DOG DAYS DUAL-BRAVER   作:天木武

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Episode 11 決戦・隠密部隊筆頭

 

 

「なるほど、先行隊はレオ様とソウヤ殿、それに近衛隊の攻撃によって被害甚大ということでござるか」

 

 先行隊の撤退という報告を受けたブリオッシュはそう言うと考え込むように右手を顎に当てる。状況次第では自身も砦への進軍を考えていたが、これで容易ではなくなったということになる。

 

「いかがなさいますか、お館様?」

「ふむ、砦攻めのつもりではあったが、あの2人が来たとなると少々手こずりそうでござるな。残り時間とポイント差を考えると、ここを諦めて平原部へと行ったほうが得策とも思えるが……」

「現在僅かながらビスコッティがリードの状況であります故、このままなら我々の勝ちとなります。お館様のおっしゃるとおり、あえて火中の栗を拾うような真似はしないほうがよいかと拙者も思います」

「うむ。ボーナスがなければ今のところ我々の勝ちは揺るがない。……しかしそう易々と勝たせてくれるとは思わないでござるがな」

 

 ブリオッシュがそう漏らすとほぼ同時、

 

「て、敵襲です!」

 

 辺りを警戒していた兵の声が飛ぶ。

 

「やはり打って出てきたでござるか。数は?」

「そ、それが……」

 

 ブリオッシュが兵から手渡された望遠鏡を覗き込む。

 

「……なるほど、これは面白いことになってきたでござる」

 

 微笑を浮かべつつ、今度はユキカゼへと望遠鏡を手渡す。

 

「……2人!? レオ様と勇者の2人だけですか!?」

「そのようでござる。おそらく拙者たち2人を止めるために来たのでござろう」

「でしたらこちらの戦力全てをぶつければ……」

「それは無粋でござろう。それにせっかくの向こうからの誘いを断るのもまた無粋でござる。勝つだけなら簡単でござるが、ここは向こうの誘いを受け、最後の盛り上がりを見せた上での勝利、ということでなければ、この戦に勝ったとは言えないと拙者は思うでござる」

「……承知しました。拙者はお館様の意思に従います」

「うむ。助かるでござるよ、ユキカゼ」

 

 そう言うとブリオッシュは隊の騎士の1人を呼ぶ。エミリオ・アラシード、親衛隊所属の騎士でブリオッシュ率いる3番隊において代理で指揮を執れると彼女が判断した人物である。事実彼は親衛隊においてもエクレールを補佐する役割であり、隊長不在時には隊長代行を務めるなど指揮能力もある。不意を突いた形とはいえ、ベールを撃破した実績もあり、その腕前は本物だ。

 

「何でしょうか?」

「拙者とユキカゼはここでレオ様とソウヤ殿を迎え撃つ。そなたにこの隊を預ける故、その間にシトロン砦へと攻撃を仕掛けてほしいでござる」

「自分が指揮を……でありますか?」

「そうでござる。親衛隊注目株のエミリオの手腕、期待してるでござるよ」

「了解いたしました。ですが自分は注目株などでは……」

「ははは、謙遜を。ともかく任せたでござるよ」

 

 わかりました、と生真面目なエミリオは頭を一つ下げ、兵達に命令を伝達して移動を開始する。その様子を見送ると、ブリオッシュは自分のセルクル、ムラクモから降りた。

 

「ですが……ここまで2回連続で奇襲をかけている勇者のことです、もしかしたら本隊の動きを読んでいて待ち伏せを仕掛けているのでは……」

「いや、それはないと思うでござる。2人がこちらに向かってくる、つまり拙者かユキカゼのどちらかに勝つことによるポイントの逆転が狙いと考えられる。しかしせっかくそこで勝ちを治めてもシトロン砦を奪取されてはその勝利によるポイントも水泡となってしまう。なら下手な小細工をして多いとは言えない貴重な兵力を割くことはせず、残りの兵力は守りに徹してくる、と拙者は考えているでござるよ」

「……なるほど、お館様のおっしゃる通りと思います」

「もっとも、他人の心配をするより……」

 

 話す2人の前に2羽のセルクルが近づく。そしてそこからそれぞれが降りてくる。

 

「……拙者達は自分達の戦いに集中した方がよさそうではござるが」

「ダルキアン、それに天狐。貴様らだけか?」

「そうでござる。拙者達以外の3番隊の兵はシトロン砦へと進攻したでござるよ」

 

 予想通り、と言わんばかりにレオがフンと鼻を鳴らした。

 

「そっちのことはガウルに任せてある。……ワシはさっき預けてもらった勝負の決着をつけに来た」

「ここでの勝利はそのまま全体の勝利へと繋がるから、でござるな?」

「ああ、そうじゃ。……できるなら先ほどの続き、一騎打ちでやりたいところじゃがの?」

 

 ブリオッシュは一瞬言葉を切り考えた様子を見せる。

 

「……その提案、お受けしよう。ユキカゼ、ソウヤ殿を任せるでござる」

「……承知いたしました」

 

 少し嫌そうな顔を浮かべたユキカゼ。だが主からの命である。渋々とそれを了解した。

 

「場所を変える。……ソウヤ、そっちは任せたぞ」

「努力しますよ」

 

 自分の主を見送り、ソウヤは目の前の相手へと視線を移す。

 

「……さてと、邪魔もなくなったところで2人で楽しむとでもしますかね」

「拙者は別に楽しそうともなんとも思ってないでござる。……シンクとお主の戦いは見させてもらったでござる。いい戦いだったござるし、シンクもお主も互いに認め合ったということはわかった……。ただ、それでも拙者は個人的にお主を好きにはなれそうにないでござる」

「随分なことを言ってくれるな、巨乳ちゃん」

 

 そのソウヤの言葉に露骨にユキカゼが顔をしかめた。

 

「それでござる。……人のことをバカにしたようなその呼び方……。拙者ばかりそんな風に呼んで、胸だけで言ったらレオ様だって相当なものでござろう?」

「そりゃそうだが。……あの方は俺にとっては主にあたる、お前にとってのダルキアン卿みたいなもんだ。ならそんな人に失礼な物言いは出来ないだろ?」

「失礼とわかってるなら拙者に対してもやめてほしいでござる」

「そうか。……なら俺が負けたら呼び方は改める、ってのはどうだ?」

 

 ユキカゼが不愉快そうに一つ息を吐く。そして懐から短刀を逆手に抜き、構えを取った。

 

「大した自信でござるが……拙者はお館様のように甘くないでござる。勝ちを譲るなどということをするつもりは毛頭ない故……」

「甘くない、じゃなくて俺が気に入らないだけだろう。……まあそれでいい。弓に剣に体術、俺と似た戦い方、見せてもらう……!」

 

 ソウヤもエクスマキナを剣状に変化させて左手に持って構える。その様子に思わずユキカゼが驚いた表情を浮かべた。

 

「その剣……まさかガレットの宝剣……」

「そうだ。エクスマキナ。レオ様からお借りした」

「そうでござったか……。しかしたとえ宝剣を使っていようと、拙者は負ける気はないでござる」

「それはこっちも同じだ」

 

 互いに構えを取り、張り詰めた空気が流れる。

 先に動いたのはユキカゼだった。紋章術による高速移動、ソウヤとの間合いを一瞬にして詰め、懐へと潜り込む。

 

「紋章拳! ユキカゼ式体術……」

 

 ユキカゼの左手の甲に黄色の紋章が浮かぶ。そしてその拳をソウヤの腹部目掛けて叩きつけた。

 

「狐流蓮華昇!」

 

 ソウヤの足が宙に浮いたところで輝力を込めた蹴り。その体が宙に吹き飛ばされる。

 

「斬!」

 

 再び紋章術による高速移動で吹き飛ばしたソウヤに追いつき、右手の短刀を振るう。

 だが、ソウヤは空中でその刀をエクスマキナで受け止めた。

 

「なっ!?」

 

 そのまま体を捻り、左の膝をユキカゼの側頭部目掛けて振りぬく。

 

「くっ!」

 

 攻撃を止められた右手でその膝蹴りの頭への直撃を避けるユキカゼ。そのままバランスを取り直して着地した。

 ソウヤも何事もなかったように足を地につける。

 

「なるほど。突き、蹴りで浮かせてとどめの斬撃か。いい連携だ」

 

 冷静なソウヤの分析を聞きつつ、ユキカゼは内心穏やかではいられなかった。

 今のユキカゼの攻撃をソウヤは全て的確に防いでいた。左の突きを右手で払って流し、蹴りは足の裏で受け止め、そして斬撃は剣で打ち払う。その上で更に反撃の膝蹴りまで放ってきているのだ、もはや感情論でどうこうという次元ではなく、素直にその能力を評価せざるを得なかった。

 意図せずユキカゼはギリッと奥歯を噛み締める。

 

(この勇者……口だけではないでござる。先ほどあれだけ紋章術を使い、さらにシンクと戦った後でさえこの動き……うかうかしてはいられない……!)

 

「どうした?尻に火がついた、って顔をしてるぞ?」

 

 ソウヤの挑発にもユキカゼは乗らない。ただ隙をうかがうようにじっと構えている。

 

「やれやれ、今度は無視か……」

 

 そういうとソウヤの左手に持った剣が光に包まれる。直後、エクスマキナは指輪へと姿を戻した。

 

「なっ!? ……何を考えているでござるか?」

「格闘主体の巨乳ちゃんに対抗するのにこいつじゃ長すぎる。かといって短いのであったとしても持てば左手の小回りが利かなくなる。……ならもっといいのは……」

 

 ソウヤの両手両脚が光に包まれる。装備している手甲と脚甲が蒼い光を放ち始めた。

 

「……輝力武装、でござるか」

「いや、格闘用にエクスマキナで補強しただけだ。あんなガウ様みたいに輝力武装なんて方法を取ったら、輝力がバカ食いされていくらあっても足りなそうだからな」

 

 そう言って構えたソウヤだったが、今度はまるでステップを踏むようにその体を左右へと振り始めた。「ジンガ」と呼ばれるカポエイラの特徴的なステップ、踊るように、見ようによっては相手を挑発するような構えである。

 

「……ふざけてるでござるか?」

「いいや、いたって真面目だ。俺が習ってる格闘技の構えなんだが、踊りのリズムが元になっているらしいからこうなってる。……まあいい。来ないならこちらから行く」

 

 体が右に振れた瞬間にソウヤが紋章術による高速移動を行う。瞬時に間合いを詰め、手をついて左脚で下段への足払い。ユキカゼが足を浮かせてその攻撃をやり過ごすが、今度は体を捻らせながらの逆の右足による回し蹴りが上段へと伸びてきた。「シャペウジコウロ」と呼ばれる連携攻撃だ。

 ユキカゼは左手でその蹴りを止める。だが間髪置かずに今度は左脚による中段への突き出し式の蹴りがせまる。右手を割り込ませて彼女はなんとかそれを防御し、そのまま数歩後ずさった。

 

「なるほど、さすがシンクに体術を教えただけのことはあるってわけか」

 

 追撃を止め、立ち上がりながらソウヤはそう言った。その表情からは動揺は見て取れない。

 だが一方のユキカゼには焦りの色が出始めていた。

 

(目の前でお館様との戦いを1度見てはいたが……そのときより明らかに動きがキレているでござる……。確かにシンクに対策を教えたのは拙者でござるが……ここまでは想定していなかった……)

 

 一旦深呼吸し、気合を入れなおす。まずは心を落ち着け、次に倒すべき相手をキッと睨みつけた。

 

(奴の戦い方は蹴りがほとんど。奇抜な動きが多いとはいえ、蹴りであることに変わりはないはず。なら拳の間合いに入り込めば……)

 

「俺は足技を中心に戦うから、懐に潜り込めばいい、とか考えてそうだな」

 

 考えていることを的中させられたユキカゼの表情に今度は明らかに動揺が浮かぶ。

 

「な……なぜそれを……」

「なんだ、図星か。素直ないい子、という噂を聞いていたから最初に思いつきそうなことを言ってみただけだが、意外と当たるもんだ。本当に素直なんだな」

「……褒めてるでござるか? それにそれを当てたからといって拙者に勝つことにはならないでござるよ」

「まあその通りだな」

 

 ソウヤが構える。先ほどの動揺を振り払うかのように、今度はユキカゼの方から仕掛けていった。

 

 

 

 

 

「獅子王烈火! 爆炎斬!」

 

 レオとブリオッシュの戦いも白熱していた。

 紋章剣の名を叫んだレオがグランヴェールを軽々と振り下ろす。炎を纏ったその斧による一撃を、一方のブリオッシュも輝力を込めた刀で受け止め、さらにうまく勢いを殺して攻撃から逃れた。

 

「むう……」

 

 レオが焦ったような声を上げる。

 力で勝るレオと技に長けるブリオッシュ。その戦いは傍から見ればほぼ互角、しかしそれは周りから見た評価であり、レオの感じていることとは異なる。

 実際レオの攻撃は今のようにブリオッシュにうまくいなされ、一撃も命中していない。時折紋章剣を織り交ぜているのにも関わらず、である。

 片やブリオッシュはほぼ防御に徹していたが、レオの攻撃後の隙を見て反撃していた。こちらも直撃はない。だが気を抜けば当たるような場面はこれまで幾度とあり、そのことがレオに焦りを生ませていた。

 加えて残り時間もその焦りに拍車をかける。もう残り時間が少ない。彼女がここでブリオッシュを倒せば、その時点で勝利は大きく近づく。逆に引き分け、あるいは自分が負けるようなことがあればビスコッティの勝利は確定的だ。

 

「レオ様、少し落ち着いた方がいいでござる。攻撃が大振りになってきているでござるよ」

 

 そんなレオの内心を見透かしたかのようにブリオッシュが苦言を呈す。

 

「やかましい、敵の貴様の戯言をワシが聞くと思うのか?」

 

 そう返しながらも、レオはブリオッシュの言っていることは適格だ、と判断した。

 

「いやいや、先ほどは勇者殿の心配で心ここにあらず、といった具合でござったが、今度は少々焦りすぎではないか、と思った故……」

「な!? 心ここにあらず、じゃと!?」

「おや、自覚がなかったでござるか? レオ様は相当に勇者殿のことを心配していて戦いどころではない、と先ほどの剣は語っていたでござるが」

「そ、そんなわけがあるか!」

「しかし実際に今度の剣は、ああ、まだレオ様の剣に焦りの生まれてない一騎打ちが始まった直後でござるが、とても生き生きしていたでござるよ。……それこそ御自分がお認めになった勇者殿と一緒に戦場を駆け、共に戦えることを喜んでいるかのように」

「や、やかましいわ! ……貴様、そうやって時間を稼ぐつもりじゃな!?」

 

 レオがグランヴェールを構える。

 

「おっと、拙者の企みがばれてしまったようでござるな。……とはいえ、今言ったことを拙者が感じていたいうのは事実にござる。実際レオ様はどう思われたでござるか?」

「……確かに奴は勇者という名にふさわしい存在になった、とワシは思っておる。それに……奴と共に駆けた時、戦場であれほど心踊ったのも久しぶりじゃ。……じゃがそれだけじゃ! 別にそれ以外は……」

「やれやれ。ユキカゼのことをエクレールに似てきたと言ったでござるが、ここにも似てきたお方がいらっしゃったでござるかな。レオ様、もっとご自分の気持ちに素直になったほうがいいでござるよ?」

「だ、誰がじゃ! ……ええーい、これ以上問答してる時間が惜しい、行くぞっ!」

 

 レオが大上段からグランヴェールを振るう。その側面に刀を当て、ブリオッシュはその攻撃を逸らす。

 

「レオ様、心が乱れているでござるよ」

「誰のせいじゃ!」

 

 さらに大斧を横へ薙ぐ。ブリオッシュは大きく飛び退き範囲の外へ。

 

「拙者のせい、と認めるとご自分が素直でないことを認めることにもなるでござるが?」

「ぬ、ぬう……。……もう貴様の言うことには耳を貸さん!」

 

 レオが不機嫌そうに地面にをグランヴェールで叩いた後、パタッとネコのようなその耳を閉じてしまった。

 

「おろ? レオ様? おーいレオ様ー?」

 

 ブリオッシュが声をかけるが、レオは完全無視モードで構えを取る。

 

「少々やりすぎたでござるかな……」

 

 苦笑を浮かべ、ブリオッシュも構える。

 両者が再び激突する。だが戦の残り時間はもう僅かになっていた。

 

 

 

 

 

『さあ戦の残り時間もあと僅か! 現在の状況はビスコッティ側のリード! しかし十分ガレットの逆転もありえる状況です!』

 

 実況の声が響く中、ソウヤとユキカゼの戦いは未だ続いていた。だが互いに決定打に欠いたままの状況。一発ではなく、手数勝負の打撃戦が展開されていた。

 

 ユキカゼがソウヤの顎先目掛けて左の掌底を伸ばす。ソウヤが右手でそれを払い、代わりに固めた左拳をユキカゼの腹部へ。が、これには右の掌底を当てられて止められた。だがソウヤは左腕を引く勢いを利用して体を半回転させ、上半身を低く倒しながら左の後ろ回し蹴り、「コンパッソ」をユキカゼの上段目掛けて放つ。

 間一髪、後ろに飛び退いて鼻先をかすめつつその蹴りをかわす。そのまま蹴りの間合いを続けられることを嫌ったユキカゼはさらに大きくバックステップし、2人の距離が開いた。

 

『主戦場のロックフォール平原の戦績が五分と五分である以上、この戦いの勝敗の鍵を握るのがシトロン砦の攻防戦、さらにその砦の前方シトロン平野で繰り広げられているレオ閣下とダルキアン卿、勇者ソウヤとパネトーネ筆頭の一騎打ちでしょう! ガレットがここで勝利を収めるためにはシトロン砦を守り抜き、かつこの一騎打ちのどちらかが勝利、さらにもう一方も敗北とならないことが条件となっています! しかし時間はもうほとんどありません! このままこの一騎打ちは引き分けとなってしまい、ビスコッティの勝利となってしまうのか!?』

 

 肩で息をしながらユキカゼは実況を半分ほど耳に入れ、現在の状況を整理する。

 

(そうでござる……。拙者がここでこやつに勝てばビスコッティの勝利はほぼ確実……。仮に勝てなくてもこのまま時間切れとなればお館様が負けぬ限り勝利となる……)

 

 目を凝らしてソウヤの様子を確認する。やはり肩で息をして疲れは見せている。が、動きのキレは衰えていない。

 これに関しては、(こと)ソウヤのことを好ましく思ってないユキカゼでさえも賞賛したくなるほどであった。ソウヤは攻砦戦からシンクとの一騎打ち、その後多少の休息は挟んでいるとはいえさらに連続で自分との戦い。疲労がないはずがない。

 加えて特筆すべきは彼の戦いのスタイル。自分との戦いの時にはこれまで以上にアクロバティックな動きが増えていた。おそらくそういった類の格闘技だろうと予想はつく。だがそれが余計に疲労を重ねているであろうことにもユキカゼは気づいていた。

 しかしその動きに翻弄され、あるいは本来蹴りの間合いではない位置から放つ蹴りを目にし、ユキカゼは拳の間合いに入っても攻めきれずにいた。今のもそうである。拳の応酬が続くと思った矢先、ソウヤは無理矢理とも言える体勢から蹴りを放ってきた。今までの攻撃からある程度の予想がついたとはいえ、この状況からの蹴りというものはほぼ経験がなく、結果ユキカゼは間合いを空けて仕切りなおすしかなくなった、とも言えた。

 

(スタミナはかなりのもの……連戦に加えてあれだけ激しく動いてまだキレが衰えない。そこは見事でござる。……しかしそれももう限界のはず。このまま引き分け狙いの持久戦を続けてもいいが、ここは……)

 

「なんだ、考えごとか? それとも時間稼ぎか? ……どちらにしろこちらは時間がもうない。そろそろ勝負に出させてもらう」

 

 ソウヤの闘気が高まる。しかし紋章術で来るというユキカゼの予想とは裏腹に、ソウヤの背後には紋章は輝かない。

 

「紋章術ではないようでござるな」

「真っ向勝負をかけてもあんたはそれを避けてきそうだからな。なら一撃勝負ではなく手数勝負。避けきれないだけの攻撃を打ち込めれば、俺にも勝機は見える。それに紋章術勝負をやるには少々輝力を消耗しすぎた」

 

 ステップを踏みつつ、ソウヤが構える。おそらく言葉に偽りはないだろう。彼は紋章術による体術の威力の上乗せを最小限にとどめてきていた。それはつまり輝力に余裕がない、ということの裏づけともいえる。

 

「来ないのか?」

「勝負に出るといったのはそっちでござろう? そちらから来てはどうでござるか?」

 

 ユキカゼの挑発にソウヤが微笑をこぼす。

 

「ま、それもそうか。せっかくの巨乳ちゃんからの誘いを断っちゃ悪いな。……じゃあ、行くぞ!」

 

 開く間合いを一気に詰めようと、紋章術を発動させてソウヤが地を蹴る。

 

(乗ってきた!)

 

 内心で笑みをこぼすユキカゼの右手の紋章が輝き、その掌に輝力が集中する。計算通り、彼女が巡らせた必勝の策のままに事が運ばれようとしている。

 

(あれだけのスピードなら回避は不可能、仮に防げてもそこから追撃をつなげれば防ぎきるだけの余裕はないはず。つまりこれで……)

 

 その輝力が巨大な手裏剣のように形作られていく。

 

「終わりでござる! 閃華裂風!」

 

 巨大な輝力の手裏剣をソウヤ目掛けて投げつける。紋章術の高速移動で向かってくる以上、その相対速度はかなりのものとなる。

 自身に迫る手裏剣を目視すると同時、脚で急制動をかけつつ両腕に輝力を集中させてソウヤがそれを防御する。だが強力な衝撃にソウヤの上体が仰け反った。

 それを見逃さずユキカゼが突進。再び右手の甲に紋章が浮かび上がる。

 

「ユキカゼ式体術……!」

 

 その右手をソウヤの腹部目掛けて伸ばす。紋章砲を防御したことでガードが上がっている。おそらくこの一撃に対する防御は間に合わない。ユキカゼは直感的に勝利を予感していた。

 

「狐流蓮華……」

「……狙いは悪くなかったんだがな」

 

 だが、そのソウヤの声が、彼女の抱いた勝利への光明を陰らせた。声が聞こえたと同時、両手を地面に着いて側転気味に後方へと体を捌いたソウヤの姿が目に入る。

 

(まさか今の動きで勢いを殺した、いや……もしかしたら拙者は誘い込まれた……!?)

 

 右拳が宙を切る。予定ではこの一撃からの連撃でほぼ決まるはずだった。だが誘い込まれたとしても接近戦でも遅れを取るつもりはない。先に決定打を打ち込めばそこまでだ。右手を引き、踏み込みつつ逆の左拳で起き上がるであろうソウヤの体を狙う。

 しかし側転後の左手を残して体を支えたまま、ソウヤは側転で戻ってきた体を前方へと浮かす。そのまま倒れこむように右足でユキカゼの左拳を叩き落した。

 

「なっ!?」

 

 「アウーバチードゥ」と呼ばれる、あまりにも予想外のトリッキーな動きの蹴り。「側転と打撃」を意味するその名の通り、側転のように体を浮かせた状態からの蹴りによってユキカゼに一瞬の隙が出来た。加えて左拳を叩き落されたことでバランスが崩れる。そこをソウヤが見逃すはずがない。

 地面に着いた体を捻り、左脚による後ろ回しの蹴り込み。ガードの間に合わないユキカゼの体へとそれが吸い込まれる。

 

「カハッ……!」

 

 肺の中の空気がユキカゼの口から吐き出される。

 

「ハアッ!」

 

 さらに体を回転させつつ、勢いを乗せての浴びせるような右回し蹴りをソウヤは放った。

 今度は声もなくユキカゼが吹き飛ぶ。数メートル吹き飛び地面にぶつかると同時、機動性重視のために耐久力の低いユキカゼの装束がはじけ飛んだ。

 

 ユキカゼの必勝だったはずの策は、ソウヤによって看破されていたのだ。飛び道具が来る可能性があることをソウヤは想定していた。そこで敢えてダメージを受けたかのように振舞い、懐へと誘い込む。そこで動揺した相手に決定打を放つ。策を練ったはずの彼女はソウヤの手のひらの上で完全に踊らされていたのだ。

 

「……悪いな。さっきシンクにはやられたが、騙し合いやら意表を突く策なんてのは俺の十八番なんでね。一枚上手を行かせてもらった」

 

 得意気にそう言うと、ソウヤはニヤッと笑みを浮かべた。

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