DOG DAYS DUAL-BRAVER   作:天木武

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ここからは第1部の後日談であると同時に第2部への繋ぎの物語、という名目の短編集になります。
要するに書きたいと思ったものをなるべく原作の、それもドラマCDのようなノリで好き勝手に書いてみたものになります。
なお、にじファン投稿時は物語中の時間軸をバラバラに投稿していましたが、今回は投稿順が時間順になるようにしています。


幕間短編集
BE・TSU・BA・RA!(ミルヒ・リコ)


 

 

「これで最後、っと……。アメリタ、今日の分はこれでおしまいですよね?」

「ええ、そうです。ご苦労様でした、姫様」

 

 眼鏡をかけ、タイトな服装に身を包んだ秘書官のアメリタにそう言われ、ピンクの髪の少女は「はーい」と答えながら伸びをした。

 

 地球と異なる世界、フロニャルドの国の1つ、ビスコッティ共和国。今のはここフィリアンノ城で生活している代表領主、すなわち、ミルヒの執務室での一幕であった。輝歴2911年青玉(せいぎょく)の月、地球の暦でいう9月。シンクの2度目の召喚から2ヶ月弱が経過していた。

 

「今日のご公務の予定はこれで終了となります。……この後はどうなされるんですか?」

「リコが私の部屋に遊びに来てくれることになってるんです。以前はよく遊んでいたんですが、お互い最近は何かと忙しくてそんな時間も取れなかったので……」

「そうでしたか。……そこに勇者様もいらっしゃれば、なおよろしかったのでしょうけれど」

 

 アメリタがトントンと書類を整えつつ話しかける。

 

「そればっかりは仕方ありません。前回の召喚からまだ再召喚の条件である91日以上が空いていませんし。でもリコのおかげでタツマキを通してお手紙のやり取りは出来るようになりましたから、以前ほどは寂しくありません」

 

 と、立ち上がりながらミルヒ。そのまま部屋の入り口へと向かう彼女を先導するようにアメリタが進み、扉を開けた。

 

「主席の努力の賜物ですものね。今も勇者様の召喚方法についてお調べに?」

「みたいです。大きな進展はまだですが……近々手紙じゃなくて、シンクが持っている『ケータイデンワ』というものと連絡が取れるようになるかもしれない、と言ってました」

「それは……さすがは主席ですね」

「はい。そんな頑張ってるリコのために、今日は私から恩返しっていう意味もあるんです」

 

 ミルヒとアメリタが廊下を並んでミルヒの私室へと向かって歩く。と、向こうからメイド服に身を包んだ女性が近づいてくるのが見える。フィリアンノ城のメイド長、リゼルだ。

 

「あら、姫様。予定より少し早くご公務を終わられたのですね?」

「はい。この後リコが私の部屋に遊びに来ることになっているので、お茶を用意してもらえますか?」

「かしこまりました。ご公務ご苦労様でした。後ほど伺わせていただきますね」

 

 目こそいつもどおり細目のままだったが、それでもメイドスマイルを浮かべてリゼルは答えた。

 

「ですがお2人で遊ばれるということでは……そこに勇者様がいらっしゃればよかったでしょうに」

「もう、リゼルまでアメリタと同じことを……。私はそんなにシンクシンク言ってません」

「おっしゃってるでしょう?」

「おっしゃってますね」

 

 2人からの波状攻撃に思わずミルヒに困惑の表情が浮かぶ。

 

「え、ええー!? ……言ってるんでしょうか?」

「ご本人には自覚がないようですね」

 

 ウフフ、とリゼルに笑われてミルヒは恥ずかしそうに俯く。

 と、ミルヒの私室の前、尻尾を左右に振らせながら小動物のように部屋の前に立っている少女の姿が見えた。

 

「リコー!」

 

 ミルヒが手を振りつつ、その少女に声をかける。

 

「あっ! 姫様ー!」

 

 一方その小動物のような少女、リコッタも手を振って応えた。

 

「ごめんなさい、待ちました?」

「大丈夫であります。ちょっと楽しみにしすぎて自分が早く来てしまっただけでありますから。姫様こそ、予定より少し早いと思うでありますが……」

「私も楽しみにしすぎて頑張っちゃいました」

 

 エヘヘ、とミルヒとリコの2人が笑顔を見せ合う。

 

「では私はこれで。お2人で楽しんでください」

「私もお茶を持ってまいりますね」

 

 アメリタ、リゼルと別れてミルヒとリコはミルヒの私室へと入っていった。

 

 

 

 

 

「これで……よし、と」

 

 リコッタが椅子に腰掛けて待ちきれないような視線を送る中、ミルヒが何やら機械をセッティングする。一見すると鏡のようであるが、しかしそうではない。これは「映像板」という機械、戦の時に映像を映し出すものをより小さくした、同じ原理の物である。

 

「リコ、エクレールはやはり親衛隊の仕事が……?」

「はいであります。一応声をかけたでありますが、親衛隊の仕事で手が離せないから、と断られてしまったであります」

「そうですか……。残念ですけど、仕方ないですね」

 

 一瞬しょんぼりした表情を見せる2人。

 

「でも、そんなエクレの分まで!」

「はい! 私達がしっかりと目に焼き付けておきましょう!」

 

 しかし次の瞬間には明るい表情に戻る。そしてミルヒが手の甲の紋章を輝かせ始めた。

 

『……のじょに同情するわ』

 

 すると映像板に映像が映し出され始める。1人の女と男が海の近くの公園を歩いており、その下にはなにやら文字が右から左へとスクロールしていく。その男女とも、頭から耳は生えていない。要するにこの世界の映像ではない、と推測できる。

 

「やったであります! 映ってるであります!」

「綺麗に映ってくれてよかったです」

 

 紋章術の一種、「星詠み」である。星詠みは近い未来を見ることや探し物をみつけるといったことが可能であり、ミルヒはこの「異世界の様子を見る」、より具体的には「異世界からの電波を受信してその放送を見る」ということを得意としていた。

 

 映し出されたのはいわゆる2時間ドラマのラストシーン、無論2人の目的はこれを見ることなどではない。

 

『次は、魅惑のスイーツ特集!』

「「うわあ~……」」

 

 2人の目当てはそのドラマの次の枠、甘いものを特集して放送する地球の番組であった。事実、予告で数種のスイーツが映っただけで目を輝かせている。

 

 実はミルヒの星詠みで地球のテレビ放送を見られる、と知ったビスコッティの勇者シンクが手紙のやり取りの中でこの番組を教えてくれたのである。「女の子は甘いものが大好きだって聞いたし、幼馴染もこれを楽しみにしてるから」と。

 実際彼女達は異世界の甘い物に非常に興味があった。というより、甘いものが大好きなリコッタ曰く、甘いものは「いっぱい必要」らしく、食べるものは無理でもせめて見るぐらいは、とシンクの薦め通りこの放送を見ることにしたのであった。

 

「いやあ、異世界の甘味、ものすごく期待であります! これを教えてくれたシンクには感謝感謝であります!」

「リコは本当に甘いものが好きですからねー。……なんて言ってる私もすごく楽しみなんですが」

 

 2人が話している間に番組は始まった。女性レポーターといかにも地球の若者という風体の女子2人が映し出されている。

 

「いつも思うんですが、地球の方の服装って不思議ですね」

「そうでありますね。それに皆()()()()がないでありますよね」

 

 どうやら番組は女性3人が色々なお店を回ってスイーツを食べ歩く、という番組のようだ。まずは最初の店へと向かう前に3人が何が好きだ、とかどんなものを食べたことがある、と言った話を始める。ミルヒとリコッタの2人からすると「そんな話はいいからさっさと甘味を映せ」という心境だろうが、番組と言うものには構成がある。致し方がないのだ。

 

 そんな2人の期待に応えてくれたのか、とうとう3人が最初のお店へと足を踏み入れる。

 

「「うわあ~!」」

 

 予告を見たときと全く同じ歓声を2人が上げる。いや、番組の中での女性3人も同じ声を上げたから実際は5人か。

 映し出されている映像はケーキの絨毯、といえるような、様々な種類の並べられたケーキだった。

 

「お、おいしそうであります! 全部食べたいであります!」

「リ、リコ……よだれ出てますよ」

 

 思わずミルヒが苦笑を浮かべる。が、かく言う自分もこのケーキの絨毯が目の前に現れたら喜んで食べることだろう。

 

『じゃあ苺のショートを……。ああ! おいしい!』

『このチーズケーキもふわっふわですよ!』

『モンブランも栗の甘味がしっかり出てておいしいです!』

「「ああ~……」」

 

 映像の中の3人がおいしそうにケーキを食べるのを見て、2人が同時に悩ましいため息を漏らした。確かに異世界の甘味ということで興味深いものではある。だがいくらなんでもこれでは生殺しだ。この「お預け」は厳しいものがある。

 

「見てるのは楽しいしおいしそうでありますが……見ることしかできないというのは辛いであります……」

 

 と、リコッタが悲しそうに呟いた時。部屋の入り口がノックされた。

 

「姫様、お茶をお持ちしました」

 

 聞こえてきたのはリゼルの声だ。先ほど頼んでいたお茶とお菓子を持って来たのだろう。

 

「わあ! リコ、ちょっとは気を紛らわせそうですね。……どうぞ、入ってください」

「はいであります! 映像の中のお菓子を食べた気になってお茶をいただくであります!」

「失礼いたします。……あら、『星詠み』をされていたんですか?」

「はい。リコと一緒にシンクの故郷のお菓子を特集する番組を見ていたんです。リコは甘いものが大好きですから……」

「そういう姫様も、かと思いますが。……どうぞ」

 

 話しつつも慣れた手つきでカップにお茶を注ぎ、リゼルは2人の前にお茶を差し出した。

 

「……なるほど、これはおいしそうですね」

 

 リゼルも思わず映像板に映る甘い物に視線を奪われる。彼女も女性ということでお菓子には興味があるのか、しばらく映像の中の甘味をまじまじと見つめた。

 

「勇者様の故郷のお菓子とは異なりますが、お茶請けに少々甘味を用意させていただきました。よかったらお召し上がりください」

「わあ、ありがとうであります!」

 

 言うが早いか、リコッタは皿に盛り付けられたお菓子を1つ手にとって頬張る。地球でいうところのクッキーといったところか。

 

「主席、あまり食べ過ぎてご夕食に影響が出ないようにしてくださいね?」

「大丈夫であります、甘いものは別腹でありますよー」

「それはお腹が一杯になってから言うと思うのですが……」

 

 アハハ、とミルヒは困った笑顔を浮かべた。

 

「では私はこれで。また何かありましたらお申し付けくださいませ」

「ありがとうリゼル」

 

 一礼し、メイド長は部屋を後にした。

 

 それからも魅惑のスイーツ特集は続く。特別な牛乳と卵から作られるプリン、ふわふわの生地がおいしそうなシュークリーム、見るからに濃厚そうなソフトクリーム、色とりどりの洋菓子等々……。

 それらが映し出されるたびに2人は「わー」だの「おー」だの妬ましげな声を上げ、羨望の眼差しでそのスイーツ……というよりは()()()()()()()を見つめていた。

 

「羨ましいであります……。あんな風にたくさん甘味を食べられるだなんて……羨ましすぎるであります……」

「ですがあんなに食べたらさすがにお腹が一杯になってしまいそうですね」

「そういうときこそ、甘いものは別腹であります!」

「……最初から別腹を使ってしまったら別腹も一杯になってしまうのでは?」

 

 もはや苦笑しながらのミルヒの突っ込みも聞こえない、と言った具合でリコッタは映像に釘付けになっている。

 

 その後も番組はしばらく続き、胃もたれしそうなほど甘いお菓子を取り上げた番組はそろそろ終わりそうであった。先ほどのドラマのラストと同様、白い文字が右から左へとスクロールしていく。

 

『甘いものは、別腹ー!』

 

 今日リコッタが散々言ったようなセリフを映像の中の3人が合わせて言ったところで、番組は終了した。それを確認してミルヒは星詠みをやめ、映像板から映像が消える。

 

「あー……夢のような時間だったであります。あとはあれを食べられれば何も文句はないであります」

「そうですねー。リコはどれが1番気になりました?」

「どれもこれも気になったでありますが……自分は『ギモーブ』というのを食べてみたいであります。他の物は見るからに甘そうなものが多いのにあれだけはそうは見えず、しかも不思議な食感、というのが気になったであります。姫様はどうでありますか?」

「私は『塩バニラキャラメル』ですかね。番組をレポートしていた方が『塩はしょっぱいはずなのに、それが甘味を引き出していて、しかもバニラの香りと合わさって~』とおっしゃっていて、どんなものなのか想像できなくて……。きっとびっくりするような味と香りなんでしょうね」

「ああ~話していたら食べたくなってきたであります……」

 

 既にお茶請けに用意されたお菓子は全て食べ終わり、代わりとして欲求を満たしてくれるものはない。空になった皿を見てリコッタはため息をこぼした。

 

「そうだ! 今度シンクがこちらにいらしてくれる時に持ってきていただくというのは……」

「それはナイスアイデアであります! 是非手紙のやり取りでお願いしてほしいであります! ……あ、シンクのことで思い出したでありますが」

 

 コホン、とリコッタは咳払いを1つ。

 

「……実は、シンクの『ケータイデンワ』に連絡を取ることができるようになったかもしれないであります!」

「ええー!? 本当ですか!?」

 

 思わずミルヒが立ち上がり、興奮気味に尻尾も逆立っている。

 

「いやあもう大変だったでありますよ。地球の『デンパ』というものの特性を掴み、さらにこちらから連絡しても記録や所在地が怪しまれないようにシンクの故郷に設置してある『コウシュウデンワ』というものから無作為にかかるように……」

「え、え? えーと……」

 

 得意気に話すリコッタだったが、ミルヒはなんのことかよくわからないらしい。

 

「……と、とにかく! シンクと手紙以外で連絡を取り合えるようになるんですか!?」

「はいであります!」

「やったー!」

 

 リコッタの自信たっぷりの頷きに満面の笑みを浮かべて喜ぶミルヒ。

 

「でもそのために、『番号』と『アドレス』を知る必要があるであります。今度手紙のやり取りをする時に聞いてほしいであります」

「『番号』と『アドレス』ですね。わかりました。今度聞いてみます。それから、このことはガレット側には教えてあげてもいいでしょうか?」

 

 てっきり2つ返事が返ってくると思ったミルヒだったが、予想に反してリコッタは渋い表情を浮かべる。

 

「まだ成功してはいないでありますし、これで相互の世界間に影響が出ない、と決まったわけでもないでありますから……。言葉は悪いでありますが、少し様子を見てからの方がいいかと思うであります」

「そうですか……。わかりました。リコがそう言うならそうしましょう」

「それから再召喚期日と滞在日数の条件変更でありますが……こっちはもう少しかかりそうであります。次にシンクが来るといっていた瑠璃の月までにはなんとか、と思ってはいるでありますが……」

「確か冬休み、という時でしたっけ。あと100日近く空いてしまうんですよね……」

 

 寂しそうにそう呟いてミルヒは俯いた。

 

「でもでも、『ケータイデンワ』が繋がれば声は聞けるでありますよ!」

「……そうですね! それに次にシンクが来てくれる時にちゃんとお迎えできるように私もしっかりしないと!」

 

 「がんばるでありますー」「おー!」と少女2人は気合を入れるように右手を上げた後、顔を見合わせてプッと吹き出した。

 

「あ、でも姫様」

 

 思い出したようにリコッタが口を開く。

 

「なんでしょう?」

「頑張るは頑張るでありますが、そのご褒美という意味も込めて、是非次シンクが来る時は地球のお菓子を持ってきてくれるようにお願いしてほしいであります」

「そうですね。それとこれとは話が別ですものね。……だって甘いものは」

「はい! 別腹でありますから!」

 




青玉……サファイア。9月の誕生石。
ギモーブ……フランスのマシュマロのようなもの。独特の食感が特徴的らしい。近年風評被害に悩まされているとかいないとか。
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