仮説がね。要するに、イムヤ。私は記憶を失っているだけで、根本的には君と同類の可能性がある」
「「ッ!?」」
「……どうやら、私が思っていた以上に艦娘と深海棲艦は表裏一体なのかもしれないね」
響の打ち出した仮説を最後に、応接室が静まり返る。静寂が場を包み、何とも言えない重厚感が電たちを取り込もうとする中。バンッと音を立てながら応接室の扉が開かれる。
「入ルゾ、提督!」
「ん、奈落か。どうかしたかい?」
「ココデデンチャンタチト情報交換スルッテ話ヲ思イ出シタカラナ! オ茶ヲ持ッテキタゾ!」
「お、ありがとう。ちょうど喉が渇いていたんだよ」
「ありがとね、ナッちゃん」
「アリガトウナノデス」
奈落棲姫はおぼんに乗せて持ってきた緑茶を響と伊168に、そして電には燃料を注いだ湯のみを渡す。深海棲艦があらゆる食べ物や飲み物を受けつけないことに配慮してくれたのだろう。
「アト、デンチャン! イムヤ! スッカリ忘レテイタカラ、今紹介スルゾ! 私ノ友達ノ球磨ダ! 良イ奴ダカラヨロシクシテクレ!」
「よろしクマ~☆」
奈落棲姫がビシッと扉の方を指差したタイミングで球磨型軽巡洋艦一番艦・球磨がひょっこりと登場し、応接室に入りつつ軽快なあいさつを繰り出す。球磨の態度を前に、電は「ヨロシクオ願イシマス」とペコリと頭を下げ、伊168は「ま、よろしく」と少々そっけなく返事をした。
「簡単な話は奈落から聞いたけど、情報交換の進捗はどうなってるクマ?」
「ちょうど今、終わった所だよ」
「デンチャン! アノコトハモウ聞イタノカ!?」
「アノコト?」
「ホラ! 黒イ歯車!」
「……アッ!」
球磨が響に現状を確認する一方。奈落棲姫の指摘により、黒い歯車の機構の場所を尋ねることが第零鎮守府を訪れた理由の1つだということを思い出した電は「ソウデシタ! 響オ姉チャン! 響オ姉チャンニ聞キタイコトガアルノデス!」とその話題を持ち出し、問いかけた。
「……黒い歯車の機構、深海棲艦生産プラントか。残念だけど、その情報を私は持ち合わせていなくてね。すまない」
「ア、謝ラナイデクダサイ! 響オ姉チャン!」
「そうよ、別にここで聞けば場所がわかるって期待に胸を膨らませてたわけじゃないからね。何か手掛かりがあればラッキーって程度だったし、そう深刻になる必要はないわ」
「そう言ってくれると助かるよ」
複雑そうな表情を浮かべ、響は謝罪する。その真剣な眼差しに電と伊168がフォローの言葉を差し向けていると、ここで一連の話を聞いていた球磨が声を上げた。
「そういえば、前にゴーヤがそんなものを見たって言ってたクマ」
「「ッ!?」」
「確か、恒例のぼっちオリョクルやってる時に何となく寄り道したら見つけたって話だから多分、君が訪れた深海棲艦生産プラントとは別物だと思うクマ」
「本当デスカ!?」
「球磨はウソを吐かない、善良な艦娘クマ」
思わぬ方向から黒い歯車の機構の情報が飛び出してきたことに電はソファーから跳ねるように立ち上がり、パァァと晴れやかな笑みを浮かべる。
「え? 何その話? 私、全然聞いてないんだけど」
(提督が艦娘よりも掴んでる情報が少ないってどういうことよ……)
「わざわざ報告するようなことじゃないって結論になったから、響は知らなくて当然クマ」
「いやいや、私、提督だよ? そういうのを判断するのは提督の仕事だよ。わかってる?」
「普通ならそうだけど……所詮、球磨と不知火相手の『叩いてかぶってジャンケンポン』で掴み取った名目提督の地位なんてそんなものクマ。諦めと妥協が肝心クマ」
「うぐぅ……」
一方。黒い歯車の機構の情報を一切知らなかった響が素の声色で球磨に問いかけ、伊168は内心で第零鎮守府の組織のガバガバ具合にツッコミを入れる。その後。己は提督であると主張する響を球磨があっさりとねじ伏せたため、響は押し黙らざるを得なかった。
「……ま、まぁいいさ。ところで、電。ゴーヤを案内役にして早速深海棲艦生産プラントの元へ急行するのもいいが……別に急ぐ旅じゃないんだろう? なら、このまま歓迎させてくれ」
「トイウト?」
「もう日も沈みきったことだし、今日はここで泊まるといい。旅続きならロクに入渠できていないだろうし、安全な場所で体を洗って、湯船に浸かったらきっと気持ちいいぞ?」
「ッ!? イイノデスカ!?」
「もちろんだ。二人とも、ゆっくり旅の疲れを癒してくれ」
響からの思わぬ喜ばしい提案に、ただでさえ花が咲いたような笑みを浮かべていた電がさらに嬉しそうに満面の笑顔を零す。電と伊168にとって響からの好意を拒否する選択肢なんてあり得ない。結果、電と伊168は第零鎮守府にお泊りすることとなるのだった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。黒い歯車の機構の情報を得られるわ、ひっさびさに無人島以外で眠れるわ、入渠できるわで喜ばざるを得ない模様。
伊168→前世が潜水棲姫だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦。初登場時は知略特化キャラっぽかったのに、今回はすっかり常識人かつ胃痛っぽいポジションに就いている模様。
奈落棲姫→元々は第弐鎮守府の艦娘だった深海棲姫。響たちのことを気づかってお茶を運んできてくれる辺り、秘書艦としての素質が芽生えているっぽい。
響→第伍鎮守府から失踪し、第零鎮守府の提督となった暁型駆逐艦二番艦。人語を扱えない深海棲艦の声から考えていることがわかる影響で、深海棲艦との戦闘ができないようになった。もしかしたら伊168と同じで前世が深海棲艦だったかもしれない。
球磨→第伍鎮守府から失踪し、第零鎮守府に所属している球磨型軽巡洋艦一番艦。響との相性的には球磨の方が遥かに勝っているようである。
というわけで、第3章5話は終了です。今回は主に第零鎮守府設立の経緯についての話でしたね。にしても、今回は結構シリアス目な話になる予定だったのに、響や球磨などのフリーダム勢が関わるとどうしてもある程度のギャグ要素が入り込んでしまう件について。このフリーダム勢、いい意味でも悪い意味でも恐ろしすぎるぜよ。