【完結】元の体を取り戻すのです! by.電   作:ふぁもにか

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Q.貴方にとって心の底から敬意を払える艦これ二次創作は何ですか?
A.「白い艦これ動画」って知ってる?

 どうも、ふぁもにかです。私の前作を知ってる人はもう察してるでしょうが、この作品では基本的に地の文の描写をサボってます。特に艦娘の身体的特徴や景色の描写は全力でサボってます。あんまり地の文で細かい描写を用意しても文字数が増えるばかりで物語の展開が進まないという、遅筆な私にとってはデメリットが多いだけですからね。そういうことです。



4話 現実は残酷なのです!

 

 パーティーが一旦解散となり、まだ食べたりない者や飲みたりない一部の艦娘が食堂に残り、その他の艦娘たちが鎮守府の一角の艦娘寮へと引き上げる中。

 

 パーティーでの喧騒がウソだったかのように静まり返る第参鎮守府。その港へと、深海棲艦の体をした暁型駆逐艦四番艦・電は一人、足を運んでいた。姉の暁型駆逐艦三番艦・雷には「一人で夜風に当たりたいから」などとテキトーに理由をつけて一人になることに成功した電は四つん這いになり、海の水面へ向けて、吐く。吐く。吐く。

 

 

「エ、ゥ。料理ガ、マズイノデス……」

 

 先のパーティーで食べた料理、飲んだ飲み物を吐き出し終えた電は苦しそうにえずきながら、言葉を絞り出す。パーティーで最初にスフレオムレツを食べた時、電を襲ったのは強烈で凶悪な不快感だった。有害物質まみれのヘドロでも食べたかのようなあまりのマズさが胸を這いずり回る感覚につい吐きそうになるも、心配そうに最上型重巡洋艦一番艦・最上が声をかけてきたため、無理やりマズいスフレオムレツを呑み込んだのだ。

 

 偶然、あのスフレオムレツの味が自分に合わなかっただけなのかもしれない。そう思い込み、第参鎮守府の艦娘たちに顔を出しつつ他の料理や飲み物も試すも、ことごとくマズく、電の体は一切受けつけなかった。パーティーの明るい雰囲気を壊したくなくて、電は己が食べた物は全て呑み込んで我慢した。その結果が、今の電の嘔吐である。

 

 

「……」

 

 今日、パーティーで食べた料理はどれも酷い味だった。でも雷お姉ちゃんや他の皆は美味しそうに食べていた。たまたま私の食べた部分だけ料理が失敗していたとは思えない。なら、どうして今日の料理はあんなにマズかったのか。原因は、明らかに自分だ。

 

 

「私ハ、本当ニ深海棲艦ナノデスネ……」

 

 どうやら深海棲艦の体は料理全般を受けつけないらしい。パーティーを通して深海棲艦な今の自分と艦娘との違いをまざまざと思い知らされた電の頬を一筋の涙が伝う。艦娘だった頃は美味しくて、密かに楽しみにしていた料理。だけど、あの美味しい料理はもう過去の思い出の中でしか楽しめない。重い現実が電を悲しみの底へ突き落としていく。

 

 自分を取り巻く現状を理解したつもりだった。でも甘かった。希望的観測に過ぎなかった。私は心のどこかで、深海棲艦の体になってもなお、艦娘だった時と変わらない日々を第参鎮守府の皆と一緒に歩んでいけると思っていた。だけど、違う。私はどんなに艦娘であろうとしても、深海棲艦であることから逃げられないのだ。

 

 

「ヒグ、ウゥ……」

 

 電が静かに嗚咽していると、ここで。電は先客に気づいた。姫級な深海棲艦のスペックにより夜目補正のかかった両眼が捉えたのだ。電の居場所より少し遠い場所で、膝を抱えて座り込み、闇に染まる海岸を見つめる睦月型駆逐艦九番艦・菊月の姿に気づいたのだ。

 

 港にいたのが自分だけじゃないという事実に電の涙は引っ込んだ。今の料理を嘔吐したり涙を流したりした姿を見られていたのではないかと電は慌てて涙を拭って菊月に改めて視線を定めるも、幸か不幸か菊月は電の存在を察知していなかった。

 

 菊月は沈鬱そうな表情でただ海面を見つめる。パーティーで見た姿とはかけ離れた深刻そうな様子。何か悩み事があるのなら、力になりたい。電は心のままに菊月へ近づき声をかける。

 

 

「キ、菊月チャン?」

「ひぅッ!?」

「ア、ゴメン。ビックリサセチャ――」

 

 電の声にビクリと肩を跳ね上げる菊月。明かりの乏しい港で不意打ちで話しかけられたら驚くのも道理だと電が謝った直後、菊月は弾かれたように立ち上がり、ギンと電を睨んだ。

 

 

「――ち、近づくな! 深海棲艦!」

「ッ!?」

 

 菊月が無意識に張り上げた声が港に響き渡る。菊月の警告に、その文言に、深い深い怯えの念を溜め込んだ双眸に、電は目を見開く。菊月に、拒絶された。パーティーの場では深海棲艦な電に特に思う所がないように思えた菊月の拒絶に、妖精の拒絶よりもショックの大きかった電の瞳孔は開かれたままだ。

 

 

「あ。何だ。電、か。ふぅ、驚かせないでくれ。いきなり暗がりから声をかけられたせいで思わず過敏に反応してしまったじゃないか。……やれやれ、仲間が近づく気配を察知できないとは、私はまだまだ未熟なようだ」

 

 一方。菊月はハッと我に返り、自身に話しかけてきた正体が電だと悟ると、先の自身の反応なんてなかったと言わんばかりに早口に言葉を紡ぐ。だが、対する電は「ウン……」と力ない相槌を打つことしかできない。電の鼓膜には菊月の拒絶の言葉が何度も反響していた。

 

 

「…………すまない、電。わかってるのに、目の前にいるのが電だってわかっているのに。どうしても、私は今の電を受け入れられないようだ。卯月や雷みたいに、体が電を受けつけてくれないんだ。警戒しないと、殺されてしまいそうで。体が震えるんだ」

「菊月チャン……」

「すまない。こんな、心の狭い私ですまない。私が、こんなに狭量な奴だとは思わなかった……」

「……」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 菊月自身が反射的に電を拒絶してしまった。その事実をごまかせないと判断した菊月は、まるで神に許しを求める敬虔な信者のように謝罪を繰り返す。電は仲間。だから受け入れたい。なのに、体が電の存在に怯えてばかりで拒否してばかり。そのため、菊月は理想と現実とのギャップに苦しみ、涙を流す。菊月の苦悩を知った電はいつの間にかショックから幾分か回復していた。案外すぐに、真っ白な頭から復帰することができた。

 

 今の私は姫級の姿をしている。駆逐艦の菊月一人ではどう足掻いても勝てない対象だ。だから、私が無意識に生み出しているであろう深海棲姫のオーラが菊月を震え上がらせていてもおかしくない。例え中身が私だとわかっていても、次の瞬間には轟沈させられる自分の姿を幻視して恐怖したっておかしいことは何もないのだ。だから。

 

 

「ア、謝ラナイデ、菊月チャン」

 

 電は菊月の抱える罪悪感が少しでも晴れるように言葉を紡ぐ。菊月の目尻に手を当て、涙を拭いながら、柔和な微笑みを見せる。

 

 

「い、電?」

「悪イノハ私ナノデス。ダカラ、菊月チャンガ思イ悩ムコトナンテ何モナイノデス」

「な、何を言って……違う、電は何も悪くない! 悪いのは電じゃなくて私――」

「――早ク寮ニ戻ッテクダサイネ。ジャナイト菊月チャンガ風邪ヲ引イチャウノデス」

「頼む、電! 私の話を聞いて――」

「――ソレジャア、マタ明日! オ休ミナサイ、ナノデス!」

 

 電は努めて元気に振舞いながら、菊月にパタパタと手を振った後に港から去っていく。菊月は去りゆく電を引き留めようとした。しかし、菊月の足は一歩も電の方へと動かなかった。それどころか、菊月に恐怖を与える電が自身から離れていくことに、彼女の体は酷く安堵していた。

 

 

「最低だ、私。一番つらいのは電なのに……」

 

 港に一人取り残される形になった菊月はその場に膝を抱えてうずくまった。自分の不用意な言葉が電を深く傷つけてしまったことを後悔しながら。菊月は頭を抱えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 走って。走って。菊月から逃げるように走って。

 菊月が追いかけてきていないことを確認して、ようやく電は立ち止まった。

 

 

「……」

 

 優しい。ここ第参鎮守府の皆は本当に優しい。電は心からそう思う。深海棲艦の体を抱えた自分を受け入れてくれているからだ。受け入れようと頑張ってくれているからだ。今の自分に敵意や殺意をぶつける艦娘がいない。それだけで第参鎮守府の皆の優しさがわかるというものだ。

 

 でも。その優しさが今は辛い。痛くて仕方ないのだ。確かに優しさをくれているはずなのに、自分を迎え入れてくれているはずなのに、腫れ物扱いのようにしか感じられない。そう、思ってしまうのは。皆の優しさが憐れみと思ってしまうのは。私が、私が違うから。私が艦娘じゃないから。皆と違う、異物だから。異形だから。

 

 

「私、ナンデ深海棲艦ノ体デ中途半端ニ蘇チャッタノカナ……?」

 

 電はポツリと呟く。電の漏らした問いは思いの外、闇夜に響く。

 

 こんな展開なんて望んでなかったのに。

 こんなことなら轟沈したままでよかったのに。

 こんなことなら艦娘の記憶なんていらなかったのに。

 こんなことなら、こんなことなら――深海棲艦らしく、皆の敵でいた方が楽だったのに。

 艦娘を、人類を滅ぼす側に立って、深海棲艦の仲間と共に歩んでいった方ガ楽ダッタノニ。

 

 

「そんなこと言わないでくれ」

 

 唐突に電の背後からかけられる声。ハッと我に返った電が背後を振り向くと沈痛な面持ちをした提督が電を見つめていた。

 

 

「……司令官、サン?」

「皆、電が帰ってきてくれて嬉しいんだ。それは本当だ。でも、まるで前例のない出来事に、まだ動揺の収まらない者がいるのも事実だ」

「……」

「今はまだ、第参鎮守府は居心地が悪いかもしれない。今後も私たちの不用意な言動で電が傷つくことがあるかもしれない。――けど。時間はかかるかもしれないけど、絶対に受け入れてみせる。他の鎮守府や大本営から電を隠し抜いて見せる。だから、だから、蘇らなくてよかったとか敵だったらよかったとか、そんな悲しいことを言わないでくれ。どれだけ姿形が変わろうと、電は電に変わりないんだから。慣れない提督の仕事に振り回された未熟な私を最初からずっと支えてくれた、私の大事な秘書艦に変わりないんだから。な?」

 

 提督は電と視線を合わせるために膝をつき、己の率直な心情を電にぶつける。その後、提督はおもむろに電を抱きしめ、優しく電の頭を撫でる。

 

 提督の言い回しのおかげか、人間らしいぽかぽかとした体温のおかげか。提督の言葉は絶望に染まりつつあった電の心に染み渡った。電の抱える問題は何も解決していない。それでも、心が少しだけ軽くなったのを電は感じた。

 

 

「司令官サン……アリガトウナノデス」

 

 電は薄く微笑んだ。

 

 




電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。今回は割と精神的に追い詰められていたが、提督のファインプレーにより最悪の事態は免れた模様。
菊月→第参鎮守府所属の睦月型駆逐艦九番艦。今の電を受け入れようと心では考えるも、体が電を完全拒否しちゃうせいで上手くいかないという深刻な悩みを抱えていた。
提督→第参鎮守府所属の艦娘たちを率いる立場の若い男性。あのタイミングで彼が電の前に現れたのは、電の様子に何となく違和感を覚えた雷が「様子を見てきてほしい」と依頼したため。

 というわけで、プロローグ4話は終了です。今回は電の精神的窮地を最終的に提督が救済をかける話でしたね。艦これの提督は艦娘の人心掌握術に長けてないと務まらないのです、ええ。
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