*艦の知識は主にうぃきだのみですので、ここは違うだろとか、そういった部分があると思います。ご容赦ください。
*結構、鬱です。
*独自設定、解釈が多いです。
*作者の妄想全開です。自己満足作品です。
潮の香りが満ちている。
眼前に広がるまるで宝石のように美しく煌く穏やかな海原は、水平線の向こうまで果てしなく広がっている。
「……」
そんな穏やかな海面下で、長髪を左右で二つに結わえた一人の少女が漂っていた。
白い胴着に赤い袴を模したスカートという独特な出で立ちをしているが、その一種の弓道着を模したかのような衣服は、まるで爆風にさらされたかのごとくボロボロになっており、もはや衣服の役割を果たしていないというのが現状であろう。
いったい何日間、自分は海を漂っているのだろう――瑞鶴はぼんやりとした頭で考える。
マリアナ沖で繰り広げられた深海棲艦の一大掃討作戦。
正規空母である瑞鶴は、姉である翔鶴と共に第一部隊に編制されていた。
沈めてなるものか――戦いにおいて瑞鶴は獅子奮迅の働きをみせた。艦載機によるアウトレンジ攻撃で制空権を支配し、戦いの主導権を敵側に渡さなかった。
それでもマリアナ沖で行われた此度の戦闘は過去にも記録にない大規模の掃討作戦であり、如何に優秀な
そんな中、翔鶴へ向けた敵の潜水艦による魚雷攻撃。
不意を突いた攻撃であり、翔鶴は当然のことながら反応に遅れた。
しかし、常に翔鶴の安全を視野に戦闘を進めていた瑞鶴はいち早く、迫りくる危険に反応し――それでも後わずかに、気が付くのが遅かった。
――翔鶴姉っ、危ないっ!
身を挺して翔鶴の代わりに魚雷を受けることで精いっぱいだった。
(翔鶴姉、無事かな……無事だといいけど……)
結果として瑞鶴は今に至る。
爆発に飲み込まれ、味方の艦隊とははぐれてしまった。
大破を通り越して轟沈寸前。もはや艤装はその機能を停止させ、艦載機を放つ弓も折れた今となっては救援の艦載機を放つことも不可能だった。
艦娘は人と比べ、頑強な身体を持つ――とはいえ、それでも限界がある。
徐々に徐々に海水によって身体は冷えていき、瑞鶴から思考能力を奪っていく。
ゆっくりと……ゆっくりと、死神の鎌が瑞鶴を水面の底へ引きずり込もうとしている。
(ごめんね、提督……。私、あなたに気苦労ばっかりかけたわよね……)
思い返されるは鎮守府でのかけがえのない日々。
自分をずっと支えてくれ、あの一航戦と歩み寄るきっかけを作ってくれた、翔鶴同じくらいに大切な人――提督。
自分と翔鶴を引き合わせようと日々、奔走していたことを瑞鶴は知っている。
彼の元で共に戦う日々は本当に、楽しかった。もともとの性分なのか、なかなか素直になることが出来ず、時には爆撃機で追い回してしまったこともあったが、それでも胸のうちで感謝をすることを忘れたことはなかった。
失われゆく日々。もう二度と帰ってこない、温もりに満ち溢れた大切な日々。
それでも――
(……後悔はないんだ)
無論、死に対する恐怖はある。それでも瑞鶴には後悔はなかった。
なぜなら愛する姉を守れた。
かつては守られることしかできなかった翔鶴姉を、今度は自分の手で守ることができたのだから。――妹としてこれ以上の幸福はない。
(瑞鶴は……今度こそは……翔鶴姉の……幸運の女神様になれたか……な……)
考えることができなくなってくる。
眠い。
もうどうしようもなく、眠いのだ。
(へへ……最後にもう一度……)
その時、とぷん、と瑞鶴の身体が完全に水面下へと沈みこんだ。
もはや、自力で水面下に顔を出す気力も残されていない。
水中でうっすらと目を開いた瑞鶴はゆっくりと、その手を光射し込む海面に向けて伸ばす。
――みんなの笑顔を、見たかったな……。
その口元からこぼれた微かな気泡が、ゴポッと音を立ててゆっくりと浮かび上がり――。
瑞鶴は意識を手放した。
***
――翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴です。
どうぞよろしくお願いいたします。
これが自分の鎮守府に初めてやって来た正規空母、瑞鶴の初めての言葉だった。
かつてマリアナ沖海戦で、1番艦である翔鶴が沈むまで一度たりとも被弾したことがなかったこと、航空戦の時代において機動部隊が壊滅する最後のその日まで最前線で戦い続けたことから、提督たちの間では『幸運の空母』とも呼ばれていた。
瑞鶴の自己紹介を受けて、そのことを思い出した提督が『幸運の空母』の話をすると瑞鶴は困ったかのように「幸運の空母ですって?」と苦笑いを浮かべた後、真剣な眼差しで提督を見据えながら言った。
――そうじゃないの、一生懸命やってるだけ……よ。――艦載機があれば負けないわ!
今にして思えば、この時のこの言葉に、幸運の空母と呼ばれる彼女の憂いと葛藤がありありと込められていたような気がしてならない。
自分だけが生き延びる。
ただ他の艦より少し運が良かっただけで。――否、瑞鶴が生き延びれたのは運だけではない。
ずっと姉である翔鶴が自分を守ってくれていた。自分がもたもたしている間に翔鶴はいち早くレーダーで敵の姿を察知し、出撃していた。翔鶴の被害が甚大であったのも、それだけ翔鶴が戦いに身を投じ、戦果を上げた証なのだ。
翔鶴はいつも瑞鶴の先を走っていたのだ――。
――だから……今度は私が翔鶴姉を守りたい。
かつては守られることしかできなかった翔鶴姉を今度は私が……。――ま、この鎮守府にはまだ翔鶴姉はいないようだけどね。
そう言うと瑞鶴は茶目っ気たっぷりの笑顔を提督に向けた。
それから鎮守府の一員となった瑞鶴との日々が始まった。
鎮守府初の正規空母として、瑞鶴の活躍は目覚ましいものがあり、彼女の艦載機のおかげで今までは攻略することができなかった海域を攻略することもできた。
――やったー! 見たか、これが
戦場で一番の戦果をあげた艦娘に贈られるMVPに選ばれた時、瑞鶴は本当に嬉しそうな笑顔で無邪気に笑ってガッツポーズをした。
しかしその弾けるような笑顔の裏で、彼女がどれだけ過酷に訓練に励んでいるのか、提督は知っている。
姉を守りたいという強い意志の元、いつこの鎮守府に翔鶴が配属されても大丈夫なように雨の日も風の日も雪の日も……来る日も来る日も訓練を欠かさなかった。訓練に熱中するあまり、疲労で訓練場から動けなくなった彼女に冷たい麦茶を持っていくのはいつも提督の役割だった。
麦茶を飲み、ほっと一息ついたところで彼女を入渠させ、一日の汗を流したところで共に食堂で夕食を摂る。
もぎゅもぎゅと美味しそうに白米を頬張る瑞鶴にそそられて、お椀一杯分、ご飯を食べる量が増えたのはここだけの話だ。
そして提督の鎮守府がそれなりの規模にまで大きくなって来た頃、三人目(二人目には赤城という正規空母を迎え入れていた)の正規空母である加賀がやって来たと時は内心冷や汗が止まらなかった。
なぜなら加賀は一航戦。一航戦と五航戦の中の悪さは元より提督も聞いていたので、この二人が揃った時はどうなるか、不安だった。
――五航戦の子なんかと一緒にしないでくれるかしら?
――ほぉ? 随分はっきりと言ってくれるじゃない。
案の定、これである。
バチバチと火花を散らしあう二人を見て、提督はこの先やっていけるのかどうか不安になった。加賀と同じ一航戦である赤城が仲裁に入ってくれなかったらどうなっていたことか……。
それでも提督には少し納得がいかないところがあった。
日頃の瑞鶴の努力を知っているからこそ、まだ鎮守府に着任して間もない艦娘が、よく知りもせず瑞鶴を卑下するのは見過ごせないところがあった。
しかし考えてみれば提督もまた加賀や瑞鶴たち艦娘のことをよく知らなかった。
深海棲艦が現れ、提督として鎮守府に配属されたはいいが、過去の大戦に活躍していた艦のことなど、名前や艦種くらいの一般常識程度の知識しかなかった。
だから提督は時間を見つけては鎮守府の書物庫を漁り、かつて艦娘が『艦』であった頃のことを調べた。なぜ一航戦が五航戦を卑下するのか……彼女たちの過去を知れば、解決案が思い浮かぶかもしれないと考えたからだ。
そして知った。当初、一航戦の搭乗員たちが練度の低い五航戦の搭乗員を見下していたことがあったということを。
無理もないだろう。当初の一航戦には中支以来、数々の戦闘を切り抜けてきた歴戦の猛者が搭乗しており、その練度は世界屈指のものであったのだから。
五航戦の搭乗員も決して劣っているわけではなかったが……就役からわずか二か月あまりで真珠湾攻撃に参加した五航戦ではあまりに経験値の差がありすぎた。
もしその忠実が加賀が五航戦を卑下していることに繋がっているのだとしたら。
考えた提督はまさに一触即発の瑞鶴と加賀を呼び出し、二人に模擬戦闘を行わせた。互いに互いを認められないのなら、一度力の限り互いにぶつかってみればいい。不器用な提督ではこうすることが精一杯だった。
だが提督には確信があった。昔ならともかく、今の瑞鶴であるならば絶対に加賀に自分を認めさせる実力があることを。
毎日毎日、滝のように汗を流して鍛錬に明け暮れるその姿を、提督はずっと見てきたのだから。
――お前の頑張りは私が一番よく知っている。お前が守りたい者の為に日々戦っているその頑張りを加賀にぶつけてやれ。そうすれば絶対にその思いは届くはずだ。
――提督……。
瑞鶴は呆けたように提督を見つめていたが、やがてコクン、と頷いた。
――うん、わかった。
鎮守府中の艦娘が見守る中、瑞鶴と加賀の模擬演習は行われた。
飛び交う艦載機。
きらめく水面を走る二人の少女の姿。
瑞鶴は奮闘していた。
あの栄光の一航戦相手に一歩も引かない、互角の戦いを展開していた。
それでも現実は――あくまで現実にしかならない。
――グ……っくぅ……。
数十分にも及ぶ戦いの結果、水面に伏していたのは瑞鶴の方だった。
食い縛られた口からは悲痛な嗚咽が漏れ出て、その拳は敗北の悔しさにプルプルと震えている。
そんな瑞鶴を加賀は普段と何ら変わらぬポーカーフェイスで見下ろしていた――が、やがて何も言うことなく身を翻し、その場を後にする。
――五航戦もなかなかやるじゃない。
誰の耳にも聞こえることのない呟きを流れゆく潮風に乗せて。
――瑞鶴っ!
陸に上がってきた瑞鶴の元へ駆け寄ると、瑞鶴は苦笑いを浮かべて言った。
――負けちゃった、提督……。
――……。
そんな瑞鶴にかけられる言葉を提督は持っていなかった。
全力でぶつかりあえば分かり合えると、そんな考えを元に今回の戦いの場を用意した提督であったが、それでもその考えはあくまで提督の持論でしかないのだ。
彼女たちもまた提督と同じような考えに至ってくれるのか、今更ながらに不安になった。
今までは夢中で行動していたために気が付かなかったが、もしこれを機に加賀と瑞鶴の仲がさらに険悪なものとなったら。
何よりも瑞鶴が今までに積み重ねてきた自信が全て呆気なく瓦解してしまったら――。
――やっぱ、一航戦の先輩は凄いなぁ……。
――えっ。
だから次に告げられた穏やかな瑞鶴の言葉を聞いたとき、提督は我が耳を疑った。
――今、なんて……?
――へ? ――だ、だから一航戦の先輩は凄いなって。
認めるのは悔しいんだけどさ、と若干、恥ずかしさに頬を赤く染めながらも瑞鶴は言う。
――正直に言うとさ、普段はあんなふうに突っぱねてるけど、万が一、一航戦の先輩と戦うことになったら勝てないだろうなって思ってたんだ。実際、艦載機の数は負けてるし、経験の差もどうしても否めないし。
だから驚いた。一航戦の先輩相手に私でもこんなに戦えるんだって。
結果は負けちゃったけど……負けたのはめっ~~ちゃくちゃ悔しいけど、私も確実に強くなってるんだって。
――そしてそんな私に勝っちゃう一航戦の先輩はやっぱり凄いんだなって。
――多分これも提督が今回、こうして戦いの機会を設けてくれなければ気付けなかったことなんだろうし……。
水平線の向こうに夕陽が沈む光景を背景に瑞鶴ははにかむように頷き、そして言った。
――ありがとね、提督。
その微笑みに見惚れていたとは到底言えない。
ただ軍帽を目深く被り、熱くなった顔を抑えることが精一杯だった。
――いや、私は何も……。
――あれ? 提督、なに俯いちゃってるの?
――な、なんでもない。とにかく、腹が減っただろう? 食堂にいくことにしよう。
――あ――、ちょっと待ってよぉ!
その一件以降、ちょくちょく瑞鶴が加賀と共にいることを見かけるようになった。相変わらず張り合っているところは変わらないが、以前と違って、言葉の端々にあったとげとげしさが無くなっているような気がした。
瑞鶴が加賀に意見を求め、加賀がそれに答える――その光景は小生意気な弟子を持った師匠のような微笑ましい関係があった。
そして瑞鶴と加賀の和解から間もなくして、ついに念願の正規空母、翔鶴の建造。
――翔鶴姉……翔鶴ねぇ……!
――遅くなってごめんね、瑞鶴。
人の形を得た姉妹艦の感動の再会がそこにあった。
数十年の時を経て、再び共に戦える喜びを共に噛み締めていた。
翔鶴という愛する姉と再会した瑞鶴はまさに水を得た魚のようだった。
シスコンぶりに拍車がかかったのは苦笑いものだが、幾重もの戦いにおいて多大な戦果をあげ、その活躍を認められて大本営から表彰されたこともあった。
この提督の鎮守府において瑞鶴あり、とそう称されるまでに至った。
しかしそれ以上に提督は、艦娘としての瑞鶴ではなく一人の女性として瑞鶴を愛していた。
太陽のような無邪気な笑み。
鎮守府ではいつも場の空気を和ませるムードメーカーだった。
初めて出会ったその時から、提督は瑞鶴のことを――愛していた。
「……」
手の中にある小さなリングケースの中に収まった一つの白い指輪。
あらたに開発されたケッコンカッコカリという、艦娘の能力を向上させるシステム。
あくまでカッコカリではある。人と艦娘が本当に結婚できるはずもないことは重々理解している。
それでもこの指輪をあげる初めての相手は瑞鶴にしようと、心に決めていた。
それなのになんで。
「なんで沈んでしまったんだ、瑞鶴……」
いくら悔やんだところでもう遅い。
瑞鶴はもう、暗い海の底に沈んでしまったのだ。
***
――翔鶴姉……翔鶴ねぇ……!
第二次大戦から数十年もの時を経て、再会した妹は、自分の姿を見るなり、その瞳から大粒の涙をあふれさせ、自分の腕の中に飛び込んできた。
腕の中で泣きじゃくる妹の姿を見て、翔鶴は姉としてこの子を守ってあげなければならない、と強い決意を固めていた。
しかし数十年ぶりに再会した妹は、そんな翔鶴の決意が揺らいでしまうくらい……それほどまでに圧倒的に強くなっていた。
――翔鶴姉は私が守るから!
無邪気な笑顔でそう言われて、嬉しく思うと同時に寂しさを覚えてしまったのはなぜだろうか。
かつては自分が守っていた、導いていた妹。
愛する妹にそんなことを言われ、姉として嬉しくないはずもなかったが……姉として、妹に守られるのはただ単純に翔鶴の姉としてプライドが許さなかった。
それでもわかってしまえたから。
今の瑞鶴は、自分よりも強いということが、初めて共に任務に赴いた時に一目で簡単に理解できてしまえたから。
姉離れとはまた違うが……少しだけ寂しかったのだ。
翔鶴は妹を守れるだけの強さを身につけたかった。妹に負けじと訓練に明け暮れ、少しでも妹との間にできてしまった『差』を埋めようと躍起になった。
――危ない、翔鶴姉!
思い返されるは敵の潜水艦の魚雷から自分を庇い、爆風に飲み込まれていった妹の姿。
マリアナ沖で繰り広げられた深海棲艦との一大決戦は、提督の的確な指示もあり、見事人類側が勝利を収めた。
が、作戦行動中、行方不明になった艦娘が一人だけいた。
翔鶴型二番艦正規空母、瑞鶴。――そう、魚雷から翔鶴を庇ったその後、瑞鶴はそのまま行方を消してしまったのだ。
艦娘の中でも屈指の実力を誇っていた瑞鶴の捜索は日本中の鎮守府を巻き込んでの大規模なものとなった。それほどまでに瑞鶴は日本に、そして世界にとって重大な存在だったのだ。
しかしそんな人類の懸命の捜索も虚しく、瑞鶴は見つからなかった。
それから間もなくして死亡認定がなされた。いくら重要な艦だとしても、生死が定かではない人物の捜索に人員を割けるほど人類に余裕はなかったのだ。
誰もが瑞鶴の死に涙し、別れを惜しむ中、翔鶴は絶望の淵で項垂れていた。
(私のせい……私のせいで……)
自分さえいなければ、瑞鶴は無事に戦いを切り抜け、いつものようにMVPとして表彰されていたのだろう。
その周りでは笑顔が咲き乱れ、誰もが戦いの勝利を分かち合い、喜び合ったのだろう。
瑞鶴はそれほどまでに皆に慕われていた。あの一航戦――加賀とも親睦を深めていることを知った時は驚きを通り越して関心してしまったほどだ。
皆の笑顔を摘んだのはこの私。
私はいつまでたっても……不幸艦でしかあれない。
かつての歴史において、翔鶴は不運艦、瑞鶴は幸運艦と言われていたことがあったことを思い出す。
まさしくそうだと思う。
瑞鶴は皆を幸せにし、自分は皆を不幸にする。――これほどまでに適格に自分たちの存在を現した表現はないだろう。
かつては気にならなかったその言葉。自分は傷ついても、瑞鶴が無事にいてくれるならそれでよかったから、いくら不運艦と呼ばれようが、全然気にも止めなかった。
しかし、今はその言葉が重く翔鶴の肩にのしかかる。
「私は守りたかった……ただ、守りたかっただけなの……」
いつまでも瑞鶴に頼られる、そして守ってあげられる、そんな恰好のいい姉でありたかった。
それなのに現実はどうだ?
守られるばかりか、挙句の果てにはそのかけがえのない命を、自分の不注意のせいで犠牲にさせてしまった。
悔やんでも悔やみきれない後悔。
もうこの世から消えていなくなりたいと何度、願ったことだろうか。
それでも自分は死ねない。
絶対に死んではいけない。
(だってこの命は瑞鶴が守ってくれた命だから……)
瑞鶴が命を賭して守ってくれたこの命を、絶対に自分の手で終わらせていい訳がない。
それでも妹の命を犠牲にのうのうと自分が生きているという事実が許せない自分がいるというのもまた事実であり。
そんな矛盾状態の中、翔鶴は自らの救いを求め――戦いに身を投じた。
過酷な戦いに身を投じることで自分自身の心を殺し、瑞鶴を失った人類の穴をただただ埋めることのみに自分の命の全てを捧げる。
皮肉なことだが妹の死が、翔鶴の中に眠りし力を覚醒させたのだ。
『白氷の鶴』。
その冷たい氷のような冷酷かつ無感情な眼差しと、その眼差しに見合わぬあまりに華麗かつまるで白鶴が大空を舞うが如く戦場を蹂躙するその姿から、翔鶴はそう呼ばれている。
決して救われることのない、己への救いを求めて――。
***
深い海の底で、彼女は目覚めた。鉄の残骸が大地を造り上げる、冷たい水底で。
遥か先の水面から差し込む一筋の儚い光。
彼女はその光に向かって海底の残骸を蹴り、今にも消えてしまいそうなほどの淡い光を目指してグングンと突き進む。
バシャアッ!!
やがて海面に到達した彼女は水飛沫をあげて海上に立ち上がる。
広大なる海洋の中心にて、彼女を、満天に晴れ渡る漆黒の月夜が出迎えた。
そして海面に移った自らのその姿を見て、彼女は絶望の悲鳴をあげる。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!!!!!」
一人の堕ちた鶴が、誕生した。
艦これを始めた時、好奇心で資材オール999で建造してみて初めて出迎えたのが瑞鶴でした。
彼女には今もお世話になってます。轟沈? させるわけねーだろ、バーロォ!!
最後までお読みくださり、ありがとうございました。