夜は 全く違う顔を見せる
"普通"な私が 夜の町へ遊びにゆきます
夜は不思議な世界。日が当たっていた世界とはまた違う顔をしているの。影が濃くなった風景。
夜と言っても日付が変わる前。真っ暗過ぎると何も見えないから。そう、10時くらいがいい。人が居なくなって、無機物だけになる時間。
また私は今日も家を抜け出す。昼間は温かく感じた建物がどこか冷たく感じる。感情の無い、すっからかんの脱け殻。
私のことなんか見ていないだろうけど、建物を潜り抜ける。
庭の木。普段見慣れているものなのに、夜だとちょっと怖い。ただ枝を伸ばしているだけなのに、手を伸ばしている怪物に見える。
私を捕まえようって?これから探検を始めるんだから邪魔をしないでよね。
自動販売機。光を失っているけど、役目を果たそうと頑張っている。無駄なのにね。
ボタンは売り切れの表示を出していないけど、多分中身は空っぽ。あっても誰にも求められない。
取り出し口を覗くと、1本の缶ジュースが転がっていた。でも、いらない。君は誰にも求められないから。もちろん私にも。
近所の畑。明るいものなんて最初から無かったけど、ここは夜でも落ち着く。夜でもどこか温かい。
野菜の仲間も埋まってくれていればもっとリラックス出来たけど、今は何も無い。もう定員オーバー。
小学校。夜だから誰も居ない。良い子はもう皆お家に帰ってる時間だからね。こんな時間に出歩いている私は悪い子?
ううん。もう私は子供じゃないもの。皆よりお姉さんだからね。ちょっとくらい夜更かししても怒られない。
コンビニエンスストア。年中無休で24時間営業。そんなに働いて疲れないのかな。店員さんは交代するけど、建物は交換出来ない。
お客さんが来ない間はしっかりと休憩していてね。
ラーメン屋。昔はよく家族で来たけれど、最近はさっぱり。もっと賑やかだった記憶だったけど、今はどことなく淋しい感じがする。
少しばかりお腹が空いてきた。探索に集中しなきゃ。
マンホール。そこかしこに置いてあって、皆に踏まれ続けてきた。それでも負けない。強い子。
こんな時くらい誰にも踏まれずゆっくりと休んでね。
駅。線路は続くよどこまでも――。電車に乗ってどこまででもいきたいなあ。券売機で切符を買って、夜行列車で進むんだ。
ううん。今は歩いて夜の町散歩だから、またいつか。
踏切。遮断機が降りて私を通せんぼ。とりわけ急いでいる訳でもないのに、何故か焦ってしまう。
マイペースマイペース。私が焦ったところで通れる訳じゃないからね。でも来ないから渡ってしまおう。内緒内緒。
大通り。散策再開して少し歩いてみた。今じゃここはただの広いだけで何も無い。
免許は持ってないから運転は出来ないけれど、こんなに広いならちょっとやってみたかった気もする。
スーパーマーケット。足りない物があったら大抵ここで手に入る。無駄に広い駐車場。夜は車が停まってないから余計に。
太陽が顔を出しているうちは店先にも沢山商品を並べているだろうけど、今は皆うちのなかに帰ってしまっている。
買い物が目的じゃないから、いいもん。
宝くじ屋。ガラス越しに店員さんがくじをくれる。今はシャッターが閉まってるけれど。紙っぺら一枚が何億もの価値になるかもしれない。
宝くじは夢を買う、なんて言うけど、夢が買えたらどんなに楽か。紙っぺらで紙っぺらが貰えるってのもなんだか可笑しい。
パチンコ屋。最初はネオンが目について仕方がなかったけど、今はもう大丈夫。チカチカはもう気にならない。
元々何ヵ所か電球が切れて光っていない所があったけど、誰も直してくれなかったね。必要とされてなかったのかも。
回転寿司。最近来てないから知らないけど、回転してないんだって?頼むと特急電車が運んで来てくれるって。
その方が新鮮なんだとか。私は回っているお寿司を見に来ているのに。
車屋。乗れないけど見ている分には面白い。沢山の色。沢山の形。飽きないなあ。
でも、夜に来たって皆おんなじ。一つの真っ黒いガラクタ。まあ日が射していてもガラクタか。
肉屋。色んなお肉が売ってる。牛肉、豚肉、鶏肉――色んなお肉。そこら中にいっぱいあるのにね。
私?私はいいや。お肉って気分じゃないからね。
信号機。三つの窓から代わる代わる顔を覗かせる。私は歩きだから二つだけだけど。ここには無いけど矢印もある。
赤でも渡っちゃう。悪い子?だって車来てないし。
電車の車庫。まだ時間が時間だったからお家には2つの電車しか居ない。もっと遅い時間だったら皆揃って眠れたのにね。
残念残念。私も電車に乗りたかったなー。
ちょっと疲れたから石の上に座って休憩。石は前から冷たく感じる。温かさもなく、意識もない。前からそうだったっけ?
よく見るとただの石じゃなくて墓石だったみたい。周りも墓石だらけ。お墓だったのね。そっかー、前は温かかったのか。
神社。神様が奉ってある神聖な場所。でも夜はまた違う顔。明かりの無い境内は今にも何か出てきそう。人間じゃない何か。
そりゃそうか。元々、神様が居るんだから人間じゃないもの。そもそも、神様が居るのかさえも怪しいし。
工事現場。元々は空き地で、今はアパートを作っていた。大きなお家が出来るんだろうけど、現段階じゃ巨大なガラクタにしか見えない。
ここにも新しい人が住むのかな。どうでもいいけど。
池。ひょうたんみたいな形してるからひょうたん池って言われてたっけ。ひょうたん?私は見たことないけど。
あと河童が居るだとか。川でもないのに。そもそもここには誰も住んでいないんじゃないかな。
竹やぶ。ここが日本じゃなかったらトラやパンダが住んでそう。カサカサと笹が啼く。風かな?何か出てきてくれた方が嬉しいけど。
やっぱいいや。この散策は私一人でいい。一人じゃなきゃダメなんだよ。
公園。砂場にシーソー、ジャングルジム――。小さいころはお姉ちゃんと一緒に遊びに来たっけ。遠かったけど不思議と疲れなかったなあ。
冬にはかまくら作ったりもしたね。今は砂山しか作れないけど。
中学校。……特に何も無い。パス。次に行こう。
駄菓子屋。よくここで買い物してたなあ。500円あれば大金持ちだった。皆と店先のベンチで喋ってたっけ。
夜はもう閉まっていて、ベンチも片づけられてしまっている。夜はやっぱりさみしいね。
本屋。大量の本に囲まれて息苦しい、埃っぽい。私は好きじゃなかった。でも本は好き。どんな世界にも連れて行ってくれるもの。
前を通るたびに本の山が崩れて襲ってきそうで怖かった。
街灯。チカチカと点滅している。今にも事切れそう。暗い世界を照らしてくれるとっても良い存在。でも最近はちょっと出しゃばり。
あまりに多すぎて、真っ暗な世界じゃなくなっている。私は明るいのも暗いのもどっちも好き。だからどっちでもいい。
あ、消えちゃった。また一つ暗い世界から明かりが消えちゃった。
腕時計。歩いていたら落ちていた。闇の中でも文字盤は鈍く光っている。腕に巻く部分は茶色の革。今何時くらいだろうか。
時計を覗き込んでみる。あーあ、駄目だ。壊れちゃってる。私が出掛けたのは10時くらい。時計の針が指しているのも10時。秒針も止まってる。
そうだよね。落ちていたんだもの。きっと壊れているに違いない。落ちているものは壊れているもの。
山。おっとっと。危ない危ない。暗くて足元がよく見えないから気を付けないと。沢山物が落ちてるからね。崩れたりもするから慎重に。
地面から出てきちゃってるからね。足を取られないように。
高校。大きな建物。小学校の比じゃない。グラウンドも広くて。建物も一つじゃない。俗に言う部室棟ってやつなのかな?
運動は大好きだからね。私も"普通"だったら通えていたのかなあ。今は皆が"普通"じゃないから駄目か。
病院。やっと着いた。本日の目的地。本当はもう来たくなかったけど。まあ、仕方ない。自動じゃないドアを開けて中に入る。
この独特な薬の臭いが大嫌い。お医者さんとかはよく平気な顔をしていられるね。あ、マスクをしているからか。私もして来ればよかったかな。
廊下。点々と緑色の非常口の光が見える。院内の蛍光灯は落とされているからそれぐらいでしか判断出来ない。よく病院には幽霊が出るって聞く。
実際どうなんだろう。お化け、出てくるのかな。出てきてもいいよ。私、怖いのは苦手だけど幽霊は大丈夫。大丈夫ったら大丈夫。
談話室。沢山の背もたれのない椅子がずらーっと並んでいる。よくおじいちゃんやおばあちゃんが話していたり、備え付けのテレビを見ている。
椅子の上に新聞が置いてあった。……つまらない内容ばっかり。どのページも同じことしか書かれていないから。隕石隕石ってしつこい。
病室。私が2、3年居た病室。私が"普通"じゃなくなってしまってからずっと。"普通"ってなあに?周りと違うから?ベットに横たわる。埃っぽい。
屋根のない天上を見ても砂ばかり。
月も星も、無い。
私だけの世界。
誰にも何も言われない世界。
誰も居ないからね。
誰も居ないから私が"普通"。
道端で寝ている皆は……なんだろね。
お腹空いたなぁ。もうすぐ私も動けなくなってしまう。そうしたら皆の所にいくのかなぁ。
……また"普通"じゃなくなっちゃう。
だから私は"普通"でいられる世界で"普通"じゃなくなるまで満喫する。誰とも比較されないこの世界で――。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりです。
碓氷 修夜です。
今回の作品は短編も短編なお話でした。小説に分類されるのかも怪しいですが……。さて、今回この『狂奏』を執筆するにあたっていくつかのテーマがありました。
1つめは、狂とは?です。日常生活でも、「この人はおかしい」と思うことがあるかもしれません。しかし、私たちは一体何を基準に"おかしい"と決めつけているのでしょうか?ある一定の基準を決めるために周りとの比較がされるのです。この登場人物の「私」もとりわけおかしなことは作中でしていません。それなのに"普通"ではないのです。更に一定の基準を決める"周り"が存在しないのなら、「私」こそが基準なのかもしれません。自分でも書いていてよく分からなくなってきました。
2つめは、文章のみの表現力です。小説は漫画やアニメと違って、私たちに訴えてくるものが文字のみなのです。アニメは視覚と聴覚に訴えてきます。漫画は視覚のみですが、どんな状況下なのかは一目瞭然です。小説は読んでいかないとどんな場面なのかも分かりません。だから私はその情報の伝達のしづらさを生かした作品が書きたいと思った次第なのです。お時間があれば一度読み終えた後にもう一度、世界観を理解した上で読んでいただくと面白いかもしれません。一回目での変な言い回しはそういうことだったのか!ってなるかもしれません。初めから察しがついてしまっていたら、それは私のスキル不足なので精進致します……。
3つめは、会話文無しです。元々、私の作品の短編には登場人物が少ないという特徴があるのですが、「」を使わなかった作品を書いたことがなかったな、というただの思い付きです。テーマでもなんでもないですね。
これらのテーマを元に書き上げた作品がこちらなのです。試したいことが沢山あって読みづらい作品になってしまったことは大変申し訳なく思っております。
また、アイデアだけはあるので違う短編や連載中の『月影テールライト』や『勇者と魔娘の3年間』も随時投稿致しますので、見掛けてお時間があれば見てやってください。
改めまして、ここまでお読みいただきありがとうございました。