どうも、ふぁもにかです。今回はサブタイトルから不穏な気配が零れておりますね。ま、察しの良い読者さんやこの作品の感想欄まで覗いてくれている熱心な読者さんなら容易に想定できるであろう展開が今回待ち受けております。まだこれといって察せてない読者さんは……とりあえず、ある程度の覚悟を決めてから今話を閲覧しましょう。そうしましょう。
1年前の轟沈を機に魂甲棲姫と化してしまった金剛型戦艦一番艦・金剛は、深海棲艦生産プラントを稼働させる根本である【システム】を破壊すべく、深海棲艦用の艤装を手掛ける海底工廠の最奥の部屋までやってきた。そして、金剛は深海棲艦が延々と作り出される元凶たる【システム】と対面した。【システム】は確かに存在していた。真っ黒で直径3メートルほどの球形の物体が金剛のはるか上空に浮かび、ドクンドクンと気味の悪い脈動を行っていた。
「コレガ、【システム】……」
生理的かつ本能的な拒絶感に駆られ、思わず金剛は表情を歪めつつ、砲口を【システム】に定める。これを壊せば、新たな深海棲艦は生まれない。これを壊して、戦争を終わらせよう。砲撃を行おうとした刹那、金剛の脳内にいかにも怜悧そうな女性の声が響いた。
『やめなさい。壊しては、ダメ。そんなふざけた真似は認めない』
頭に直接送られる言葉。静かながら、私の言葉に逆らえば容赦しないとの殺意にあふれた言葉。金剛は周囲をグルリと見渡す。声の張本人はすぐに見つけることができた。【システム】の背後の30段ほどの階段。その先に、筒状の透明な容器に入れられた全裸の女性の姿があったのだ。
見た目だけで判断するなら30代後半か、40代辺りか。両目を閉じて静かに眠る彼女はどうやらコールドスリープのようなものにかけられているらしい。金剛が断定しなかったのは普通、コールドスリープにかけられた存在の意識が外部に干渉してくることはないはずだからだ。
『貴女は深海棲艦の皮を被った紛い物のようね。でも、悪いけど貴女にその【システム】は壊させないわ。私は人類に復讐を終えてない。復讐はまだ始まったばかりよ。こんな序盤で終わらせるなんて許さない。ダメよ。ダメ、ダメ。ニンゲンは皆もれなく壊さないと殺さないと潰さないと滅ぼさないと溶かさないとアハハハハッハハハハハハハハハハハハハハッ!!』
女性の元へ近づけば近づくほどに脳内に響く声は大きくなり、金剛の頭を激しく打ち付ける。最初こそ冷静さに富んだ女性の声は化けの皮が剥がれるかのように徐々に精彩を欠き、最終的には狂気に満ち満ちた笑い声を上げるのみとなる。
(まさか、この女性が――深海棲艦の生みの親デース?)
意図せぬ形で【システム】を生み出した張本人と対面した金剛は驚愕に目を見開く。艦娘と深海棲艦との長い長い戦争期間や、深海棲艦の生みの親の残した手記のボロボロ具合から、もう深海棲艦を生み出した人物はとっくに死去しているものだと思っていたからだ。
金剛が筒状の透明な容器に手をピタリと当てると、深海棲艦を生み出した女性の負の感情が質量を伴って金剛へぶつかってくるかのような錯覚がヒシヒシと感じられる。妬み。怒り。憎しみ。嘆き。多彩な負の感情に呑み込まれ、今やただ世界の破滅を望む女性。以前に閲覧した手記から察するに、昔はちゃんと己の故郷を守るために全力を尽くしていたはずなのに、守るべきものを全て失ってしまったせいで、精神の拠り所を失い、壊すことにしか意識を向けられなくなった女性。
話を聞いてみようと思った。彼女の言い分に耳を傾けてみようと思った。
なぜ人類に復讐をしようとしているのか、とか。いかに【システム】を作り上げたのか、とか。
あの時の電のように、放っておけば今にも壊れてしまいそうな気がしたから。
この女性が今のタイミングで壊れてしまうのは、酷く間違ったことのように思えたから。
金剛は【システム】の破壊をひとまず保留にした。その後、金剛は女性の話をいっぱい聞いた。恨み辛みや愚痴など、話す側は気休め程度に気が晴れるだろうが、聞く側からすればストレス蓄積にしか直結しないような話を金剛は一切嫌な顔をせず、いっぱい聞いた。
その後、金剛もいっぱい話した。艦としてどのような実績を積んできたか。艦娘としてどのような活躍をして見せたか。己の艦娘観や深海棲艦観から妹の自慢話に至るまで、金剛は様々な話題を女性に提供した。ティーパーティーの形式で。お互いに。語って。語って。
「……」
そして。いつしか金剛は決意した。彼女の味方になろう。憐れで、可哀想で、救いようがなくて、絶望的に孤独な彼女のために力を尽くそう、と。例え彼女に味方した結果、世界が滅んだとしても、人類や艦娘が絶滅したとしても構わない。世界の破滅を、復讐を成し遂げた時。人類への復讐一辺倒な彼女がどのような感情を抱くかはわからないけれど。その時はその時。私はただ、彼女の手となり足となり、彼女を支えていけばいい、と。
かくして。金剛は深海棲艦の体を持つくせに艦娘をサポートするような真似をやめた。
その辺の深海棲艦よりも深海棲艦らしく、人類や艦娘を滅ぼす方向に動き始め、今に至る。
◇◇◇
「エ……?」
海底工廠の管理室にて。金剛の口から直接、魂甲棲姫としての変遷を聞き終えた暁型駆逐艦四番艦・電は硬直していた。無理もない。何せ、金剛の発言を真正面から受け止めるならば、今の金剛は積極的に人類を滅ぼすことに賛成の立場にいることになるのだから。
「私ガタッタ1年デ深海棲艦ノ幹部クラスニ昇進デキタノハ、深海棲艦ノ生ミノ親ノ言葉ヲハッキリ聞キ取レル稀有ナ個体デアリ、彼女ノ思想ノ理解者デアリ、彼女トノ対話ヲ続ケタコトデ彼女自身ニ大層気ニ入ラレタカラ。私ガ電ヲ半バ脅ス形デ艦娘ヲ襲ウヨウ指示シタノハ、他ノ深海棲艦ニ、電ヲ贔屓シテイルト悟ラレナイタメ。電ノ自由行動ヲ遊撃トシテ認メタノハ、電ガ身動キヲ取リヤスイヨウニ取リ計ラウコトデ、電ニカツテ私ガ辿ッタヨウニ各地ノ深海棲艦生産プラントヲ訪レテモライ、イズレハココニ辿リ着イテホシカッタカラ。……ソシテ、電ノ性格ナラ、キット彼女ノ第二ノ理解者ニナッテクレルト思ッタカラデース」
「金剛、サン……?」
「電ガ道中デ旅仲間ニ恵マレ、ココニ一人デヤッテコナカッタノハ想定外デシタガ、些事デショウ。……電、イムヤ、奈落。貴女タチニハ深海棲艦ノ生ミノ親タル彼女ノ味方ニナッテホシイデース。彼女ノ願イ通リニ邪魔ナ艦娘ヲ潰シ、人類ヲ殲滅スベク協力シテホシイデース!」
金剛は電に向けてスッと手を伸ばす。しかし、電は反応できない。金剛の提案は言わば破滅への誘い。一旦その手を掴んでしまえば、艦娘&人類への敵対は避けられない。良心の呵責に駆られた結果、元の体を取り戻し、第参鎮守府へ還ることが叶わなくなるのは想像にたやすい。そのような魔の提案を、あの金剛が、電にとって頼れる先輩だった金剛が付きつけてきたことが信じられず、電は沈黙するのみ。何を言うべきかがわからなくなり、呆然とするだけだ。
「電、オ願イデース。コノ手ヲ取ッテホシイネー!」
「エ、ア――」
「――デンちゃん。艦娘時代の仲間のお願いだからって自分の心を捻じ曲げてまで聞いてあげることはないわ。残念だけど、その提案は受け入れられない。デンちゃんは艦娘の記憶を持っていて、人類への復讐なんて望んでいない。ナッちゃんも元艦娘の可能性が高いし、人類への復讐なんて面白くもないことはこれっぽっちも考えてない。私も今は艦娘だから右に同じ。私たちに貴女の提案を受け入れる余地はどこにもない。これが私たちの総意よ、魂甲棲姫」
金剛のお願いを受理してしまえば、人類への背信行為になってしまう。しかし、金剛の頼みを突っぱねれば、過去にお世話になった金剛の期待を裏切ることになってしまう。唐突に突きつけられた選択肢に電が混乱のままに無意識で返答しようとした時、電の発言を遮って海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168が代わりに拒否の意思を示す。
「……考エ直シテホシイデース。彼女ニハ味方ガイナイ。イルノハタダ本能ノママニ人類殲滅ヘ動ク傀儡ノ深海棲艦バカリデース。ソンナノハトテモ悲シイネー。……全テヲ失ッテ、ズット独リボッチナ彼女ニハ理解者ガ必要デース。例エ彼女ガ人類絶滅ヲモタラソウトスル悪ノ親玉デモ、何名カクライハ、彼女ニ寄リ添イ救オウトスル味方ガイテモイイ。ソウハ思ワナイデース?」
「で? そのためならいくら人類が殺されても構わないと。艦娘が、例え貴女の妹の金剛型3隻が全部轟沈する事態になっても構わないとでも言うつもり?」
「妹タチニハ提督ヤ他ノ艦娘トイウ味方ガ沢山イマース。ナラ、私ガ手引キシテモ早々沈マナイデショウシ、ノープログレムデース。デモ、彼女ニハ誰モイナイ。私タチノ代ワリハイナイデース」
「話にならないわね。貴女の無駄に持て余した保護欲に付き合ってられるほど、私たちは酔狂じゃないわ。というか、勝手に私たちを深海棲艦の生みの親ファンクラブの会員としての勘定に加えないでくれる?」
「例エ人類ヘ本格的ニ刃ヲ向ケル気ガナクテモ、彼女ノ味方ニナルノハ悪イ選択肢ジャナイデース。貴女タチガ彼女ノ味方ニナレバ。彼女ノ心ニ親身ニ寄リ添エバ。イツカ、彼女ハワカッテクレルカモシレナイ。人類ガ本当ニ滅ブ前ニ復讐心カラ自然ト解キ放タレルカモシレナイ。復讐ヲヤメテ、未来ノ幸セニ向カッテ歩ンデクレルカモシレナイ。艦娘ト彼女ノ両者ガ幸セナレル最善ノ道ガアルノナラ、ソレヲ選ブノハ道理ネー。違ウデース?」
「やれやれ、随分とご都合主義な希望論じゃない。でも、それを考えなしに信じるわけにはいかないのよ。客観的に見れば、深海棲艦の生みの親1人とその他人類及び艦娘とを天秤にはかけられないし、人類滅亡を目指すような狂った輩にはなおさら情けをかけるつもりはない。貴女の提案は、到底受け入れられるものじゃないわ」
「クッ……」
「ところでさ。貴女の話した通りなら、この部屋の奥に行けば、深海棲艦の生みの親が眠っているんでしょ? だったら、私たちは旅の目的を果たすために彼女に各々望みを言うことにするわ。もしも彼女が私たちの願いを拒絶するようであれば、試しに【システム】を壊して、手っ取り早く全てを終わらせようとしてみるのもいいかもね。貴女の話から察するに、深海棲艦生産プラントを稼働させるってだけに【システム】が作られ存在しているとは思えないもの」
「ッ! ソンナコト、絶対ニサセナイデース!」
「貴女の意思なんて知ったことじゃないわ。私はこの体から深海棲艦の本能を取り除き、真の意味で艦娘になる。デンちゃんとナッちゃんは元の艦娘の体を取り戻す(ナッちゃんがそれを望んでいるかはさておき)。貴女の道楽には付き合えないわ」
「……」
「わざわざご丁寧に【システム】や深海棲艦の生みの親のことを教えてくれてありがとね。おかげで目的達成まで手が届く距離にいることがわかったわ」
「……説得、失敗ネー。残念デース」
「私相手に雑な理論武装で言いくるめようとしたのが運の尽きよ、魂甲棲姫」
「貴女タチガコチラ側ヘ来ナイトナルト、私ガ与エタ情報ヲ持チ帰ラセルワケニハイカナイデース。3人トモ、ココデ壊レルト良イネー!」
伊168はティーカップになみなみと注がれたままの燃料を飲み干すと、おもむろに立ち上がり、ガーデンテーブルセットからテクテク離れていく。一方、金剛も椅子から立ち上がると、ポチッと服の下でスイッチを押す。直後、金剛の真横の床がパカッと割れ、艦娘時代の金剛が装備していたものと大差なさそうな見た目をした艤装が床から飛び出してくる。金剛は宙を舞う艤装を片手で軽々とキャッチして、伊168を剣呑に見据える。
「エ、エ? イムヤサン? 金剛サン? 二人トモ、何ヲシテイルノデス? コレジャア、マルデ二人ガ敵同士ミタイジャナイデスカ?」
「敵ミタイジャナクテ、敵デース!」
「デンちゃん。辛いでしょうけど、認めなさい。魂甲棲姫は、貴女の知る金剛とはもはや別物。人類の敵よ。だから、今すぐ武器を構えなさい」
「ッ!?」
「っと、ごめん。今のはさすがに言い過ぎたわ。でも、今の魂甲棲姫は貴女の知る金剛からは間違いなく変質している。……デンちゃん。心はね、体に引っ張られやすいものなのよ。私は川内さんのおかげで艦娘として人類の味方であろうと決意した。でもそれは、川内さんの魅力のおかげであると同時に、私が何か月も艦娘の体で過ごし、艦娘側に思考が引っ張られていたことも大きく影響しているの。そして、それは金剛も同じ。金剛という艦娘は1年もの間、深海棲艦の体で日々を過ごした。その結果、深海棲艦側の考えに飲まれ、その結果として深海棲艦の生みの親の心を助けようと決めて、利害の一致が見込めない私たちの前に敵として立ち塞がったとしても、あり得ないことじゃない。だから、酷なことを強いるけど、なるべく早く覚悟を決めてくれると助かるわ」
「ソ、ソンナ……」
電は金剛と戦うという展開を受け止めきれずにあわあわと狼狽するばかりだ。一方、伊168は未だテーブルに顔を突っ伏したまま熟睡中の奈落棲姫に声をかける。
「ナッちゃん、起きて。敵と戦うわよ」
「ンー、オ母サン。アト6時間……」
「誰が貴女の母親よ。それより、今から魂甲棲姫が私たちと夜戦をしたいみたいなんだけど、ナッちゃんは参加しなくていいの?」
「ッ!? 夜戦!? 夜戦カ!? 参加スルゾッ!」
ただ声をかけただけでは欠片も目覚めそうにない奈落棲姫の様子に、伊168は奈落棲姫の大好きな『夜戦』の言葉を利用して、己の都合のいいように奈落棲姫を戦力に加える。
「アレ? デモ、私ノ体内時計的ニマダ夜中ジャナインダケド……」
「精密機械じゃないんだから、体内時計が狂うことぐらいあるわ。とにかく、今が夜戦の時なの。私たちで一丸となって、魂甲棲姫を相手してあげましょ?」
「リョーカイダ!」
寝ぼけ眼な奈落棲姫は心臓周辺を右手でさすりながら違和感に首を傾げるも、その違和感が確信に変わる前に伊168が介入の言葉を挟んだために、奈落棲姫は考えることをやめて、金剛と戦う姿勢を素直に見せた。
「デンちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ジャナイノデス。デモ、私ハ元ノ体ヲ取リ戻シテ、何ノ後ロメタイ気持チモ持タズニ第参鎮守府ヘ帰リタイノデス。ダカラ、金剛サンノオ願イハ聞ケナイノデス!」
「イナヅマァ……」
「ゴメンナサイナノデス、金剛サン……」
「ふぅ、その様子だと心配なさそうね。さて、魂甲棲姫。とりあえずそこを通してもらうわよ。私たちは、貴女の後ろの扉に用事があるの」
「オ断リデース。貴女タチガ味方ニナッテクレナイ以上、コノ先ノ【システム】ヤ彼女ニ近ヅケルツモリハナイデース! ドウシテモ通リタイノナラ、私ヲ殺シテカラニスルデース!」
管理室の奥の扉を背に向けて電たち3名の前に立ちはばかる金剛。金剛の提案は受け入れられないから。各々の目的を果たしたいから。電たちはそれぞれの思いを胸に、金剛に対峙する。かくして。魂甲棲姫としての金剛との戦闘の幕が切って落とされるのだった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。金剛を信用した矢先に金剛との戦闘が避けられない展開となり、精神的に追い詰められるも最終的に金剛と戦うことにした。
伊168→前世が潜水棲姫だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦。金剛を上手いこと舌戦でねじ伏せた。今回はいつになく刺々しい発言を容赦なく繰り出しまくっている。
奈落棲姫→元々は第弐鎮守府の艦娘だった深海棲姫。夜戦と聞くとすぐさま飛び起きる性質。第零鎮守府のメンバーもこの性質を利用してよく寝坊助な奈落棲姫を起こしていた。
魂甲棲姫→深海棲艦側の偉い地位に就いている深海棲姫。元金剛。深海棲艦の生みの親と出会い、話を深める内に彼女の理解者ポジションに就きたい願望を抱き、人類殲滅の容認派となった。電たちが彼女の味方になってくれないと知るや、情報漏えいを防ぐために敵に回った模様。
深海棲艦の生みの親→深海棲艦を生み出した見た目中年女性の存在。ただいま名前不明。人類や人間を滅ぼす邪魔となる艦娘への深い憎しみに囚われている。金剛のことを気に入り、幹部クラスに金剛を据えることとした。
というわけで、第4章4話は終了です。金剛が電たちの敵に回るお話でしたね。しっかし。私自身、深海棲艦にはあまり多くのセリフを設けずにすることで、台詞のカタカナ部分の見づらさを少しでも減らそうと挑戦してはいるのですが、今回は金剛と伊168の舌戦の影響でその挑戦は無理がありましたね。だけど、今後はきっとこんな感じで深海棲艦の台詞が増えて、台詞が読みにくくなる機会が増えていくんでしょうなぁ……。