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8月10日。日本で言うお盆を直前に控え、しかしそれでも部活動というものは行われていた。
「おはようございます」
そしてそれはソウヤが所属する弓道部でも同じであった。フロニャルドから戻ってきたばかりだったが、ソウヤの姿は部の更衣室にあった。
「おう、ソウヤじゃねえか! 真面目なお前が練習ここまで休むのなんて珍しいんじゃねえか?」
「すみません主将。親戚の旅行に急に連れて行かれたもので……」
普段なら理由を聞いても返してくれることが稀なのがソウヤのはずだった。だが聞いてもいないのに理由が返ってきたことに弓道部主将は驚いた顔を見せる。
「……いや、まあかまわねえさ! お前はうちのエースだからな。たまにゃあ気分転換もいいだろ、ちょっとぐらい休んでも問題ねえよ!」
主将は豪快に笑う。だが当のソウヤはそれを聞き流し、部活の準備をしようとしていた。
「……そうだ、ソウヤ。お前の優勝祝い、この間はお前が習い事あるってことで流れたんだが……今日練習終わった後どうだ? 駅の近くのファミレス、お前が主役なんだから付き合えよ」
ソウヤが考える顔を見せる。他の部員はどうせ来ないだろうと諦め気味の表情であったが――。
「……お邪魔でなければ、是非」
予想にもしていなかった答えに部員達が顔を見合わせて固まった。
「お……おう! 邪魔なわけねえだろ! お前が主役だって言ってんだからよ! お前らも来るんだろ!?」
主将の問いかけに「ソウヤが来るってんなら……」「この機会逃したらソウヤと飯食うとかないかもしれないからな!」と他の部員も乗り気である。
「よっしゃきまりだ! そうと決まりゃあ練習気合入れてやるぞお前ら!」
主将の発破に対しては「おー!」という声と「えー」という声が半々だった。
そんな周りを気にせず、ソウヤは着替えを始める。
「……ソウヤ、お前、変わったか?」
「さあ、どうですかね。周りから見てそうであれば、そうなんでしょうけど」
ジーンズを脱ぐためにポケットに入っていた携帯を椅子におきながら、ソウヤはそう答える。その物言いは相変わらずだったが、それでもやはり以前とは変わったと主将は感じていた。
と、椅子の上の携帯が震え出す。
ソウヤがその携帯を開き、届いたメールを見て思わず笑みをこぼした。
『やあソウヤ、1日ぶり! フロニャルドからは帰ってきた? こっちは今日も暑いけど、僕は元気だよ! とりあえず、届いてたら返事頂戴ね』
あいつらしい文面だ、とソウヤは思い、返信を打ち始める。
「……なんだソウヤ、彼女か?」
その様子に気づいた主将が声をかけてくる。
「いえ。……あの人は携帯を持ってませんから」
ヒューッと主将が口笛を鳴らした。
「じゃあなんだ、お前、彼女はいるのかよ!」
「ええ、まあ」
「まあ、って……お前も隅に置けねえなあ!」
主将の冷やかしを聞き流す。が、数刻前に触れ合った唇の感触を思い出し、思わず笑顔がこぼれた。異世界の恋人への思いを馳せつつ、ソウヤは本文を打ち終えた。
『無事に帰ってこれた。これから部活でその後ファミレスで食事会らしい。また家に戻ったらメールを送る』
送信ボタンを押し、ソウヤが携帯を閉じる。
「じゃあそのメールは知り合いからか?」
その問いかけに対し、表情を緩めながらソウヤは振り返った。
「ええ。俺の……大切な友達からですよ」
日本の夏は、暑い。
だがこれは、それよりも熱い情熱の日々を駆け抜けた、2人の勇者と、耳と尻尾と、愛と勇気と希望の物語――。
第1部はここまでになります。
次からは第1部の後日談という名目の短編集になります。