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ソウヤがガウルから預かった親書をミルヒに届けて8日後。その親書にあった通り、今日はガレットとビスコッティの戦の日である。久しぶりの国外との戦ということでビスコッティは大いに盛り上がっている。無論、戦好きであるガレットも言うまでもなく同様だ。
そうでなくてもガレットとしては気合が入らざるを得ないだろう。先代領主、レオの夫であり元勇者でもあるソウヤの放送される復帰戦だ。加えてそのソウヤが指揮する遊撃隊のお披露目となれば、なんとしても勝利によって華を添えたいところであろう。
しかしそれはビスコッティも同じ。久しぶりの国外戦、新たな区切りとなるこの戦いは幸先よくスタートを切りたい。両国とも譲れない戦いとなるこの戦は5年前の宝剣を賭けた大戦ほどではないにしろ、ここ数年ではかなりの盛り上がりを始まる前から見せていた。
『皆さんこんにちは! ガレット国営放送、フランボワーズ・シャルレーです!』
『こんにちは、ビスコッティ国営放送のエビータ・サレスです』
『ここからは久しぶりの開催となりましたビスコッティとガレットによる戦の模様をビスコッティ、ガレットの両国営放送がお送りしていきたいと思います!』
そのため、放送も今フランが言ったように両国の国営放送が担当する大きな形になっている。大抵は主催国、あるいは前の戦の戦勝国が務めるのだが、前回の戦から間が空いたことと、何より戦の規模が大きいからというのが理由であった。
『先ほども述べました通り、ビスコッティとガレットによる戦は久しぶりとなります! およそ半年振り……ですかね、エビータさん?』
『そうですね。前回の戦からはそのぐらい経っているかと思います。……ですが! 久しぶりということでビスコッティは気合十分! 今日は約1万人という多くの皆さんが参加してくださっています!』
『なんのなんの、ガレットも負けてはいません! こちらも参加者数は約1万! 場所も5年前の大戦と同じくチャパル湖沼地帯が主戦場、ここ最近では見ることのなかった規模の大きな戦となりそうです!』
5年前に起こった大戦の参加者数は両国とも約2万人、そこからすれば半分、という印象かもしれない。しかしそれは国の宝剣を賭けた、という戦いである。根本的に異なるといっていい。そういう観点からすれば両国とも万単位の参加者というのは十分規模が大きいといえるだろう。
そんな状況を知っているだけに、実況に耳を傾けていたソウヤは思わず表情を渋らせずにはいられなかった。久しぶりとはいえ、言ってみれば平常の戦と変わらない。そのはずなのにこの参加者数。自惚れるつもりはないが、どうにも自分に過剰な期待がかけられているように感じる。
『そして今回はあのガレット元勇者、今では前領主伴侶となりましたソウヤ・ガレット・デ・ロワ卿の雄姿を久々にお届けできる放送となります! 惜しくも先日の夜戦は放送が間に合わず復帰戦初戦をお送りすることはできませんでしたが……その分たっぷりと活躍していただきたいと思います! 何より卿が指揮する遊撃隊はこの戦が初お目見え! 1年の休養から目を覚ました【蒼穹の獅子】はどのような活躍をしてくれるのでしょうか!』
そう思っていた矢先のこのフランの煽りようだ。気づかぬうちに反射的にソウヤはため息をこぼしていた。もっとも、こういった紹介がされるだろう、自分に期待がかけられるだろうというのはある程度予想していた。が、予想外の出来事が昨日になって彼の耳に入ってくることとなる。
『さらにさらに! 解説として素敵なゲストにいらしていただいています! そのデ・ロワ卿の愛妻にして前ガレット領主でもあります、【百獣王の騎士】レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ閣下です!』
ソウヤが頭を痛めているのは他ならぬこれであった。昨晩、翌日の戦を控えて帰ったソウヤにレオは「ビオレにフランから解説のオファーがあったから、代わりにワシが受けておいたぞ」とあっさりと告げたのだった。何が代わりなのか、そもそもお前じゃなくてビオレさんへのオファーだろう、とソウヤは猛抗議したがレオは耳をパタと閉じて全く聞く耳を持たない。こうして頭痛の種を増やし、ソウヤは今日の戦に臨むこととなってしまったのだった。
『うむ。久しいの、皆の衆。レオンミシェリじゃ!』
レオの姿が映像板へと映し出される。それだけでソウヤの視界に入っていた騎士達のほとんどが沸き立つのがわかった。やはり人気は相変わらず、確かに視聴率を取るゲストとしては最適かもしれない。
『フラン、貴様も久しぶりじゃな』
『はい! お久しぶりです、閣下! お元気そうで何よりです!』
「相変わらず閣下かよ、お前の呼ばれ方は……」
思わず独り言をこぼす。まあもはや閣下というのは敬称というより彼女の愛称、と言ってもいいだろう。厳密にいえばガウルにつけられる殿下と異なり閣下というのはそこまでの意味は持たない。が、領主を退き今では子を産んだ女性が「閣下」などと呼ばれるのはどうにもおかしくないか、とソウヤは心の中で1人突っ込んだ。
「だってそんなこと言ったってレオ様はやっぱり閣下じゃないですか」
自慢の聴力でそのソウヤの独り言を聞き取ったのだろう、遊撃隊副隊長のベールが話しかけてくる。
「いい加減姫様とか呼ばれろ、と思うがな。俺は姫様をめとれた、と夢を見させてくれたっていいだろう。それにその呼び方は本人が気に入っていない、というのなら俺だってデ・ロワ卿なんて呼ばれ方はあまり好かない」
「そうなんですか? かっこいいと思いますけど……」
「卿、なんてのはやはりダルキアン卿が1番しっくり来るだろう。……まあ入婿したお陰で王族とはいえ、別に王位を継ぐとか政治に関わるとかそんなつもりはさらさらなくて騎士扱いされてるような俺だ、立場的にはあの人に似てるのかもしれないから、卿がもっとも適切なのかもしれないけどよ」
実際フロニャルド永住によって勇者でなくなった彼は「勇者ソウヤ」から別な呼称を提案されたのだが、「ソウヤ殿下」とか「ソウヤ閣下」などと言われると鳥肌が立つ、と本人が拒絶していた。本人は「殿」程度でいいと主張したが却下され、結果として今彼が言ったとおり「卿」という敬称に落ち着いたわけだが、そこでガウルが「姉上と結婚したらデ・ロワ卿に呼称を変えろ」と言い出した。王族の人間、ということをちらつかせているようで、無論ソウヤはそれを拒んだが本人の意思と裏腹に呼称は広がり、結局ソウヤが諦めたのだった。
ちなみに、ソウヤが引き合いに出したブリオッシュ・ダルキアン卿はビスコッティでは「自由騎士」という立場である。もっとも、ほぼ籍を置いているだけに過ぎない状態であるらしい。彼女の剣の腕前はビスコッティどころか大陸一とも言われているが、騎士団の責任を一様に担っているのはエクレールの兄、ロランである。さらに「自由騎士」の名の通り、常にビスコッティに滞在しているわけではなく、現在のように諸国へと足を伸ばしていることもしばしば。しかし実際には「少々長生き」という彼女の弁の通り意見を求められることは多いために、発言権はそれなりにあるらしく重要な会議の際に顔を出すこともあるという話だった。
今の自分の立場に近いとソウヤは思っている。一応入婿王族ということである程度の発言権はあるが、特に王政に関わる気もないので現場勤め。過剰な期待をかけられてそういった眼差しで見つめられるのは出来れば遠慮したいが、それでも楽な立場といえるだろう。レオやガウルからの配慮もある。それについては感謝をしている。だからブリオッシュに似た立場と思った時に「卿」の敬称を了解し、ガウルからの「デ・ロワ卿」の呼称も渋々受け入れた、という面もあった。
『いやあ夫であるソウヤ殿の放送復帰戦に妻の閣下が直々に解説にいらっしゃってくださるとは……今日は盛り上がること間違い無しですよ!』
『そうか? ワシの解説よりもあいつの活躍次第じゃろ』
『でしたら保障済みでしょう! あの2人の戦いは勇者時代から名勝負揃いですから!』
相変わらずこいつは、とソウヤは再びため息をついた。基本的にテンションは低めなソウヤにとって常にハイテンションで実況するフランは正反対といってもいい。放送を盛り上げるためには必要なことだろう。だが、その矛先を向けられるのはやはり未だ慣れているとは言い難い。
とはいえ、ここまでで止まってくれればまあいいか、と思っている面もあった。彼にとって触れられたくない話題である「戦績」についてノータッチだったからだ。
「デ・ロワ卿」といういささか仰々しい呼称で呼ばれることになったソウヤだが、それを受け入れたからにはその呼称に副うだけの活躍をしなくてはならない、と考えていた。しかし今回の戦でも目玉とされている「勇者対元勇者」の戦いだが、これまでの戦績はもはや五分五分とは言い難い状況まで来ている。
ソウヤのここまでの通算成績は7勝12敗8分。引き分けのほとんどは負け勝負であったが、他の隊の状況変動による撤退で難を逃れるという形で拾ったものであり、敗戦にカウントしてもなんら差し支えがないほど。つまりソウヤは大きく負け越していると言っても過言ではないのである。
自分とシンクとの間に決定的な差をソウヤは感じていた。それを強く感じたのは3年前。それまで5勝6敗2分とほぼ五分だった戦績がその年1年で6勝10敗4分と変化し、その年は大きく負け越した。元々自身の戦闘スタイルの非力さについては重々承知しているつもりだった。だがそれを持ち前の輝力のコントロールと小手先の戦闘技能によってなんとか取り繕ってきた。しかし成長著しく才能豊かな当時16歳のシンクと、成長のピークを終えつつある18歳の「凡人」のソウヤとでは、もはや付け焼刃な技術のみで埋めることは出来ないほどの差が開いていた。
もっとも、それを痛感しているのはもしかしたら当の本人だけかもしれない。相変わらず周りは「勇者対元勇者」と盛り立てるし、シンクにぐうの音が出ないほどに負けたとしても「今回はたまたま調子が悪いだけ」ということで片付けられる。ソウヤとしては複雑な気持ちでその評価を受け取っていた。見限られるならそれもまたいい。そうすれば過剰な期待は受けずに済む。
が、幸か不幸か人々はまだ自分への期待を抱いている。ならそう評価されているうちは、それには応えなければならない。その責任感で自らを奮い立たせ、かつての「勇者対勇者」、今では「勇者対元勇者」の看板を廃れさせないように戦い続けてきた。
『さて、そろそろ戦直前のガレット軍の様子を見てみましょうか。デ・ロワ卿の様子を映せるでしょうか、現場のジャンさん!?』
ソウヤの考えなど全く意に介さず、放送は進んでいく。どうやらガレットの様子を映すらしい。自分も映るだろうが、別に何かする必要もないだろう、とソウヤは表情を固くし、向けられるカメラに対しても無反応を決め込むことにした。
『はい! こちら現場のジャン・カゾーニです! 今回の主戦場となりますチャパル湖沼地帯に陣取りました本隊に、復帰したばかりのデ・ロワ卿とその指揮する遊撃隊の姿が確認できます! 見えますでしょうか、1年ぶりの戦場登場となるこの凛々しい表情! 指揮するのが数の多くない遊撃隊ということとこれまでの戦い方を察すると、後方ビスコッティ本陣のスリーズ砦へ進攻するかと思われましたが、あくまで本隊に随伴する形です、少々意外に感じます!』
『そうですね……。閣下、これはどう見ますか?』
『ふむ……。どうやらあくまでシンクとの戦いを選ぶようじゃな。確かに少数部隊による奇襲、強襲、相手の隊の裏に回りこんでの挟撃といった類はあいつの得意分野じゃが……。今回何を期待されておるかわかっておるようじゃ。じゃからわざと本隊に随伴して自分の居場所を知らせて相手を待つ……。なるほど、普段は堂々と振舞えない、だとか、自分は王足り得る器ではない、とか言っておるが、段々と威風を纏ってきたのではないか?』
「……んなわけあるかよ」
映像板から流れてきたレオの解説に対してボソッと呟き、ソウヤは妻の意見を一蹴した。レオの言うとおり今回は正面からぶつかるつもりではいる。だがそれはやむなくであり、わざわざ「遊撃隊」という名で少数精鋭の部隊を率いているのだ、本来なら言われてるように敵本陣のスリーズ砦への進攻か、ガレット本陣のグラナ砦付近に身を隠して進攻してきたビスコッティ軍を挟撃する、という方向で事を運びたかった。現実主義者として、いかに勝つか、に重点を置くソウヤらしい発想とも言える。
「まあ……私は正々堂々好きですよ?」
そんなソウヤにベールが語りかける。やはり聞こえているらしい。つくづく聖ハルヴァー人の聴力は侮れない。
「それにソウヤさんは正面からぶつかったって十分勝てる力を持ってるじゃないですか?」
「何度も言ってるだろ、それは過大評価だと。俺が1対1で勝てると確証を持てるのはせいぜい千騎長クラスがいいところ、万騎長クラスになってくると段々と雲行きが怪しくなってくる。五分五分も自信が持てりゃいいほうだ」
「そうですか? そうは見えませんが……」
まあお前には勝てるかもしれないがな、と付け加えようとしてソウヤはその言葉を飲み込んだ。確かに今では万騎長クラスとはいえ、同じ弓兵のベールとの相性は悪くないだろう。だが4年前に
『そんなデ・ロワ卿の相手はどうなってるか、こちらも現場のパーシーさんを呼んでみたいと思います!』
やはり実況の方はソウヤの心中など露知らず、今度はシンクの方へとカメラを向けるらしい。自身からフォーカスが外れたとわかり、ソウヤは大きくため息をこぼした。
(ま……うだうだ言っても始まらない。こんな俺に期待をして見てくれてる人をがっかりさせないような戦いぶりだけはするか)
そう心を決め、一度緩めた心を再び引き締めなおして、ソウヤは映像板の方へと目を移した。
◇
『はい、こちらビスコッティ陣営前のパーシー・ガウディです! 今回久しぶりの登場となりますデ・ロワ卿の相手といえばこの人、勇者シンクでしょう!』
フラン同様、ハイテンションの突撃系アナウンサーであるパーシーがビスコッティ陣営を紹介し始める。彼女の言葉通り、シンクの姿が映像板に映し出されるとビスコッティ軍から歓声が上がった。無反応を決め込んだソウヤと対照的、シンクは握りこぶしを作って見せ、そのカメラに応える。
『ご覧ください、今回も自信満々の様子! 既に名コンビとなって久しい親衛隊長と今日はどんな活躍を見せてくれるのでしょうか!?』
シンク、次いで傍らで憮然とした表情のエクレールを映した後で映像は切り替わった。それを確認してシンクは緊張を解き、傍らのエクレールへ視線を移す。
「どうしたのエクレ、不機嫌そうだけど?」
「別に。いつものことだ」
特段声色を変えることもなくエクレールは短くそう返す。言葉通り、特に彼女は不機嫌というわけではない。ただ、
確かにシンクとエクレールはビスコッティ切り込み隊の名コンビであった。が、私情を挟まなければ、いや、シンク側から見た場合は、その評価で合っているだろう。つまりエクレール側はそうはいかない。彼女はシンクを好いていた。自身の気持ちを伝える決意まで固めていた。
しかしその間際でのミルヒとの縁談により、彼女のその機会は永遠に失われることになる。なぜなら、自分の告白にイエスと言われれば、それがそのまま彼女の主君への背徳ともなるからだ。結果涙をのんで身を引いた彼女だが、戦ではその己の心を殺して、従来通りシンクと共に戦うことを決めていた。その方が見ている側が盛り上がる、何より当の本人が彼女の気持ちに全く気づいていない、そしてそれ以上に彼女自身、やはり戦場でシンクとともに戦うのは私情を差し引いても心が躍るからだった。
それにしても 天才的なまでに鈍感だと彼女でさえも思う。髪を切ったときだって「イメチェンだ」の一言に対して何も突っ込んでこなかったシンクに対してはその評価で間違っていないだろう。
だからこうして彼女が髪を切って、つまりシンクに
「もしかして緊張してる? 久しぶりの大きな戦だからさ」
「貴様と一緒にするな。緊張などするか」
「そう? 僕も緊張はしてないよ。むしろ……久しぶりにソウヤと戦えるってワクワクしてるけど」
相変わらずの戦馬鹿だ、とエクレールは思う。だが、だからこそ彼の隣で戦うときは彼女も興奮を隠し切れないのだった。派手好きでええかっこしいの勇者だが、その目を奪われる活躍は見事と言わざるを得ない。そんな彼と共に戦場を駆け抜けるのは、エクレールにとっても喜びに他ならなかった。
「そのあいつだが……妙だな。これまで堂々と姿を晒してきたことがあったか?」
「うーん……。あんまりないかもね。大体独立行動取ってたし、あとは本隊と一緒でも後方待機で弓隊指揮ってのが多かったと思う。今回はそういうのなしで僕とぶつかる、ってことでいいのかな」
「とにかく一応は警戒しておく。……何せ奇襲と騙まし討ちの類はあいつの専門分野だ。正面から来る、と見せかけて何をやらかしてくるかわかったものじゃない」
「……エクレはソウヤに対して辛辣だよね」
「お前が無警戒すぎるだけだ」
身も蓋もない発言にシンクは苦笑した。事実、彼女の言うとおりシンクはそういうことに対しては警戒心が薄く、うまく手玉に取られてしまうことがままある。が、それでも戦績はシンクの方が上回っている、ということは、その策をめぐらせてなおソウヤは五分の状態まで持っていけていない、ということを裏付けていることに他ならない。
「……まあ貴様は余計な気など回さなくても、持ち前の能力でなんとかしてしまうんだろうがな」
シンクに聞こえないようにエクレールはポツリと呟いた。エクレールと比較しても今やシンクは五分とは言いがたい。自身も成長しているという確証はある。しかしそれ以上に彼の成長は著しく、あのブリオッシュも稽古をつけるときは本気に近いものがある、と言うほどだった。
そんなシンクの力を他の誰よりもよくわかっているソウヤが、いくら久しぶりの戦で盛り上がっているとはいえ、無策で真正面から仕掛けてくる、というのはエクレールとしてはどうにも考えにくくあった。相手は常に勝ちに来る、という姿勢を知っているからだ。
「ともかく、あいつの隊の動きに警戒しつつ、私達は兄上の隊の左翼側につく。こちらの狙いはポイント勝負、あくまで本陣は狙わずにこの湖沼地帯で勝ちを取ることにある。その上でこちらの本陣を守りきれば勝利に繋がるわけだからな」
「わかってるよ、エクレ。要するにソウヤも含めて来る相手を全部薙ぎ払う! ってことでしょ?」
「……何もわかってないように感じるが、まあそうだ」
別にいいか、とエクレールは開き直った。しちめんどくさいことを考えるのは自分の仕事だ。こいつに何を言っても大して効果はないだろう、と心中でぼやく。
『さて、それでは間もなく戦開始となりますが……ここで最終確認です。兵力はどちらも1万、勝利条件は拠点制圧ですので、どれだけ点差が開いていようとビスコッティ側本陣スリーズ砦、ガレット側本陣グラナ砦が制圧された時点で勝敗が決まります! ですが……レオ閣下、拠点への攻撃はどうみますか?』
『ないじゃろうな。頭数もほぼあっておるし、少数の突撃もないと思う。おそらく双方とも真っ向からの激突じゃろう。拠点が制圧されるころにはもう勝敗は決しておろうよ』
『なるほど! つまり正攻法による戦いになる、という予想ですね!』
それに解説のレオも正攻法、と見ているのならおそらくそういう流れになるだろう。なら大分気は楽だ。自分達の今回の相手も後方への突撃ではなく、あくまでこのメインの戦場となるチャパル湖沼地帯で戦うことになるだろう。見失う、という不安要素だけはぬぐえる。
「……そろそろ始まるか。気を引き締めろ」
余計な心配をする必要はない。あとはいつも通り戦うだけ。戦の間は自身の心のしがらみだのなんだの、そんなものは忘れることが出来る。ただ純粋に、「戦友」に背を預けることができるのだ。
「うん!」
そんな「戦友」のシンクは普段どおりの笑顔で答える。鈍感の能天気め、と一瞬彼の性格をのろうが、だがそのおかげで戦では共に戦うことが出来るのか、と思い直すことにした。
シンクとエクレールが空の映像板を見上げる。戦開始の時は近づき、間もなくカウントダウンに入るところだった。
『5……4……3……2……1……』
両軍の兵士達の緊張感が高まる。約半年ぶりのビスコッティとガレットの戦。ソウヤ・ガレット・デ・ロワ卿が復帰後初の放送。そして指揮する遊撃隊が初お目見え。
舞台は整った。久しぶりの規模の大きな戦に参加者、視聴者、共に期待の視線が交錯し……。
その戦いの幕が切って落とされる――。
『戦、開始!』