クロボウと私   作:しろっこ

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私が出会ったその変なのは、どうやら天狗のようだった。もう、すべてが何それ?の世界だった。私はその天狗さんを、どう匿(かくま)うか、考えるハメになってしまった。やれやれ~。私は実家にクルマを借りる電話をして、直ぐに向かう。そして大山に戻ってら、一瞬、天狗さんを見失った。焦ったけど、彼は隠れていたのだった。それには事情が……。

『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』『悪意なき嘘』参加作品



第2話(改)<何それ、天狗って?>

「だから、オ・カ・ネ」

「何十年ぶりかのう~、人間と契りを交わすのは……」

 

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クロボウと私(クロわた)

:第2話(改)<何それ、天狗って?>

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<<正体:やっぱ天狗?>>

 

私は聞いてみた。

「あのぉ~」

 

「何じゃ?」

あ、だいぶ元気になったようだ。やっぱり回復力は半端無いみたい。

 

私は単刀直入に聞いてみた。

「あなたはその、カラスのぉ?」

 

「……ああ、カラス天狗じゃ」

その毛むくじゃらは答えた。まあ、落ち着いてよく見たら、山伏みたいな格好をしていた。最初は私も慌てていたから、よく見ていなかった。

 

「やっぱり、お爺さんなんですか?」

これは彼の口調から、そう思ったのだ。だが彼は、この質問には、ちょっとムッとしたようだ。

 

「ジジイか……ワシはこう見えてもまだ、独身じゃがな」

 

「はぁ?」

理解不能。だいたい、自分のこと”ワシ”って、言って居るじゃん?

 

でも、彼はちょっと微笑んだ。

「無理も無かろう、ワシらの世界では、何百年も生きるのは当たり前じゃ。ワシだってな、まだ米子に城がある頃、よく町まで遊びに行ったものじゃ」

 

「はぁ」

やっぱり理解不能。米子に城って……でも、取りあえず、元気そうになったから、もう良いかな?

 

「だいぶお元気になられたようですので、あのぉ~私も行って良いですかぁ?」

ちょっとぎこちないが、私は最大限の笑顔を造って聞いてみた。

”もう良いよ”という、爽やかな返事を期待していたんだけど、意外にも彼は表情を曇らせた。何だか、嫌な予感がする。

 

<<気?:何それ?>>

 

「誠に申し訳無いんじゃがのう、その……」

あれ?彼は珍しく、言い難そうな表情をしている。でも何となく、彼が言わんとすることは分かるぞ。私もつい、逃げ腰になるんだけど……。

 

「実は昨晩、事情があって、かなり怪我をしたのじゃ。主(ヌシ)ら人間には分かり難いことじゃが、単なる傷ではない。”気”つまり精神的なものじゃ」

 

「はぁ」

やっぱり全然、分かりません。でも、私が呆けているのを見た彼も困惑している。

 

「ウム……もっと平たく言うとじゃな、三日ほど安静に出来る場所を探してもらえぬか?という事じゃ」

バカで済みません……でも、それは言い難そうですね。私も聞きたく無かったです。

 

「出来れば、この大山が良いのじゃが、ここは”敵”も居るしな、もうちょっと安全で、敵の目を欺けるような……」

はぁ、要するに、仮住まいを探して欲しいってことね。

 

「お金は?」

私は面倒だからストレートに聞いた。

 

「ナヌ?」

 

「だから、オ・カ・ネ」

 

彼は、困惑した表情になった。

「何を?浅(あさ)ましい」

 

「ち、違うわよ!私が欲しいんじゃなくて!」

私は慌てて否定した。

 

「泊まる所が欲しいなら、適当なホテルとかで良いんでしょ?だったら宿泊費が居るじゃない?」

もう、私が守銭奴(しゅせんど)みたいに思われたじゃない、恥ずかしい!私だって、そこまで浅ましくは無いですよ~って。

 

「逗留(とうりゅう)か……この顔でか?」

 

「あ……」

そうだった。彼はカラス天狗、つまり人間ではないのだ。ハロウィンの時期ならコスプレだって言い張れるかもしれないけど、さすがにこの時期は無理か。私も考え込んでしまった。

 

<<困惑1:宿所探し>>

 

実は、この直ぐ近くには大山青年自然の家という、研修センターがある。

あそこのスタッフと私は顔見知りなんだけど、さすがに”カラス天狗”を匿(かくま)ってもらうってのは、ちょっと無理だろうな。それに、そのセンターは私設ではなく公営だから、融通利かないだろうし。三日か……ちょっと思案して私は聞いた。

「ホテルは無理として……どこでも良いのかな?たとえば私の家でも」

 

「かたじけない」

え?……まだ私は了解したわけじゃないんだけど、何?カラス天狗的には、うちでもオッケーってこと?……そう来られると、もう仕方がない。どうせ私も頼れる友達が、ほとんど居ない。親に泣きつくのも説明が面倒だ。

 

あ~でもウチまで、この天狗さんを運ぶ手段が無い。原付で運ぶわけには行かないよね。おまけに、怪我しているなら、まだ飛べないだろうし。私は念のために聞いてみる。

「あのぉ~、まだ飛べませんよね?」

 

「左様じゃ」

……だよね~やっぱり。ガックリした。やれやれ~、仕方が無い、クルマだけは親に泣きつこう。多分、平日の夕方、1~2時間くらいなら、実家のクルマは空いているだろう。

 

<<困惑2:オスと女子?>>

 

そこまで考えて、ふと心配になった。天狗とはいえ、オスだ。私は女子だけど、いうなればメスだ。あかの他人が一つ屋根の下で、変な事にならないだろうか?これもストレートに聞くべし。

「あのぉ~、うちに泊めても良いんですが……そのぉ~」

 

それ以上聞けない。やっぱり言い難いよぉ~。でも天狗さん、さすが齢を重ねているだけはある。私の困惑を直ぐに悟ったようだ。

「安心せよ娘。天狗と人間が交尾する例は皆無じゃ。あったとしても、ワシには一応、許婚(いいなづけ)が居るわい」

 

「はあ」

交尾?っていう表現は、ストレートだけど……ま、それを聞いて、ちょっとは安心した。私は友達がほとんど居ないから、基本的に訪問してくる人も居ない。三日間くらいなら、何とかなるだろう。

 

あとはクルマの手配か。私はケータイを取り出したが……案の定、ここは圏外だ。とりあえず私は自分の水筒と、弁当をそこに取り出して置いた。ちょっと目を丸くしている天狗さんだけど、私は説明した。

「あのぉ~、取りあえずお茶と弁当置いておきますから。マズイかも知れないけど。あと、クルマの手配してくるから、2時間くらい、ここでジッとして待っててくれますか?」

 

「かたじけない」

取りあえず、またオッケーか。妙に信頼されているかしら、私。

そもそも何でこうなってしまったのか?私も自分で分からないけど。まあ、良いか。人生なんて、きっと成り行きなんだ。

 

私は原付に乗ると、まずは電波の繋がりそうな所を目指して走り出した。

 

<<展望台:母親と通話>>

 

原付に乗ってしばらく走ると、展望台まで戻ってきた。まずは、ここでケータイの電波が繋がるか試してみよう。私は原付で駐車場に入ると、そのままの姿勢でケータイを試す。

 

お!ここはアンテナが立つぞ!え~っと、まずは実家に……お母さんに電話だ。

 

トルルル……というコール音の後に、母親が出た。

「なんだ?」

 

「あ、お母さん?あのさぁ、今日の午後、ちょっとクルマ貸してくれない?」

 

「あ~?ええよ。何に使うだぁ?」

 

「え~っとね……」

私はちょっと考えた。天狗を運ぶなんて、口が裂けても言えない。

 

「買い物……ちょっと、大きいコスプレ用の衣装、買うんだ」

ウソついた。でも、たまにそういうものを買うのは本当だ。

 

「ふーん、……アンタも相変わらずだね~。何時ごろ来るだ?」

 

「えっとね~、午後いち……あ、いや、昼前かな?」

さっきは午後と言ったような気がするが、別に良いか。親子だからこういう変更は融通が利くところが助かる。レンタカーだったらこうはいかない。

 

「母さんもなぁ、夕方には使うけんな~、それまでに返すだで」

 

「うん、分かった。ありがとう」

 

「それだけか?」

 

「うん、じゃ、後でね」

 

「ああ」

 

ここで切れた。ちょっとホッとした。善は急げだ。直ぐに実家へ行こう。私は、駐車場を出ると、すぐに登山道路を下り始めた。

 

<<実家:玄関>>

 

幹線道路から街中に入り、市街地を抜けて、実家へ向かう。到着した実家の玄関前で、私は原付を停めた。

 

私は玄関の呼び鈴を押す。すぐに母親が出てきた。

「何だ、早いな」

 

「うん、直ぐに運びたいから」

これはウソではない。

 

「ご飯食べて行かんか?」

 

「あ、今日はいいや」

本当は食べたい。でも、仕方が無い。

 

「ふーん、珍しいな」

 

言い訳を考える私。

「う~んっと、その衣装てさ、予約できないみたいで……」

 

「へえ」

母親は直ぐに、鍵を貸してくれた。私は原付を玄関脇に置くと、すぐにクルマに乗った。

 

「終わったら直ぐ返すから」

 

「ああ」

エンジンをスタート、クルマは車庫から滑り出す。あのカラス天狗さん、大丈夫かな?ケータイでも持って居れば楽なのに……あ、電波が通じないか。私は取りあえず急いだ。

 

<<大山:あけまの森>>

 

当たり前だけど、クルマだと大山も早い。30分も掛からずに、現地へ付いた。

「あれ?」

 

居ない!カラス天狗さんが、消えた……。

 

私は車から降りて、もう一度、あたりを確認する。場所は間違いないはずだ。しかも、水筒や弁当も無い。何かあったのか?あの水筒、ブランド物だから高いんだぞ……って、それは置いといて。

 

ふと、視線のようなものを感じた。振り返ると、木の上に、妙なカタマリが……まさか?あのカラス天狗さんが言っていた、”敵”なのだろうか?そういえばそいつも、何となく天狗のように見えなくも無い。ただ、ちょっと逆光のせいか、姿は良く分からない。

 

私が見えていることに気付いたのか、そいつは直ぐに飛び立って行った……間違いない。あれも”天狗”だ。人に羽が生えたような感じだった。私はふっと、鳥肌が立った。私は、とんでもない事に首を突っ込んでしまったのではないだろうか?

 

ああ、私に誰か親友でも居れば、あるいは恋人でも居れば!こういうピンチには、すぐに相談できるのに……さすがに親には、まだちょっと相談しにくい。いや、むしろ親は巻き込みたくは無い。私は急に、何かに取り囲まれるような、緊張感に包まれた。足がガクガク震えた。

 

<<あけまの森:茂み>>

 

「おい、娘」

私は心臓が口から飛び出るくらいビックリした!でも直ぐに、声の主があのカラス天狗さんだと分かって、ホッとした。緊張していた分、よけいに脱力した。声がした方向を見ると、カラス天狗さんは茂みの中に隠れていた……何か、事情があるんだなって思った。

 

「スマンな、ちと隠れておったのじゃ」

彼は申し訳無さそうに言った。何だか隠れていた彼を見たら急に親近感が湧いた。

 

言うべきかどうか一瞬迷ったが、私はさっき見た天狗らしき存在のことを伝えた。

「あの、さっき……」

 

「ああ、分かっておる。あやつに狙われておるのじゃ」

 

「はあ……」

やっぱり、そういう事情なんだなって思った。でもどうしよう?ケンカというか、闘争というか、そういう複雑な事情に巻き込まれようとしているのだな?って思ったら急にしり込みしたくなってきた。

 

でもカラス天狗さんは、やっぱり敏感なのだろう。私が何も言わなくても、そういう私の感情の動きを察知したようで、そのことも含めて話し始めた。

「誠に申し訳ない……お主を巻き込むのはココロ苦しい……分かってのとおり、我々の間で、ちと対立が起きて居るのじゃ。お主は人間の娘……こんなことに巻き込まれる必要はまったくない」

 

まだ警戒しているのか、彼は茂みの中で伏せたまま話していた。その姿は、最初よりはかなり回復してはいるが、やはり痛々しかった。いくらお互いに、住んでいる世界が違うとはいえ、困っている人(天狗)を放置してもいいのだろうか?ああ、良心が痛い。

 

しばらく用心深く周りの気配を探っていたような彼だったが、ちょっと危険が去ったのか、やがてゆっくりと茂みから這いずり出して座りなおしている。そのまま懐に手を入れると、あ、私の水筒とお弁当箱を取り出した。

「なかなか美味かったぞ。久しぶりに人間の食べ物を食ったが、手作りじゃな?そこそこ回復出来て良かった。感謝する」

 

そこそこ……まぁ、良いか。

 

<<ココロの茂みを抜けて>>

 

彼は私が近寄ると弁当箱と水筒を差し出した。間近で見ると彼は最初よりかなり精悍な雰囲気をかもし出している。何だろう?天狗というだけだって、やっぱり気品って言うのかな?何か気高いものを感じ、思わず拝みたくなるような威厳が漂っている。これが彼の言う”気”っていうやつなのかしら?

 

そんな彼を見ていたら、やっぱり私の良心がうずく。つい言ってしまった。

「やっぱり、お守りします!狭いですけど、私の家で……2~3日なら、何とかなると思いますから!」

 

私も驚いたが、彼はもっと驚いていた。だが直ぐに彼は、真剣な表情に戻った。

「良いのか?その身を危険にさらす可能性だってあるのじゃぞ」

 

「……」

正直、護身術とか、そういうのはまったく自信が無い。でも、一人の人間として困っている人を見捨てるのは、もっといけないことだと思うのだ。

 

彼はそれ以上追及せずに、急に優しい表情になって言った。

「フフ、お主のその気持ちだけで十分じゃが……やはり、宿所は有れば有難い。ワシも最大限、おぬしに危害が加わらぬよう尽力するが……良いか?」

 

私は黙ってうなづいた。彼は笑った。

「何十年ぶりかのう~、人間と契りを交わすのは……」

 

契り?ケッコンとは違うよね?私はちょっと焦った。彼はまた笑って言った。

「安堵せい、主らの考えるケッコンという意味ではない。約束という意味じゃ」

 

「ああ……」

早とちりしていた私は笑った。彼も笑った。そのとき、森に差し込む陽の光が、ちょっと変わったような感覚に包まれた。何か、異形の者と心が通った、不思議な瞬間だった。

 

「そういえば、お名前を聞いてませんでしたが」

 

「ああ、ワシはクロボウと呼ばれておる」

 

「クロボウさん……」

 

「お主は何と呼べば良いのじゃ?」

 

「えっと……カオルです」

 

「カオル……か」

彼は一瞬目を閉じて、私の名を反復していた。やがて再び目を開けた彼は言った。

 

「カオル……我々はアレに乗るのじゃな?」

 

「はい」

私は彼に肩を貸して、二人で車に乗り込んだ。そして、そのまま登山道を下り始めた。

 




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※これはオリジナル作品です。
『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』参加作品です 
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PS:(クロわた)とは、クロボウと私の略です。
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