【完結】元の体を取り戻すのです! by.電   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は「なのです!」調のサブタイトルでないため、一時的に電が主役の話ではなくなります。では、一体誰が主役なのか。……ヒントは、この作品においてヘイトを溜めまくっているであろうあのお方です。

 閑話休題。当初、この物語は20万文字以内に収めるつもりでしたが、今回で20万文字を越えることとなりました。最終的に24万文字ぐらいになるんじゃないかと今は思っています。ついでに50話完結も無理そうです。こっちは53話完結辺りに収まりそうなのです。

 ~参考資料(現状判明している【システム】戦に参加中の艦娘の編成内容)~

主人公一行:電(中破)、伊168、奈落棲姫(中破→悪堕ち川内化)
第壱鎮守府:大和(中破)、陽炎(深海棲姫化)、木曾(小破)、白露(大破)、秋月(中破)、長良(小破)
第弐鎮守府:長門(小破)、暁(中破)、比叡(大破)、夕立(深海棲姫化)、利根(中破)、??(小破)
第参鎮守府:天龍(大破)、雷(中破)、北上(深海棲姫化)、榛名(小破)、那珂(大破)、卯月(中破)
第肆鎮守府:ビスマルク(中破)、鳥海(大破)、蒼龍(小破)、弥生(中破)、U-511(深海棲姫化)、伊8(小破)
第伍鎮守府:扶桑(小破)、曙(中破)、吹雪(大破)、赤城(深海棲姫化)、那智(大破)、伊401(小破)
第陸鎮守府:叢雲(大破)、加古(中破)、大鳳(小破)、望月(深海棲姫化)、日向(大破)、龍田(中破)
第零鎮守府:響、球磨、不知火、睦月、伊58、時雨

※各鎮守府の一番先頭に名前の記された艦娘が旗艦となっています。



8話 大切な仲間を取り戻す話

 

 【システム】が創出した巨大な漆黒の両手が奈落棲姫を掴み、グシャグシャにした後。漆黒の両手が解放した奈落棲姫は全く別の姿をしていた。肌が異様に真っ白で全身に緑色のオーラを纏っていることなどの要素を除けば、川内型軽巡洋艦一番艦・川内とそっくりな見た目となっていた。

 

 

(ナッちゃんが川内さんの姿になったのです!? ということは、ナッちゃんは本当に――)

 

 暁型駆逐艦四番艦・電は奈落棲姫を見つめてつい固まる。前々から奈落棲姫のことを記憶を失った川内なのではないかとの疑惑を電は抱いていた。が、その疑いが【システム】との激戦中に前面的に持ち出されると思っていなかった電は一瞬、その場に立ち止まる。直後、鼻と鼻とがついてしまいそうなほどの至近距離に奈落棲姫が立っていた。

 

 

「ワッ!?」

 

 奈落棲姫の両眼に宿る、無機質な敵対意思。奈落棲姫からの害意を察知した電は慌てて後退しようとするも、奈落棲姫が電の顔面を真正面から殴りつける方が遥かに早かった。電の顔を殴った瞬間、奈落棲姫の右手に緑色のオーラが集結しドガンと爆発音が響き、電は軽く50メートルは後方へと吹っ飛ばされる。

 

 

(何て、威力なのです!?)

「電轟棲姫の元にはいかせません!」

「悪いけど、少し手荒な手段でいかせてもらうぜ!」

 

 奈落棲姫は自らの力で殴り飛ばした電に追い打ちをかけるために一直線に電の元へ駆け抜けようとする。が、第壱鎮守府の大和型戦艦一番艦・大和と球磨型軽巡洋艦五番艦・木曾が。豹変した奈落棲姫の前に立ちはだかり、砲撃をかける。が、奈落棲姫は砲弾を一切避けることなく、直進する。当然ながら砲弾が直弾したものの、奈落棲姫にはほんのわずかな擦り傷すら存在しなかった。

 

 

「「なぁッ!?」」

 

 砲撃がまるで効いていない。奈落棲姫の平然とした様子に思わず絶句する大和と木曾が次の瞬間には明後日の方向へと吹っ飛ばされる。両足に緑色のオーラを移し、瞬時に距離を縮めた奈落棲姫が大和と木曾の腹部をゼロ距離で砲撃してきたのだ。

 

 ほんの一瞬の内に大破した大和と木曾。第壱鎮守府に所属する、精鋭の艦娘ですら歯が立たない。味方の時は頼もしかった奈落棲姫が、【システム】の手により強大な敵に成り果ててしまったことを艦娘側が明確に認識した瞬間だった。

 

 

「ッ!? たった一撃喰らっただけなのに、なんて破壊力……!」

「きゃあああ!」

 

 一目散に電の元へ向かわんとする奈落棲姫を止めようと、続いて奈落棲姫に立ち塞がった第参鎮守府の金剛型戦艦三番艦・榛名と第伍鎮守府の扶桑型戦艦一番艦・扶桑が攻撃を仕掛ける前に奈落棲姫の迅速な砲撃で瞬く間に大破に追い込まれる中。大暴れする奈落棲姫により大破艦が増えていき、せっかく艦娘側に味方していた流れに不穏な気配が生じつつある中。

 

 

「ウソ、だろ……!?」

「ど、どうして? これはどういうことじゃ!?」

 

 変わり果てた奈落棲姫の姿に最も動揺の色を見せたのは、第弐鎮守府だった。吹雪型駆逐艦四番艦・深雪、利根型重巡洋艦一番艦・利根を筆頭に、第弐鎮守府は動揺からまるで我を取り戻しておらず、その場に立ち尽くしたまま、誰一人動かない。

 

 

(デンちゃんから話は聞いていた。でも、私は『ナッちゃん=川内さん』説を信じ切ってはいなかった。第弐鎮守府の一員として奈落棲姫を傷つけた手前、完璧に根拠がそろうまでは信じたくはなかった。それが、よりによってこんな形で『ナッちゃん=川内さん』説が揺るぎないものになるとはね。……間違いない。これまでの状況を踏まえれば、ナッちゃんは紛れもなく川内さんだ)

 

 一方その頃。艦娘側の総司令艦を勤める海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168は川内の姿形となった奈落棲姫を前に、奈落棲姫が元川内だと確信する。その際、伊168の表情が苦々しく歪んでいたのは、自らの手で奈落棲姫を沈めようとした過去の己の行為への罪悪感ゆえか。

 

 

「な、なぜだ!? なぜ奈落棲姫が川内の姿になる!? 何がどうなっているんだ!?」

 

 他方。第弐鎮守府の長門型戦艦一番艦・長門は伊168と違い、第弐鎮守府の中でもとりわけ狼狽し、頭を抱えて疑問の丈を叫ぶ。その様を伊168はジト目で見つめ、「……はぁ、長門さん。いい加減、認めなさい」とため息混じりに言葉を紡ぐ。

 

 

「認める? 何をだ?」

「今さら目を逸らし続けられる状況じゃない、もうわかっているんでしょう? 数は多くないけど、元艦娘の深海棲姫は確かに存在する。【システム】は艦娘を深海棲姫に変える技術を持っている。そして、奈落棲姫は――深海棲姫に姿を変えられた、川内さんだって」

「ウソだ! そんなはずがあるか!? いや、あり得るものか!」

「なら、どうして奈落棲姫は川内さんと同じ姿をしているの?」

「そ、それは……そうだ! 【システム】はわざと奈落棲姫を川内の姿に作り変えることで私たち第弐鎮守府を精神的に揺さぶっているだけだ! ははは、そうだ! そうに違いない! こんな精神攻撃で揺らぐ私ではない! デタラメを言うな、イムヤ!」

「私が信じられないのならそこの那珂さんに聞いてみるといいわ」

「え、那珂ちゃんですか!?」

 

 伊168は長門に現実を突きつけるも、当の長門はうろたえながらも、苦しいとわかっていながらも伊168の主張を信じない姿勢を貫く。すると、伊168は偶然近くにいた那珂を指し示し、このタイミングでいきなり話を振られた第参鎮守府の川内型軽巡洋艦三番艦・那珂は困惑の感情がありありと浮かんだ自分の顔を指差した。

 

 

「まず前提として、電轟棲姫は第参鎮守府の暁型駆逐艦四番艦・電が轟沈した後に深海棲姫化した姿よ。そして、今までそのことを一目で見破ったのは、第弐鎮守府所属の長女・暁、第零鎮守府提督の次女・響さん、第参鎮守府所属の三女・雷さん。要するに、姉妹艦は深海棲姫化した姉妹の正体を見破る能力がある、という推測ができるわ。さっき【システム】の放った槍で6隻が深海棲姫化した時に、木曾さんや弥生さん、白露さんがいち早く姉妹艦の変わり果てた姿を見抜いたことからも、この推測の信憑性は高い。その上で……ねぇ、那珂さん。奈落棲姫を見た時、貴女は奈落棲姫のことを『川内お姉ちゃんだ』って思わなかった?」

「……どう、なんだ?」

 

 伊168の問いかけに、長門も追随して那珂に問いを投げかける。長門の瞳孔の開かれた眼光に那珂は「ひッ!?」と怯えつつも、「……お、思ったよ」と蚊の鳴くような声で伊168の質問に肯定で返した。

 

 

「でも、今まで特にそんな素振りは見せなかったわね。それはどうしてかしら?」

「えっと、【システム】とかいうよくわかんない敵がいる状況で余計に混乱させちゃマズいかなって思って、だからこの戦いが終わった時に奈落棲姫に問い詰めようかなって那珂ちゃんなりに空気を読んで――」

 

 続けざまに放たれる伊168の問いに那珂は言葉を選びながら回答する。が、長門が那珂の発言を皆まで聞くことはなかった。もはや『奈落棲姫=川内』説を覆すことができないと、長門の心がはっきりと認めたからだ。

 

 

「……そうか。そうだったのか」

 

 長門は心を絞るようにして一言、吐き出す。奈落棲姫は元川内だった。深海棲艦との戦闘が激しく、身も心も消耗しがちな第弐鎮守府を支えてくれた大切な仲間だった。なら、だとしたら。私が、私たち第弐鎮守府が奈落棲姫相手にしでかした全ての行いは。つまり。仲間を仲間と気づかず沈めようとしていた。そういうことだ。

 

 

「私は、最低だな……」

 

 己のやらかしたことの真の意味を把握した長門は、うなだれる。罪悪感が。悔悟の念が。長門の心でどんどん膨らみ上がり、長門を押し潰そうとする。が、長門は後悔の気持ちを振り払い、顔を上げた。今は後悔するべき時ではないからだ。

 

 

「イムヤ、頼みがある」

「なに?」

「川内のことは、私たち第弐鎮守府に全て委ねてくれないか?」

「……」

「我がままなのはわかっている。何とも図々しい願いだとは百も承知だ。だが、ここだけは。どうか、譲ってくれないか? 川内のことは、奈落棲姫のことは……私たち第弐鎮守府が直接決着をつけなければ意味がないんだ」

 

 長門は伊168の瞳をしかと見つめ、「頼む、この通りだ」と頭を下げる。長門の真摯な姿勢に、伊168はまた1つため息を吐いてから、言葉を綴る。

 

 

「却下、なんて言うわけないでしょ?」

「いいのか!?」

「忘れたの? 私だって第弐鎮守府の艦娘で、川内さんには並々ならぬ思いがある。だから、長門さんの気持ちはよくわかるのよ。……川内さんのこと、任せたわよ」

「あぁ! ありがとう、イムヤ!」

 

 自分の頼みを伊168が受け入れてくれたことに、長門はパァァと笑みを深める。そして、伊168にお礼を告げると、第弐鎮守府の艦娘たちに声をかける。

 

 

「お前たち、今の話は聞いていたな?」

「「「「……」」」」

「皆、思う所があるだろう。だが、後悔に打ちひしがれるのは全て終わってからだ。――私たち第弐鎮守府の力で、私たちの大切な仲間を取り戻す。私が力技で説得を試みるから、皆は私と奈落棲姫の元に他の深海棲艦が寄り付かないよう、援護してくれ!」

「「「「応ッ!」」」」

 

 長門の指示に、第弐鎮守府の暁型駆逐艦一番艦・暁が、金剛型戦艦二番艦・比叡が、利根が、深雪が力強く首を縦に振る。そんな頼もしい仲間たちをしみじみと見つめた後、長門は走り出した。目標地点は当然、奈落棲姫が暴れ回っている場所だ。

 

 

「貴女たちはお呼びじゃないわ!」

「絶対に長門さんの邪魔はさせません!」

「吾輩の神髄を見せてやるのじゃあ!」

「邪魔者は引っ込んどけってな!」

 

 奈落棲姫に続けと言わんばかりに奈落棲姫の元に集おうとする駆逐イ級、駆逐ロ級、軽巡ホ級、軽巡ヘ級を暁、比叡、利根、深雪の4名が砲撃で妨害する中。長門は駆ける。「川内ぃぃいいいいいいいいい!」と腹の底から叫びながら走る長門は、暁たちの援護のおかげで無事に奈落棲姫との距離を詰め、付近の第伍鎮守府の綾波型駆逐艦八番艦・曙を砲撃で吹っ飛ばし大破に押し立てる奈落棲姫の右手首をガシッと掴んだ。

 

 

「しっかりしろ、川内ッ! 正気を取り戻せ!」

 

 長門は奈落棲姫に向けて精一杯の声を張り上げて言葉をぶつける。が、奈落棲姫は長門を己の行動を阻害する邪魔者として排除しようと腹部に砲口を押し当てて砲撃する。が、長門は吹っ飛ばされない。長門は奈落棲姫を掴んで離さない。

 

 

「ぐ、あッ……! いつまで【システム】に囚われているつもりだ!? そんなの、まるでお前らしくないぞ! 帰ってこい、川内ッ!」

 

 奈落棲姫が長門の顔面を殴りつけようとも。長門の首に回し蹴りを叩きこんでも。長門は決して奈落棲姫の右手首を掴んだ己の手を離さない。中破になろうと。大破になろうと。奈落棲姫の幾多の攻撃を歯を食いしばって耐え抜き、長門は叫ぶ。激痛に悲鳴を上げる体を酷使して叫ぶ。

 

 

「私の声が聞こえてないなんて言わせないぞ! 川内! 川内ぃッ!」

(離すものか。この手を離してなるものか……!)

 

 長門の脳裏には過去の光景が映し出されていた。それは、約2か月前の出来事。いつものように深海棲艦との激戦を勝ち抜いた第弐鎮守府の艦娘たち。戦闘を終えた海域で当時、大破状態だった長門はホッと息を吐いた。今回も何とか誰も轟沈せずに済んだと安堵する。

 

 

 ――お疲れ、ながもん。

 

 そんな長門の元に、同じく大破した川内が歩み寄る。長門を労いに来た川内に、長門は緊張を解く。どこまでもムードメーカーな川内の前ではいくら取り繕おうと無駄だとわかって以降、川内の前では長門はありのままでいることにしていたのだ。

 

 そうして。長門と川内は軽口を飛ばし合う。が、第弐鎮守府に帰還しない内に油断したのが悲劇の引き金となった。突然、ハッと真剣な表情を浮かべた川内が長門を突き飛ばしたのだ。川内の行為で長門も気づく。しかと沈めたはずの深海棲艦の内の1隻が、ズタボロながらも海上に浮上し、最後の力を振り絞って自分たちに砲口を向けていることに。

 

 長門は川内へと必死に手を伸ばす。このままでは、深海棲艦の砲撃から長門を守るために長門を突き飛ばした川内が轟沈してしまうからだ。だが、長門の手は川内に届かなかった。届かないまま、深海棲艦の砲撃は川内に吸い込まれるようにして、無情にも直撃した。

 

 

 ――あぁ。終わる時は、こんなに呆気ないんだね。

 ――後は、よろしくね。ながもん。

 

 もはや轟沈は避けられないと悟った川内は、長門に全てを託して海の底へ沈んでいった。長門は思う。あの時、ほんの少しでも早く深海棲艦の砲撃に気づいていたら。私が川内の手を掴めていたら。川内は助かっていた。轟沈せずに済んだ。その未来を、私の油断が消し飛ばしたのだと。

 

 

「川内ッ!」

 

 奈落棲姫の苛烈な攻撃がやまない中、長門は思う。轟沈した川内は数奇な運命の元、奈落棲姫として復活してくれた。なのに、その奈落棲姫を沈めようとしたのも私だ。今にして思えば。あの時、私たちの元に全力で駆け寄ってきた奈落棲姫のあの笑顔は。轟沈してなお、私たちと会えた奇跡を喜ぶ笑顔だったのだ。そのはずなのに。私は奈落棲姫の感情に気づかず、容赦なく砲撃した。私が砲門を向けた時、きょとんとした顔をしていたあの奈落棲姫に次々と砲弾を撃ち込んだ。

 

 あの時、奈落棲姫の正体に気づいていれば。奈落棲姫に手を差し伸べていれば。そう思わずにはいられない。姉妹艦じゃないから奈落棲姫の正体を看破できなかったなんて言い訳は通じない。川内の轟沈を機に深海棲艦への憎しみに満ち満ちていた私は私の意思で、大切な仲間であるはずの川内を殺そうとしたのだ。その事実は揺るがない。

 

 

「川内ぃぃ!」

 

 私が奈落棲姫を沈めようとしたのは一度だけじゃない。あの時、電轟棲姫がいなければ。電轟棲姫が庇わなければ、奈落棲姫は第弐鎮守府の手によって確実に轟沈していた。完全に手遅れになる所だった。いや、もう手遅れだ。仲間であるはずの私たちが殺そうとしたことで、川内は酷く傷ついたはずだ。だからこそ、今の奈落棲姫は記憶を失っている。これが手遅れと呼ばずに何と呼ぶ。

 

 

「川内ぃぃいいいいいいい!」

 

 だが、手遅れでもいい。何だっていい。謝るから。何だってするから。とにかく、戻ってこい。お前の居場所は、居るべき場所は、少なくとも【システム】の手のひらの上じゃないはずだ。例え奈落棲姫のままだろうと、今後ずっと川内の記憶が戻らないままだろうと、自分を容赦なく沈めようとした第弐鎮守府のことを嫌ったままだろうと構わない。

 

 だが、そんな生気のない目で黙りこくっているなんてお前じゃないだろう!?

 誰かの言いなりのままで思考放棄するなんて、お前らしくないだろう!?

 

 だから。だから。

 お願いだ。頼む。後生だ。

 私の全てを賭けるから。だから。

 

 

「――戻ってこい! 戻ってこい、せんだぁぁああああああああああああああいッ!!」

 

 長門は今にもバラバラに崩壊してしまいそうに軋む体を気力で動かし、叫ぶ。グググッとのけ反り、ズガンと渾身の頭突きを奈落棲姫にぶち当てる。長門の頭突きの威力に、奈落棲姫は背中から海上にバシャッと倒れる。その際、奈落棲姫を取り巻く緑色のオーラがはじけ飛び、霧散した。

 

 

「川内、大丈夫か!? 川内、川内!」

 

 白目を剥いて倒れる奈落棲姫のすぐ隣にしゃがみ込み、両肩を掴んで長門は何度も奈落棲姫に呼びかける。すると、「ウッ……」との呻き声を漏らしたのを機に、奈落棲姫の両眼に理性の光が戻る。そこに、艦娘側への敵意は一切宿っていなかった。

 

 

「大丈夫。チャント聞コエテルヨ、ナガモン(・・・・)

 

 長門が奈落棲姫を【システム】の呪縛から解放できたことに安堵の息を零していると、奈落棲姫は親しげに長門に語りかける。その、奈落棲姫の口から飛び出た自分の愛称に、長門は一瞬硬直し、その後「え、まさか!?」と驚愕する。奈落棲姫は長門の反応にニッコリと微笑んだ。

 

 

「マ、アレダケガンガン名前ヲ呼バレテ、思イ出セナイワケガナイッテ話ダヨネ。シバラク留守ニシチャッテゴメンネ、ナガモン。川内型軽巡洋艦一番艦・川内。タダイマ帰投シマシタ」

「あぁ、あぁ!」

 

 川内の記憶が戻った。肌の異様な白さからして、体は深海棲姫のままだ。しかし、長門にとってそんなことは至極どうでもいいことだった。川内が帰ってきた。無茶な説得に挑んだせいで、いつ轟沈してもおかしくないほどの怪我を負った長門は、のしかかる痛みも轟沈への恐怖も何もかも忘れて、心の底から笑う。そして目尻に涙を溜めながら、川内の帰投を祝福するのだった。

 

 

「おかえり、川内!」

 

 

 

 

 




電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。今回は【システム】により悪堕ちした奈落棲姫の脅威を身をもって艦娘側に知らしめるポジションに終わった。
伊168→前世が潜水棲姫だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦。悪堕ちした奈落棲姫の姿から『ナッちゃん=川内さん』説を確信。その後、頑強に否定する長門に理論で無理やり認めさせた。
奈落棲姫→元々は第弐鎮守府の艦娘だった深海棲姫。【システム】により悪堕ちしたが、長門を中心とした第弐鎮守府の尽力により、艦娘だった頃の記憶を取り戻した。
大和→第壱鎮守府所属の大和型戦艦一番艦。悪堕ち奈落棲姫の攻撃で大破した勢その1。
木曾→第壱鎮守府所属の球磨型軽巡洋艦五番艦。悪堕ち奈落棲姫の攻撃で大破した勢その2。
榛名→第参鎮守府所属の金剛型戦艦三番艦。悪堕ち奈落棲姫の攻撃で大破した勢その3。
扶桑→第伍鎮守府所属の扶桑型戦艦一番艦。悪堕ち奈落棲姫の攻撃で大破した勢その4。
深雪→第弐鎮守府所属の吹雪型駆逐艦四番艦。川内そっくりの見た目になった奈落棲姫を前に狼狽するポジションその1。後、長門を全力で援護する影の功労者ポジションその1。
利根→第弐鎮守府所属の利根型重巡洋艦一番艦。川内そっくりの見た目になった奈落棲姫を前に狼狽する枠その2。後、長門を全力で援護する影の功労者ポジションその2。
長門→第弐鎮守府所属の長門型戦艦一番艦。奈落棲姫を元川内だと認めるまでは割と醜態を晒していたが、認めてからは一気に覚醒。気力任せで奈落棲姫を【システム】の呪縛から解き放った。
那珂→第参鎮守府所属の川内型軽巡洋艦三番艦。奈落棲姫が川内お姉ちゃんだと直感で気づいていたが【システム】戦が終わるまではそのことを持ち出さないように気を遣っていた模様。
暁→第弐鎮守府所属の暁型駆逐艦一番艦。長門を全力で援護する影の功労者ポジションその3。
比叡→第弐鎮守府所属の金剛型戦艦二番艦。長門を全力で援護する影の功労者ポジションその4。
曙→第伍鎮守府所属の綾波型駆逐艦八番艦。セリフがないまま奈落棲姫に大破状態にされちゃった哀れな子ポジション。

 というわけで、最終章8話は終了です。今回の主人公は長門さん、つまりサラッと話していた『長門さん大正義』回だったということです。ビッグセブンの貫録が少しでも皆さんに伝わったのなら幸いですぜ。そして。かれこれ8話もかけて長々と執筆してきた【システム】戦もそろそろ終了に向かいます。この戦争の終わりは近いのです。


 ~参考資料(現状判明している【システム】戦に参加中の艦娘の編成内容)~

主人公一行:電(中破)、伊168、奈落棲姫(中破→悪堕ち川内化→記憶復活)
第壱鎮守府:大和(大破)、陽炎(深海棲姫化)、木曾(大破)、白露(大破)、秋月(中破)、長良(小破)
第弐鎮守府:長門(轟沈寸前)、暁(中破)、比叡(大破)、夕立(深海棲姫化)、利根(中破)、深雪(小破)
第参鎮守府:天龍(大破)、雷(中破)、北上(深海棲姫化)、榛名(大破)、那珂(大破)、卯月(中破)
第肆鎮守府:ビスマルク(中破)、鳥海(大破)、蒼龍(小破)、弥生(中破)、U-511(深海棲姫化)、伊8(小破)
第伍鎮守府:扶桑(大破)、曙(大破)、吹雪(大破)、赤城(深海棲姫化)、那智(大破)、伊401(小破)
第陸鎮守府:叢雲(大破)、加古(中破)、大鳳(小破)、望月(深海棲姫化)、日向(大破)、龍田(中破)
第零鎮守府:響、球磨、不知火、睦月、伊58、時雨

※各鎮守府の一番先頭に名前の記された艦娘が旗艦となっています。
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