どうも、ふぁもにかです……とまぁ随分と前からこの『どうも、ふぁもにかです』を一番最初の挨拶文として採用しているけど、これって正直どうなのか、あまりに無難すぎるから何かテコ入れしたほうがいいんじゃないかと、凄まじくどうでもいいことに頭を悩ませる今日この頃。
艦娘と深海棲艦が共存する第零鎮守府。その提督を勤める暁型駆逐艦二番艦・響の好意により、第零鎮守府への宿泊が決定した暁型駆逐艦四番艦・電と海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168。二人は妖精さんの案内の元で早速入渠ドッグ、もとい無駄に広い大浴場へと赴いていた。
「ハゥゥ、生キ返ルノデスゥゥゥー」
事前にしっかり体を洗い終えていち早く湯船に浸かった電はすっかりだらけていた。電が元の艦娘の体を取り戻そうと旅を初めてかれこれ約10日。電にとって、ここまで全身から力を抜いて心身をリラックスできたのは何気に初めてのことだった。
無人島で休息を取る時、電はどうしても警戒心を完全に取っ払えなかった。眠っている隙に艦娘が上陸するかもしれない。その他、速やかに対処すべきとんでもない事態が発生するかもしれない。精神的な寄る辺のない電の脳裏には常に、電の不安を煽るような可能性が次々とチラついてくる。そのせいで、ここまで羽を伸ばせることは今までになかった。伊168が旅仲間に加わってからは少しだけ警戒心をなくせたものの、完全に消し去ることはできなかった。ゆえに、今。温かい湯船に身を預ける電が完全に無防備なのは、非常に貴重な状態と言えた。
「色ンナコトガ、アッタノデス……」
電は己が電轟棲姫の体となってしまってからの日々を今一度振り返る。先ほど、響に自身の状況を説明したため、自身の歩みを改めて思い起こすことは簡単だった。そうして。電の脳内に、ほんの10日程度の、しかし艦娘だった頃より遥かに濃い日々が次々にフラッシュバックしてゆく。第参鎮守府でのこと。空母ヲ級のこと。魂甲棲姫のこと。艦娘と深海棲艦との戦闘に介入したこと。奈落棲姫のこと。黒い歯車の機構のこと。第弐鎮守府のこと。
「……ッ!」
電の過去の追想が第弐鎮守府の所に差し掛かった瞬間、無意識に電の体がこわばる。が、そのような電の体の変化に関係なく、電の頭脳はフラッシュバックをやめない。電に非常に鮮明な映像として当時の記憶を送り続ける。
――海の藻屑となりなさいな!
――イクの悩殺☆だいしゅきホールドなのね! 相手は死ぬのね!
――深海棲艦を殲滅できるのなら何でもやる。それが第弐鎮守府だ。
――見切ったよ、電轟棲姫!
奈落棲姫を守るために、轟沈させないために、第弐鎮守府の面々と戦ったこと。深海棲艦への強く深いヘイト感情に晒されながら戦い、結局は負けたこと。轟沈するはずだった所を第弐鎮守府へ鹵獲されたこと。大本営に引き渡される寸前まで陥ったこと。
「ア、ゥ……」
第弐鎮守府の艦娘たちの強烈な殺意。電の体に刻まれた、集中砲火の激痛の記憶。今さらながら恐怖がぶり返す。体をポカポカ温めてくれる湯船に入っているはずなのに、電は唐突に体全身をほとばしる悪寒につい己の両肩を抱える。
もしも伊168がいなければ、伊168が特殊な事情を抱え、電を利用した第弐鎮守府からの一時的離脱を画策しなければ、電はほぼ詰んでいた。大本営に身柄を引き渡され、抵抗を許されずロクな結末を迎えなかったことは想像にたやすい。
今こうして、再び元の体を取り戻す旅を始められたのは。呑気に入渠を楽しんでいられるのは。電にとって都合のいい奇跡の上に成り立った事象なのだ。危険すぎる綱渡りを乗り越えた結果、今が存在する。が、一歩間違えれば。電は間違いなく終わっていたのだ。
「ふぅ、いい湯加減ねぇ――って、え? デンちゃん、泣いてるの?」
と、ここで。マイペースにのんびりと体を洗い終えたらしい伊168が電の隣に座る形で湯船に浸かる。電に湯加減の話題でも振ろうと視線を向けた際、伊168はギョッと目を丸くした。まさか入渠中で電が泣いているとは思わなかったのだ。
(まさかとは思うけど、久々すぎるお風呂に感動して泣いてるの!? そんなにお風呂が恋しかったの!? いや、気持ちはわかるけど)
「アレ、オカシイノデス。ドウシテ、ドウシテ……」
伊168に指摘されてようやく自身が涙を流していると自覚した電は伊168の手前、慌てて涙を拭ってごまかそうとする。が、涙が止まらない。どれだけ手で拭っても、拭っても。涙は次々とあふれ出てくる。
「どうしたの、デンちゃん? 見た所、尋常じゃない様子だけど」
「……イムヤサン。前ニ戦ッタ時、私ヲ鹵獲シテクレタノハイムヤサンデスカ?」
「そうだけど? 貴女なら私の第弐鎮守府脱出に利用できると思ったからね」
「アリガトウナノデス。イムヤサンガイナカッタラ、私ハ終ワッテイタノデス」
伊168は自分を第弐鎮守府の営倉から出してくれただけでなく、轟沈するのみだった自分を救い上げてくれていた。そのことを知った電は涙を流しながら、頑張って伊168にニッコリと笑みを浮かべて感謝する。
イムヤさんがいなければ私は終わっていた。元の体を取り戻すという目的を果たせず、第参鎮守府に再び帰ることすらできず、海の藻屑となっていた。艦娘として轟沈したら深海棲艦の体を手にしたように、電轟棲姫として轟沈してももしかしたら次があったのかもしれない。でも、なかったかもしれない以上、イムヤさんは私の命の恩人だ。
どう見ても無理しているとしか思えない電の笑顔に伊168は一旦沈黙する。その後、伊168は電の正面に回り込み、電をギュッと抱きしめた。
「イ、イムヤサン!?」
「とりあえず。今の内に、泣けるだけ泣いときなさい。その手の感情は溜め込んでいても良いことなんてまるでないし、響さんが空気を読んでくれたのか、入渠ドッグには私とデンちゃんしかいないし……後々、今日の件でからかったりしないから、ね?」
伊168はよしよしと電の頭を撫でながら優しく語りかける。ほんの少しだけ突き放したニュアンスながらも、電のことを心から心配している心情が読み取れる伊168の言葉は電の弱った心には瞬く間に染み渡り、電の涙の堤防をいとも簡単に決壊させた。
「ゥゥ、ゥゥアァァアアアアアアアアアア……ッ!」
「悪かったわね、第
「ヒック、イムヤサンノ、セイジャ、ナイノデス……!」
電は衝動のままに伊168にすがりつき号泣する。伊168は申し訳なさを多分に含んだ声色で謝罪しつつ、今度は電の背中をさする。電は伊168の発言をすぐさま否定する。感情のタガが外れてもなお、伊168に罪悪感を抱いてほしくないとの相手を思いやる気持ちが飛び出したのだ。
電は泣く。ガタガタと震えながら、ただただ泣き続ける。
伊168は電を赤子を扱うがごとく丁重に抱きとめる。あまり得意ではないが、それでも電を少しでも安心させようと極力優しい言葉を選ぶ。抱擁の形で体温を分け与える。
「……でも、意外だわ。デンちゃんって結構メンタル脆かったのね」
そうして。電がある程度落ち着いた頃。伊168は未だ涙の止まらない電を眺めて、しみじみと正直な感想を口にする。対する電は伊168の言葉の続きを促すようにコテンと首を傾げる。
「ナッちゃんを助けるために連合艦隊12隻の元に姿を現す。他の深海棲艦を戦闘に巻き込まないで単騎で戦う。敵対する艦娘は一隻たりとも沈めない。でも決して自殺したいわけじゃなくて、自身の生き残りもしっかり視野に入れる。今テキトーに上げただけでも凄まじく無茶なことを全部追い求めて、欲張りに強行して、鹵獲されて営倉に放り込まれて絶体絶命って時にも平常心って感じだったから、デンちゃんは凄く心が強いんだと思ってた。でも、違うのね。等身大のデンちゃんはこんなにも弱くて、ちっぽけだったわけね」
「アゥ……」
伊168の歯に衣着せぬ物言いに電はつい伊168から視線を逸らしてうつむく。号泣という形で自分の弱さを伊168に存分に晒した影響もあり、恥ずかしくなったのだ。が、伊168は電の顎に右手の人差し指を当ててクイッと持ち上げ、無理やり自身と電との視線が合うように調整する。そして。電の逃げを許さない姿勢な伊168は力強く言い放つ。
「なら、これからはもっと私に頼りなさい」
「エ?」
「前にも言ったけど、私は戦力としては戦力外の足手まとい。でも、戦闘面じゃ全然使えないだろうけど、精神面でならデンちゃんのサポートはできるわ。デンちゃんの心が傷つかないように前に立って、敵のヘイトを稼ぐことぐらいはできるわ」
「デ、デモソレダトイムヤサンガ――」
「――心配ないわ。私、こう見えて鋼メンタルだから。今後は荷物を分け合いましょう。それが仲間ってものでしょ?」
伊168は自身に負担がかかることを案じた上での電の発言を意図的に遮り、パチッとカッコよくウインクを決める。こうも頼りがいのある姿を見せられて、仲間というズルい言葉を持ち出されて、それでも伊168の提言を突っぱねられる電ではない。
「……エト。ソレジャア、ヨロシクオ願イスルノデス」
「決まりね」
電がペコリと頭を下げ、伊168がニコリと笑みを浮かべる。
かくして。つい数日前に出会ったばかりの二人の絆が深まるのだった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。ここまで平然としていたが、何だかんだで第弐鎮守府での一件で深く心が傷ついていた模様。ちなみに、湯船に浸かりながら延々と泣いたりしたせいで、あの後メチャクチャのぼせた。
伊168→前世が潜水棲姫だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦。電に拭いがたいトラウマを与えてしまった償いの意味合いも込めて、電が精神的に頼れる存在になろうと考えている模様。ちなみに、電と似たような条件だったはずなのに、あの後メチャクチャのぼせなかった。
というわけで、第3章6話は終了です。伊168が電の精神的な寄る辺となった絆イベントの話でしたね。ところで、今回の話は入渠中の話であり、この作品では入渠≒お風呂って設定になっています。つまり今回、電と伊168はZE☆N☆RAだったわけですよ。
さぁ、皆さん。想像しましょう。妄想しましょう。私は艦娘たちの魅力的な肢体を色々と想像力を掻き立てるような描写で表現する技能なんて持ち合わせていないから地の文描写はサボりましたが、皆さんの巧みな妄想力なら今回のシリアスなお話を『KENZEN』で『あら^~』なお話に捻じ曲げることができるはずです。私は信じています。
~おまけ(没セリフ)~
伊168「――心配ないわ。私、こう見えて鋼メンタルだから」
電「デ、デモ……!」
伊168「私の前世が潜水棲姫だってことはもう言ったわよね。その時に精神面は散々鍛えられたのよ」
伊168(そう、あれは本当に酷かったわ。どれだけ降参の意を表明し『イタイッ! ヤメテヨォォ……!』と懇願しても一切攻撃をやめない第肆鎮守府の連中。『痛いですか、そうですか。でも、これ仕事なんで諦めてください』とでも言わんばかりの表情で平然とトドメを刺しに来やがった結果、勃発した命がけ(※私だけ)の一方的鬼ごっこ。当初は生きた心地がしなかったし結局轟沈したけど、その時に鍛えられたメンタルがここで役に立つなんて……世の中何がどうなるかわかったものじゃないわね、うん)
電(イムヤさんが何だか遠い目をしているのです……)