どうも、ふぁもにかです。今回はプロローグ5話にして最終話です。そのせいか、非常に文字数が少ないですが、その辺は気にしないでください。あと、同時にこの作品の設定を投稿しています。登場した艦娘たちの所属鎮守府を確認したい時などに参考にしてくれるとありがたいです。
深海棲艦の体が食事を受けつけてくれない件と睦月型駆逐艦九番艦・菊月が電を拒絶した件により、精神的に参ってしまった暁型駆逐艦四番艦・電。だが、電は取り返しのつかない事態となる前に提督の巧みな言動により救済された。
当の電は港から艦娘寮へと帰還する。その後、電はぐっすり眠った。同室の暁型駆逐艦三番艦・雷の抱き枕の役回りを強制されつつも、眠った。死んだように眠って。雷が起きる前に、朝日が昇るほんの少し前に目覚めて。考えて。心に決めた。
◇◇◇
正午を迎えんとする時刻にて。電は第参鎮守府の港へと足を運んでいた。その小柄な体には、天龍たちと初エンカウントした時のごつい艤装が装備されており、服装も深海棲艦として天龍たちの前に現れた時と同じものを着用している。
「せっかく帰ってきたのに、もう行っちゃうの?」
「ウ、雷オ姉チャン……」
特に演習や遠征といった任務に就いていない艦娘たちが港に集結する中。雷がウルウルと瞳を潤ませながら問いかける。電は姉の雷を悲しませていることに罪悪感を抱きつつも、「モウ決メチャイマシタカラ。思イ立ッタガ吉日ナノデス」と、己の変わらぬ決意を改めて表明する。
熟考の末、電は決意した。そうだ、旅に行こうと。しかしこれは、決して逃げるための旅ではない。深海棲艦の体を持つ電にとってはまだ居心地の良くない第参鎮守府から逃げ出したいがための決定ではない。
深海棲艦の体を抱える今の自分が第参鎮守府に留まることは、第参鎮守府の大切な仲間たちを様々なリスクに晒すことを意味する。皆はそのリスクを迷惑だとは思わないだろう。自分のことを重荷だとは思わないだろう。だけど、昨日の出来事を経て、肝心の電自身がそのことを許容できなくなった。だから電は決断した。元の体を取り戻し、今度は胸を張ってこの第参鎮守府に帰れるようにするための旅の決意を固めたのだ。
理由はそれだけじゃない。電には元の艦娘の体を取り戻すことに関する手掛かりに既に心当たりがあった。それは電が雷を庇って轟沈した時。海に沈み、意識が消える間際に見た、あの奇妙で奇怪で恐ろしい光景。いびつな形をした黒い歯車が幾重にも折り重なり、ガシャンガシャンと重厚な機械音を奏でていた、あの謎の機構。どこにあるかはわからないが、あの場所へ行けば、きっと何かがわかるはずだ。私が深海棲艦化した真相に近づけるはずだ。
(私がこの体になったのには絶対に理由がある。轟沈した私が深海棲艦の体を手に入れた理由、それがわかれば、元の艦娘の体を取り戻せるかもしれない。いや、取り戻せる。取り戻してみせる。艦娘が深海棲艦の体になった以上、深海棲艦が艦娘の体を取り戻すことだってできるはずだから)
「必ズ元ニ戻ッテ、艦娘ノ体ヲ取リ戻シテ、マタココニ帰ッテキマス。ダカラ、ソノ時ハ……昨日ミタイニ『オカエリナサイ』ッテ言ッテクレマスカ?」
「もちろんだ。今度こそ、万全な体制で電を迎え入れよう。誰も拒絶なんてしないから、安心して帰ってきてくれ」
電の不安を紛らわすように胸に手を当てながらの問いかけに、提督は即答する。彼もまた雷と同様に電の旅立ちを止めたい心境だったが、結局は電の意思を尊重することにした。彼の発言に、背後の艦娘たちが一斉にうなずく。皆、気持ちは同じだった。
「気ぃつけろよ、電。今のお前の見た目は完全に深海棲姫だ。他の鎮守府の連中は見つけ次第、こぞって攻撃を仕掛けてくる。話し合いは通じねぇ。くれぐれもうかつに接触すんなよ?」
「天龍サン……」
「ほら、返事」
「ハ、ハイナノデス!」
天龍型軽巡洋艦一番艦・天龍の忠告に電は元気よく返事する。すると、電の出発を見送る第参鎮守府の一団の中から一歩前に艦娘が出てきた。菊月だ。
「……菊月チャン」
昨晩の出来事の影響で、電と菊月を取り巻く空気が気まずいものへと変質する。二人の事情を知らない艦娘たちが唐突な雰囲気の変化に疑問符を浮かべる中、菊月は深呼吸をして、口を開いた。
「電。艦娘の体を取り戻すまで決してここに帰ってはならないなんて規則はない。だから、困った時はいつでも帰ってきてほしい。第参鎮守府を頼ってほしい」
「デ、デモ……」
「心配するな。その時までには、私も電を受け入れられるように精神を鍛えておくから。昨日のような無様な失態は絶対にさらさない、約束する」
菊月は電の手を取ってはっきりと言葉を紡ぐ。その様は、電が接近しただけで怯え、電を拒絶した昨日の菊月とは別人のようだった。菊月もまた、電と同様に考えた。考えて考えて考え抜いた。その結果が今日の菊月なのだろう。
電は「……ソッカ。アリガトウナノデス」とお礼を言った。まだ自分への恐怖は消えていないだろうに、それでも自分をここまで思いやってくれる菊月に電は内心で深く感激した。
「電! 菊月の言う通りよ! 貴女が艦娘の体を取り戻せたとしても、そうでなくとも、私たちには電が生きて戻ってくることが一番重要なの! そのことを絶対に忘れないで! 無茶やって轟沈でもしたら承知しないんだから!」
「ウン、絶対ニ忘レナイノデス」
菊月に便乗する形で雷は涙をポロポロと流しながら、電の両肩に手を置いて思いの丈をぶつける。電は改めて胸にそっと手を当てて、心に刻み込む。自分が帰る場所としての第参鎮守府の景色を。深海棲艦となった自分をそれでも受け入れてくれた艦娘たちの優しい心を。
(……私は、この場所へ帰るんだ。全てを終わらせて、この深海棲艦の体と決着をつけて、いつか必ず帰る。その時こそが、轟沈前と何も変わらない、皆と一緒に過ごす日々の始まりなのです)
「ソレジャア、ソロソロ行クノデス」
電は他の艦娘が特別自分に何か言ってくる素振りのないことを確認し、艦娘たちに背を向ける。そして、ピョンと港からジャンプし、海の水面へと着地する。
「暁型駆逐艦四番艦・電、抜錨シマス!」
己を奮い立たせるため。第参鎮守府の仲間たちから少しでも心配を取り除くため。電は精一杯声を張り上げて宣言すると、遥か広がる大海原へ小さな一歩を踏み出す。かくして。深海棲艦として復活してしまった電による、艦娘の体を取り戻すための旅が始まったのだった。
(――元の体を取り戻すのです!)
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。何だかんだで元の艦娘の体を取り戻す旅に出ることを決意した。電は何気に頑固な所があるため、彼女の決意は揺らがないだろう。
雷→第参鎮守府所属の暁型駆逐艦三番艦。せっかく電がどんな形であれ戻ってきてくれたのに速攻で旅立っていくことを大層悲しく思っている。ある意味で一番可哀そうな艦娘かもしれない。
天龍→第参鎮守府所属の天龍型軽巡洋艦一番艦。粗暴な口調ながら電を真に思いやる心情が透けて見える辺りが「フフ怖(笑)」さんらしいと言えよう。
菊月→第参鎮守府所属の睦月型駆逐艦九番艦。電を傷つけた昨夜から後悔に後悔を重ねた結果、精神的に結構成長した模様。全く、駆逐艦は最高だぜ!
提督→第参鎮守府所属の艦娘たちを率いる立場の若い男性。前回ファインプレーをかましてくれたため、今回は存在感が薄くなってしまった。
提督「電の勇気が世界を救うと信じて……! ご愛読ありがとうございました! ふぁもにか先生の次回作にご期待ください!」
電「司令官サン!?」
というわけで、プロローグ5話は終了です。これにてプロローグは終了です。そして電が第参鎮守府から旅立ったため、今後第参鎮守府の艦娘たちの出番はしばらく期待できません。何てこった。とりあえずプロローグが終焉を迎えましたので、後は電不在の幕間を挟んで次から第1章が始まります。単騎で旅に出るという思い切った決断をした電の行く末やいかに!?