『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』『悪意なき嘘』参加作品
「優しい御方じゃな」
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クロボウと私(クロわた)
:第5話<母と涙>(常新2版)
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<<アパート:必死で掃除を>>
夕方になった。結局、日曜日の午後は、部屋の掃除で終わってしまった。
私は、もともと友達も少ないし、普段は親も家に来ないから結構、部屋の中は散らかり放題だったけど。カラス天狗さんがここに泊まるかも知れないかと思うと、必死で掃除をした。
私の住んでいる家は単身者向けの、今風のアパートだ。こんな不便な住宅地にあるにもかかわらず、家賃は比較的高い。もっとも冷蔵庫やTVに電子レンジ、さらには洗濯機に布団までレンタルで付いている。私みたいな一人暮らしの人間には、とても便利だけどね。
そういえば最初は自転車もレンタルしていたけど、原付を手に入れてからは返してしまった。
でも、このアパートに住んでいると、なぜか自分が工業製品か、あるいはペットのような気分になるのはナゼだろうか?
外から見ると、2回建ての細長い建物で、同じような窓に玄関が並んでいる。私は、その中の1階の角に住んでいる。角部屋だからか、他の部屋が空いているか良く分からないけど、他の住民と顔を合わせたことは、ほとんど無い。
車は持っていないけど、持っていたとしても入居時に既に駐車場は満杯だったから車を置くことはできなかったと思う。
さて、日も落ちてきて時計を見るともう夕方の5時だ。さて、私も夕食の準備をしないといけない。あのカラス天狗さんの分も作ったほうが良いよねえ。私のお弁当も食べていたし……。そこで私は、今日の昼食を抜いたことを思い出した。
でも不思議と、お腹は空かなかった。バタバタやっていたからだろうか?
<<アパート:母と涙>>
そんなことを考えていたら、ドアをノックする音。あれ?こんな時間に誰だろう?そう思ってドアを開けると、母親だった。
「あれ?お母さん、どうしたの?」
「お前、お昼食べなかったがぁ?(食べなかったでしょう)何だか気になってなぁ~。夕食のおかず、多めに作ったけん、持ってきたわ」
そういって母親は、買い物袋に入った容器を見せた。私は感動して涙が出てきた。
「あ、ありがとう……」
「やだね、何泣いちょ~だ?(泣いているんだ?)」
「う、うん……」
「何か困ったことがあったら、言うだじぇ」
「うん、分かった……」
微笑んだ母親は、私に買い物袋を渡すと、そのまま車に乗って戻って行った。でもゴメンナサイ、お母さん。やっぱり天狗さんのことは言えない。
私が玄関から出て、走り去る母親の車を見送っていると、カラス天狗さんが静かに舞い降りてきた。
彼は言った。
「あれが主の母上殿か」
「うん……」
「優しい御方じゃな」
「うん……」
そうだ、こんなことでもなければ、母親の有り難さは分からなかったかもしれない。
私はカラス天狗さんに分からないように、ソッと自分の涙を拭うのだった。
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※これはオリジナル作品です。
『《第2回》ハーメルン小説コンテスト』参加作品です
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PS:(クロわた)とは、クロボウと私の略です。