クロボウと私   作:しろっこ

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カラス天狗さんを乗せて私たちの車は走り始めた。その車中で私は自分の妄想を指摘されて焦った。天狗さんと私はアパートの近くまでやってきた。彼は車から降りたが私は他人に付かれないか心配だった。でもアパート前でカラス天狗さんの意外な特技を見て私は驚くのだった。

『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』『悪意なき嘘』参加作品



第3話(改)<助けた天狗と嘘>

「人間なんて、妄想が固まって出来上がったような……」

 

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クロボウと私(クロわた)

:第3話(改)<助けた天狗と嘘>

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<<大山登山道路:下り線>>

 

私も普段は原付には乗るけど、実は車のほうはペーパードライバーだ。そんな私が謎のカラス天狗を後部座席に乗せて大山を降りているというのは、自分でも信じられない状況だ。オマケに彼は「キツイ」とか言って、シートベルをしてくれなかった。彼の衣装は、ただでさえ着物に袴に、いろんなグッズみたいなのがブラブラしているからベルトなんか締められないのは分かるんだけどさ。もし今、どこかでケーサツの検問に引っかかったら……ああ、そうか。シートベルト以前に、彼の説明の方が面倒だ。やっぱり、コスプレ大会で誤魔化すか。

 

えも逆に今、どこかでコスプレ大会やっていればラッキーだったのに。カラス天狗なんて、ちょっとマニアックだけど、水木しげるとか高橋留美子系の漫画とかアニメが好きな人なら、ピンと来るはずだ。あ、そうだ。水木しげるロードに繰り出したら、面白いぞ……そのとき後ろから声をかけられた。

「おい」

 

「はっ、ハイ!」

心臓が飛び出るかと思った。

 

「お主、何か良からぬ事を企(たくら)んで居るじゃろう?」

 

「は、はい……」

相手は天狗だからな。こっちの妄想くらい既にお見通しか。

 

「いや、責めて居るのではない」

おや?それは意外です。

 

「人間なんて、妄想が固まって出来上がったようなものじゃからな」

 

「……」

なぜか、彼の言葉は重かった。

 

<<車内:妄想のカタマリ>>

 

バックミラーで見ると、彼は腕を組んで目を閉じていた。

「お主は若い。若者にとっては夢も希望も、妄想も同じようなものじゃ。しかしな、人間も齢(よわい)を重ねると次第に狡猾になってくるのじゃ。それはキツネやタヌキの比ではない」

 

「はぁ」

 

「むしろな、人間が言う”キツネ”や”タヌキ”という連中はな、他でもない、お主ら人間自身の悪行の罪を、動物に擦り付けて居るだけじゃ。人間が、わが身を守ろうとする、いわば”悪意に満ちた嘘”じゃな」

 

「それは、何となく分かります」

私は、それを受けて話し始めた。

 

「私、会社で事務やっているんですけど、社内でも取引先でも、皆、ミスとか問題があっても、必死に誤魔化そうとするんですよね。そういうの見ていると、嫌になることもありますけど、それでうまく誤魔化せたら、その方がスムーズに行くことも多くって……」

あれ?私って、何を彼に話しているんだろうか?これじゃ、まるで人生相談みたいだ。

 

ちょっと焦りながら、もう一度バックミラーを見た。彼は、相変わらず目をつぶって腕を組んでいる。でも、私の言ったことは、ちゃんと聞いていたようだ。

「そうじゃな……お主も、それなりに人間の群れの中で、苦労しておるのじゃな」

 

「え……まあ……」

苦労と言うほどではないけど。でも、考えてみたら私も、そういうのが嫌だから、休みの日は大山とか自然の中に来るんだな、きっと。このカラス天狗だって、いわば大自然そのものなのだろう。そう思うと私は、知らず知らずのうちに彼には、お世話になっていたのかも知れない。

 

こういう形で、私も自然に”恩返し”をする時期なのかもしれない。そんなことを考えていた。

 

<<車内:家の場所>>

 

カラス天狗さんが聞いてくる。

「お主の家は何処じゃ?」

 

「えっと、市内です、米子の」

 

「そうか……スマンな、世話になって」

 

「いえ……私も大山には、お世話になってますから……」

それを聞いたカラス天狗さんは笑い出した。

 

「ふはは、なるほど、そういう考え方も出来るわけか」

天狗が笑うところを、初めて見た。

 

「2~3日、逗留するが、迷惑はかけぬ。家の近くには、自然はあるか?」

 

「えっと……」

私は家の周りの風景を思い出した。

 

「山とか池があります……ちょっと田舎って言うか、山間部みたいな」

 

「それは良いのう~、自然が一番じゃ」

私には不便なんだけど、天狗的には、やっぱりそっちの方が良いらしい。

 

<<車内:家の辺り>>

 

クルマは私の家の近くまで来た。米子市内なんだけど、ちょっとした山が連なり幹線道路やバイパス、それに大きな川も流れている。カラス天狗さんは、何かを嗅ぐような格好をしている。私が怪訝そうな顔をしているのをみて彼は言う。

「これはな、”気”の流れを調べて居るのじゃ。ここは、なかなか良いぞ」

 

そうなんだ。やっぱり、人間に不便なところは、天狗には”良い”らしい。

 

ちょっとした坂を上がっていくと、私のアパートの前に着いた。

「ここです」

 

「ホウ」

カラス天狗さんは、興味深そうに見ている。

 

「家族は居らぬのか?」

 

「居ますけど、私とは別居していて、市内の中心部に住んでいます」

 

「ホウ……」

私たちは車を降りた。カラス天狗さんは、両手を大きく広げて、何かを受けているような感じだ。

 

「なるほど、ここは……大山が良く見えるのが良いようじゃな」

そうなんだ。いろいろ、あるんですね。

 

しかしアパートの前でカラス天狗が手を広げている光景を誰かに見られやしないかと、冷や冷やする。

「あのお~」

 

「何じゃ?」

 

「そろそろ、中に入りませんか?」

 

「お主、ワシの姿が他人に見つかることを危惧しておるのじゃな?」

 

「ええ……まあ」

 

「案ずるな。お主、以外には、ワシの姿は見えぬ」

 

「ええ?そうなんですか」

 

「ああ……」

それを聞いて、安心すると同時に、何か不思議なことが目の前で本当に起きているのだと、思わずにはいられなかった。

 

でも、カラス天狗が家に居るなんて、誰にも言えないよな~。私は内心、苦笑した。でもこれも、人助け……いや、天狗助けだ。

 

<<アパート前:鍵>>

 

私はカラス天狗さんに話しかけた。

「あの~」

 

「なんじゃ?」

彼は振り返った。

 

「私、実家に車を返してきて良いでしょうか?」

私は車を見ながら言った。

 

「ああ、そうじゃな」

彼は普通の表情をして言った。

 

「えっと……1時間もかかりませんけど、その間どうしますか?ウチに入りますか?」

 

彼は、ちょっと不思議そうな顔をそた。

「なぜまた、そんなことを聞くのじゃ?他人には見えぬぞ」

 

「いや、そのぉ~鍵が開いてませんし……もしお疲れになったら、いつまでも外に居るのはちょっと……」

 

「ああ、それか。案ずるな、鍵を一度貸してくれぬか?」

 

「はい?」

私は、何をするんだろうと思って、鍵を差し出した。彼は、それをちょっと見て、何かを考えるような表情をした。

 

「もう良いぞ」

彼は鍵を返してくれた。そのとき、ふっと彼の手と私の手が触れた。やっぱりカラスというか、鳥の羽だな。

 

でも鍵を受け取った私は彼は今、一体何をやったのだろうか?と思った。私の疑問を感じたのだろう。彼は玄関のほうへ近寄った。

「おぬしの部屋は何処じゃ?」

 

「えっと、109です」

それを聞いた彼は、部屋の前に立つと、ドアのノブに手をかざした。まさか?

すぐにガチャッと言う音がして、ドアが開いた。

 

「すご~い!」

私は単純に、感動した。でも彼は言った。

 

「まあ、しかし一時間くらいなら、まだ部屋に入ることもないじゃろうがな」

 

「そうですか?」

 

「ああ、もうちょっと、この辺りの”気”を受けて置きたいのじゃ」

よく分からないけど、そういうことなら、心配することもないか。

 

「じゃ私、実家に行ってきます」

 

「ああ、ワシのことは案ずるな。ゆっくりして来て良いぞ」

 

「はい……」

私は軽く頭を下げると、車に乗り込んで実家へと向かった。

 

<<実家:嘘>>

 

実家で車を返した私は、すぐに原付で引き返した。母親は、ご飯食べないか?と言ってくれたが、私は、買ったものを直ぐ確認したいから、いいやと言って出発した。

 

また、嘘をついてしまった。ごめん、お母さん……悪意はないから。

 

そういえば私、母親に嘘をつくって初めてかもしれない。何だろうか……この感じ。何か、悪いことをして、それを隠すためなら、罪悪感も感じるんだけど。今回は、そういうわけではないし。しかも人……いや、天狗助けだ。

 

でも……そうは言っても、やっぱり嘘は良くない。カラス天狗さんのこと、母親には言うべきかな?

う~ん、でもぉ、いきなり”カラス天狗をかくまっているんだ”なんて言っても、信じられるわけないだろうし。

 

何だかモヤモヤするな……。取り敢えず、私は自宅アパートへ向かった。

 




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※これはオリジナル作品です。
『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』参加作品です 
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PS:(クロわた)とは、クロボウと私の略です。
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