どうも、ふぁもにかです。今回は幕間なので電不在の展開となりますが、ある意味で今回の話がこの物語の中核になり得るかもしれません。……主人公がいない時に重要な展開が訪れるとか、電が主人公でないといけない必然性が薄れちゃうこと間違いなしですね、ええ。
時は少しだけさかのぼる。暁型駆逐艦四番艦・電がシンとの海中での会話を終えてから、電轟棲姫な電の体が元の艦娘の姿に戻るまでの間まで巻き戻る。
海面に浮上しようとする電の姿を見守りつつ、シンの体はゆっくりと沈んでいく。そして、落ちる所まで落ちていく。水中ゆえに息ができず、気を失った後。シンが目を覚ますと、シンは深海棲艦用の工廠内の管理室で仰向けに倒れていた。
【システム】が壊れたにも関わらず。確実に溺死したはずなのに。自分が死ぬことなく、案外まだ命を保っていることに我ながらしぶといなどと考えていると、シンの元に魂甲棲姫の体をした金剛型戦艦一番艦・金剛がテクテク歩み寄る。どうやら金剛がシンの溺死を防ぐためにシンを回収し、管理室まで運んだようだった。
「ヤット心ガ救ワレタミタイネー。マルデ憑キ物ガ落チタヨウデース」
「貴女が良かれと差し向けた電ちゃんのおかげでね」
ニコニコとした笑みを臆面なく前面的に押し出してくる金剛を直視できず、シンは目を逸らす。その後、シンは「金剛、貴女には随分と迷惑をかけたわね」と言葉を続ける。
「トイウト?」
「元々艦娘の貴女を私の復讐に巻き込んでしまった。優しい貴女が私に手を出さず、何も否定せず、ただ私に寄り添ってくれるのを良いことに、延々と恨み辛みや愚痴なんかを垂れ流すだけのティーパーティーに付き合わせてきた。貴女を散々深海棲艦側の存在として利用してきた。艦娘の記憶を持つ貴女に、艦娘やニンゲン殺しを押し付けてきた。……謝った所でもうどうにもならないことだけど、ごめんなさい」
「責任ヲ感ジテ謝ル必要ハナイデース。全部、私ガ勝手ニ選ンダ道ネー。ソレニ、シン。貴女ハマルデ私ノモウ1人ノ妹ミタイダッタデース。金剛型戦艦五番艦・シンハ我ガママデ、頑固デ、復讐ノコトバカリ考エル問題児ダッタケド、貴女ト過ゴス日々ハ私ニトッテ有意義ダッタネー」
「有意義? 冗談でしょ?」
「嘘ジャナイネー。例エバ、ティーパーティー。シンガ提供スル話ハ聞イテテ憂鬱ニナルヨウナモノガ中心ダッタケド、子供ノ頃ニ自分用ニ取ッテイタ駄菓子ヲヤタラト妹ニ食ワレタ話トカ、小学校ノ先生ニナッタ時ニ徒党ヲ組ンデイタズラバカリ仕掛ケテクル男ノ子ノ話トカ、師団長ニナッタ時ノ部下ガ舐メ腐ッタ態度ヲ見セテキタ時ノ話トカ、ソウイッタ微笑マシイ思イ出話モ、タクサン話ノ中ニ紛レテタカラネー。……マ、物凄ク手ノカカル妹ダッタノハ確カダケド」
間接的に己が作り出した存在に『手のかかる妹』と称されたシンは「悪かったわね」と口を尖らせる。一方。金剛はここで腕を組みつつ、ピンと人差し指を立てる。
「私ガ個人的ニ文句ヲ言イタイ所ガアルトスレバ、タダ1ツ。コノ魂甲棲姫ノ体ダト、紅茶マデモガ吐キタクナルホド『ゲボマズ』ダッタコトグライデース。ナンデ深海棲艦ヲ、食事ヲ拒絶スル体質ニシチャッタノデース!?」
「そ、それは、深海棲艦が美味しい食事を通してニンゲンに興味を持って、それをきっかけに寝返ったりしたら厄介だなって思ったから、念には念をとあらかじめ調整を入れておこうかなって」
「ソレガ余計ダッタネー! 完全ニ設計ミスデース! 誠実ナ謝罪ヲ要求シマース!」
「え、さっき謝らなくていいって――」
「――ソレトコレトハ話ガ別デースッ! サァ、謝ルデース! サァ、サァサァサァ!」
「ひッ、あ。ご、ごめんなさい?」
「マダ謝意ガ足リナイデース!」
「え、えーと、この度は私の浅慮のせいで金剛様が紅茶を嗜められないという、多大な精神的負担と迷惑を被ったこと、誠に申し訳ありませんでした?」
ゴゴゴゴゴッとの威圧的な擬音語を背中に纏った上での金剛のあまりの剣幕に、シンは少々冷や汗を流しながら金剛に全力で謝る。一方、金剛は先ほどまであれだけ怒りの形相を浮かべていたにも関わらず、シンの謝罪を聞くや否や「ヨロシイ。許シマース」とあっさり矛を収めたため、シンは「あ、こんな感じでいいのね」と拍子抜けの声を出した。
「……貴女は何かもう色々と凄いわね。改めてよくわかったわ」
「イェース、当然ネー。コレグライジャナイト、個性的ナ妹タチノオ姉チャンハデキナイデース」
「ふふ、そうね。お姉ちゃんは大変よね。……金剛、今まで私の側にいてくれてありがとう。そろそろ貴女も早く上に上がりなさい。仲間の待つ光の世界に帰るといいわ」
シンの褒め言葉と素直に分類しがたい発言に金剛はエッヘンと誇らしげに胸を張る。その様子をシンが見上げていると、いよいよ自分の体が透明になりつつあることに気づき、金剛に魂甲棲姫の体をしている内に海上に浮上することを勧める。
「ソノ提案、ノーセンキューデース!」
「え……?」
しかし、金剛は速攻で断った。
そして、困惑するシンの隣にペタンと女の子座りをした。
「私ハ貴女ノ味方ニナッテ、寄リ添イ続ケルト決メテイマース。ダカラ、コレカラモ一緒、寂シクナイネー。死後ニ何ガ待チ受ケテイルカワカラナイケド、天国ダロウト地獄ダロウト別世界ダロウト、ドコマデモ一緒。私ヲ、シンノ新タナ旅路ノオ供ニスルト良イデース」
「まさか、私と一緒に死ぬつもりなの? ……貴女には貴女の帰りを待ち望んでいる者たちがいる。貴女の妹や仲間を悲しませたくないのなら、帰ることをオススメするわよ?」
「何ヲ言ワレヨウト帰ル気ハナイデース。……私ハ私ノ意思デ貴女ノ理解者ポジションニ留マリ、私ノ指示デ多クノ人類ヲ、艦娘ヲ殺シタデース。今サラ、仲間面ヲシテ皆ノ元ヘノコノコ戻ルツモリハナイデース。妹ヤ仲間ノコトハ、ソノ内新シク誕生スルハズノ次ノ金剛オ姉チャンニ全テ委ネテ、私ハシント一緒ニ逝キマース。私ニトッテシンモ妹ミタイナモノデ、放ッテオケナイデース」
「そう。……ありがとう。私は本当に良い理解者を、お姉ちゃんを持ったわ」
「ドウイタシマシテ」
元々一人で死にゆくつもりだったシンは、一緒に死のうとする金剛を止めようと言葉を紡ぐ。しかし。金剛の言葉が、両眼が、翻すことのない強い意志を宿しており、いくら言葉を重ねようと金剛の気持ちを変えられないと悟るとため息を吐き、お礼の言葉を口にした。
「でも、どうやって死ぬつもり? 魂甲棲姫の頑丈さを考えると、自殺しようにもそう簡単には死ねないと思うけど?」
「ソノ辺ハチャント考エテアルネー。ヲッチャン、カムヒア!」
「……」
金剛が空母ヲ級を呼ぶと、管理室の入り口付近から空母ヲ級が現れる。シンと金剛との間で醸成される雰囲気を壊さないように無言で控えていた空母ヲ級は、テクテクと金剛の元へ歩みを進める。すると、金剛は「ハイ」と空母ヲ級に小さなリモコンを渡した。
「……?」
「ソレハ、ココ管理室ニ砲弾ノ雨ヲ降ラセルタメノリモコンネー。ヲッチャンガ管理室カラ離レタラ、ソノリモコンノボタンヲ最低4回ハ押シテホシイデース」
「なるほど、あの装置なら魂甲棲姫も余裕で死ねる。考えたわね、金剛」
「デショ? テコトデ、ヲッチャン。OKネー?」
「……」
これは何だと首を傾げる空母ヲ級に金剛は軽く説明を入れて、上司の自分を確実に殺すようにと最後のお願いをする。すると、空母ヲ級は何も魂甲棲姫まで死ぬことはないんじゃないかと言わんばかりに、ためらいの表情を表出させる。
「ヲッチャンガタメラッテクレルノハ嬉シイケド、私ノ決意ハ名前通リ金剛級デース。私ハモウ、シント一緒ニ死ヌ以外ノ道ヲ選ブツモリハナイネー」
「……」
「ヲッチャン、アリガトウ。貴女ガ私ノ、深海棲艦側ノ者トシテアマリフサワシクナイ指示ヲ純粋ニ聞キ入レテ遂行シテクレタカラコソ、戦争ノナイ今日ガアルネー」
「……」
「コノ最後ノ仕事ヲ終エタラ、仲間ノ元ニ顔ヲ出ストイイネ、
「……!」
金剛に加賀型正規空母一番艦・加賀だと指摘された空母ヲ級はわずかに目を見開きながらも、なお沈黙を続ける。その後、金剛と空母ヲ級は互いの目を見つめ続ける。幾ばくか時間が経過した後、空母ヲ級はスゥと深呼吸をして、金剛に問いかけた。
「……ドウシテワカッタンデスカ?」
「ア、本当ニ加賀ダッタネー。タダノ勘ダッタケド、言ッテミルモノデース」
「……ドウシテワカッタンデスカ? バレナイタメニナルベク黙ッタママデイタノニ」
「ンー、勘ノ他ニ理由ヲ挙ゲルナラ、【システム】ヲ長期稼働サセテキタ影響カ、イレギュラーナ深海棲艦ガ生マレ始メタ点デース。【システム】ヲ修理デキルノハシンダケ。デモ、肝心ノシンガ【システム】ト同化シテイルカラ【システム】ガ異常ヲキタシテモ外カラ調整デキズ、ソノママ使イ続ケルシカナカッタネー。結果、電轟棲姫ヤ私ノヨウニ艦娘ノ頃ノ記憶ヲ封印シソビレタ異常ナ深海棲艦ガ生マレルヨウニナッタ。【システム】ガオカシクナリツツアッタ以上、『艦ノ魂+負ノ感情+資材=深海棲姫』ノ図式モモハヤ絶対的ナ真理トハ限ラナイ。ヲッチャンノ体ヲシタ加賀ミタイニ、深海棲姫ジャナイノニ元艦娘ナ深海棲艦ガ存在シテモ不思議ジャナイノデース」
己に科した無言縛りを解いて金剛に質問する空母ヲ級、もとい加賀に金剛は己の考えを述べる。単に直感のみで己の正体を看破したわけではないことを知った加賀は次の質問に入った。
「ナルホド。……トコロデ、イツカラ私ノ正体ヲ察シテイマシタカ?」
「2回目ニ会ッタ時グライデース」
「……ナラ、モシカシテ、ココニ入ル度ニ叫バナイトイケナイ、アノフザケタ合言葉ハ――」
「――普段ハ冷静沈着ナ性格ヲシテイルコトニ定評ノアル加賀ニ無茶ブリヲスルノ、スッゴク楽シカッタネー。良イ癒シ要素ダッタデース!」
「……確カ、コノリモコンノボタンヲ最低40回押スンデシタヨネ?」
金剛のキラキラとした輝かしい笑みが付随した返答の結果、加賀はためらいを捨て、すっかり金剛に砲弾の雨をこれでもかと喰らわせてやるという気になった。合言葉を叫ばせることでいたずらに加賀に羞恥心を味わわせた金剛の罪は重いようだ。
「最低4回デース! 40回ハサスガニオーバーキルネー! モシカシテ、怒ッテマース?」
「正直、頭ニキマシタ」
「ゴメンナサイデース!」
金剛の軽い謝罪を聞いた加賀は「……マァ、イイデショウ」と意外にも怒りを引きずらずに引き下がると、「サヨウナラ、金剛サン」といよいよ管理室から去ろうとする。その背中に、金剛が「加賀、オ願イヲ1ツ追加オーダーシマース」と声をかけた。
「何デショウカ?」
「私ノ最期ヲ、第参鎮守府ノ皆ニ伝エテクレルト嬉シイデース」
「……了解シマシタ」
空母ヲ級は金剛の頼みを引き受けると、管理室を後にする。管理室に残ったのは、シンと金剛のみ。二人は何一つ喋らない。もう二人の間に言葉なんてものは不要なのだ。
その後、しばらくして。もう完全に消えかかっているシンの手を金剛がそっと握った時。管理室の天井から顔を覗かせている100を軽く超える数の砲門から一斉に砲弾が飛び出てくる。降り注ぐ砲弾の雨を金剛は見つめて、スゥと目を閉じる。
そして。シンと金剛は二人一緒に死亡した。
シンの体は完全に消滅し、金剛は物言わぬ資材のガラクタと化した。
共に死んだ二人が死後、無事に二人ぼっちでいられたかどうかはわからない。
ただ二人にとって都合のいい旅路になっているように願うことしか、残された者にはできない。
◇◇◇
金剛に託されたリモコンのボタンを押す前に、空母ヲ級の体をした加賀は海上へ向けて全力で泳ぐ。加賀が急いで海上を目指しているのは、自分がグズグズしていては、シンが先に消えきってしまい、金剛がシンと同じタイミングで逝くことができなくなってしまうからだ。
(このボタンを押してしまえば、すぐにでも艦娘の体に戻るはずなので、早いこと海上へ戻りましょうか。……第壱鎮守府の皆はまだ、私のことを覚えているでしょうか? もう1年前のことなので、正直厳しいかもしれませんね)
実は、金剛と同じで1年前の第壱、第参、第伍鎮守府合同の大規模作戦により轟沈していた加賀の心に暗い影が落とされる。と、ここで。加賀の脳裏に思い浮かんだのは、電の姿。電轟棲姫として、元の体を取り戻すための当てのない旅に挑戦した電の姿。
(今更ですし、少しぐらい第壱鎮守府への帰りが遅くなっても問題ないでしょう。金剛さんの最期を第参鎮守府に伝え終えたら、第壱鎮守府に帰る前に、少し世界を旅してみてもいいかもしれませんね。電轟棲姫は、電は、楽しそうに旅をしていましたし)
今後の己の方針を定めた加賀。その口角がわずかに緩んでいることに、加賀は気づかない。
その後、タイミングを見計らってちゃんとリモコンのボタンを4回押し終えた加賀は、電たちのいる海上とは遠く離れた別地点にて、こっそり元の加賀としての体を取り戻すのだった。
魂甲棲姫→深海棲艦側の偉い地位に就いている深海棲姫。元金剛。シンを独りにしないため、どこまでも寄り添い続けるため、己の罪を償うためなどの理由で自殺を選んだ。
シン→深海棲艦を生み出した見た目中年女性の存在。電により心を浄化されたため、金剛相手にラスボスとは思えないほどのほのぼのなやり取りをしてみせた。最後は体が透明になっていく形でこの世から消滅。死亡した。
空母ヲ級→電への補給関係の任務を担っていた深海棲艦。ここでは無口キャラとなっている。「バアアアアニングゥ! ラアアアアブ!!」が最初で最後のセリフとならなかった。その正体は1年前に轟沈した、第壱鎮守府の加賀だった。金剛を通して大体の事情を知っていた模様。
というわけで、最終章幕間は終了です。シンを支えるため、どこまでも寄り添う金剛の最期のお話でしたね。シンと金剛が死後の世界を幸せに突き進んでいくことを願っています。
そして今回、ついでに空母ヲ級の正体も割れました。ここの無言な空母ヲ級は当初はモブ深海棲艦のままで終わらせるつもりだったのに、空母ヲ級のあまりの可愛さについつい妄想が膨らみ、気づけば重要キャラにのし上がってました。ホント、ヲッチャンってば恐ろしい子ですわぁ。