◇
「キーッ! ミルヒ姉もレオ姉も、ウチが留学でいない間に勇者召喚とか楽しそうなことをやっててずるいのじゃずるいのじゃー!」
リスのような容姿の人々が住む国、パスティヤージュ。その中心都市、エスナートにあるエッシェンバッハ城に騒々しい
輝歴2912年珊瑚の月。かつてシンクが初めて召喚されてから大体1年となるこの時期、エッシェンバッハ城は久しぶりの喧騒に包まれていた。理由は単純、次期領主候補で現在領主見習い中のために留学に出ていた第一公女、クーベル・エッシェンバッハ・パスティヤージュが久しぶりに故郷の城へと帰ってきたからであった。
そして戻ってくるなりの大騒ぎである。一見すればその小さい身長と愛くるしいふわふわの尻尾から愛玩動物のような可愛さを持つ彼女であるが、一度口を開くと出てくる言葉は何気に辛辣でそして直球だ。確かにその容姿から可愛がられ芸は見事であり、彼女が「姉」と慕うミルヒやレオからも非常に可愛がられている。だがそのせいか、構ってもらいたがりであり、あまりに構ってもらえないとこのようになってしまうことがあった。
そうでもなくても久しぶりの帰郷で意気揚々と帰ってきてみれば、姉と慕う両者は勇者召喚という珍しいことを行い、しかもその勇者を数度召喚したことで非常に仲良さそうにしているとも聞く。そこでますますの疎外感を感じた彼女が癇癪するのはある意味当然とも言えた。
「ずるいのじゃ! ずるいのじゃ! ウチもその輪に入れてもらいたいのじゃー!」
「ま、まあまあクーベル様、まずは落ち着かれてください」
「落ち着いてなどいられるか! あまりの寂しさにウチは
そんな死因など聞いたことがない、と彼女の傍らに立つエッシェンバッハ騎士団指揮隊長のキャラウェイ・リスレは苦笑を浮かべた。しかしこの状態の公女に何かを言ったところで焼け石に水だ、ということはこれまで散々振り回されている彼はよくわかっている。ここは下手なことは言わずに彼女が騒ぎ疲れて平静を取り戻すまで待つのが吉と判断し、愛想笑いを浮かべるに留めることにした。
「うう……。ミルヒ姉もレオ姉もきっとウチのことなんかすっかり忘れて勇者と仲良くやってるに決まってるんじゃ……」
そのキャラウェイの読み通り、
「どうせパスティヤージュは戦に対して積極的ではないし、楽しく戦してるビスコッティとガレットの間には入れないから、ウチはもう2人からは忘れられた存在なんじゃ……」
「そんなことありませんよ。お2人はクーベル様のことを妹君のように可愛がってくださるではありませんか」
もはや社交辞令的になりつつもある擁護の言葉をキャラウェイは淀みなく口にする。しかしそれでもやさぐれるクーベルには多少の効果はあったらしい。「きっとそうだとはわかっているんじゃが……」と寝転がっていた体を起こした。
「しかしせっかくウチが帰ってきても2人に構ってもらえないというのは寂しすぎるんじゃが……。キャラウェイ、2人のところに遊びに行ったら迷惑じゃろうか?」
「迷惑かは計りかねますが、現在レオ様のところにはガレット勇者のソウヤ様がいらしているそうです。なんでも、今は長期休暇中だからごゆっくりされるとのことで……」
「あー……。そいつ最近レオ姉とやけに仲が良いと噂の奴か。そいつには『ウチのレオ姉を返せこのあんぽんたん』と文句を言ってやりたいから今すぐにでも行きたいんじゃが……」
レオに会いに行くだけなら別にキャラウェイとしても止めはしない。だが悪態をつきに行く、と宣言されてしまっては苦言を呈さざるを得ない。
「文句を言いに行くのは……あまり感心できません。クーベル様がおっしゃいましたとおりお2人は非常に仲がよろしいらしく、勇者様への無礼はそのままレオ様の無礼に当たってしまうのではないかと」
「うー……。レオ姉がウチを怒るとか考えにくいんじゃが、ないとは言い切れんし、怒られるのも勘弁願いたいしな……。ミルヒ姉はどうじゃ?」
「そちらも今日勇者召喚を行うというお話です。なんでも、今回はビスコッティの勇者シンク様がご友人2人を連れていらっしゃるとか」
「あーもう2人ともそうやってウチを蚊帳の外にして……。やっぱり寂しいのじゃ! 構ってほしいのじゃ!」
不貞腐れモードから再び騒ぎモードにクーベルが入ってしまう。ベッドの上で駄々をこねる子供のように両手両脚をばたつかせ、その様子に思わずキャラウェイが頭を抱えた。
と、突然騒ぎ立てていたクーベルの声が止む。今度は随分早く落ち着いてくれたか、と一旦胸を撫で下ろしかけたキャラウェイだったが、彼女の目を見てそれは早計だったと考えを改める。
あれは明らかに
「あの……クーベル様?」
それは避けたい、と彼は未然に説得を試みる。だが既に奔放な彼女の頭の中では、補佐する指揮隊長を悩ませるような計画が構築されつつあった。
「そうじゃ……。なんで気づかなかったんじゃろう」
不意にクーベルがベットを飛び降りる。
「キャラウェイ、行くぞ!」
「え……? 行く、ってどちらに……?」
「決まっておる、ミルヒ姉のところじゃ!」
「え!? あ、あの、クーベル様……」
「ビスコッティに
陽気に部屋を出て行こうとする彼女の背中を、キャラウェイは呆気にとられて見つめていた。
そもそも「勇者」が3人来るわけではない。ビスコッティ勇者シンクとその友人が2人なだけだ。まずそこを勘違いしている。
そしてその客人を「借りる」ということなど、通常に考えれば出来るはずがない。
それを言おうと思ったキャラウェイだったが、ふと思いとどまった。
そう、普通に考えれば出来るはずがないことをしようとしているのだ。だったらここで無理に止めなくてもいずれわかることだろう。自分があれこれ言うよりも実際に無理だとわかった方が、彼女も納得するに違いない。
それに、と彼は思う。
これまで振り回されることが多かったキャラウェイだが、しかし結果としてその彼女の奔放さがいい結果へと結びついたことは決して少なくない。なら、もしかしたらこの思いつきもいい方向へと進むかもしれない。「借りる」という通常不可能な頼みが聞き入れられたとしたら、それは何かしらいい結果がついてくるのかもしれない。
そんな僅かな期待を抱き、キャラウェイはこの厄介事に首を突っ込もうとする公女を見守ることにしたのだった。
◇
時を同じくして、ビスコッティ共和国フィリアンノ城前。セルクルに引かれた車から3人の少女と1人の少年が姿を表す。
「ここがフィリアンノ城になります。レベッカさんとナナミさんには勇者シンクのご友人として、滞在中はこちらを拠点として生活していただく予定です」
ピンクの髪の可憐な少女にそう説明され、レベッカとナナミと呼ばれた2人の少女はぽかんと口を開けてその城を見上げる。普段なら歴史的建造物としてしか見ることのできないような立派な城だ、驚くなと言う方が無理であろう。
いや、それ以前にこの2人はしばらく前から驚きの連続なのだ。とりあえず驚くのがもうお約束の反応となっていたとも言えた。
「ほら2人とも、そんな突っ立ってないで中に入ろう!」
金髪の少年、ビスコッティ勇者のシンクにそう声をかけられ、2人も慌ててシンクの背中を追いかけた。
「ちょっとシンク。シンクは見慣れてるお城かもしれないけどね、あたし達からしたら初めて見る大きなお城で本当に驚いてるんだからね!」
先を歩くシンクの背中にレベッカことベッキーが不満そうに声をかける。
「そうそう。ずーっと『行くまで秘密』とか言っておいて、蓋を開けてみれば旅行先は異世界で、シンクはそこで勇者とか呼ばれてて、しかもお姫様と仲がいいとかどこのファンタジー小説よ。そういうのはベッキーが呼んでる小説の中の話だけだと思ってたのに……」
ベッキーに続いてナナミも口を尖らせた。
「ごめんごめん。でもやっぱり驚いてもらうためには直前まで秘密にしておかないと面白くないじゃない?」
謝るシンクだが、口調から全く悪びれている様子はない。ベッキーとナナミは顔を見合わせ、まあいいかと同時にため息をこぼして納得することにした。
今地球は春休みの時期である。去年の今頃は初めてシンクが勇者召喚された頃であり、その1年の節目を迎えるにあたり、予定の都合をつけることのできた幼馴染2人をこの異世界へと招待したのだった。
もっとも、先ほど2人が述べたようにシンクは旅行先をずっと伏せていた。そのため、出発口と言われて学校の屋上に連れてこられる、そこに待っていた犬によって異世界へと連れて行かれる、連れて行かれた先の異世界の人々は皆動物のような耳と尻尾がある、しかもその世界でシンクは勇者と呼ばれている、という怒涛の展開にここまで驚きっぱなしだった。
2人としてはまだ突っ込みどころは大いにある。なにせ目にするもの全てがこれまで見たこともないようなものばかりなのだ。召喚台からフィリアンノ城へ移動する時の車の中では自己紹介もそこそこにずっと話をしてはいたが、それでもまだ話し足りないのは事実であった。
「レベッカさんもナナミさんもまだまだ聞きたいことが一杯あるでしょうし、この後ビスコッティ名産のお茶を飲みながらお話しましょう」
「ビスコッティのお茶は美味しいよ。きっとベッキーもナナミも気に入ってくれると思う」
完全にペースを握られたベッキーとナナミを顔を見合わせて思わず苦笑する。元々楽しいことに没頭している時は周りが見えなくなってしまうシンクだが、ここでは常時その状態になってしまうようだ。とりあえずこの世界では「先輩」のシンクに2人は任せることにした。
城内へ入るとメイド隊が領主の帰りと、勇者とその友人の訪問を待っていた。細目が特徴的なメイド長のリゼルが一歩前へ出る。
「お帰りなさいませ、姫様。勇者様もお久しぶりです。それからレベッカ様にナナミ様、よくいらしてくださいました」
丁寧な挨拶と、その後ろに並ぶメイド達に圧倒されたか、ベッキーとナナミが思わずたじろぐ。
「リゼル、この後お茶を飲みながら勇者様とそのご友人の方々とお話したいと思っているのですが」
「はい。そうだと思って既に展望テラスの方を準備させていただいております。……それから、隣国からのお客様もいらしておりますので、そこでお待ちいただいております」
「お客様? ……あっ!」
ポン、とミルヒが手を叩く。その様子にリゼルも無言で頷いた。そういえば前もってこのことは連絡してあった。来る、という連絡は受けていないが、きっと驚かせるために連絡無しで来たのだろう。しかし何も問題はない、むしろ嬉しいぐらいである。
「じゃあ早速参りましょう。あまりお客様を待たせるのもよくないですし」
まるでスキップをしそうなほど軽い足取りでミルヒが歩き出す。その歩調に合わせ、尻尾も嬉しそうに左右に揺れていた。その様子に思わずベッキーの視線が釘付けになる。
「姫様……嬉しそう。尻尾すっごく動いてるし……」
「そりゃあね。隣国の客、っていったら多分姫様と姉妹のように仲のいいあの人だから。それにあの人がいらしてるなら、多分……」
そこまで言ってシンクはどこか意地悪そうに口を噤んだ。
「何シンク、また隠し事?」
「うん、そう。きっとこれも隠してた方が面白いだろうから」
「もう一通り驚いたからきっと何がきてもそんなに驚かないと思うけどなあ……」
両手を後ろに組みつつ、ナナミがそう口走る。が、シンクはそれを聞いてもいたずらっぽく笑うだけだった。
一行が展望テラスに到着する。そこには既に一組の男女が腰掛けていた。そのうち女性の方が待ち人が来たことに気づいて立ち上がり、近づいてくる。
「ミルヒ、すまんが待たせてもらっていたぞ」
「レオ様! やはりレオ様でしたか」
銀の髪にネコのような耳、ガレット領主であるレオがミルヒに挨拶を交わす。
「驚かせようと思って連絡も無しで来てしまったが……」
「全然構いません。以前連絡した時にもしかしたらいらしてくださるんじゃないかとは思っていましたから」
「なんじゃ。ミルヒにワシの考えなど筒抜けか」
そう言い、愉快そうにレオは笑った。
「レオ様、ご存知かと思いますが、今回はシンクがご友人を連れてきてくださったんです」
「ああ。久しぶりじゃの、シンク」
「はい。レオ様もお元気そうで」
「それに……レベッカにナナミじゃな? 話は聞いておる。ワシはこのビスコッティの隣国、ガレットの領主をしておるレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワじゃ。よろしく頼む」
勇ましく、それでいて煌びやかなその領主に挨拶され、2人は反射的に挨拶を返していた。が、その視線はレオの耳へと注がれている。ミルヒが犬だったのに対して今度はネコ。どうやら国によって違う動物になるらしい、と2人は気づいた。これには先ほどは「驚かない」と言ったナナミも多少はびっくりした様子だった。
だがこの後、2人は言い訳出来ないほどの驚く事態に直面することになる。
「……おい! お前も知り合いなんじゃろ? ちゃんと挨拶せんか」
そのきっかけが、レオが振り向いて言ったこの一言だった。その声を受けてどうやら彼女と一緒にテラスにいたらしい青年が立ち上がる。髪は黒、だがこの世界の人々ならそこから生えているはずの耳がない。ではもしかしたら自分達と同じ世界の人間なのではないかと2人が思った直後、その青年が近づくに連れて顔がはっきりとわかり、思わず2人は「ええーっ!?」と叫んでいた。
「……よう、ベッキーにナナミ。久しぶりだな」
2人が以前会ったときのような格好とはまるで異なるこの世界の衣装に身を包んではいたが、その顔は見間違えるはずがない。いつの間にかシンクが「友達になった」と紹介してきた、一見ちょっと気難しそうに見える青年――。
「ソウヤ!?」
「ウソ!? なんでソウヤがここにいるわけ!?」
「まあこいつはこう見えても我がガレットの勇者じゃからな」
そのレオの言葉に再び2人が驚いた様子でソウヤを見つめなおす。
「ま、そういうことだ。……というか、ナナミは以前俺に『シンクと会った場所は普通じゃない場所でしょ』とか言ってたんだ、予想はついてたんだろ?」
「つ、つくわけないでしょ! どこか海外か、あるいは日本の山の中とかだとばっかり思ってたし! それが異世界で……しかもシンクもソウヤも勇者!?」
「で、でも考えてみればシンクが以前行った『すっごく楽しいところ』が異世界で、しかもそこで勇者なら、同じくそこで会ったって言ってたソウヤも勇者だった、って話は納得よね……」
あまりの驚きの連続にどうやらベッキーはその考えまでこの時まで至らなかったらしい。
「立ち話もなんですし、続きは座ってお茶を飲みながらはいかがでしょう?」
「うん、賛成! 早く2人にもビスコッティのお茶を味わってもらいたいし」
ミルヒの提案を受けたシンクのその一言で全員がそれぞれの席へと向かう。それを待っていたかのようにリゼル達メイド隊がお茶とお菓子を運んできた。
「あ、レオ様、今日はガウルやジェノワーズは?」
「留守番じゃ。明後日の戦の準備をさせておる。まああまり大人数で急に押しかけても迷惑じゃろうしな、戦が終わってゆっくりしてからお前達にガレットに来てもらって、顔を合わせるのはその時でいいかと思っていたんじゃ」
お茶が注ぎ終わる。シンクから散々勧められていた、ということもあってベッキーとナナミの2人はまずそのお茶を口へと運び――次いで顔を見合わせた。イギリス人のベッキーと現在イギリス在住のナナミ、2人とも紅茶で有名なイギリスに縁のある人物だ。その2人が目を見開いている。
「おいしい……!」
「ほんと、シンクが言った時はいくらなんでも大げさでしょ、って思ったけど……。これすごくおいしい。この味も香りも初めての経験……」
ベッキー、次いでナナミが漏らした感想にミルヒもレオも意図せず表情が緩む。ミルヒは自国の特産品を褒められたから当然であろうが、隣国のレオもまるで自分のことのようにそれを嬉しく感じていたようだ。
「ほう、さすが女子は感想がなかなかいいのう。ソウヤ、お前も少し見習ったらどうじゃ? これを初めて飲んだときの感想はなんじゃったか、『お茶ですか』じゃったか?」
「……悪かったですね。味には疎いんですよ。そもそも貧しい食生活を送ってる貧乏学生に気の利いたコメントを求める方が無茶かと思いますが」
ミルヒ、シンクからしてみればいつも通りのレオとソウヤのやり取りだ。だがこれを初めて見る2人からしたら非常に珍しい光景を見るかのような目でそれを見つめ、それからナナミがベッキーの服の裾を引っ張った。
「……なんかレオ様とソウヤ、すごく仲良くない?」
「うん……あたしもそれ思ってた。相手は姫様と同じく領主様でしょ? でも全然そんなの気にかけてない、っていうか……。仲のいい友達、っていうにはちょっと仲が良すぎるっていうか……」
こそこそと話す2人の声にミルヒが耳をそばだて、2人の顔を近づける。やはり女子はこの手の内緒話が好きなのだ。
「……レオ様とソウヤ様、実は恋人同士なんです」
「「ええーっ!?」」
少し前に「もう驚かない」と言っていたのは誰だったか。それを言ったはずのナナミもベッキーも席を立ち上がって驚愕の声を上げる。
「……なんだよ、びっくりするな」
「ほ、本当なの!? ソウヤとレオ様、その……こ、恋人同士だって!?」
ナナミの問いかけにソウヤは答えず、視線をレオのほうへと流した。代わりに答えてくれ、という意思表示らしい。やれやれとレオはため息をこぼして代わりに口を開く。
「……まあ否定はしないな。こいつはめんどくさい奴じゃし紆余曲折色々あったが、今は仲良くさせてもらっておる」
「言ってくれますね、めんどくさいとか。そのめんどくさい部分まで含めて俺を認めてくれたのはどこの誰だか知りたいもんですが」
「……ほう? 貴様、人前だとやけに態度がでかくなるのではないか?」
そんな2人の様子にたまらずミルヒは「まあまあ……」となだめる声をかけ、そうなるきっかけを作った2人は「ごちそうさま……」と苦笑しながら呟いていた。
「……あ、姫様。そういえば戦は明後日って言いました?」
そこで場の空気を変えるように話題を切り出しのはシンクだった。が、今のも空気を変えようなどという考えは彼には毛頭なく、純粋に頭に浮かんだからしただけの質問である。シンクはそういうことに対しては致命的に鈍感なのだ。
「はい。明後日ガレットとの戦が予定されています。……あ! お望みでしたらレベッカさんもナナミさんも参加されてはいかがですか?」
「うん、僕もそう思ってたんだ。ベッキーもナナミも一緒に戦に参加しようよ!」
戦、という普通に考えたらあまり好ましくない言葉。そこにシンクの笑顔も加わって誘われたことに2人はうろたえる。
「シンク、いきなり戦と言っても地球の人間は戦争をまず思い浮かべるぞ」
「あ、そっか。えっと……」
「……要するに戦争ごっこだ。こいつが得意そうな、国別対抗運動会とでも思ってもらえばいい」
「大雑把だけど……まあそんなところかな。僕としては2人にその雰囲気を最初に味わってもらいたくて、ここに到着と同時に歓迎戦を提案しようと思ったんだけど……」
そのシンクの言い分に思わずソウヤがため息をこぼす。
「友人を招待しておいてもてなしもそこそこにいきなり戦です、ってのもどうかと思うと言った筈だ。確かに戦興業はフロニャルドの特徴であることは認めるが、それ以外だっていいところはたくさんある。まずは落ち着いてからの方がいいと思ったんだがな」
「お前はそういうところはめんどくさいというか融通が利かんな。よいではないか、来て早々戦があっても」
「やっぱりレオ様もそう思います? 僕もそう思ったんですけど……」
「……戦馬鹿共はこれだ」
「ソウヤ様も人のことをおっしゃれないかと……」
予想外なミルヒからの指摘に意外そうに彼女を見つめた後、ソウヤは肩をすくめた。
「姫様からそう言われるとは……。まあ違いないですし否定できないですけどね」
「とにかく……なんだっけ? そうそう、2人も戦に参加したら、ってこと。全然危険はないし楽しいし」
シンクの提案に女子2人が顔を見合わせる。「自分が楽しいことは人に教えてあげないと勿体ない」というのがシンクの信条だということはわかっている。そして彼がここまで言うのだから、きっと本当に楽しいものだろうということもわかる。だがそれで迂闊な返事をしてとんでもないことに巻き込まれないとも限らない。いや、普段そんなことは滅多にないが、ここは異世界だ、ないとは言い切れないだろう。
「そう言われても実際見てみないとわからないし……」
「ほらソウヤ、やっぱり僕達がそうだったみたいにいきなり戦でよかったじゃん」
「……はいはい、俺が悪かったよ」
「まあまあ……。戦も1日中やるわけではありませんし、少しご覧になられてそれから、というのはいかがでしょう?」
「そうじゃな。特にナナミの能力についてはミルヒの『星詠み』でアイアンアスレチックの様子を見させてもらったからな。盛り上げてくれることは間違いないじゃろ」
レオからの称賛の声を受けて「いやあそれほどでも……」とナナミが照れた表情を浮かべる。だがその傍らのベッキーはナナミに合わせて笑顔を浮かべたものの、どこかぎこちない様子だった。
シンクやナナミが楽しめる環境。つまり――自分はこれまで同様「見ている側」になってしまうということだ、と彼女は直感していた。それも嫌ではない。だが本音を言えば、2人と一緒に遊びたい、出来ることなら一緒に思いっきり体を動かしたい、という思いはあった。しかし優れた身体能力を持つ2人と違ってベッキーは良くも悪くも一般人だった。2人が熱中するようなアスレッチック遊びには到底入っていけそうにない。
本心では異世界、ということでもしかしたら自分も魔法が使えるんじゃないか。そんな通常ではありえないような希望も僅かに抱いていた。しかしこの異世界は思った以上に自分がいた世界と似ているらしく、やはり絵空事でしかなかったのだ、と軽い諦めの気持ちも持っていた。
「レオ様の太鼓判があるなら間違いないよ! ナナミも参加しようよ」
それでも、相変わらず空気の読めないこの幼馴染は心から楽しそうだった。なら、その笑顔を見られるだけでいいか、とベッキーは思うことにした。
「まあまずはその戦、っていうのを実際見てからじゃない? それにそれまでは時間があるんでしょう? だったらシンク、ちゃんとあたし達にこの世界を案内してよね」
それに戦に参加できなくてもこの世界の観光やら旅行は十分楽しめるだろう。欲張りすぎると罰が当たる、異世界への旅行という普段出来ないことをしてるだけでも、十分非日常な体験が出来る。重ねて、ベッキーは自分にそう言い聞かせる。
「そうですね。観光で外泊、ということになる時まではこのフィリアンノ城で生活してもらって構いませんので。ご不便をおかけしないよう、おもてなしさせていただきます」
「ありがとう、姫様」
ベッキーはミルヒに微笑み返した。
次いでベッキーは手元のティーカップを口に運ぶ。やはり美味である特産のお茶で喉を鳴らしつつ、その時自分と陽の光の間を何かが横切ったように一瞬陰ったことに気がついた。
空を見上げる。そこに巨大な鳥が数羽舞っているのが目に入った。
「……鳥?」
彼女の声に全員が上を見上げる。その鳥は予想よりも巨大で、それこそ人を乗せることが出来るほどだった。その鳥が段々と高度を下げてくる。
「あれは……」
「おーい、ミルヒ姉、レオ姉!」
レオの言葉の続きをかき消し、空から2人の領主を呼ぶ声が聞こえてくる。
「この声……」
「クー様ですか?」
ミルヒがそう言ったとき、鳥は展望テラスに横付けするように高度を合わせた。そこからとがった耳とふわふわとした大きな尻尾を持つ少女が飛び降りてくる。
「いかにも! ウチじゃ!」
突然の来訪者に全員の視線がその彼女に集まった。この場で彼女を知っているのは先ほど名前を呼ばれたミルヒとレオだけであったが、そんなことを全く気にかけていない様子でその少女はレオの元へと駆け出した後で話し出す。
「もうミルヒ姉もレオ姉もひどいのじゃ。全然構ってくれないから寂しくてつい来てしまったのじゃ」
「お久しぶりです、クー様」
「久しいのう。しかしお前は留学していたと聞いたが。いつ戻ってきたんじゃ?」
「つい今さっきじゃ。本当は公務もあるにはあったんじゃが……。このままでは寂死してしまうとキャラウェイを説得して出てきたんじゃ」
テラスに更に数羽の鳥が横付けされる。その先頭の鳥、ブランシールに乗っていたキャラウェイは困った表情を浮かべて会話の中心へと視線を送った。
「ああ、こいつを紹介しておくか。クーベル、知ってるかとは思うが、ガレットで勇者召喚を行ってな。こいつが我がガレットの勇者、ソウヤじゃ」
勇者、という単語に一瞬彼女の眉が動く。そして明らかに歓迎していないような視線でソウヤを見つめた。
「こいつが勇者……。こいつのせいでウチのレオ姉が取られたのじゃ!」
一方的に敵視した様子で彼女はソウヤを指差す。売り言葉に買い言葉、こうやって敵意を向けられれば、ソウヤの対応もそれ相応のものとなる。
「……レオ様、誰です? このちびっ子」
「ちび……!」
思わずレオが小さく吹き出す。だが言われた当の本人は一瞬驚いた後、信じられないとばかりに眉をキリキリと吊り上げた。
「口を慎め無礼者! ウチはパスティヤージュ第一公女、クーベル・エッシェンバッハ・パスティヤージュじゃぞ!」
「……パスティヤージュ? ああ、隣国の芸術の国か。……それはさておき、第一公女ってことは王族でしたか。そりゃ失礼しました」
全く悪びれる様子のないソウヤにますますクーベルは憤慨する。
「なんじゃその態度は! このあんぽんたん勇者!」
「まあまあクーベル、こいつは少々口が悪い故、ここはワシの顔に免じて勘弁してはくれんか?」
「うう……やっぱりウチのレオ姉はこいつに取られたのじゃ……。ウチは悲しくて悲しくてどうしたらいいかわからないのじゃ……」
「いや、別にワシはこいつに取られたとかそういうわけでは……」
「あながち間違ってないんですし、訂正するのも面倒だからそのままでいいんじゃないですか?」
やはり反省の色が全く見られないソウヤに再びクーベルが噛み付いた。
「キーッ! その態度、本当に気に食わないのじゃ! いつかきっとぎゃふんと言わせてやるのじゃ!」
「ぎゃふん。言ったぞ」
「あー! もうムカつくのじゃムカつくのじゃー!」
地団太を踏むクーベルを見かね、レオがソウヤに「大人気ないからその辺にしておけ」と声をかける。その様子がますますクーベルを刺激する結果となり、思わずミルヒが「クー様、落ち着いてください」と心配そうに話しかけてきた。
ミルヒの説得の甲斐あって、ようやくクーベルが落ち着きを取り戻す。が、キッとソウヤを睨みつけた後で彼女はミルヒの方へと視線を移した。それに対してソウヤは肩をすくめてやれやれとため息をこぼす。
「それで、ガレットのおたんこなす勇者はわかったが、そっちにいるのがミルヒ姉が召喚した勇者か?」
「はい。我が国の勇者シンクです。それからお友達のレベッカさんとナナミさん」
「あーもう2人ともひどいのじゃ。そうやって勇者召喚とか楽しそうなことをやって、それでウチだけ除け者にして……」
「別に除け者にしたわけではないぞ。ただお前は次期期領主になるための勉強として留学していると聞いていたからな。邪魔したら悪いと思っただけじゃ」
「それが除け者なんじゃ。ミルヒ姉もレオ姉も立派な領主で、ウチだけ見習い領主だから、結局ウチだけいつも除け者なのじゃ……」
クーベルが口を尖らせて項垂れる。その様子をずっと見ていたベッキーは、あることに気づいていた。
彼女は自分に似ているのかもしれない。シンク、ナナミという仲がいい存在がいながら、その実2人の背中を見守ることしか出来ない自分。そんな自分と、憧れの2人が身近にいながらその背を追い続ける小さな少女の影を思わず重ねてしまっていた。
だから、ベッキーにはクーベルのわがままともいえるその態度を、なぜがいたたまれない目で見つめていた。自分はある種諦めに近い感覚で割り切ってしまった感情、だがまだ幼い彼女にはそれを割り切ることが出来ないでああやって駄々をこねてしまっている。いや、いっそ割り切らないでほしい。その大きな2人の背を追い続けてほしい。
会ったばかり、まだ口を利いてもいない。なのにベッキーはそこまでクーベルのことを気にかけていた。彼女は一人っ子で兄弟はいない。だからだろうか、まるで妹のことのようにクーベルのことが見えていたのだった。
なおも落ち込んだ様子のクーベルを見かねて、レオが仕方ないという風に口を開く。
「じゃあなんじゃ、クーベル。実は明後日ビスコッティとガレットで戦が予定されているが、パスティヤージュも参加するか?」
その助け舟にクーベルは飛び乗った。目を爛々と輝かせてレオを見つめる。
「いいのか!? それは是非とも参加したいが……。ああ、そうじゃ!」
そこまで言ってクーベルはビシッとミルヒを指差した。
「な、なんでしょう、クー様……?」
「ミルヒ姉は勇者を3人も召喚しておるんじゃろ?」
「えっと、それは違うんですが……」
「3人もいるなら、ウチに1人貸してくれ!」
もはやミルヒの言葉も耳に入らずクーベルは一方的に話を進めようとする。
「え!? あの、貸し借りとかそういうことは……」
「ビスコッティは勇者3人、ガレットにも勇者がいるのにパスティヤージュだけ勇者無しでは勝負にならんのじゃ! だから1人借りたいのじゃ!」
「えっと……」
「あ、あの!」
その時、会話に割って入ってきたのはベッキーだった。
「あたしは勇者じゃないんですけど……でも戦に参加することって出来ますか!?」
「ベッキー……?」
先ほどまで乗り気ではなかったはずのベッキーの心変わりにナナミが驚いたような声を上げる。
ベッキー自身、反射的に名乗り出ていた。少し前に抱いた親近感、妹を見ているような感覚……。それらが、本能的に彼女を突き動かしたのだった。
自分に何が出来るかわからない。でも、この小さな、一目見たときから妹のように思えた少女のために力を貸してあげたい。そんな決意と不安の入り混じった気持ちで、ベッキーはクーベルを見つめる。
「おお! 協力してくれるのか? お主、名は?」
「レベッカ・アンダーソンです。……あ、でもあたしはシンクやナナミみたいに運動がすごく出来るってわけじゃないけど……それでも大丈夫って言うなら……!」
「フロニャルドの戦は運動能力が全てじゃない」
そこで口を挟んできたのはソウヤだった。名乗り出てはみたものの、最後の一歩を踏み出しきれないベッキーを説得するかのように、彼は続ける。
「紋章術……まあ要するに魔法がある。それはイメージが強ければ強いほどいい。……ベッキー、小説を読むのが趣味だろ? 同じ趣味を持った俺も紋章術の制御は得意な方だと自負してる。だったら、ベッキーにだって十分この世界の戦を楽しむことは出来ると思う」
「ソウヤ……」
「なるほど、おたんこなす勇者もたまにはいいことを言うらしいな。ぼんくら勇者に格上げしてやろう」
「……どっちもかわんねえだろ」
「冗談はさておき……。レベッカよ。我がパスティヤージュには『晶術』という独自の輝力運用技術が発達しておる。この晶術はいわゆる術士タイプと非常に相性が良い。そこのぼんくら勇者の話から察するに……お前は術士タイプとしての素養があるようじゃ。それに……お前の目はウチと似た目をしてる気がするのじゃ。レベッカとなら、ウチは一緒に楽しく戦場を飛ぶことが出来るような気がするのじゃ……!」
「クーベル公女……」
名を呼ばれたクーベルが首を横に振る。
「クーでよい。……レベッカ、レンタル勇者として、我がパスティヤージュで共に戦ってはくれないか……!?」
「クー様……あたし……!」
そう言って口を一旦閉じた後、何かを決心したようにベッキーはシンクとミルヒの方を向いた。
「……シンク、ナナミ、姫様、ごめん。あたし、クー様と一緒に戦に参加してみたいの。だから……」
「ううん、全然。その方が楽しそうだし僕は構わないよ。ね、姫様?」
「そうですね。レベッカさんともう少しお話したいという気持ちはありましたけど……。パスティヤージュはお隣ですし、戦が終わればまた時間を取ることも出来ると思いますので」
「あたしも反対する理由無いよ。まあベッキーが急に言い出したのはびっくりしたけどさ。……でももし戦う、ってことになったら手加減はしないからよろしくね」
「みんな……ありがとう」
軽く頭を下げるベッキー。その後で彼女はソウヤの方を振り向いた。
「……ソウヤもありがとう」
「俺は何もしてない。礼を言う相手はこのちびっ子だろ」
「ちびっ子と言うな、ぼんくら勇者!」
どうやらクーベルとソウヤはあまり馬が合わないらしい。そんな2人のやり取りに思わずベッキーは笑顔をこぼした。
「……そうじゃ、いいことを思いついたぞ」
そしてここで終わらないのがフロニャルド、さらにはこの領主達である。なにやら悪そうな笑みを浮かべたレオが笑い声を噛み殺している。大抵こういう顔をされた後はろくなことがない、とわかっているソウヤは反射的にため息をこぼしていた。
「……何かよくないことでも思いつきましたか、領主様?」
「よくないことではない、いいことじゃ。……ナナミよ」
「はい?」
「お前の能力はよくわかっておる。ここはひとつガレットから戦に出てみないか? そうすればシンクはビスコッティから、お主はガレットから、そしてレベッカはパスティヤージュからと、まさに3国で争うにふさわしい戦になると思わんか?」
その場の全員が顔を見合わせる。これには「よくないこと」と決め付けていたソウヤも意外そうな表情を浮かべていた。
確かに悪ふざけの類、と見ればそうかもしれない。だがアイデア自体は非常に面白い。なるほど、それなら3人の思い出としては非常に印象的な形で残るだろう。強いて不満を上げるとするなら、自分が蚊帳の外になる可能性が高い、ということぐらいだ。しかしソウヤはその辺りは大人、というよりは達観している。クーベルのように除け者にされたからと腹を立てるような人間ではなかった。
「……あんな子供がいたずらを思いついたような顔をした後にまともな意見を出すこともあるんですね」
「貴様、ワシをなんだと思っておる。……まあよい。ともかくそれはどうじゃ、ナナミ?」
レオからの提案にナナミは破顔する。
「あたしは大歓迎です! せっかくの異世界、本物勇者のシンクとレンタル勇者のベッキーとまとめて相手しますよ! 偽勇者として!」
「おい、偽勇者ってネーミングはいいのか?」
ソウヤがやや眉をしかめてナナミに問い返す。
「だってしょうがないじゃない。ガレットには本物勇者のソウヤがもういるわけだし。で、シンクもソウヤと同じく本物勇者、ベッキーもレンタル勇者、なんて言われてたらあたしにもそういうのがほしいじゃない? だから偽勇者……それがまずいっていうなら、横文字でイミテーション・ブレイバー!」
「なるほど。ナナミよ、お前もソウヤに似てそういう洒落た名前をつけるのが好きらしいの。どうじゃソウヤ、そのネーミングは?」
「……まずい、偽勇者の方が本家よりかっこよくなっちまいそうだ、それ」
その手の小説を読み、自身の紋章術の技名にも横文字を用いているソウヤとしては魅力的な名前だったらしい。
「ともかくガレット側としてあたしは戦うつもりです。いい、シンク、姫様?」
「僕も全然! 楽しいことなら賛成だから。姫様もいいですよね?」
「もう当のご本人達がこの様子なので……私が口を挟む余地はありませんね」
困ったように笑顔を浮かべつつ、ミルヒも了承した。
「そうと決まればナナミ、さっそくガレットに参るぞ。明後日の戦までにルールと紋章術の使い方、それにコンディションの調整をするとよかろう。幸いソウヤは紋章術の扱いに長けている。そのことはこいつから学ぶとよかろう」
「……多分この姉ちゃんもシンククラスの天才ですから、帰り道に原理を教えたらあとは普通に使いこなすと思いますけどね」
立ち上がったレオに続き、ソウヤも悪態をつきつつ立ち上がる。
「ではミルヒ、すまないがワシらは帰ることにする。戦が3国合同興業になった件はあとでうまく調整するとしよう。明後日の戦、楽しみにしておるぞ」
「ウチらも帰るぞ。これからレベッカと共に戦のために訓練なのじゃー!」
クーベルも乗ってきた大型鳥のブランシールに飛び乗り、ベッキーもその後ろへと乗った。
「なんだか……あたしの提案ですごいことになっちゃったけど……」
「いいんだって、気にしないでベッキー。あたしは楽しければ何でもいいんだし」
「そうそう。じゃあ戦の時にまた会おうね!」
そのシンクの別れの言葉をきっかけに、シンクの幼馴染達がそれぞれの国へと分かれていく。
来た当初はこんなことになるとはシンクは全く思っていなかった。だがそれでも構わない。楽しければなんでもオッケー、それこそが彼のスタイルなのだ。観光やらなにやらはその後でやればいい。むしろガレットとパスティヤージュについてより情報が入るであろうから、観光するにしてもむしろプラスだろう、とポジティブ思考の彼はそこまで考えていた。
とはいえ、せっかく客人を迎える準備をしてくれていたミルヒには少し申し訳ないことをした、とも感じていた。だから形式だけでも一応謝っておこう、とシンクはミルヒの方を振り返る。
「姫様、なんだか急にこんなことになっちゃって……。せっかくおもてなしの準備をしてくれてたのに、すみません」
「いえ、気にしないでください。この方が盛り上がるのは間違いないですから。……でもシンク、最後には必ずビスコッティが勝ちましょうね!」
ミルヒからのその要求に、ビスコッティ勇者のシンクは力強く握りこぶしを作って応えた。
「勿論です! 必ず勝ってみせますよ! だって僕は……勇者だから!」
珊瑚……コーラル。3月の誕生石。原作中もこの呼称あり。
活動報告中で言った通り、放送前に勝手に持ったイメージのクー様を書いてみたくなった、2人もフロニャルドを訪問したことに触れておきたかった、ということで殴り書いたものになります。何気に新作だったり。