【完結】元の体を取り戻すのです! by.電   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は伏線回収回・後編となります。今回も最初の方で鬱展開が続きますが、鬱のピークは前回で通り過ぎましたので、比較的心の準備はいらないことでしょう。

 閑話休題。最近、私がやらかす誤字で一番多いのは『復讐』が『復習』になっているケースだったりします。小説投稿前のプレビュー画面で『復讐』の代わりに『復習』の文字が我が物顔で横行しているのを見る度に雰囲気のぶち壊し具合にある意味感嘆しちゃうのです。ホント『復習』ってシリアスブレイカーな言葉だと思いますわ。



11話 ずっと望んでいた瞬間なのです!

 

 彼女の壊れて停止した心が再び動き出した時、10年もの時が過ぎていた。

 その時、世界はいつまでも過去の悲惨な戦争に目を向けていなかった。

 新たな戦争の火種が次々と生まれ、偉い人が対処に動き。

 良い意味でも悪い意味でもとにかく誰も彼もが未来を向いていて。

 10年間、閉鎖病棟に隔離されていた彼女は、世界に取り残された。

 

 彼女は自分を罠にかけた者を呪った。自分を裏切っておきながら、結局は敗北した者を恨んだ。

 彼女は日本と敵対した連中を呪った。大切なモノを一瞬で奪ったあの大量殺戮兵器を恨んだ。

 

 だが。彼女が最も呪ったのは、彼女自身だ。

 万能に天才的でありながら。他者よりもできることが遥かに多いにも関わらず。

 結局は何一つ守れなかった、彼女の無力さ、無能さを恨んだ。

 

 恨んだ。嘆いた。彼女は自分を責め続け、自分を痛め続けた。

 それが罰だと言わんばかりに、彼女は自分を呪う。呪う。呪う。

 軋み歪み割れ砕けそうな心を無視して、彼女は過去のみを見つめ続けた。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか。

 どこで道を間違えてしまったのか。私はどのように動くべきだったのか。

 何をすれば正解だったのか。大切なモノを失わずに済む最適解をどう導けばよかったのか。

 苦しみの中。延々と続く、終わらない痛みの中。考えて。ひたすらに考えて。

 ある時、彼女はふと思った。過去よりも未来を重視し、今を生き続ける人々を見て思った。

 

 なんでこいつらは平気そうに今日を生きているのか。

 私がこんなにも苦しんでいるのに、どうしてこいつらはのほほんと生活しているのか。

 何なんだ、こいつらは何なんだ。ヘラヘラしやがって。ふざけるなよ。

 彼女の衰弱しきった心に滑り込むように闇が差し込み、あっという間に彼女を取り込んだ。

 

 認めない。こんなニンゲンどもが闊歩する世界なんて私は認めない。

 世界が私を置いていくつもりなら、未来ばかり見据えて今日を生きるつもりなら。

 思い知らせてやる。思い出させてやる。

 嫌でも過去の悲惨な世界を再現して、絶望を突きつけてやる。

 お前らニンゲンどもがこの地球で平和を享受するなんて、許すものか。

 お前らニンゲンどもに未来なんて必要ない。未来を生きる権利なんて存在しない。

 大切なモノを全て失った私の気持ちを知らしめて、壊して壊して。

 こんな理不尽な世界、滅ぼしてやる。復讐してやる。

 

 確かに彼女は10年もの心神喪失状態から我を取り戻し、閉鎖病棟を退院した。

 が、心が正常に戻ったわけではなく、歪み狂ったままのようだった。

 彼女は天才的頭脳を酷使した末に、誰とも会わずに済む海底に研究所を作った。

 その後、彼女は寝る間も惜しいと研究と考察を重ね、最終的に殺戮生物を考案した。

 この世にニンゲンの負の感情が蔓延る限り、消滅することのない永久機関、深海棲艦である。

 

 深海棲艦による人類滅亡の準備を淡々と続ける中。

 彼女は悟った。自身に寿命が訪れつつあることに。

 彼女は嘆いた。まだ世界を破滅させるだけの準備が整っていないし、何より自分自身の目でニンゲンどもの阿鼻叫喚を見なければ意味がないからだ。

 

 彼女は決断した。自身を【システム】の一部に据えることで、寿命の概念を取り払った。

 そして。ニンゲンどもに復讐するために必要となる残りの準備は、基本的に【システム】の鎮座する場所から身動きの取れない彼女が、彼女の負の感情の一部を幾重にも分割し、変質させることで生み出した『妖精』に任せることとした。

 

 彼女の負の感情の分割&変質により生み出された妖精――後に電に『黒妖精』と名付けられる――は、彼女の負の感情に付着した部分的な知識しか与えられていないゆえか、時にはバカっぽい行動を取りながらも、人類への殺意を胸に着々と準備を進めていった。

 

 深海にいくつも深海棲艦生産プラントを作って、深海棲艦の戦力を増やし。

 同時に深海棲艦用の工廠をも作り、深海棲艦の戦力をさらに増強させ。

 

 そして。しかと準備が整った所で、黒妖精は深海棲艦を地上に差し向けた。

 世界は震撼した。恐怖した。人間同士で争っている場合ではないと団結するも、既存の兵器では深海棲艦を倒せず、ただただ未知の外敵に蹂躙されるばかりとなった。

 

 ここまでは実に順調だった。しかし。彼女にとっての想定外がここで発生した。

 黒妖精の中に、一定数、破滅されゆく世界を見て心を痛めるイレギュラーの個体がいたのだ。

 そんな一部の黒妖精たちが彼女の元から離反したのだ。

 

 負の感情に覆われた中でくすぶっていた正の感情を核に据えた黒妖精――後に『妖精』と名付けられる――は己の役目を放棄して人間と接触した。

 妖精の中に部分的に存在する彼女の知識を応用して艦娘を作ることで、深海棲艦への対抗手段を用意できずにいた人類に、滅亡の危機を阻止する手段を提供したのだ。

 

 

 なぜ彼女の負の感情から生まれたにもかかわらず、正の感情を基軸にして行動基準を定め、彼女を裏切って人類に味方する黒妖精が生まれたのか。

 

 簡単だ。彼女は中途半端だったのだ。例えどんな目に遭っても。

 どんな理不尽な仕打ちを受けて、その身を憎悪に焦がしても。

 復讐一辺倒に没頭しきれず、彼女は完全に世界を見捨てきることはできなかったのだ。

 どうしても人を、国を、世界を愛する気持ちをかなぐり捨てることはできなかったのだ。

 無理もない。彼女だって元は母国に住まう大切な者たちのために身を粉にして頑張ってきた、彼女なりの正義の志を胸に秘める立派なニンゲンだったのだから。

 

 かくして。正の感情を核とする妖精が人類を守るために生み出した艦娘と、負の感情を核とする黒妖精が人類を滅ぼすために生み出した深海棲艦との長い長い戦争が開幕した。

 妖精も黒妖精も彼女の心の表れだった以上、この戦争は所詮、完璧には復讐に傾き通せなかった彼女を中心とした、壮大に世界を巻き込んだ茶番でしかなかったのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『とまぁ、こんな所かしらね。思ったより長話になって悪かっ――泣いてるの?』

「ダッテ、ダッデェ……!」

『……私なんかのために貴女は泣いてくれるのね』

 

 シンが己の生きた道を語り終えた時。眼前の電は号泣していた。海中なので電が浮かべた涙はすぐさま海水が拭い去ってしまうのだが、それでも電がシンのことを思って泣いていると断定できる程度には、電の声は不安定に揺れ動いていた。

 

 

『……不思議ね。【システム】が壊されたから、私は死ぬ。【システム】で維持していた深海棲艦もただの資材になっちゃうから、もう復讐は果たせない。ニンゲンどもは滅ぼせない。でも、どうしてか。和やかな気分だわ。こんな陽だまりのような気持ちを抱いたのは、いつ以来かしら』

 

 シンの入った筒状の容器が水圧により砕け散った時、シンはゆっくりと目を覚ます。そして、何を思ったか。目の前で自分のために泣いてくれている電をおもむろに抱きしめた。

 

 

「シン、サン……?」

(大切なモノを何もかも失い、修羅の道を選んだ私がこういうロクでもない運命を辿るのはきっと必然だった。でも、もしも。失意に沈む私が、どこかで貴女のような優しい子に会えていたら……はたして、私の歩む道のりは今と全然違うものとなったのかしらね)

『ありがとう。こんな同情の余地のない赤の他人なんかのために泣ける貴女はとても素晴らしい子。その心を、どうか忘れないで』

 

 シンは己の中から湧き上がる慈しみの感情をくすぐったく感じながらも、電に対して優しく言葉を送る。そして。言いたいことを言い終えたシンは電の背後に回り込み、トンと電の背を押した。

 

 

「シンサン?」

『貴女とこうして会えて良かったわ。さぁ、早く上がりなさい。私が終われば、【システム】は完全に消滅する。深海棲姫の貴女から負の感情が消え去り、艦娘になる。潜水艦娘じゃない貴女がこんな海中に留まっていたら、溺れ死んじゃうわよ?』

「ア、シンサン。チョット……!」

『私が死ぬことで消えるのは、深海棲艦だけ。艦娘を作った妖精たちは【システム】とは違った手法で艦の魂を資材と結びつけているようだから、私が消えたって貴女は消滅しない。だから、安心して皆の元へ戻りなさい』

「ダカラ、待ッテクダサイ!」

『?』

 

 話を切り上げ、電に海上へ戻るよう促すシンに電は待ったをかける。電の意図がわからず、首を傾げるシンに、電は必死に言葉をかき集めて、ありったけの思いを込めて叫んだ。

 

 

「アリガトウナノデス、シンサン!」

『非難されて然るべき私に感謝の言葉なんて、どういう風の吹き回し?』

「確カニ、シンサンノセイデ深海棲艦ガ生マレテ、多クノ人類ガ犠牲ニナッタノデス。デモ、シンサンガイナケレバ私タチ艦娘ハ生マレマセンデシタ」

『私は艦娘を自ら望んで生み出したわけじゃないわ』

「ソレデモ、シンサンガイタカラ、私タチ艦娘ハ意思ヲ持ッテ再誕デキマシタ。意図的ナノカ、ソウデナイカハ関係アリマセン。私タチニ艦娘トシテノ思イ出ヲクレテ、艦デシカナカッタ私タチニモウ一度、仲間ヲ、日本ヲ、人類ヲ守ル機会ヲ与エテクレテ、本当ニアリガトウゴザイマシタ!」

 

 電は心から感謝の気持ちを込めて頭を下げる。またまた想像を遥かに飛び抜ける電の言動に、シンは思わずきょとんとした表情を浮かべる。その後、電の発言を理解し終えたシンは、『どういたしまして』とスッと爽やかな微笑みを浮かべた。美人な彼女に、その笑顔はよく似合っていた。

 

 

『幸せにね、電ちゃん。地獄の底から、貴女の輝かしい未来を願っているわ』

 

 そう、最後の言葉を言い残して、シンは沈んでいった。

 電が何も手を施さなければ何一つ報われないまま、無念を引きずって死を遂げていたであろうシンは、命こそ失われたものの、その精神は確かに救済されたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 シンの真の意味での救済を終えた電はゆっくりと海面に浮上する。夕暮れの太陽が幻想的なオレンジの光を運んでくる中。海中で何をしていたのかと尋ねてくる第参鎮守府の暁型駆逐艦三番艦・雷に、何でもないよとはぐらかしていると、ここで電を仄かな緑色の光が包んだ。

 

 

「エ……?」

 

 電は思わず両手を見つめて、何が起こっているのかを把握しようとする。と、その時。電の両手が、人間味の感じられない白色から肌色に変化した。肌色の侵食は両手から始まって両肩まで駆け上がり、そこから頭部と足元へと一気に拡散する。

 

 

(これ、もしかして……ッ!)

 

 電が海面をバッと見下ろすと。電の見た目がすっかり変わっていた。電轟棲姫でしばらく過ごしていたせいか、随分の違和感があるように感じられる、元の艦娘の姿形に戻っていた。

 

 電は弾かれるように頭を上げて、周囲を見やる。すると。奈落棲姫も完全に川内の見た目を取り戻していた。【システム】の影響で深海棲姫化していた艦娘6名――陽炎、夕立、北上、U-511、赤城、望月――もちゃんと元通りになっていた。

 

 

「あ、あはは……」

 

 気づけば、電の口から笑い声が漏れていた。ようやく求めていた瞬間にたどり着くことができた。電の脳裏に瞬時に、この瞬間に到達するまでの一連の出来事が想起される。電は電轟棲姫となってからの波乱万丈な日々を胸いっぱいに抱きしめて。電らしく、元気いっぱいに叫んだ。

 

 

「――元の体を取り戻したのです!」

 

 かくして。電の元の艦娘の体を取り戻すための旅が終わりを迎えるのだった。

 

 




電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。金剛の願い通り、シンの心を救うことに成功した。さらに、元の艦娘の体を取り戻すついでに戦争を終わらせた猛者でもある。
雷→第参鎮守府所属の暁型駆逐艦三番艦。海面に浮上した電の存在に真っ先に気づいた辺りがお姉ちゃんっぽい模様。三女だけど。
シン→深海棲艦を生み出した見た目中年女性の存在。絶望の果てに八つ当たり気味に人類への復讐を決意した。最後は電のおかげで少しは安らかな気持ちでいられたようだ。

 というわけで、最終章11話は終了です。そして電が元の体を取り戻した所で最終章もおしまいです。後は電不在の幕間を差し込み、エピローグを数話挟んで、この物語は完結となります。いやぁ、ここまでくるのに1年ぐらい余裕で掛かると思っていたけど、何とか連載開始から約4カ月で辿りつけましたね。遅筆属性の私にしては快挙じゃないかと勝手に思う今日この頃なのです。


 ~おまけ(話の構成上、どこに持っていけばいいのかわからなかった部分をとりあえずおまけに据えりゃいっかと投入してみるテスト)~

 海上にて。シンが己のことを電に語り終えた時。

「深海棲艦を生み出したのも艦娘を生み出したのも元を辿れば同一人物、ね。確かに、これは茶番だわ。とんでもないものに付き合わされたものね」
『『……』』

 シンが電に話したものと同等の内容を妖精と黒妖精は艦娘たちに話し終えていた。どうやら第零鎮守府の妖精と黒妖精は互いに和解し知識を共有した際に、事の顛末を知ったらしい。その長々とした内容を艦娘たちを代表して暁が簡単に要約した時、妖精はしゅんとうなだれて、黒妖精はバツが悪そうにそっぽを向いていた。が、暁に妖精たちを責めるつもりはなかった。


「そんな顔しないでよ。多分、私たちの中にこのことに関して悪く思っている艦娘はいないわ。むしろ、感謝している艦娘の方が多いんじゃないかしら?」
『どうして?』
『は? なんでだよ?』
「簡単な話、私たちにチャンスをくれたからよ。……艦としての私たちは自力では身動きが取れない中で、各々役目を果たしてきた。でも、己の力を十分に発揮して、人々に貢献して、満足に沈んでいった艦なんてほんのわずか。ほとんどの艦は後悔を抱えて沈んでいった。もっと私は頑張れるのに、もっと私は力になれるのにってモヤモヤを抱いたまま、轟沈した艦ばかりなのよ。だからこそ、私たちに別の形でやり直しの機会を与えてくれて、後悔を後悔のまま終わらせないでくれた深海棲艦の生みの親には感謝しているの。あ、もちろん、深海棲艦を差し向けて人類を滅ぼそうとしたことには思う所があるけど、それはそれよ」
『『ッ!!』』
「だから、ほーら。そんな気まずそうな顔してないで、笑顔笑顔♪」
(……やっぱり暁には敵わない。さすがは私たちのお姉ちゃんだね)

 暁は妖精と黒妖精のほっぺたを指で掴んで強制的に妖精たちに笑顔を浮かべてもらおうとする。そのような暁の後ろ姿を見て、響は暁への尊敬度メーターをこっそり上昇させるのだった。
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