【完結】元の体を取り戻すのです! by.電   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回でこの物語は最終回を迎えます。皆さんにとって、この物語はどうでしたか? 長かったでしょうか。それとも物足りなかったでしょうか。私としては、やりたい展開は大体実現できたので割と満足しています。さて、最後を飾るのはやっぱり第参鎮守府。電はどのような帰艦となるのでしょうか。



最終話 第参鎮守府のその後の話

 

 【システム】との戦いを終えた後。第参鎮守府の艦娘たちは、電轟棲姫から元の艦娘の姿を取り戻した暁型駆逐艦四番艦・電を連れて、第参鎮守府への帰路に就いていた。

 

 

「……」

 

 電はいつになく緊張していた。心音がやけに電の鼓膜に響く。電が第参鎮守府を離れていたのは1か月にも満たない、ほんの短い期間である。だが、しばらく会わなかった仲間と久々に顔を合わせるという出来事につい身構えてしまうのだ。

 

 

「大丈夫よ、電。ちゃんと艦娘の体を取り戻したんだもの。皆、貴女を心から歓迎してくれるわ」

「そう、だよね……」

「ったく、さっき【システム】相手に誰よりも勇敢に立ち向かった奴とはまるで別人だな」

「わ、天龍さん!?」

 

 電の心中をいち早く察した暁型駆逐艦三番艦・雷が優しく電に微笑みかけ、天龍型軽巡洋艦一番艦・天龍が電を茶化すように頭をグシャグシャに撫でてくる。あくまでもいつも通りな2名の行動に、電の不安は少しずつ払拭される。

 

 そして。第参鎮守府の建物が見えてきた時。電は港に複数の人影を見た。もう電轟棲姫の並外れたスペックの視力を保有していないのでハッキリとは見えない人影も、第参鎮守府に近づくにつれ、明らかになっていく。港で電たちを待ち受けていたのは、第参鎮守府の提督と、秘書艦の睦月型駆逐艦九番艦・菊月だった。

 

 

「司令官さん、菊月ちゃん……」

「既に天龍から連絡を受けているから、何があったかは大体把握しているよ。だから、提督として言いたいことは色々とあるけど、今はこれだけ言わせてもらうよ」

「?」

「「おかえりなさい、電」」

「ッ!!」

 

 提督と菊月は声をそろえて電の帰艦を迎え入れる。その何の飾り気のないシンプルな一言は、簡素であるからこそ電の心に深く染み込んだ。

 

 

 当初思ったより遥かに短い旅だった。しかし、決して楽な旅ではなかった。

 でも、それでも大変なだけではなかった。楽しいこともいっぱいあった。

 

 艦娘の時ではあまり気にしなかった雄大で神秘な自然を楽しめた。

 色んな艦娘、深海棲艦、妖精たちと会って。仲良くなって。あるいは衝突して。

 様々な出来事を、一歩一歩を着実に積み重ねた結果が今、ここにある。

 あの時。大海原へ小さな一歩を踏み出した決断は、間違いではなかったのだ。

 

 

「――た、ただいまなのです!」

 

 電は不意にボロボロと涙を零してしまい。慌てて両手で拭って。

 太陽にだって負けない、最高級の笑顔を返すのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その夜、第参鎮守府の食堂にて。『電、おかえりパーティー 第2弾』が盛大に開催された。どうやら提督が天龍から連絡を受けた際、電を迎える役の菊月以外の待機中の全艦娘を総動員して急ピッチで準備したものらしく、まさか帰艦してすぐに自分のためのパーティーが待ち構えているとは露にも考えていなかった電はそれとなく食堂へ誘導された時に、パパパパパァーンとの乾いた破裂音を響かせるクラッカーにビクリと肩を震わせることとなった。

 

 電はパーティーを全力で楽しんだ。深海棲艦になってからは全然美味しくなかった食べ物や飲み物を再び堪能できることに涙を流して喜びながら食事を掻きこんだ。睦月型駆逐艦四番艦・卯月や川内型軽巡洋艦三番艦・那珂といったテンションの高い面々と敢えてテンションを合わせて一緒にはしゃぎまくった。仲間たち1人1人にきちんと顔を出して積極的に話をした。

 

 

(今日は最高の日なのです。でもちょっと疲れちゃいました……)

 

 そうして。自分が主役のパーティーを最大限に楽しみつくした電は今、港で一人、夜の海を眺めていた。かつては食事を海に吐いたり、菊月に拒絶されたりと散々な出来事があったこの夜の港も、今の電にとってはただただ感慨深い場所でしかなかった。

 

 電が夜風に当たっていると、後ろから「電」と声がかかる。電が背後を振り向くと、あの時と同じように提督が電を見つめていた。違うのは、当時の提督が沈痛な面持ちをしていて、今の提督が柔和な表情をしていることだ。

 

 

「司令官さん……」

「成長したね、電」

「成長?」

「うん、電は凄く成長した。正直、見違えたよ」

「……私もそう思うのです」

 

 コテンと首を傾げる電に、提督は電の隣に移動しつつ褒める。

 確かに。今回の旅を通して自分は成長したと、電は提督に同意する。

 

 

 電は思う。艦娘は軍艦と比べて一体何が違うのか。どこがいいのか。

 答えは、『成長』の2文字に集約されていると電は考える。

 

 物言わぬただの軍艦に成長はない。軍艦の乗組員は経験とともに成長するだろう。軍艦自体も、人間の技術進歩に合わせていくらか修復され、改造され、強化されるだろう。しかし、軍艦そのものは強くならない。軍艦の強さは、軍艦を保有する国の技術力と、乗組員を始めとした軍艦を支える人員の優秀さに比例するのみだ。ゲームで例えるなら、武器や防具は強化できても、強力なものをそろえられても、肝心のプレイヤーのレベルは決して上がらない。それが軍艦だ。

 

 だけど、艦娘は違う。艦娘は人間と同等の心を手にすることができた奇跡の兵器だ。

 その心のせいで軍艦だった頃より弱体化した艦娘もいるだろう。私もきっと、軍艦の頃より弱くなってしまった部類だと思う。しかし、心を持つ者は『成長』できる。肝心のプレイヤーが経験を通して進化できるから、いつまでも弱いままでは終わらない。成長を遂げた者は本当に強い。成長した存在の強さを、電は己が軍艦だった頃の乗組員の姿を通してよく知っている。

 

 そして、電は思う。今の自分は多分、旅に出る前より確実に成長していると。

 成長した私は、強くなった私はどれだけのことができるようになっているだろうか。

 今まではできないとしていた不可能を、どれだけ可能に変えられるようになっているだろうか。

 わからない。わからないけど、ワクワクする。今の電のウソ偽りない心境だった。

 

 

「ねぇ。電の旅の話、聞かせてよ」

「はいなのです」

 

 提督の頼みを電は快諾し、過去を見つめ直しながら言葉を紡いでいく。電の小規模な冒険譚を、たった1つの小話も取りこぼすことなく、赤裸々に語っていく。仲睦まじい様子を見せる二人の姿を、綺麗な満月が優しく照らす夜のことだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 深海棲艦がこの世に存続し続けるために不可欠な【システム】が第壱~第陸鎮守府の連合艦隊の尽力により壊されたことで深海棲艦は消滅し、侵略者:深海棲艦との戦争は終結した。

 

 が、だからといって直ちに大本営や各鎮守府が役割を完遂したとして、解体されるわけではない。大本営も各鎮守府もまだ存続し、活動を続けている。いくら深海棲艦が消滅したといっても、全ての深海棲艦が消え去った瞬間を誰一人としてこの目で目撃したわけではなく、それゆえに客観的な見地から深海棲艦の全滅を証明できないからだ。

 

 しかし、深海棲艦の侵略がパタリと止み、今後一切発生しないとなれば。大本営や各鎮守府がいずれ存在意義を失うのも時間の問題だろう。が、その時は、大本営は表向きは公益法人として、実質は艦娘を陰から支える組織に姿を変えるらしい。各鎮守府も同様に姿を変え、艦娘をサポートしつつ、同時に妖精や黒妖精たちが安心して生きられる居場所として機能するそうだ。

 

 

 そして。艦娘の処遇についてだが、大本営は艦娘の正体を公表せず、秘匿し続ける方針を貫くらしい。どう言い繕おうとも、人間にとって艦娘は異形だ。いくら深海棲艦から人類を守った英雄でも、皆が皆、艦娘を受け入れるとは限らない。今後ずっと真の意味で英雄として扱われるとは限らない。英雄が都合のいい政争や大義のない人間同士の戦争に利用されるかもしれない。英雄が未来では異物として排斥される可能性も否めない。それも人間の否定できない一面なのだ。

 

 ゆえに、大本営が深海棲艦の消滅を認め次第、艦娘は正体を隠し、人間として生きていくことになる。艦娘の存在を知るのは今まで通り、ごく一部の偉い人たちだけとなるのだ。艦娘は各々が希望した国の国籍を贈与され、それぞれの都合のいい戸籍を、経歴を得て、全面的な大本営のバックアップの元、世間に混じって生きていく。名前や年齢だって自分たちで設定していいのだ。それが大本営による、英雄に対して用意した精一杯のお礼。艦娘たちが命を賭して掴み取った、戦争のない安寧とした世界を、一人一人が自由に生きられるように全力でサポートする所存とのことだ。

 

 私たち艦娘は人類を守れればそれでいい。そのために妖精に生み出された以上、わざわざ正体を晒して英雄になりたいわけではなく、処遇に不満を持つ者はいなかった。人間の負の側面のせいで艦娘の存在を公にできないことについても特に不満を抱く者はいないだろう。艦娘は、良い所も悪い所も全部ひっくるめて、人間という存在を受け入れているのだから。だから、人間として思い思いに生きて、また何か深海棲艦のような脅威が登場して迫ってきた時に、すぐさま駆けつける。

 

 

 艦娘はそのぐらいの立場で、ちょうどいいのだろう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ということで、私たち暁型の設定を決めましょう」

「なるほど。第参鎮守府に私と響を集めたのは、その話し合いのためね」

 

 戦争が終わってから、しばらくして。電と雷は、己の寮部屋に暁型駆逐艦一番艦・暁と暁型駆逐艦二番艦・響を招待していた。床の上にカーペットを敷き、その上で正座中の電の提言に、合点がいったと女の子座り中の暁がうなずくと、「はいなのです」と電は返事をする。

 

 

「じゃあ、まずは何から決めるの?」

「私たちの共通の名字を決めたいと思うのです。私たちは姉妹艦ですから、人間として生きる時も姉妹として一緒に生活するのが自然です。そうなると一緒の名字が必要なので、考えましょう」

「そのまま『暁』が名字じゃダメなのかい?」

「ダメよ。それじゃあ私が『暁 暁』になるじゃない。名字と名前の漢字と読み方が一緒って、何だか私の名付け親がバカみたいで違和感が出てくるでしょ?」

「ふむ、それもそうか」

 

 横座り中の雷の問いかけに電は最初の議題を提示する。その後、カーペットにゴロンと寝転がっている響の素朴な疑問に暁が真面目にツッコミを入れる。こうして、暁型四姉妹の微笑ましい会議はつつがなく進行していく。

 

 艦娘が人間として、どのような道を進むことになるのか。それを決めるのは、各々の艦娘自身に他ならない。どうせなら派手な人生に打って出てもいいし、敢えて大本営や各鎮守府に留まったっていい。艦娘たちはどんな人生を歩むこととなるのか。深海棲艦との戦争に勝ち抜くことしか道を用意されていなかった艦娘が役目を終え、好きな生き方を認められた今、どのような未知の世界に向けて足を踏み出していくのか。

 

 急ぐことはない。そんなものはこれからゆっくり決めていけばいい。

 深海棲艦が消滅したものと大本営が判断するのはまだまだ先のことなのだから。

 

 

(やりたいことはいっぱいあるのです。だから、やりたいことは全部欲張りにやっちゃうのです)

 

 電は光に満ちあふれた人間としての生活に思いを馳せつつ、3名の姉とともに様々な設定を次々と詰めていく。どこの国民になろうだとか、年齢はいくつぐらいにしようかとか、大事なことから些細なことまで色々な設定を練っていく。はたして、今後の電の軌跡はどのような彩りを見せるのか。誰も想像しえない未来へと、電は小さくもしっかりとした足取りで進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 おしまい

 

 

 




電→元の艦娘の体を取り戻すついでに戦争を終わらせた暁型駆逐艦四番艦。旅をする前と比べて自分らしく生きることへの自信を持つようになっている。
雷→第参鎮守府所属の暁型駆逐艦三番艦。見た目がかなり似ているとのことから、電とは双子設定でいこうと考えているらしい。
天龍→第参鎮守府所属の天龍型軽巡洋艦一番艦。旗艦らしく、気配り上手なので全然怖くない。
第参鎮守府の提督→攻略王な男性提督。無自覚ながら、電の攻略に余念がない。
菊月→第参鎮守府所属の睦月型駆逐艦九番艦。今回は拒絶せず、電の帰艦を心から迎え入れた。
那珂→第参鎮守府所属の川内型軽巡洋艦三番艦。描写はないが、パーティーではしゃぎまくっていたであろうことが容易に推測できる勢その1。
卯月→第参鎮守府所属の睦月型駆逐艦四番艦。描写はないが、パーティーではしゃぎまくっていたであろうことが容易に推測できる勢その2。
暁→第弐鎮守府所属の暁型駆逐艦一番艦。電と雷の寮部屋での話し合いに参加した。長女らしく自分が会議進行をした方がいいんじゃないかと思っていたが、電がきっちり役目をこなせていたので、電の頑張りを見守ることにしたようだ。
響→再び第伍鎮守府所属となった暁型駆逐艦二番艦。電と雷の寮部屋での話し合いに参加した。時折、気の抜ける発言をして、真面目に会議する暁、雷、電が集中し過ぎないように気を遣う役割を率先して担うことにしていたようだ。

 というわけで、エピローグ3話もとい、最終話は終了です。結局、艦娘の処遇はそんなに悪くない形となりました。ま、艦娘とかいう、高速修復材で大抵の傷をパッと治しちゃうような、人間の上位互換とも言える存在が公になったら間違いなく面倒事になっちゃいますからね。人間の悲しい性なのです。あ、ちなみに。最後の暁型四姉妹の集結は「暁型四姉妹の日常」のリスペクトです。

 はてさて。この作品は終わりを迎えましたが、今回もまたこの作品について最低でも1000文字以上は語りたいことがありますので、あとがきとして次回投稿しようと思います。今回はひとまず、お疲れ様でした。電たちの未来に光あれ。
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