DOG DAYS DUAL-BRAVER   作:天木武

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Episode 10 勇者と召喚主

 

 

『な、な、なんと! ここでまたしても驚くべき情報です! 先ほどの勇者同士の一騎打ちの熱気も冷めやらぬシトロン砦ですが、ガウル殿下が内部戦を攻略し、制圧したという情報が入ってまいりました! 一騎打ちでついた点差がこれで大幅に縮まり、ビスコッティのリードが大きく詰められるという状況に変わりました!』

 

 救護隊のセルクルが引く車に揺られながら、ソウヤはその放送を聞いていた。

 

「さすがガウ様だな。シンクという助っ人分を差し引いても、きっちり落としたか……」

 

 ソウヤは口元を緩めた。

 今ソウヤはシトロン砦からガレット本陣へと戻る道にいる。シンクとの戦いのダメージはそれほどでもなかったが、輝力の使いすぎのために救護班の世話になることとなった。そしてその際、レオからの命令で本陣で休ませたいという旨を受け、救護隊と共に引き返している途中だった。

 

 しばらくしてソウヤを乗せた車がガレット本陣へと着いた。

 救護隊が担架を出そうとするが、それをソウヤが手で止めて車から飛び降りる。少し足元がふらつくが、特に問題がない様子でレオ専用のテントの前へと進んだ。

 見張りの兵に事情を話し、兵が中のレオに確認を取る。レオの「入れ」という言葉を聞いた兵士は入り口の道を譲り、ソウヤはその入り口をくぐる。中にいたのは椅子に腰掛けたレオとその傍らに立つビオレの2人だけだった。

 

「ソウヤ・ハヤマ、戻りました」

「……まさか自力でここまで来たのか?」

「いえ、そこまでは救護隊に送ってもらいましたよ。さすがに輝力の使いすぎで足元が多少ふらつきますからね」

「やはりそうじゃろう。だから呼び戻したんじゃ。……貴様はそんな状況でも戦うとか言い出しかねんからな」

「さすが閣下、わかっていらっしゃる」

 

 ソウヤの減らず口にフンと不機嫌そうにレオは一つ鼻を鳴らした。

 

「そこのベッドを使え。横になったほうが楽だろう」

「いいんですか?」

「構わん」

「では失礼します」

 

 言葉に甘えてソウヤはベッドに横になり、大きく息を吐く。シンクとの一騎打ちの前から感じていたが、やはり疲労の色が濃い。

 と、ビオレが扇子のようなものを手に扇ぎ始めてくれた。

 

「すみません」

 

 その言葉にビオレはにっこりと微笑を返した。

 

「……お前とシンクの戦い、いい勝負だったな」

 

 レオが椅子から立ち上がり、ソウヤへと近づく。

 

「いい勝負かどうかの判断は見ていた第三者に任せます。ただ俺はあの戦いで負けた、というのだけは事実です。……その点については謝らなければなりません、俺のせいでポイントに水を空けられたわけですから」

 

 フン、と再び鼻を鳴らし、レオはソウヤが寝るベッドの渕に腰掛ける。

 

「相変わらず気取ったセリフを吐きおって……。貴様自身、シンクとの一騎打ちは楽しくはなかったのか?」

 

 一瞬ソウヤは考えた様子を見せたが、

 

「……楽しかったですよ。あいつにこの世界の戦はこんなにも楽しいってことを教えてもらいましたから」

 

 はっきりとそう言い切った。

 その言葉にレオは内心安堵する。映像を通して見ていたときに感じた感覚は、やはり間違っていなかったらしい。

 

「ならそういうことじゃ。お前自身がそう思えたならそれでいい。結果など二の次じゃ。相手が万全の状態で神剣まで使っていたのに対し、お前は攻砦戦で疲労困憊、使っていたのも普通の武器、これでは勝てるものも勝てんしな」

「負けたことに対しての言い訳はしませんよ。もしなんとかなら、ってのは仮定の話ですし」

「まったく可愛げのない奴じゃ。……ともかく、負けたせいで点差が云々も気にするな。ガウルがシトロン砦を落とした、お前の負け分は差し引きゼロじゃ。今はゆっくり休め」

「そうしたいところですが戦はまだ終わってないんでしょう? ならゆっくりはできませんね。さっさと輝力を回復させて戦線に戻りたいところですが……」

「……やはりそう言うか」

 

 レオがため息をこぼす。

 

「仕方ない、お前はこのまま休ませるつもりじゃったが……」

 

 チラリとレオがビオレに視線を送る。するとビオレが扇ぐのを止めた。そしてそのまま外へと出て行く。と、レオが右手をソウヤへとかざした。手の甲の紋章が輝き始める。

 

「……何をするんです?」

「ワシの輝力を分けてやる」

「輝力を分ける? そんなことが出来るんですか?」

「……まあな」

「そうですか……」

 

 そう言うとソウヤは噛み殺すように笑った。

 

「何がおかしい?」

「いえ……俺が普段読む小説じゃその手の方法は粘膜同士の接触、とかが多かったもので。ビオレさんも出て行ったし、てっきり空気を呼んだのかと、勝手にそう思っただけです」

「フン、そうか……って粘膜同士じゃと!? そ、それってまさか……せ、せ、接吻……」

 

 レオの顔が見る見るうちに赤くなる。

 

「……レオ様、意外とウブなんですね。からかいがいがある」

「や、やかましい!」

 

 そんなレオの様子に、声を出してソウヤは笑った。

 

「……ちゃんと笑えるではないか」

 

 一瞬の間を置き、その様子を見てまだ顔が少し赤いままのレオがそう言う。

 

「ワシはお前のことが気がかりだった。星詠みで見たお前は威風堂々とし、的を狙うその姿はまさに勇者としてふさわしいものだと思っていた。じゃがここに来た時のお前は、ワシの想像と違った……。何の感情もなく、虚ろな目をして他人との接触を拒む……そんな者なのではないかと不安に思っていた」

「……ま、ずっとそんなもんでしたよ。でもどこかの馬鹿がこんな俺のために無理矢理にでも仲良くなる、とか言い出して挙句俺に勝っちまった……。そいつの真っ直ぐな心と剣に、俺は間違っていたって教えてもらったんです」

「……そうか」

 

 言葉が途切れ、沈黙が広がる。

 

「……そういやレオ様、まだ謝ってませんでしたね」

「謝る? 一騎討ちに負けての点差のことならよいと言ったはずだが?」

「いえ、そのことではないです。……召喚してもらってからずっと迷惑ばっかりかけてることです。ただでさえ領主の仕事に追われてるだろうに俺なんかのせいで余計に気苦労も増えたでしょうし……。今もこうして迷惑かけてますしね」

「フン、謝る必要などない。お前を召喚したのはワシじゃ。言ったであろう、お前が元の世界に戻るまでワシにはその安全を保障する責任がある、と」

「そうですか。……あまり無理しすぎは体に毒ですよ。普段気丈に振舞っておられるから忘れがちですが、あなただって俺と大して年の変わらない女性なんだ。……それも意外とウブな、ね」

 

 再びソウヤにからかわれ、思わずレオの顔が赤くなる。

 

「や、やかましいわ! それ以上言うと輝力を分けるのをやめるぞ!」

「ええ、もう十分ですよ。大分体も楽になりましたし、ありがとうございます」

「む……。そうか」

 

 レオがかざしていた右手を戻し、ソウヤが起き上がる。そのままレオと並ぶ形でベッドの渕に腰掛けた。

 

「……こうやってお互いにちゃんと話したのは初めてですかね」

「そうかもな……」

 

 また、会話が止まる。

 しばらく続いた沈黙を破ろうとレオが口を開きかけたとき、入り口からビオレが入ってきた。

 

「ソウヤ様、冷たいお水をいただいてきましたが、お飲みになりますか?」

「ありがとうございます。いただきます」

 

 しばらくソウヤの様子をみつめていたレオだったが、やがて床へと目を落とす。ビオレがソウヤの持つグラスになみなみと透明な液体を注ぐと、それを一気に飲み干してソウヤは大きく息を吐いた。

 

「……さてと、俺としては戦場に舞い戻りたいのですが、いいですか?」

 

 その言葉に思わずレオはやれやれとため息をこぼした。

 

「どうしても行くか?」

「行かせてください。俺のせいで取られた分の点を取り返す……というのもありますが……。滞在期間が決められてる以上、その間は勇者として戦って、この世界を満喫するってのも悪くない、とか思うようになりましたから」

 

 そのソウヤの言葉を聞くとレオは一つ頷き、満足そうな表情を浮かべる。そしてポケットから蒼い宝石のはまった指輪を取り出した。

 

「……エクスマキナ……。使えと言うのですか?」

「そうじゃ。今のお前の言葉を聞いて確信した。お前は間違いなくガレットの勇者じゃ。今のお前にこそこの宝剣はふさわしい」

「ですが俺は……」

「ソウヤ様、お使いになってください。あなたはこの国の立派な勇者様です。きっとエクスマキナもあなたに使われることを望んでいるはずです」

「ビオレの言う通りじゃ。宝剣には意思がある、と言われておる。じゃが今なら間違いなくエクスマキナはお前を受け入れ、主として認めてくれるじゃろう。だとするなら、これを使うことを誰も咎めはせん。もしそんな輩がいたら、ワシがガレット獅子団領主、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワの名の下に叩き伏せてやる」

 

 しばらくエクスマキナを見つめていたソウヤだったが、根負けしたように小さく笑った。

 

「……レオ様、それは領主権力の濫用でしょう。……でも、ま、領主様に認められたなら、喜んで使わせていただくとしますかね……!」

 

 レオがソウヤの手を取り、人差し指にエクスマキナをはめさせる。それを見ていたソウヤは小さく笑った。

 これではまるで婚約の儀式ではないか。だがこの世界でそんな風習はないのであろう。だとすると、口にしたらまたレオを赤面させることになりかねない。ソウヤは口を閉ざしたままにしておこうと心に決めた。

 

「……何を笑っておる?」

「いえ、別に。使い方は?」

「お前が望めば剣だろうが弓だろうが、好きな形に変えることができる」

「へえ……」

 

 指輪をまじまじと見つめた後、手を反対に返す。すると光と共に派手な装飾があしらわれた金の剣が現れてソウヤの手に握られた。

 

「……それは剣か?」

「俺が読んでた小説の中に出てきた剣をイメージしてみたんですが……。なるほど、派手すぎますね。実戦には向かないな」

 

 一度その剣が光に包まれる。再び現れた剣は先ほどまでソウヤが使っていたような実にシンプルな剣だった。

 

「ま、これでいいか」

「今度は逆にえらく飾り気がないな……」

「じゃあ……」

 

 ソウヤの手の甲の紋章が輝く。すると刀身が鮮やかな青を放ち始めた。

 

「ほう……」

「見た目でもある程度の派手さは必要でしょうからね。魅せてなんぼ、の戦でしょうから」

「なんじゃ、ガウルみたいなことを言うようになったの」

 

 フッと笑みをこぼし、握っていた剣を消す。

 

「……それで、俺はどうしたらいいですか、総大将殿」

「ビオレ、現在の状況は?」

「はい。主戦場のロックフォール平原ですが、現在もガレットの本隊とビスコッティの1番、2番隊の戦いが続いています。戦況は五分と五分。ですがダルキアン卿揮下の3番隊が本陣前まで後退。おそらくガウ様が落とされたシトロン砦の動きを警戒してのことかと思われます」

「シトロン砦には多少の戦力は向かわせた。が、到底本陣に攻め込めるほどではない。ガウルも三馬鹿の連中も疲労しきっておるじゃろうしの。逆にそこで3番隊、殊にダルキアンと天狐に攻め込まれてはかなり厳しいじゃろう。そのままでは再奪還されてしまうかもしれん」

「じゃあ俺は3番隊を抑えに動くと?」

 

 その言葉にレオがソウヤを見る。

 

「お前ではない。ワシ達じゃ」

「ではレオ様もおいでになるわけで?」

「当然じゃ。やはり戦場にいるほうが性に合っておる。それに……平原でのダルキアンとの戦いは預けたままだしの」

「私もお供します」

 

 ビオレの発言に驚いた顔を見せるソウヤ。

 

「……ビオレさんって戦えるんですか?」

「あら、こう見えてもレオ様の側役である前に近衛隊の隊長ですよ?」

「伊達に近衛隊の隊長をやっておるわけではないぞ? 近衛隊の他にルージュやメイド隊を鍛えてもおるしな。……ビオレ、すまないがお前の近衛戦士団を借りれるか?」

「お任せください。レオ様とソウヤ様、確かにビスコッティ3番隊の元へとお届けいたします」

 

 ビオレが畏まったように頭を下げる。

 

「よし……では準備じゃ。出来次第出発するぞ」

 

 

 

 

 

 ロックフォール平原を僅か20騎あまりの隊が駆けて行く。隊の指揮を執る総大将のレオ、さらに勇者のソウヤ、レオの側役でありながら近衛隊の隊長でもあるビオレ、そしてその配下の近衛隊戦士団。

 数こそ少ないが精鋭揃いの部隊であり、その目的はシトロン砦に揺さぶりをかけようというビスコッティ3番隊の足止めであった。

 と、前方から先行して偵察に出ていた近衛戦士団2名が戻ってきて合流する。

 

「ビオレ姉様、ビスコッティ3番隊はどうやら先行隊約200騎をシトロン砦に向かわせて様子を見るようです」

「ありがとう。200……ですか」

「まずいな……今のガウル達の戦力でも厳しいかもしれん……。このままだと攻砦戦に切り替えてくるじゃろう」

「逆にチャンスでしょう」

 

 ソウヤの発言にレオとビオレの視線が集まる。

 

「なぜじゃ?」

「200程度、となればこの隊で側面を突けばそれなりの打撃を与えられる。こっちにはレオ様の紋章砲もあることですし。しかも先行隊ならある程度の被害が出れば一旦引くでしょう」

「それはそうかもしれんが……。じゃがまた奇襲か? 今日の最初の作戦もお前が提案したはずじゃったし、お前は奇襲が好きなのか?」

「好きか嫌いかと聞かれれば好きなほうですよ。奇をてらう攻撃というのは面白いですし。それに真正面切ってぶつかるなんてのは大部隊同士がやることです。相手は200、こっちは20だ。10倍戦力差に正面からぶつかるのは無謀でしょう。……それに予想外の展開が起こった方が盛り上がったりもするもんですよ」

 

 ソウヤの目をしばらく見つめていたレオだったが、やれやれとため息をついた。

 

「……お前の案を採用するか。奇襲なら人目につかないように進軍したい。先の進軍ルートを使えるじゃろ?」

「はい。頭に入ってます」

「よし、案内せい」

 

 ソウヤを乗せたセルクルが前に出る。これまでの道を逸れ林の中へ。木を避けつつ一団が進む。

 しばらく進むと小高い丘の上に出た。右手前方にはシトロン砦、そしてそこを攻略しようかと砦に迫るビスコッティ兵の姿。

 

「うむ。いいタイミングじゃな」

 

 レオの言葉にソウヤも口の端を緩める。

 

「それで、レオ様先行しますか?」

「それがよかろう。ワシが先に突っ込んで蹴散らしてくれよう。適当に残敵の掃討を任せるぞ」

「期待してますよ、閣下」

 

 ソウヤの方を振り返りレオがニヤッと笑う。

 

「任せるがよい。行くぞ、ドーマ!」

 

 レオの声に応える様に一つ(いなな)いたドーマがスピードを上げ、先行し始める。ぐんぐんと距離は離れていき、あっという間にその背中は小さくなっていった。

 

「……レオ様、楽しそうです。あんなに楽しそうにしてらっしゃるのは、きっと勇者様のおかげだと思います」

「……俺は何もしてませんが」

「レオ様としては、一緒に肩を並べて戦える方がいるというだけで嬉しいんだと思います。それが御自分が呼び出された勇者様なら、なおのことです」

「そんなもんですかね」

「それに……フフッ。……まあとにかくレオ様としては楽しいし嬉しいんでしょう」

 

 自分のことのように嬉しそうに話すビオレにソウヤは表情を崩して答えとする。

 

「……レオ様がそろそろ切り込まれる。こちらもスピードを上げましょうか」

 

 ソウヤのセルクルがスピードを上げる。ビオレ達近衛隊もそれにつられるように速度を上げていく。

 ビオレの心中は、これまで彼と話していた中ではもっとも穏やかであった。ここまで抱いていた不信感はまるで嘘だったかのように、今の彼はガレットの勇者そのものである。ようやくレオが肩を並べて戦える相手が現れてくれたと、ビオレは嬉しそうに微笑み、勇者となったその少年の背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

『実況席! 実況席ー! こちらシトロン砦のパーシーです! ガウル殿下に落とされたシトロン砦を奪回すべく、ビスコッティ3番隊の先行部隊が迫る中、なんと側面から迫る影があります!』

 

 映像板に横から情報が割り込んでくる。主戦場のロックフォール平原を映していた映像が切り替わり、シトロン砦の様子が映し出された。

 

「今日は気分がいい……2発目、行くぞ!」

 

 今まさにシトロン砦に迫ろうとするビスコッティの先行隊。国営放送のカメラがその先行隊に迫る1人の戦姫の様子を捕えた。

 

『はいパーシーさん! こちらでも映像を確認しました! こ、これは……!』

 

 先行隊の左側面から猛スピードで迫る黒いセルクル。そしてその主がそこから飛び降りて着地すると同時に紋章が浮かび上がり、地面から幾つもの火柱が立ち上る。

 

「獅子王! 炎陣……」

 

 さらには空から降り注ぐ巨大な火の玉。突然のことに虚を突かれ、逃げ惑う3番隊の兵達がそれに巻き込まれて次々とけものだま化していく。

 

『レ、レオンミシェリ閣下だー!』

「大! 爆! 破ァ!」

 

 愛斧グランヴェールを高々と掲げるとその周囲にすさまじい爆発が巻き起こり――死屍累々のけものだまの山の中に、レオは堂々と立っていた。

 

『ば、爆破ー! 今日2度目! 戦場で2度もレオンミシェリ閣下が獅子王炎陣大爆破を披露したことがあったでしょうかー!? 2度目でも容赦なし、相変わらずのこの威力! 先行隊は大打撃だー!』

 

 突然の奇襲に先行隊の残存兵達が動揺を見せる。が、紋章術直後は体への反動が大きく隙が生まれやすいこともまた彼らは知っている。

 

「紋章砲の連続はない! 全員、総大将を討ち取れー!」

 

 撃ち漏らした兵達がレオに迫る。だがそのレオの背後、1人の弓師を乗せたセルクルが駆け寄ってきていた。

 

「ヘッジホッグ・アルバレスト!」

 

 放たれた矢は生きているかのようにレオに迫ろうとした兵へと狙いを定める。そしてその兵達全てを少しの違いもなく撃ち抜いた。

 

『こ、これは勇者だ! なんと先ほど一騎打ちに敗れて救護隊に連れられていったはずの勇者が早くも戦線に復帰してきたー!』

 

 レオがソウヤの方を振り向く。ソウヤはセルクルから飛び降りるとレオの横に並んだ。

 

「さすがじゃ。的確な援護じゃの」

「レオ様こそ。ド派手な技ですね」

 

 フッとレオが得意気に笑い、ソウヤも微笑を浮かべる。

 

「近衛隊、レオ様と勇者様を援護しつつ残敵掃討!」

「了解!」

 

 ビオレの凛々しい声と共に近衛隊戦士団が突撃していく。ビオレは普段の側役の服装とは異なる黒を基調とした服に身を包み、その両手には武器が握られていない。

 彼女は格闘戦を得意としていた。素早い動きで懐へと潜り込んで相手をノックアウトする、それがビオレの戦い方だった。いざとなれば紋章術によって相手の武器と打ち合える。よって徒手空拳のデメリットをそれだけで大きく解消していた。

 そんなビオレと近衛隊の前にビスコッティの兵達は次々と打ち倒されていく。ビオレは普段のおっとりした様子からは想像できないほど俊敏に、そして華麗に舞うように戦い、時には頭部へのタッチアウトも決めていった。

 

「だ、ダメだ! 全軍撤退! 一時撤退!」

 

 既に戦力の半分以上を失ったビスコッティ兵が敗走を始める。その様子を確認すると砦から歓声が上がった。

 

「姉上! ソウヤ!」

 

 砦の門が開き、中からガウルとジェノワーズが駆け寄ってきた。

 

「ガウル、よくここを落としてワシらの到着まで持ちこたえてくれた」

「礼を言うのはこっちだぜ。姉上が来てくれなかったらあの数でもどうなってたかわからなかったからな。……それよりソウヤ! お前あんなに無理したってのにもう戦線に戻ってきてもいいのかよ?」

「レオ様の許可は降りてます。……それに」

 

 ソウヤは右手の人差し指をガウルへと見せる。

 

「お前まさかそれ……エクスマキナか!?」

「ええ。レオ様から正式に預かりました。俺はフロニャルドの戦を楽しみたい、そう思ったからここに戻ってきたんです」

 

 ガウルがソウヤの目を見つめる。が、何かを悟ったように微笑んだ。

 

「……なるほど。シンクと戦ってようやく自分に素直になれたらしいな」

「おかげさまで。……そのお礼をあの馬鹿に返してやりたいところですが、あいつは平原の方に行ったらしいですし。このあと3番隊を抑えないといけないんで、今日のところは見逃してやるってところですかね」

「3番隊を抑えるって……姉上、どうする気だ?」

「今向こうの3番隊にはダルキアンと天狐がいる。タイムアップも迫っておるし、この2人を攻砦戦に参加させなければここは守りきれるじゃろう」

「それはそうかもしれないが……」

 

 ガウルが少し考えた後、レオとソウヤを見る。

 

「……その2人、どうせ姉上達2人で抑える気だろ?」

「ワシはダルキアンとの勝負を預けたままになっておるからな」

「俺は個人的に巨乳ちゃんと戦いですし」

「やっぱり俺は除け者か」

 

 思わずガウルがため息をこぼす。

 

「しかしソウヤが負けた後の内部戦、お前がシンクをうまいこと封じてくれたおかげで制圧が出来たんじゃろ?」

「……まあな。あいつが文字通りバカで助かった。俺との戦いに気を取られてる隙にジェノワーズと残りの兵でここは制圧できた」

「じゃがその影響でお前には疲労が残ってる」

「それを言ったらソウヤだって一緒だろ?」

「俺は大丈夫です。レオ様に輝力を分けてもらいました」

 

 そのソウヤの言葉を聞いてガウルの顔色が変わる。

 

「な……輝力を分けてもらった、って……。おい、姉上! 大丈夫なのか!?」

「何も心配はいらん。ともかく、ワシとソウヤで行く。お前はジェノワーズやビオレ、近衛隊、それに残った兵達の指揮を取ってこの砦を守り抜け。現在のポイント差ならここを守りきることは勝利へと繋がる。……あとは平原で動きがあるか、ワシかソウヤが善戦をすれば逆転勝利も見えてこようぞ」

 

 しばらく黙っていたガウルだったが、

 

「……わかった。ここは守り抜く。向こうの2人は姉上達に任せるぜ」

 

 硬い表情を崩さずそう言った。

 

「よし、そうと決まればワシ等は行く。ジェノワーズ、ビオレ、任せたぞ!」

「了解。お任せください」

 

 ノワールが短く答える。

 

「大丈夫や、ビオレ姉やんもいることやし。……姉やん、頼りにしてまっせ!」

「ジョー、私達も頑張るのよ……」

 

 いつもの調子のジョーヌとベールを見てレオは小さく笑った。

 

「……行くぞ、ソウヤ!」

「仰せのままに」

 

 レオがドーマに跨り砦から離れていく。それに続くソウヤも見送り、ガウルは砦の中へと引き返していった。

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