Three Dragons read to the moon 作:鏡夜$
『昔、どこかの人間が言った。「万物は流転する」と。世界を創る雄大なその流れは、何者も止めてはならない。変えてはならない。しかし、私たちはこの世界の掟に背く方法を編み出してしまった。すべての流れを自由な方向に変えてしまうことができるのだ。術は成功した。だが、これはやはり許されるもではない。よってここに、その術の術式を霊王の名の下に封印す。何人たりともこの封、破るべからず。』―――――――――――――――
第1章
ここは、藍染が、日番谷冬獅郎と戦った、立ち入り禁止地区のさらに奥。『新中央霊術書籍管理室』である。普段ならば常時立ち入りが禁じられているが今は、四十六室は惨殺され、全隊長格も、現世や虚園である。そんな空っぽになったこの場所に、長髪の男が一人、本を手にしていた。
「これは…この術があれば生き返らせることができる……封術 縛道の百『時空回帰』」
床一面を赤黒い魔方陣が覆う。黒崎一護の卍解を髣髴とさせる構えで、斬魄刀をつきだすと、男は煙のように消えてしまった。
気がつくと男は、先ほどとはまるで異なる、のどかな田園に一人、立っていた。落ちている紙切れを拾うとそれは、80年前の瀞霊挺通信だった。
「おい、また虚がでたらしいぞ。」
「十三番隊の副隊長も犠牲になったって噂だぞ。」
「マジかよ!?巨大虚なんて、やめてくれよぉ…」
周りの者の声が聞こえる。瀞霊挺通信の日付から行くと、今日の午後にあの事件は起きるらしい。
「絶対に止めねば。」
男は呟いた。
そのころ、大前田家では、頭首の大前田稀ノ進が、巨大虚を7体同時に撃破し、山本総隊長に褒賞をうけたので、一家総出で宴会の最中だった。大量の料理や酒が並び、皆、大騒ぎだった。
「えらく浮かれているな、希ノ進。」
そこに先ほどの男は現れた。そして、周囲の者が事実を把握しかけた刹那、男は持っていた刀で、大前田一家を惨殺した―――当時まだ幼かった、稀代を残して。
「お前…渚…?」
希代は男の妹に酷似していた…男はとどめをさすことが出来ず、希代を脇に抱えると、その場から消えた。
「ここならば、お前は生きていけないだろう。」
仕方なく、流魂街78、『犬吊』に放置した。ここならば、誰かが殺してくれると思ったからだ。
第2章
それから時は流れ、尸魂界に旅禍襲来の一報が入る。後に死神代行として活躍する黒崎一護だが、このときはただの旅禍である。
「おや?珍しいですね、旅禍なんて。」
飄々として、それでいて穏やかな気品を漂わせた男は静かに本を閉じた。男の名は夕月影人。二番隊第二席でありながら、決して奢らず、下級隊士にも敬語で接する彼は、上下の隊士からとても信頼されていた。
「はぁ…ここにいたのか、夕月。」
疲れた様子で砕蜂が入ってくる。
「あ、隊長。どうしました?」
「どうしたもこうしたもあるか……はぁ…旅禍だ。」
「知っていますよ。しかし、すでに十一番隊が戦闘を開始したようです。私たちは別件を…」
「朽木ルキアの処刑だろ?」
砕蜂が言葉をさえぎって続ける。
「あれぇ?いいの、隊長サン。旅禍には夜一さんもいるんだよぉ~?」
砕蜂の後ろからおちょくるのは、影屋敷龍三郎――まだ子供だが、戦闘力では、副隊長に引けを取らない天才である。
「ひゃっ!龍三郎、貴様というやつは…それに、私たちは任務を遂行するのみだ。」
「まぁた、嘘言っちゃってぇ…僕見てたよぉ?夜一さんが来たって知って、一瞬喜んだの。でも、任務だからって、自分に理由押し付けて恨んでるってことにして…本当は会いたいんでしょ?」
「そ、そんなわけあるか!!」
この二人が出会うといつもこうである。影屋敷龍三郎、本当に恐ろしいのは、戦闘力以上に、人の深層心理を見抜く観察眼である。その点においては、二番隊はおろか、尸魂界広しと言えど、この男に匹敵するものはいないであろう。
「素直になりなよ~」
「本当のことだ!!」
影人は、子供のように言い合う二人を見ながら、また本の続きを読み始める。
「ふふっ…変わらないですね。」
「隊長隊長隊長!!旅禍です!」
かなり遅れてやってきたのは、大前田稀代である。家族を何者かに殺され、その犯人を倒すために死神になったらしいのだが、すこしドジな一面があり、いつも砕蜂にしかられている。
「…知っているぞ、稀代。」
「え?」
「てゆうかぁ、おそくない?」
「ええ!?」
「うぅ…今回は一番乗りだと思ったのにぃ、またビリですか…」
よほど、自信があったのか、ビリだと知って、稀代は涙目になっている。
「大丈夫ですよ。あ、御菓子でも出しますか?」
面倒だと悟ったのか、早々に話を切り替える影人。その横で、また龍三郎と砕蜂は喧嘩を始める。こんなやり取りを繰り返していると、何者かが、隊主室の戸を叩いた。
「二番隊隊長、砕蜂様!朽木ルキア処刑の日程が決定いたしました事を、お伝えします。再び早まりまして、三日後の正午になります!」
「わかった。」
「では!」
「おやおや、また早まったのですか…」
驚いた顔をする影人。龍三郎は、何かを感じたのか、目を細めて、1つ欠伸をした。この男が考え事をする際の所作である。
「どうした、龍三郎?」
砕蜂がそれに気づき、声をかける。
「べつにぃ?ちょっと、イケナイことを考えてる人が居そうだからさ。」
「イケナイ事?」
砕蜂は、先日の藍染と市丸ギンのやり取りを思い浮かべたが、まだ確証がないので、可能性の1つとしてとどめておいた。
「例えば…尸魂界の征服とかですか?」
稀代が唐突に口を開いた。その場に居たものは、皆少し驚いたが、深呼吸をひとつして、応答した。
「かもねぇ~」
「そうか?そこまでの力を持った奴がいるのか?」
「力なんて、いくらでも隠せますからね。」
影人はそういって微笑んだ。
「お前みたいにな、影人。」
「買いかぶりすぎですよ。私にそんな力はありません。」
実際、影人の戦闘力は、未知数だった。普段の任務での戦いは、他の副隊長と遜色ないが、霊圧はあの一番隊隊長をも凌ぐ勢いで、しかしながらそれを、砕蜂たちの前以外では隠してしまっていたのだ。砕蜂がそういった事情に興味のない性格だった故、周りは知らないが、この三人は認知していた。
「最近なんかは、龍三郎さんの方が強いんじゃないですか?」
「あ、あの、私は??」
「稀代…残念ながらそれはないな。」
稀代の問いかけに、哀れみと同情を持って、砕蜂は答えた。
「ええ!?」
「まぁまぁ…稀代ちゃんも、最近頑張ってるよ?」
すかさず、龍三郎がフォローに入るが、稀代の目には涙が浮かんでいる。
「うぅ…たいちょぉ酷いですよぉ……」
こんなやり取りがあってから数日後 ―――――――