『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』『悪意なき嘘』参加作品
”春だわ~やっぱり、春は良いわ~”
「オ前モ逃ゲルノカ?」
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クロボウと私(クロわた)
:第1話(改)<始まりは”あけまの森”で>
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<<深夜?:森の中>>
あれ?ここは何処?……気がつくと、私は必死に走っていた。
え~っと、深い森の中みたいだけど、辺りは真っ暗だし、私は何で走っているかも良く分からない。ただ、誰かに追われているような雰囲気はする。すごく、怖い。逃げなきゃ……って。
手が痛い……何かにぶつけたのだろうか?いや、背中はもっと痛い。変な痛み方だなあ~。もともと私って運動音痴だし。筋肉痛なんて、ここ最近は無いんだけど~。
変なの。
「痛っ!」
急に、何かにつまづいて転んだ。
やばいっ!大怪我するぞ~って思ったけど……意外にも、私の身体は身軽だった。あれ?変なの~。私って運動音痴で……考える間もなく、何かに取り囲まれるような気配。思わず、地面の上で半回転して周りを見た。
何かに、周りを囲まれた!……やっぱり私、誰かから逃げていたようだったけど、この状況じゃ、もうどうしようもない。絶対的なピンチだ。
「最後にもう一度聞くぞ。いい加減に抵抗は止めて、我々と組め」
暗闇から誰かが太い声で言った。誰だ?こいつ。
名前も何も、そもそも私が何でこんな状況にいるのかも分からないけど、私の心の中に、ものすごい反発心が湧いてきた。何となく、その声の主と私は、もともと意見が対立していて仲が悪かったんだな、ということは分かった。
「嫌だ!」
体のあちこちが痛かったけど、全身全霊の力を込めて答えた……あれ?私の声じゃないぞ。
「残念だな……」
それが、最後に聞いた言葉だった。次の瞬間、私はボコボコに殴られ、蹴られて、何かに吹き飛ばされて……次第に、意識が遠のいた。誰かの”やめて~”って声が聞えたような気がしたけど……ああ、私はもう、このまま死んでしまうんだろうな……そう思った。
<<朝:田舎道>>
春だわ~やっぱり、春は良いわ~。
爽やかな風を浴びながら、私の原付はグイグイ走る。ヘルメットは暑苦しいけど、走っていれば風が当たるし、後ろで結んだ髪の毛が適当に風になびいて、首とかにツンツンと刺激を与えてくれて、くすぐったいけど……それがまた良いんだな。
今、私はお気に入りの紅いリュックを背負って、原付で田舎道を走っている。目指すは伯耆大山、”だ・い・せ・ん”だよ~。これからの季節は、絶対にアウトドア祭りだ!冬場にコタツで丸くなっているのも良いんだけど、やっぱ、外も良いよね~。
そんな私の脇を、さっきから乗用車がビュンビュン追い越していく。ゴメンナサイ~、原付だからスピードが出せないの。はやく幹線道路を逸れて田舎道に入りた~い。広い道はもう車が多くて危ない。私は原付だし、やっぱりのんびり走りたいよね~。
だんだんと畑の向こうから、チラチラと大山(だいせん)が見えてきた。
あそこは良いよね~。適当な高さだで自然が、いっぱい。今日も私は、背中のリュックに、お弁当や水筒、それに適当な画材を背負っているんだ。原付という足さえあれば、一時間も掛からないうちに、大自然の中に溶け込める。私にとっても、最高のアウトドア空間。
私はもう、休みになったら、いっつも来てるんだ、大山。
でも、そんな私は変わり者だと思われている。仕事が終わればサッサと帰るから、付き合いも悪いし。友達もほとんど居ないから、休みなると一人で海や山へ行って、レジャー……ではなくて、ひたすらスケッチをする。うん、ただそれだけ~。
いわゆる”ネクラ”か?良いじゃん、ネクラにも生きる権利はある!
最近、中古の原付を手に入れたから、活動範囲が広がったんだ。そして私はドンドン山道を走る。最高だな~。
<<大山:登山道>>
やがて原付は幹線道路から信号を曲がって、大山への登山道に入る。道幅は相変わらず狭いけど、ゆるやかに傾斜が付き始めて、大山の裾野に入ったことを感じさせる。いつも、ここまで来ると、”さぁ、大山に上るぞっ!”て気になる。うふふ、50ccだけどね~。
ところが原付でもさ、ちょっと前まで私が乗っていた軽自動車よりも大山、登る力は強いんだ。やっぱ軽いから?メカに弱い私でも、そのくらいは想像できる。
最初、会社やめる友達から譲ってもらったときは、原付なんて面倒だと思っていたけど。使ってみれば意外に便利だ。でも古いタイプだから、燃費はあまり良くない。最近のエコカーのほうが、よっぽど良いのには笑ったよな~。
それはさておき原付は、坂道をぐいぐい登る。相変わらず、乗用車やバスには、ガンガン抜かれる。路肩がちょっと広いところで、私はいったん停まって、どんどん抜かせてやる。サッサと先に行ってくれ~。私はのんびり上がりたいんだよ!
山の木々は、徐々に緑が芽生えた頃。桜はとっくに終わって、5月に向けて、徐々に新緑が眩しくなっていく頃だな。
再び走り出した原付はドンドン山を登り、観光農場や牧場、それに乗馬クラブを過ぎ、やがて展望台のある四つ角へ来る。ここから左折すると、幹線道路とはおさらばだ。私は左右を確認して、ゆっくりと左折する。
ここからはアップダウンも激しいけど、交通量は少ない。何より、池があったり、山が切り立ったりしていて変化に富んでいる。走り甲斐のあるところ。私はアクセルを緩めて、わざとダラダラ走り始める。
<<大山:山間の道>>
ここまで来ると、のんびり走れるようになるので、いろいろ考える。やっぱ、昨日見た変な夢は謎だよな~。あれはなんだろうか?一昨日見た、ファンタジー映画がグロすぎたのだろうか?(途中で見るのを止めたけど)
夢もさ、映像も痛みも、妙にリアルだったよな~。場面は暗かったから、良く分からなかったけど……何となく、夏の林間学校で、夜の探検に行ったときのコースと同じような雰囲気を感じた。
そういえば、あの林間学校の場所は、今日行く予定の”あけまの森”周辺に近いはずだった。ちょっと、足を伸ばしてみようか……原付だと、すぐだし。
私はホンの少しだけ、アクセルを吹かした。原付は、ちょっと加速した。
<<大山:山間の道>>
私のスケッチスタイルは、とにかく何も考えずに描くことだ。別にコンテストを狙うでもなく、プロになることも考えていない。ただ、単純にスケッチをすることが楽しいだけ。
だから今日も、大山でスケッチをするという大きな枠組みしか決めていない。あとは、出たとこ勝負、行き当たりばったりだ。ビビッと来た所で、原付を止めて、ひたすら描く。お腹が空いたら、その場で食べたり、ちょっと移動したり。それも、その場の思いつき。綿密な計画なんて立てない。
これは原付が手に入ったから、出来たスタイルだよな~。気楽にフラフラする、そんなスケッチ小旅行には、原付はピッタリだった。特に山陰は、これから良い季節になるんだ(冬もいいけど)
そんなことを考えていると、原付は”あけまの森”へと入って行く。相変わらずここは静かで良いな~って思う。せっかく来たから、どこかで原付を停めて、何枚か描こう。そう思いながら、木立の中を走り抜ける。再び森の中に入ると、まだ春だから空気が冷たい。
「あれ?」
思わず呟いた。そのとき私は茂みの陰に”何か”を見つけたのだ。
<<大山:ヘンな物>>
私は普段、メガネをかけているくらいだから、視力は悪いんだけど、なぜか、”ヘンな物”を見つける能力だけは長けているようだ。
「えっと……」
気になった私は、山道の真ん中で原付を停車して、その場でUターンさせた。
「変なものだったら嫌だなあ~」
メットの中で、独り言を言いながら、さっき通り過ぎた茂みに近づいた。
「……」
息を呑んだ。言葉を失った。人が倒れていたのだ。しかも、怪我をしているようだ。私はその倒れている人の側に原付を寄せると、様子を伺った。
「ひょっとして、死んでいるのかな?」
縁起でもない独り言を呟きながら私は、その人に近づいた。
「あの……大丈夫ですか?」
返事は無い。しかも、毛深いというか……いや、全身毛だらけだし。
何これ?
オマケに背中に羽みたいなのが生えている!……そこで私は気付いた。
”これは悪魔に違いない!”
やばいぞ、ヘンな物を通り越して、やばい物だった。サッサと逃げよう!その”悪魔”に気付かれないうちに、私は逃げようと決意した。だが、不幸は続くものだ。逃げようとする私の背後からそいつが呼んだ。
「タノ……ム」
”ゲッ”
私は全身の毛が逆立つという体験を初めて経験した。
<<大山:ヘンな物の続き>>
「ウウ……」
その毛むくじゃらは、私に何かを言おうとしていたようだが、かなり体調が悪いらしく、すぐにうずくまってしまった。こういう場合は、どうしたら良いのだろう?
私もアウトドアでスケッチするのは好きだけど、サバイバル方面は苦手だから、どっかのゲリラ兵とか特殊部隊みたいな、知識も能力も無い。出来れば逃げ出したいけど、さすがに良心が咎(とが)めるし。
「どこか……痛みますか?」
そう言いながら私は、そもそも日本語が通じるのだろうか?と思った。
「アァ……水……」
その毛むくじゃらは、何とか首を持ち上げてこっちを見ている。目は不気味だし、何だか口ばしみたいな物は付いているし絶対、悪魔だ。でも幸い日本語は通じるようだ。
水か……私は一瞬、躊躇した。でも直ぐに、死に掛けているような人を前にして、そう思った自分を嫌悪した。非常時だから仕方が無い。私は直ぐに背負っていたリュックのポケットから水筒を……やめた!
突然、ドライに戻った私。私が愛用のミニ水筒は使わせたくないから……えっと~リュックの中に、サブの大き目の水筒があるから、それについているコップで飲ませたら良いだろう。リュックを開けると、直ぐに中型水筒を取り出して、そのプラカップにお茶を注ぐと、恐る恐る”悪魔”に近づいて、手渡した。噛まないかな?……顔だけでなく、手まで毛むくじゃらで、その毛はゴリラとかチュウバッカみたいな長い奴じゃなく、むしろ鳥の羽に近い。
あれだ、まるでカラス……ん?
<<ヘンな生物:>>
そこで私は”はた”と気付いた。大山(だいせん)とカラスといえば、あれだよ。カラス天狗?……でも、まさかねえ~。天狗といえば、すばしっこいでしょ?何で怪我をして倒れていたわけ?事情はあると思うけどさ、神通力とかで解決できないのかな?やっぱり天狗じゃなくて、悪魔の使いのほうの”カラス”じゃないのか?
いろいろ思っている私の目の前で、その”カラス”は、ゆっくりとカップのお茶を飲んでいる。だいぶ具合は悪そうだけど、お茶を飲んだら少し回復したようだ。
「かたじけない」
なんだ古風な喋り方だけど一応、普通に会話できるじゃん?ちょっと元気になったようだから、もう私は良いよね?一刻も早くこの場から逃げようと考えていた私は、少しずつ後ずさりした。そのカップは、くれてやる。
「ハァ~」
大きなため息をついて空を見上げている”カラス”私は、少しずつ、距離を取っている。
「オイ!」
突然、ドスの効いた声で呼ばれてビックリした。ヤバイ、私が逃げ腰なのがバレたか?
「オ前モ逃ゲルノカ?」
バレたかぁ?……でも、お前もって?いったい、誰と比較しているのか、さっぱり分からないんですけど。でもそれ以前に、その腹の底から響くような声に圧倒されてしまった。何だろう、変なパワーがあるというか、やっぱりこいつは天狗なのかもしれない。そう思わせるだけの迫力があった。
「い……いえ、別に……」
当然、私は蛇の前のカエルのように縮み上がってしまった。もしこいつが本物の天狗なら、到底逃げ延びることは出来ないだろう。ここは仕方が無い、しばらくはおとなしく様子を見るか?
しかも、そいつはさっきよりも元気そうになり、目の色もハッキリしてきた。生気があるっていうのかしら。やっぱり本物の天狗なら、そのパワーも凄いだろう。あ~あ、もう終わりか?私の人生。
あれこれ考えていると、そいつの表情もかなりハッキリしてきた。そして急に優しいような、人間臭い表情を見せ始めた。
「スマナイ、脅かすツモリハナイ」
徐々に日本語も、慣れてきたようで、不思議な感じ。あれ?あの悪夢って、もしかしたら……?
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※これはオリジナル作品です。
『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』参加作品です
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PS:(クロわた)とは、クロボウと私の略です。