どうも、ふぁもにかです。今回で第3章と比べたら凄まじくシリアスだった第4章は終わりとなります。そして次章ではさらに輪をかけてシリアスな展開となる予定です。あぁ、第1章でのほのぼのとした旅や第3章でカオスな第零鎮守府を訪問していた頃が懐かしいなぁ。
魂甲棲姫の体をした金剛との激しい戦闘を行った深海工廠の管理室。その奥の小部屋には金剛が言い残した通り、高速修復材に各々の艤装、弾薬、燃料など、艦娘や深海棲艦が万全の態勢を整えるに十分なほどの物資が用意されていた。
この小部屋をまず視察した暁型駆逐艦四番艦・電は早速高速修復材を頭から被って傷を全快させる。その後、電は管理室で気絶中の海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168と奈落棲姫の元へ駆け寄り、高速修復材入りのバケツを浴びせて2名を復活させてから、3名で改めて小部屋へ向かい、それぞれ足りないものを補充し始めた。ちなみに。電は伊168や奈落棲姫を復活させるついでに、ボロボロの金剛にも高速修復材をぶっかけて、怪我を治していたりする。
「今日ほど高速修復材の万能っぷりに感謝した日はないわね。あれだけ木っ端微塵に爆発した腕がまた戻ってるってのはちょっと微妙な感覚だけど」
「腕ガ元ニ戻ッテ何ヨリナノデス、イムヤサン」
「オ! コノ燃料、超美味イゾ! 何ダコレ!? ドッカノブランド燃料ナノカ!?」
高速修復材のおかげで、金剛との戦いでぶっ飛んだあげくに最終的に爆発させた右腕が戻ってきた伊168は、新たな右腕の感触を確かめるために拳を握って解いたり、右腕をブンブン振り回す。伊168の右腕が何ら問題なく機能していることに電は心から安堵する。一方、奈落棲姫はいち早く燃料の入ったドラム缶へ駆け寄り、ゴクゴクと夢中で飲み始める。よほど奈落棲姫の舌を唸らせるものだったのだろう。
改めて新品の艤装を装備して調子を確認し終えた電は、小部屋の一角の机の上に置かれた古いノートを開く。例のごとく数式でビッシリ埋められたノートだが、深海棲艦の生みの親の独白が記された手記部分がこれまで通り紛れ込んでいた。
『様々な方法を比較し、考察し、熟考を深めた。結果、ニンゲンを恐怖のどん底に突き落とし、一人残らず滅ぼせる最良の方法に思い至った。ニンゲンの負の感情を核にした殺戮生物を大量に解き放つことだ。既存の武器では絶対に通用しない殺戮生物に暴れ回ってもらえば、ニンゲンどもは勝手に負の感情を持続的に放出し続け、殺戮生物の量産を手助けすることとなる。ニンゲンがニンゲンの首を絞めるのだ。――自滅。これほど醜く愚かなニンゲンにふさわしい絶滅はない。さて、そうと決まれば課題は山済みだ。まず負の感情を研究し尽くし、性質を隈なく把握しなければならない。ニンゲンどもが見つけられないような場所に殺戮生物の生産プラントを作る必要もある。それらを一括管理しつつ、あらゆる局面でも柔軟に対応できる【システム】も必要だろう。……最近、体が思うように動かない。日頃の不摂生が祟ったか、おそらく私の寿命は近い。残された時間でどこまでのことができるかはわからない。が、私はやり遂げてみせる。何が何でも私の手でニンゲンどもを滅ぼし尽くしてみせる。寿命が何だ。そんなもの、不老不死の薬でも作ってしまえば問題解決だ。体と精神を分離し、新しい体に精神を挿入してもいい。そうだ。手段はいくらでもあるのだから、例え寿命だろうと私の復讐の障害になり得ない。この世に存在することの許されないニンゲンどもに、滅びの罰を。逃れようのない罰を。絶望的な罰を。浄化の罰を』
(この殺戮生物が、深海棲艦……)
深海棲艦の生みの親の負の感情がこれでもかと赤文字で刻まれた手記を読み終えた電はスッと目を瞑ってノートを閉じる。もう、深海棲艦の生みの親の狂気に満ち満ちた手記を見た所で、心が動揺に揺れることはなかった。
(私は元の体を取り戻す……そして、この人のことも救うのです!)
覚悟を心にしかと刻み込み、電は目を開ける。
どうやら伊168も奈落棲姫も準備万端の様だった。
「行キマショウ」
金剛との死闘を共に乗り越え、精神面が強化された影響か。以前、深海棲艦生産プラントに向かう前に号令をかけた時とは違い、随分と柔らかい声色で電は宣言する。あたかもこれから何が待ち受けていようと泰然としていそうな電の様子に伊168と奈落棲姫は笑みを浮かべて同時にうなずく。そして、3名は小部屋のさらに奥の部屋の扉を開けた。
◇◇◇
深海工廠の最奥の部屋に入った時、電たちの目に最初に飛び込んだのは例の【システム】だった。宙に浮かぶ、直径3メートルほどの漆黒で球形の物体。不定期にドクンドクンと気味の悪い脈動を続けるその【システム】は足を床に縫い止められ身動きを封じられたかのような錯覚を電たちに与える。電たちに生理的かつ本能的な拒絶感を植えつけることで、【システム】自身が破壊されないように自衛を行っているのだ。
「コレガ【システム】ミタイナノデス……」
「魂甲棲姫の話で聞いてたから心構えをしたつもりだったけど、実物を見ると禍々しさが段違いね。夢に出てきそうだわ」
「ウゲ。嫌ナモン、見チマッタゾ!」
【システム】の強烈な存在感に圧倒されながらも電たちはそれぞれ感想を零す。ここで。金剛が過去で見た光景と同様のモノがそのまま鎮座していたということは、と電が【システム】の先の階段を見やると、その奥で全裸の黒髪女性が筒状の透明な容器に入れられていた。
「コノ人ガ深海棲艦ノ生ミノ親……綺麗ナ人ナノデス」
「ホント、来る所まで来たわね。今になってようやく実感できてきたわ」
「コノ人、誰ダ!? 夜戦ニ向ケテ仮眠デモ取ッテルノカ!?」
電は階段を上り、筒状の容器の中で目を閉ざす女性を見つめて感慨深げに呟く。電の後を追って階段を駆け上がってきた伊168はしみじみとため息を吐くも、残る奈落棲姫は的外れな推測を口にしながら筒状の容器を何の気なしにペチペチと叩いている。と、その時。電たちの脳内にいかにも怜悧そうな女性の声が送られてきた。
『ようこそ、深海棲艦の紛い物に艦娘の紛い物。深海棲艦にも艦娘にも染まりきれずに中途半端にたゆたう偽者3人組は何の目的で深海棲艦を生み出したこの私の元を訪れたのかしら?』
「エ、エト……」
『あぁ、別に話さなくていいわ。管理室での話は全て聞こえていたもの』
「アッ、ハイ。ゴメンナサイナノデス」
まるで電の発言権を認めないかのように高圧的に言葉を紡ぐ女性――深海棲艦の生みの親――に、電は特に理由はないが唐突に謝りたい衝動に駆られ、ペコリと頭を下げる。どうやらこの女性は現状、随分と機嫌が悪いようだ。
「聞いてたなら話は早いわ。で、貴女は大人しく私たちに救われるつもりはあるかしら?」
『あるわけないじゃない。私に救いなんてものはいらない。私はただ人類をなるべく残酷で残忍で残虐な方法でこの世から消し去りたいだけよ。せっかく私の英知の全てを注ぎ込んだ【システム】を作り、人類を根絶やしにする盤石の体制が整ったはずなのに、艦娘なんてものが生まれたせいで私の復讐はまだ道半ばでしかない。こんな状況で救うだなんだといって【システム】を壊し、私から復讐を奪うなんて、させるわけないじゃない』
「まぁそうでしょうね。今の貴女は復讐こそが生きる理由そのものなんでしょうし」
彼女の迫力に幾分か押し負けた電の代わりに伊168はポーンと物を投げ渡すかのような雑な口調で彼女に直球で問いかける。彼女が電たちによる救いを即座に否定する中、どうにか急ピッチで彼女と正面から話せるだけの心を準備した電が別方向からの言葉を紡ぐ。
「アノ。名前、教エテクレマセンカ? ア、私ハ電デス。電轟棲姫デモアルンデスケド」
『名前? そんなもの、もう忘れたわ。でも、そうね。何か私を指し示す名称がないと困るのなら、【シン】とでも呼ぶといいわ』
「ワカッタノデス。……シンサン。私ハ元ノ艦娘ノ体ヲ取リ戻シテ、仲間ノ待ツ鎮守府ヘ帰ルタメニココマデ来マシタ。ダカラ、シンサンノ作ッタ【システム】ヲ壊シタイト思ッテイマス。デモ、タダ壊スダケデ終ワルツモリハアリマセン。金剛サンノ願イヲ果タスタメ、シンサンヲ絶対ニ助ケテミセマス! ダカラ――」
『あーぁ。そういう、己の行いが絶対的に正しいとでも思ってそうな言動をされると心の底からムカつくのよねぇ。……ハァ。本当に金剛は余計なことをしてくれたわね。あの子は私のことをわかってくれていると思っていたけど、とんだ思い違いだったわけか。こんなことなら、機を狙って壊すなり記憶を完全に消し去るなりしちゃえばよかったわ』
「ナッ!? ソコマデ言ウコトナイジャナイデスカ! 金剛サンハ貴女ノ身ヲ心カラ案ジテ、貴女ノ心ガ救ワレテ幸セニナル方法ヲ見ツケヨウト、ズット悩ンデキタンデスヨ! ソノ思イヲ蔑ロニスルノハ許サナイノデス!」
『あぁそう。なら勝手に許さないでおけばいいじゃない。私も私のやりたいようにやらせてもらうから。【システム】を壊すなんて絶対に許さない。【システム】はニンゲンどもを滅ぼすという私の夢を乗せた最高傑作。絶対に壊させない。貴女たちに邪魔なんてさせない。私は【システム】とともにニンゲンどもに逃れられない絶望を突きつけ続けるの。泣いても嘆いても喚いても命乞いをしても慟哭しても許さない。認めない。皆等しく平等に仲良く滅ぼしてみせる。アハッ、アハハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハッ!!』
最初こそ普通に会話できていた電とシン。しかし、両者の両立しない考えと望みが表面化したことをきっかけに2人の間に険悪な雰囲気が立ち込める。そして。2人の関係が明確に決裂した、その時。【システム】の黒い球体から黒の触手が伸び、彼女の入った筒状の容器に巻きつく。触手にグンと引っ張られ、筒状の容器は黒い球体の中に呑み込まれていく。そして、筒状の容器を吸収した【システム】は何度か鼓動した後、一気に膨張した。
「「「ッ!?」」」
【システム】の中心を起点として、まるでビッグバンでも起こったかのように黒い何かが爆散される。為すすべもなく、ただ黒い物質に呑み込まれた電たちの体はまるで紙切れか何かのようにいとも簡単に吹き飛ばされていく。どこかへ誘導されるかのように吹っ飛ばされた電たちの体は、しばし経過した後に解放される。そこは海上だった。おそらく先ほどまで電たちがいた深海工廠の真上の海上へと、電たちは打ち上げられたのだ。
「今ノ凄カッタナ! ジェットコースターミタイデ楽シカッタゾ!」
(今更だけど、ナッちゃんの感性がよくわからないのです)
「ケホッケホッ。うぅ、さっきの黒いのちょっと呑み込んじゃった……」
奈落棲姫が目をキラキラと輝かせ。電が内心で何とも言えない複雑な表情を浮かべ。伊168が若干涙目になる中。海上へ強制移動させられた電たちの目の前から、バシャアと海を割って海中から【システム】の黒い球体が浮かび上がる。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
【システム】は、何語かもわからぬ咆哮を天へ撒き散らし、空気をビリビリと震わせる。まるで冒涜的な死神や悪魔などの産声のような【システム】の雄叫び。その際、【システム】の溜め込んだ負の感情が発露したことにより、【システム】の元に次々と深海棲艦が集ってくる。いくらでも代わりがいそうな量産型の深海棲艦からやろうと思えばワンマンアーミーも可能な姫級の深海棲艦まで、種類は実に様々だ。けれど、【システム】の狂気的な負の感情に当てられたのか、集結した深海棲艦たちは考える知能を失ったかのような有り様であり、まるでゾンビのようだった。
「全く、ああも数をそろえられたら、そう簡単には【システム】を壊せそうにないわね」
「ワカッテイタコトナノデス。ダカラ、金剛サンハ私タチノ実力ヲ確カメテキタンデスカラ。――イムヤサン、ナッチャン。多分、コレガ最後ノ戦イナノデス。力ヲ貸シテクダサイ!」
「りょーかい。紙装甲の艦娘らしく、足を引っ張らないよう上手く戦ってみせるわ」
「オウ! デンチャントイムヤト私ノ最強ップリヲ見セツケルゾ!」
電のお願いに伊168と奈落棲姫は威勢よく返事をすると、それぞれ艤装を構えて宙に浮かぶ【システム】を見やる。【システム】という、何をやらかしてくるのか全く予想のつかない物体に、【システム】の忠実な手駒と化した深海棲艦の群れ。客観的に考えれば、たった3名で立ち向かうにはあまりに絶望的だ。しかし、今の電は不思議と恐怖を感じない。
(私は、本当に頼もしい旅仲間に恵まれたのです!)
電もまた、【システム】を壊す覚悟を胸に刻み、【システム】をしかと見据えた。
◇◇◇
いつからか深海棲艦が人類への侵略を始めたことをきっかけに始まり、長く続いた深海棲艦と艦娘との戦争。しかし、何事にも始まりがあれば終わりがある。この戦争も決して例外ではない。
深海棲艦はなぜ生まれたのか。深海棲艦はなぜ侵略を、人類への復讐を望むのか。
この長らく明かされることのなかった命題が解かれようとしている今、この戦争の終わりは近い。終幕が近づく独特の雰囲気を肌で感じているのか、電たちの表情は最高に引き締まっている。
始まる。始まるのだ。果てに待つのは輝かしい希望か。こんなはずじゃなかった絶望か。
サンサンと日光を地上に注ぐ太陽が影響力を弱め、オレンジの淡い光を提供する一歩手前の頃合いにて。電たちの最後の戦いが今、幕を開ける――。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。元の艦娘の体を取り戻しつつ、シンを救う決意を固めた今の電の精神はそう簡単に揺らぐことはないだろう。
伊168→前世が潜水棲姫だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦。電や奈落棲姫より遥かに戦力的に弱いのに、【システム】にそこまで怯えない辺り、肝が据わってる。
奈落棲姫→元々は第弐鎮守府の艦娘だった深海棲姫。現状を一番理解していないため、相変わらず的外れな言動を繰り出すが、ここぞという時は頼もしい言葉を吐ける辺り、空気を読めている。
シン(仮名)→深海棲艦を生み出した見た目中年女性の存在。それぞれの目的を果たすために【システム】を壊しに来た電たちを、これから全力で叩き潰しにかかる模様。
というわけで、第4章8話は終了です。そして【システム】との戦闘が始まった所で第4章はおしまいです。最後のカッコつけた地の文はアレです。あんなノリの前口上をちょっとぶっ込んでみたくなったのです。ああいった前口上があるといよいよクライマックスって印象が生まれそうですしね。さて、次からは最終章。目一杯盛り上げていきたい所ですね!
Q.【システム】の見た目ってどんな感じですか?
A.目玉のないバックベアードみたいな感じ。このロリコンどもめ!