プロローグ ガレットの決断
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地球上には存在しない、異なる世界・フロニャルド。平和なこの世界に住む人々には特徴的な外見がある。それが獣の耳や尻尾を持つということであった。そしてこの世界でのもうひとつの大きな特徴として、頻繁に国同士の「戦」が行われていた。
そのフロニャルドの国の1つ、ビスコッティ共和国。かつてビスコッティは隣国、ガレット獅子団領国の侵攻に敗戦を重ねていた。
だがビスコッティは最後の切り札として地球人のシンク・イズミを勇者召喚する。勇者として呼び出されたシンクは戦に参加して勝利をもたらし、さらに古に封印されていた魔物を討伐するというフロニャルドの危機ともいえる事態も救い、地球へと帰還した。
それからしばらくの時が流れた。
ビスコッティとガレットは、その戦の後は互いに良好な関係を築いていた。
だが、ここに来てガレット国内でこれまでと異なる機運が高まりつつあった。
輝歴2911年紅玉の月、地球の暦でいう7月。ガレット獅子団領ヴァンネット城。
会議室の空気は緊張で張り詰めていた。そこにいる者の目は1人の女性に向けられている。
ガレット領主、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ、愛称はレオ。若くしてガレットを治める姫である。が、本人は「レオ姫」と呼ばれることを嫌っていた。
「これまでは五分と五分の成績じゃった。じゃが、あの勇者が再び召喚されての大敗。レオンミシェリ閣下、もしこのようなことが続くようであれば閣下の評判にも悪い影響が出かねませんぞ」
円状の長机の向かい側から聞こえる老人の声に、レオは腕を組み机を見つめたままの瞼を一瞬動かした。
「現に今日の大敗を受けてこれまでの領民達の機運はますます高まっています。そこで何も手を打たない、とあればそれこそ閣下の評判に関わります。そうでなくても最近は野盗も増えてきたという噂も耳にします。このままでは……」
老人たちの中でも比較的若い男が、最後の方を口ごもりながらそう述べた。が、レオは何も言わず、ネコのようなその耳を立てて話を聞くだけで、沈黙を守るままである。
「まあまあ元老院の皆さん、そう事を急がなくとも……」
「バナード将軍! もうそんな呑気なことを言ってられる状況ではありませんぞ!」
腕は確かで頭も切れる、ガレットの騎士団長を務めているバナード・サブラージュ将軍だったが、この状況での発言は逆効果だったらしい。
「この領民の機運は無視できるものではありません。閣下、どうか我らが以前から述べている提案をお受けくだされ……」
やはりレオは一言も発さずに腕を組んだまま考え込んでいるようであった。
「レオ様……」
レオの側近で近衛隊長のビオレ・アマレットも心配そうに主を見つめる。
「閣下、ご決断を!」
その元老院の老人からの言葉に決心したようにレオは組んでいた腕を解いた。
「わかった……」
重々しくそう呟く。
「ガレット獅子団領主、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワの名に於いて、我々ガレット獅子団領国も『勇者』を召喚する……!」
――これは、2人の勇者と、耳と尻尾と勇気と希望の物語。
紅玉=ルビー。7月の誕生石。
原作DOG DAYS'のカレンダーの文字を解読するとルビーと書かれているらしい。