どうも、ふぁもにかです。エピローグ2話目ということで、今回は第弐鎮守府のお話です。初登場時は『絶対深海棲艦沈めてやる』との殺意と、手段を選ばぬ狂気とで電を戦慄させた第弐鎮守府ははたしてどのような終わりを迎えるのでしょうか。
【システム】との戦いを終えた後。第弐鎮守府の艦娘たちは、電轟棲姫に拉致されてから行方不明だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168と、奈落棲姫の状態から艦娘だった頃の記憶と元の体を取り戻した川内型軽巡洋艦一番艦・川内を伴って第弐鎮守府へと帰っていた。
「……」
その帰路にて。第弐鎮守府の艦娘たちは誰もが沈黙していた。伊168の件もあるが、一番は川内のことが、艦娘たちの心を暗鬱の底へと叩き落していた。
何せ、第弐鎮守府のムードメーカーとして、いつも第弐鎮守府を引っ張っていた川内が轟沈後も姿を変えて、奈落棲姫として生きていて。しかし、川内が轟沈したことを機に深海棲艦へ深い深い憎しみを募らせるようになった自分たちは、大好きだった川内の正体に気づかず、あろうことか轟沈させようとしていたのだ。あの時。電轟棲姫が奈落棲姫を庇わなければ。間違いなく自分たちの手で川内を殺していただろう。そして。奈落棲姫を守ってくれた大恩のある電轟棲姫もまた、伊168が鹵獲を提案しなければ轟沈は免れず、恩を仇で返すこととなっていただろう。
「……」
結果的に取り返しのつかない事態にならなかったからまだ良かったものの、自らがやらかしてしまったことへの罪深さに、ある者は顔を伏せ、またある者は頭を抱え、各々苦々しい表情を浮かべる。川内が記憶や元の体を取り戻した当初は全力で狂喜乱舞していた第弐鎮守府の艦娘たちは今、後悔の渦に心を呑み込まれていた。
「――皆、ごめんね」
せっかく戦争が終わったというのにどんよりとした重苦しい空気が第弐鎮守府の艦娘たちを取り巻く中。ポツリと、一番最初に謝罪の言葉を口にしたのは、意外にも川内だった。「え?」と他の艦娘たちがギョッと川内へと目を向ける中、川内はおもむろに言葉を紡ぐ。
「私さ、奈落棲姫として復活した時、凄く不安だったんだ。記憶も微妙になくなってたから、余計に世界にたった一人、取り残されてるような気がしてね。すぐにでも心の拠り所が欲しくて。だから、偶然皆を見かけた時は嬉しかったんだ。嬉しくて、一秒でも早く皆と合流したいって走って。そのせいで、私は攻撃された」
「すまない、川内。私の判断ミスだった。あの時、ずっと一緒に戦ってきた仲間なのに、私は奈落棲姫を川内だと気づけなかった。気づけないまま、容赦なく砲撃してしまった」
「ながもんのせいじゃないよ。もちろん、他の誰のせいでもない。私のせいだ」
「「「ッ!?」」」
「私はもっと落ち着いて行動するべきだったんだ。轟沈したはずの自分がどうして生きているのかってきちんと考えて、奈落棲姫の体になっていることに気づいた上で、慎重に皆と接触すればよかったんだ。皆に不用意に近づきすぎず、まずは皆に敵意がないことを示して、第弐鎮守府で生きてきた川内しか知るはずのない記憶を積極的に曝け出して、皆に確認してもらって、ゆっくり歩み寄ればよかった。でも、私は衝動のままに急ぎすぎた。急に近づいてきた正体不明の深海棲姫なんて、迎撃されて当然だよ。……悪いのは私。だから、皆が無駄に罪悪感を背負う必要なんてない。せっかくこうしてまた皆で一緒になれたんだから、もっと笑おうよ。さっきみたいにさ」
己の心の内を少しずつ開示する川内に、長門型戦艦一番艦・長門は謝罪する。が、川内は自分こそが悪かったのだと主張して、皆に笑顔を推奨する。が、艦娘たちは川内の頼みに素直に応じることができない。そう簡単に応じられるほど、心の仕組みは単純ではないのだ。
「もしも第零鎮守府が私を受け入れてくれなかったら。デンちゃんやイムたんと一緒にした旅がなかったら。どうなっていたか、全然わからない。でも、帰れるんだ。皆が支えてくれたおかげで、もう一度。第弐鎮守府に帰れるんだ。……もう帰れないと思ってたけど、こんな日が来るなんて轟沈する時は全然考えてなかったけど、本当にこの世界は何が起こるかわかったものじゃないね」
川内はしみじみとした口調で言葉を零す。徐々に第弐鎮守府の建物が遠目に見えてくるにしたがって川内の口角が徐々に吊り上がっていく。
「……多少の非難は覚悟していたんですけどね。さすがですね、川内さんは」
「川内はどこまでも川内じゃな。何も変わってなくて、安心なのじゃ」
「えへへ、もっと褒めていいんだよ?」
川内としての記憶を取り戻して早々にマイペースさを押し出してくる川内に、いつまでも罪悪感を抱いているのは何かが違うと、金剛型戦艦二番艦・比叡と利根型重巡洋艦一番艦・利根が川内の川内らしさを称えると、川内は満面の笑みで頬を掻く。第弐鎮守府は手探りながら、少しずつ従来の第弐鎮守府らしさを取り戻しつつあった。
◇◇◇
(……私は、また眠っていたのか)
気づけば、夕日が地平線に沈まんとする時間帯だった。執務室の机で突っ伏す形で眠っていた第弐鎮守府の提督はゆっくりと体を起こす。いつもであれば一瞬で眠気を振り払い、執務に励むことができるのに、何かの前触れか、今日は少しだけ体が重かった。
(この夕日から察するに、眠っていたのは1時間程度か)
「なぜ起こさなかった、朝潮?」
「ぇ……」
「……朝潮?」
提督は椅子から立ち上がる。その際、パサッと床に落ちた毛布を見て。執務室の窓から何かを呆然と凝視している秘書艦こと朝潮型駆逐艦一番艦・朝潮を見て。提督は詰問染みた口調を朝潮に投げかける。しかし、当の朝潮は無反応。様子のおかしい朝潮に提督が内心で首を傾げていると、ハッと我に返った朝潮が提督の右手を両手でギュッと掴んだ。
「司令官!」
「どうした?」
「今すぐ港まで来てください! 緊急事態です!」
「深海棲艦の襲撃か? 私がわざわざ港へ向かう必要はない。放送で通達すれば事足りる」
「いいから、いいから来てくださいッ! 大変なんです!」
「ちょっ、朝潮?」
よほどのことがなければ提督のイエスマンになりがちな朝潮がいつになく強気な姿勢を見せることに、つい提督は面食らう。その隙をついて、朝潮はあっという間に提督を執務室から連れ出すことに成功した。そのまま朝潮は港を目的地に据えてグイグイと提督を引っ張り廊下を進む。
(一体、何なんだ……)
今の朝潮には何を言っても無駄だろう。ならば、朝潮の気の済むように、港まで出向くより他はない。提督は内心で貴重な時間を無為にさせられていることへのイライラを募らせながらも、小柄の朝潮に手を引っ張られて移動することを情けなく感じ、自分から港へ駆け出すこととした。
「……え」
そして。港に到着した時。提督の頭は一瞬にして真っ白になった。何も考えられなくなった。第弐鎮守府へ帰艦する艦娘たち。その先頭に、いるはずのない艦娘が存在していたからだ。2か月前に轟沈したはずの、己が最も愛した艦娘が帰艦してきたからだ。その当の艦娘は提督の姿を見かけると、一目散に提督の元へ駆け寄り、ビシッと直立した。
「提督」
「……本物、なのか?」
「うん」
「偽者じゃ、ないんだな?」
「もちろん」
「本当に、川内なんだな?」
「むー、念入りだね。提督には私が別の何かに見えてるの? それとも私のこと忘れちゃった?」
「そんなわけ、そんなわけないだろうッ!」
川内の不安そうに揺れる眼差しに、提督は声を荒らげる。そのあまりの迫力に思わず川内が肩をビクリと震わせる中、提督は改めて川内と向き直った。もう、提督の心の中に、目の前の川内が夢だとか幻想だとか、そのような類いなのではと疑う気持ちはなくなっていた。
「……帰って、きたんだな」
「うん。帰ってきたよ」
「おかえり、川内。よく帰ってきてくれた」
「――ッ! ただいま、提督ぅ!」
提督は感動のあまりツゥと涙を流しながら川内を抱きしめる。
すると、川内の方も感極まった末に提督の背中に手を回し、ギューッと力を込めた。
「提督! 会いたかったよ!」
「あぁ、私もだ。川内に会いたくて、会いたくて仕方なかった」
「提督ぅ……あ、そうだ。提督、ごめんなさい! せっかく指輪をくれたのに、轟沈した時になくしちゃったみたいで――」
「いい。指輪より、お前が今ここにいることの方が大事だ。よく今まで生きていてくれた。おかえり、川内。川内ぃ……!」
「うわぁぁああああああん! 提督、提督提督提督提督!」
ただただ静かに涙を流す提督。びえーんと擬音がつきそうなほどに泣きじゃくる川内。
二人は抱きしめ合う。お互いがしかと存在していることを確かめるように抱擁を続ける。
「……やっと、やっと取り戻せたわね」
「はい。止まっていた第弐鎮守府の時間がようやく動き出したような、そんな感覚がします」
「取り戻せて、良かったわ」
「はい、はい!」
もう二度取り戻せないと思っていた、第弐鎮守府の日常。失われていたものが元通りになりつつある感覚に、暁型駆逐艦一番艦・暁は感慨深そうにため息を吐き、朝潮は何度も何度も首を縦に振る。かくして。川内が轟沈したことを機に、狂気の道をひた走っていた第弐鎮守府は、当の川内の帰艦により、ようやくあるべき形を掴み取れたのだった。
◇◇◇
「……はぁぁ、疲れたぁ」
川内と提督が感動の再会を繰り広げている中。伊168はせっかくの雰囲気をぶち壊さないよう、こっそり寮部屋に帰り、ベッドに顔からボフンと顔を埋めていた。伊168は【システム】戦において小破すらしていない希少な艦娘である。が、【システム】戦で一生分の脳味噌を使ったかのような感覚に、可及的速やかにベッドで泥のように眠りたい衝動に襲われたのだ。
「これはこれは。かなりお疲れのようですね」
と、ここで。いつの間にやら部屋に侵入していたらしい青葉型重巡洋艦一番艦・青葉が若干芝居がかった口調で語りかけてきたため、伊168はつい「ゲッ、青葉」と声を漏らした。
「やれやれ、この清廉潔白さに定評のある青葉に『ゲッ』とは、随分なあいさつですね」
「……なんでここにいるのよ、青葉。私の同室は
「まぁ今はイクさんいないからいいじゃないですか」
「今、港の方で川内さんと司令官が感動不可避の光景を垂れ流してるけど、そっちに行かなくていいのかしら?」
「ふふふ、青葉はプロなのです。皆が皆、飛びつくとわかりきっているネタにただ便乗するだけの器だと思わないでほしいですね。それに、そっちの担当は臨時的に雪風さんに任せているので心配無用です」
青葉の騒がしさのせいで寝ようにも寝られない。伊168は青葉をうざったく思い、それとなく寮部屋の外へと誘導しようとする。が、青葉は伊168の意図通りに動かず、あくまで伊168の寮部屋に留まる。痺れを切らした伊168が直球で青葉を追い出そうとベッドから体を起こした時。コホンと、1つ咳払いをした青葉が伊168の両眼を真摯に見つめてきた。
「な、何よ?」
「イムヤさん。貴女は真の意味で、第弐鎮守府の艦娘になれましたか?」
「……ええ、なったわ。私の中から深海棲艦の本能は消えたから、もう無意識に艦娘を誤射する心配をしなくて済むようになった」
「それは良かったです」
「……尤も、心も体もしっかり艦娘になったと思ったらもう戦争が終わっちゃったってのが最高に皮肉だけどね。私は何のために頑張ったのやら」
「そうでしょうか? また新たに深海棲艦に代わる刺客が現れて、人類に牙を剥くかもしれませんし、イムヤさんの行為は無駄じゃなかったと青葉は思いますよ」
「ちょっ、そういう不吉なことを言うのはやめなさいよ。せっかく戦争が終わったって、頭をすっからかんにしてのんびりしたい気分なんだから」
青葉からの真剣な問いにきちんと返答した伊168は、青葉の冗談を口早に咎める。こういう発言がフラグとなり、後々の未来に実際に強力な刺客が誕生でもしたら、洒落にならないからだ。と、ここで。伊168の精神力が本格的に限界を迎えたのか、伊168は「あー」と気の抜けた声を出してベッドに背中を預けた。そして。すかさず襲いかかってきた睡魔に抗えず、伊168は眠そうにゆっくりとした瞬きをする。
「おや、そろそろ限界のようですね。なら、今日の所はここまでにしましょうか。話す機会は今後、いくらでも作れますしね」
「そうね……」
青葉はもう伊168に会話するだけの力も残っていないと悟ると、今は伊168を一人眠らせてあげようと、寮部屋を退出しようとする。その際、青葉はクルッと伊168の方へ向き、心の底から親愛の感情を込めた一言を紡ぐ。その青葉の行動を先読みした伊168もまた、青葉へと最大限の親愛の感情を注いだ一言を送るのだった。
「おかえりなさい、イムヤさん」
「ただいま、青葉」
伊168→前世が潜水棲姫だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦。【システム】が壊れたことで、己の心に渦巻く人類や艦娘を殺したいという本能から解放された。
川内→奈落棲姫の状態から記憶と元の体を取り戻した、第弐鎮守府所属の川内型軽巡洋艦一番艦。提督の嫁艦として、提督と再会できたことが相当に嬉しかったあまり、号泣した。
長門→第弐鎮守府所属の長門型戦艦一番艦。奈落棲姫、もとい川内にやらかしたことへの罪悪感を抱いていた筆頭だったが、川内の発言で幾分かは救われたようだ。
比叡→第弐鎮守府所属の金剛型戦艦二番艦。川内のマイペースっぷりを前に、いち早く自分らしさを取り戻した勢その1。
利根→第弐鎮守府所属の利根型重巡洋艦一番艦。川内のマイペースっぷりを前に、いち早く自分らしさを取り戻した勢その2。
第弐鎮守府の提督→ケッコンカッコカリをした川内の轟沈以降、深海棲艦を深く憎み、深海棲艦の殲滅に執心しまくっている男性提督。堅物。が、今回川内と再会できたことで提督は狂気から解放され、綺麗な提督へと生まれ変わった。今後の第弐鎮守府は安泰であろう。
朝潮→第弐鎮守府所属の朝潮型駆逐艦一番艦。秘書艦として、おかしくなった提督を支え続けてきた者として、今日という日が訪れたことを凄く喜んでいる。
暁→第弐鎮守府所属の暁型駆逐艦一番艦。もはや喜び方一つ取ってみても、淑女をやっている。ちなみに、後日。予定よりも早い段階で自爆用の黒い腕輪を外された模様。
青葉→第弐鎮守府所属の青葉型重巡洋艦一番艦。川内の帰艦という大きな話題でかき消されがちだった伊168の精神面を案じて伊168の寮部屋を訪れてくれた。マスゴミなんていなかった。
川内「提督! 今日という日を祝福して、夜戦しようよ!」
提督(え、いきなり!?)
というわけで、エピローグ2話は終了です。前回がカオスエンドなら、今回は真面目エンド。さすがにムードメーカーの川内さんをもってしてもコメディエンドにはなりませんでした。ま、綺麗な形に纏まって、第弐鎮守府はハッピーエンド。素晴らしいですな。