DOG DAYS DUAL-BRAVER   作:天木武

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Episode 14 ビスコッティとパスティヤージュ

 

 

 パスティヤージュのビスコッティへの宣戦布告から5日。予定通りにこの日は両国の戦の日となった。

 当然この日は地球で言うと週末、つまりシンクがビスコッティに来ている日である。クーベルは戦を開催するに当たってミルヒに戦を開催してもいいものか、そしてどの日がいいかをきちんと確認したうえで布告をしていた。先のリコッタの一件とはまったく別、ソウヤに「お説教」をされたために今度はしっかりと手順を踏んだ、ちゃんとした方法を取ったと言ってもいいだろう。

 

「ふふん! これであのおたんこなすも何も文句はないじゃろう!」

 

 映像板を通じて流れてくる自慢の戦力の様子を眺めながら満足そうにクーベルは頷く。彼女とキャラウェイは「お説教」によって現在のビスコッティの置かれている状況、及びソウヤの考えを真剣に聞かされた。そしてその話をよく理解した様子のキャラウェイからゴーサインをもらっての興業だ。今度は横槍も口出しもなく、無事戦の日取りを迎えられた。

 

「どうじゃ、キャラウェイ? 相変わらずウチ達パスティヤージュの面々はいい面構えだと思わんか?」

 

 爛々と目を輝かせ、どこか嬉しそうにクーベルは側役でもある隊長へと尋ねる。

 

「ええ、おっしゃる通りと思います。久しぶりのビスコッティとの戦ということで、皆気合が入っているのでしょう」

「そうじゃろう。これは今日の戦、期待できるぞ!」

 

 彼女にとってはミルヒとの久々の戦いとなる。もっとも、ここのところミルヒは前線に出てこないようで、ガレットの時もドラジェとの合同演習の時も後方で状況を見守っていただけらしい。過去に誘拐未遂という一件があったことが原因とも考えられていた。おそらく今日も前線には出てこないであろう。だが直接対決はないとしても、ここでクーベルが活躍すればそれは自然とミルヒの目に触れる。なら彼女としては気張らないわけにはいかなかった。

 

「ですが……。ここ最近貧乏くじをひかされているリーシャは少々気にしているかもしれませんがね」

 

 が、直後にされたその指摘に思わず「う……」と領主は言葉を詰まらせる。今回の戦が始まる前、クーベルがリーシャと顔を合わせたときに浮かない表情をしていたのは事実だった。リコッタの誘拐未遂の一件では、表沙汰になっていない非公式での出来事とはいえソウヤ1人に隊を壊滅させられ、その後汚名返上の機会でもあったノワールとの一騎打ちは途中で戦闘停止の命令により水を差されている。さらに今回彼女の飛空術騎士団が担う役割は突撃隊。見ようによっては「前回の失態から捨て駒にされた」と見ることが出来ないわけでもないのだ。

 無論クーベルにそんなつもりはない。この突撃隊という役割はリーシャでなければ出来ないと判断したための配置である。が、指揮官の意思が必ずしも伝わるとは限らない。一瞬映像板に映ったリーシャの表情はそれを証明するかのようにやはり難しい様子だった。

 

「リーシャには本当にすまないことをしているな……。なんとか埋め合わせを考えんと……」

「あまり気になさらないでください。その辺りは私がなんとかフォローしておきますよ。それに本人もその辺は気にしてないでしょうから。まあこの後私も前線へと出向きます、その時話してみますよ」

 

 今回のパスティヤージュの布陣はリーシャとキャラウェイを前線に置き、本陣であるグラサージュ砦にクーベルが陣取る構えだ。リーシャとの配置が近いということもあるが、そういうところをうまくまとめてくれるキャラウェイを信頼して任せてしまった方がいいだろう。

 

「すまんな、キャラウェイ。なんだか、あのおたんこなすに『お説教』されてから、どうもウチ1人では手に余るようなことだったとわかってきてお前の負担を増やしてしまったようじゃし……」

「それもお気になさらないでください。事実、話を詳しく聞いてビスコッティがあのような状況になっているというのは私も想定外でしたし、それにクーベル様と一緒に伺えてよかったと思っていますから。そういう面倒ごとまで含めて、クーベル様を補佐するのが私の仕事です。ですから、ご自身のお仕事を全うすることだけをお考えになってください」

 

 キャラウェイにそう励まされ、「自分の仕事か……」とクーベルはポツリと呟く。

 

「……よし! なら、ウチの仕事はこの戦を大いに盛り上げることじゃ! ()()()()()()もあるわけじゃし、今日は派手に行くのじゃ!」

 

 少しは吹っ切れたらしく、いつも通りの様子に戻ったクーベルを見てキャラウェイは目を細める。一生懸命頑張っている領主の姿を見ては、今日の戦は何がなんでも成功させなければならない。そのためには、自分も前線に出て出来得る限り戦おう。

 キャラウェイの決心も新たに、戦への時間が近づいていった。

 

 

 

 

 

「リゼル……どうしてもダメですか?」

 

 一方ビスコッティ本陣の天幕、領主のミルヒはメイド隊長であるリゼルに何やら懇願しているところであった。

 

「いけません。騎士団長から固く言い付かっております」

 

 論外、と言わんばかりのメイド長の態度に、今度は秘書官の方にミルヒが助けを求めるように視線を移す。

 

「アメリタ……」

「私は秘書ですので……。あれこれ言う資格はありません。メイド長と騎士団長の意思をご優先なさってください」

 

 2人から自身の願いを却下され、領主は大きくため息をこぼす。

 ミルヒはこの戦いに自分も参加したかった。相手がパスティヤージュであれば空中戦がある。彼女のセルクル、ハーランは珍しい飛翔種であり、パスティヤージュのブランシールとの空中戦はこれまでも見物の1つとして挙げられていた。そのため、ミルヒは自ら出撃して空中戦を行うつもりでいたのだが、如何せんまだ原因が釈然としない誘拐未遂が起こってからさほど時間が経っていない。ここは問題が起こらないよう、万全を喫すために今回の出撃は騎士団長からストップがかかったのであった。

 それが彼女は不満だったのだ。公務と歌やダンスのレッスンの合間を見つけて騎士団と訓練していることもある彼女は、決して優れた使い手、とまではいかないまでも十分戦の中で戦闘をこなせるまでには成長している。これまで何度か連絡をくれたクーベルに気を遣わせないようにに平静を装いどこかそっけない態度のようになってしまっていたが、逆にそれが心配を余計にかける結果になってしまったかもしれない、とも彼女は気づいていた。だから、ここは自ら戦陣に立ち、心配ないということをアピールしたかったのだ。

 

「無理はしないと約束しますので……」

「いけません。騎士団長から固く言い付かっております」

 

 先ほどからどれだけ頼み込んでもリゼルはこの同じセリフを繰り返すばかりで取り付く島もない。同様にアメリタに助けを求めてもなんだかんだ聞いてもらえない。これは仕方ないかと、ミルヒは諦めのため息をこぼした。

 

「……わかりました。今回は本陣で戦況の確認に留めさせてもらいます」

「わかっていただけて嬉しいですわ。……申し訳ありません、姫様。もうしばらくご辛抱なさってください」

 

 ようやくリゼルはこれまでと異なるセリフを口にする。頑固な姫様が了承してくれたということで、一安心といったところか。実のところ前回のドラジェとの合同演習も、その前のガレットとの一戦も戦場に立ちたい、と主張をしてはいた。が、今回同様の理由でリゼルがそれを咎めている。その時は大人しく引き下がったのだが、今回はやや以前より余裕が出てきてたのだろう、かなり食い下がっていた。

 

「シンクはどうなってますか?」

 

 自分の参加が不可能とわかると、次にミルヒはその質問を口にした。心のどこかで、その思い人と共に戦場に立ちたいという気持ちもあったのかもしれない。

 

「騎士エクレールと共に最前、敵陣攻略部隊に配置されています。今回こちらは守備の地上部隊と攻略用の部隊の戦力を半々に割いています。空騎士を前線に配置させることによっておそらく手薄になるであろう本陣を落とす、という作戦ですからね」

 

 リゼルからの説明を聞いてなるほどと思うと同時に、ミルヒは自身の心が少し痛むのを感じていた。シンクとエクレールは誰もが知るビスコッティの名コンビだ。だが果たしてエクレールは今素直にそう思っていられるのだろうか。ミルヒはそこが気がかりだったのだ。

 

 彼女はエクレールも自分同様、シンクを好いていることに薄々気づいていた。しかし最後はシンクに相手を選んでもらいたい、例え主と仕える騎士という立場であっても、恋の前では平等にエクレールと競い合いたいと思っていた。その上でシンクがエクレールを選ぶなら、大人しく身を引いて諦めるつもりでいた。

 ところがエクレールはこういうことに対してとても奥手だ。髪を伸ばしていたのはシンクの影響だとなんとなくわかっていたミルヒだったが、いつまで経っても彼女は行動を起こそうとしない。いい加減ミルヒ自身も成婚の話が挙がりつつある時期でもある。だったら、と発破をかける意味も込めてシンクへ婚約の話を切り出したのだった。

 誤算があったとすれば、そこでシンクが口約束ではあったがあっさりとオッケーを出してしまったこと、そしてそれがエクレールの耳に入って心を決めてしまったことだろう。翌日エクレールに同じ土俵に上がるように要求しようとしたミルヒだったが、ばっさりと髪を切っていたエクレールを見て言葉を失った。自分と話す前に彼女はミルヒに仕える騎士であるということを理由に戦いを放棄してしまったのだった。

 それでも自身の心を伝えようとしたミルヒだが、「私は姫様の剣です。騎士として仕える以上、私情は挟みません」というエクレールの言葉に、それも断念していた。彼女にここまで言われても自分の心を押し通しては、彼女の騎士道精神を踏みにじることになりかねない。何より、その時ミルヒの目の前にいたエクレールの瞳からは強い決意と己の心を押し隠そうという鬼気迫る意思が感じ取れたのだった。結局、ミルヒは後ろめたい気持ちのまま、シンクとの婚約を口約束した形になっている。

 彼女がシンクに強く意思を押せない理由として、それも一部あった。エクレールに対する申し訳なさ、シンクを卑怯と言われても仕方のない方法で奪ってしまった心苦しさ。シンクに対する心は誰にも負けない自信はある。だが、エクレール本人を前にしてはそういった負い目の心を僅かでも持ってしまうことは事実だった。それでも、できるだけ様子を表に出さないようにしていたが、心のどこかでそうは思っていた。

 

 そんな矢先に起こった先代領主夫妻の失踪、さらに内戦、そして彼女自身の誘拐未遂。今、自分は試されているのだと彼女は感じている。ビスコッティの領主として、さらには勇者シンクの伴侶としてふさわしいのか。ようやく国外との戦までこぎつけることができ、一時期の大きな混乱の時期より今は少し落ち着いた、とは感じている。それでも自分への試練はまだ続いていると思っている。

 だからこそ、その不安を振り払うためにも自分を支えてくれるシンクと少しでも共にいたかった。朝の散歩やお出かけなど一緒に過ごす時間も楽しいが、ともに戦場に立つのも楽しいと感じるようになっていた。せめてそうやって辛い現状を少しでも忘れたかったのは事実だった。

 

「……姫様のお気持ちはわからないでもありませんが、戦の最中に誘拐、などということも起こりえないとも限りません。申し訳ありませんが、今しばらくはご辛抱なさってください」

 

 考え込んでいたミルヒの顔色から気持ちを察したのだろう。リゼルが再び頼み込むように念を押す。

 

「大丈夫です、わかってますよリゼル。……それでアメリタ、戦開始の合図は私に任されているということでしたよね?」

「はい。パスティヤージュのクーベル様の一言の後、姫様に開戦の合図を述べていただくということになっています。その後は申し訳ありませんが本陣で戦況の確認と、味方の士気を上げるよう鼓舞していただく、ということに……」

「わかりました。アメリタ、気を遣わなくてもいいですよ。諦め……というと言葉が悪いですが、私自身今危険な行動は慎むべきということは一応わかっています。……それでも戦場に出たかったのは事実ですが。それに気を遣ってくれるのはありがたいですが、私は自身をそれほど弱いとは思っておりませんし」

 

 最後の言葉にアメリタは一瞬表情を曇らせる。果たしてそうだろうか。本人の意図していないところでどうしても愛しの勇者様を求めてしまっているように見えてしまう。そんなに求めてしまうなら早く婚約を済ませればいい、彼女は時折そう思わずにもいられなかった。アメリタ自身はある意味身分違いの結婚、ということで騎士団長のロランと結ばれていたが、勇者と姫という立場同士なら自分の時のように反対の声など挙がるはずがないだろうと思っていたのも事実だった。勇者様か姫様が早く一歩踏み出してくれれば、と思わずにはいられない。

 

 結局のところ、やはり一時期よりは平静を取り戻した国内ではあるが、姫様の周りは変わっていないとアメリタは思うのだった。事実、彼女の夫、つまり騎士団長のロランはここ最近ずっと疲れている様子だ。理由はなんとなくは察している。彼女としてはそんな夫に早く元通りの、比較的楽な生活に戻ってほしいと願っていた。

 

 とはいえ、パスティヤージュとの戦にまでこぎつけることが出来た、ということはビスコッティは少しずつ前へと歩いていることにも他ならないとも思っていた。望むなら、このまま何事もなく、勇者様と姫様の仲が進展してビスコッティを良き方向へと導いてほしい。それが彼女の願いだった。そのために秘書官として自分に出来ることは惜しまないつもりだった。

 だが所詮秘書官の自分にどこまでその手助けが出来るであろうか。相変わらず彼女も忙しいのは事実だが、それは混乱を極めていた3ヶ月前と異なる内容でだった。その時と比べ、今増えてきているのが姫様の縁談の話。20歳を迎えていよいよ成婚を、という時期であるために、以前より落ち着きつつある現在はそういった話が増えてきてもいた。未だ大々的には公表できない勇者様との婚約の口約束という内容を提示せずにそういった話を丁重に断る。秘書である彼女の仕事といってしまえばそれまでだが、決して楽ではない、気を遣う仕事ではあった。

 しかし彼女には義妹の親衛隊長のように寄り添うことも、仕事上顔を合わせることの多いメイド長のように非常時に剣を取って戦うことも出来ない。だから、こうやってこれまで裏方として献身的に支えてきた。その自負はある。いざという時は自分が姫様を支えるのだ、という静かな意思と共に、アメリタは開戦のときを待った。

 

 

 

 

 

 ビスコッティ本陣からやや離れた平野部。ビスコッティにとっては本隊にあたる1番隊が戦の開始を待っていた。

 

「おそらく敵は我々の突撃を止めることだけを狙い、防御に徹してくるだろう! 普段の我々は守備を得意とする戦い方だが、今日に限っては敵を突破することに集中する! 向こうからは晶術弾による遠距離攻撃が来るだろうが、怯まず駆け抜けるぞ!」

 

 この1番隊の指揮を執る、騎士団長ロランの言葉に部隊から雄叫びが上がる。やはり士気は十分、先日のガレットとの戦以降、兵達の心理状態はいい状況にあるらしい。

 気合の入った隊からは、互いに鼓舞しあうような私語も聞こえ始める。そんな隊の様子を満足げに確認した後で、ロランは個人的に親衛隊のエミリオを呼んだ。

 

「なんでしょうか?」

「いや……。また戦場でお前とエクレールを離すような配置をしてしまったと、一言詫びておこうかと思ってな……」

 

 エミリオは苦笑する。戦場において騎士や参加者の部隊分けをするのは他ならぬ騎士団長の仕事だ。だがそこで一言侘びが入るということは妹の不始末を申し訳なく思っているか、あるいはその妹からそれとなく見えない圧力がかかっているかのどちらか。それともその両方、ということもあるだろう。

 だがそれを騎士団長1人が気に病むことではない。むしろ当事者である自分の責任、と叱責されても仕方のないことだとエミリオは思っていた。

 

「やめてください。そもそもその件で謝りたいのは自分です。名門のマルティノッジ家から、貴重なご息女を奪うような行為を行おうとしているのですから」

「それも過ぎた話だぞ。あの時お前が口にした『名がほしいから婚約を申し出たわけじゃない、必ず彼女を幸せにしてみせる』と言う言葉は、嘘だったのか?」

「嘘のつもりは毛頭ありません。ですが……現在のこの状況では、どう捉えられても仕方のないことと思っています」

 

 やはり真面目な返答に、今度はロランのほうが苦笑を浮かべた。

 

「まったくこういう融通の利かない者同士、よく似合ってると思うというのに……。ともかく、今回もエクレールとお前を離したのは私の判断だ。勘違いしないでほしいが、あいつ自身お前を嫌っているとか、そういうわけじゃない。ただ、複雑な心境でいることは事実だ。良くも悪くも国民や放送を楽しみにしている者たちは勇者殿とエクレールのコンビを楽しみにしている。ただでさえあいつはそれで余計に気を遣いそうな状況だ。だから、それ以上の負担をかけたくないと思ったから、私の隊にお前を配属した」

「わかってますよ。自分だって、エクレール隊長に余計な気は遣わせたくありませんし。それに勇者様と隊長はビスコッティの名コンビです。そこを外すことは出来ないでしょう」

 

 さらっと自身の心を述べたエミリオ。それに対してロランの表情が訝しげに変わった。

 

「……お前はそれでいいのか?」

「何がです?」

「勇者殿とエクレールを名コンビと呼び、まるでそこに自分の入る余地がないかのようなその言いぶり。それで納得できるのか?」

「勇者様が隊長をお選びになったら、自分はそれでよかったと今でも思っています。ですが実際はそうはならなかった……。だから、器ではないとわかりながら自分が隊長を支えなければ、と思ってしまったんです。それでも、戦場でお2人が駆けることが出来、その時の隊長の嬉しそうな表情が見られるのなら……それは自分にとっても嬉しいことですから」

 

 ロランが深くため息を吐き出す。自分の妹は堅物の頑固だと思っていたが、目の前の青年も大概だったらしい。

 

「……エミリオ、やはりお前がエクレールとの婚約を申し出てきた時、それを承諾した私の考えは間違っていなかったよ。お前はエクレールの相手を勇者様勇者様というが、私から言わせてもらえばあいつに最もふさわしいのはお前だ」

 

 これにはエミリオも全く予想していなかったのだろう。完全に虚を疲れたように数度目を瞬かせた後で、ようやく我に返る。

 

「そんな……。自分は……」

「かつてソウヤ殿の話を聞いたことがあったが……。あの方は当初レオ様のことを思う余り、自分という存在に縛られるよりももっと優れた人間と付き合うべきだ、と身を引く考えでいたらしい。……私から言わせてもらえば、今のお前も同じ考えのように見える。そういう考えが出来る相手というのは、心から思っている相手に他ならない。だから、私はお前を信じている。……もし妹に何かあったとき……困難に直面した時は、エミリオ、お前が支えてやってくれ」

「騎士団長……」

「……まあ結局自分の結婚も、周りに謀られて行ってしまった私が言ったところで、説得力がないかもしれないがね」

 

 そう言ってロランは表情を崩す。だがエミリオはロランの心遣いを深く感じ、そして感謝してもいた。

 

「とにかく、今回の配置の件から事を発した話だったが、あまり深刻に考えないでくれ。()()()()()()()()()まだ余裕がある。身の振り方はゆっくり決めてくれて構わない。……縁談が多く持ち上がる姫様とは違って、な」

 

 意味ありげな最後のロランの言葉。ひょっとしたら彼の妻がそう言った対策で日々追われているために、思わず愚痴が出てしまったのかもしれない。

 とはいえ、今でも迷っていたエミリオにとってはやはりありがたい言葉だった。わざわざ騎士団長に気を遣わせてしまったと思いつつも、感謝の気持ちで心が溢れる。

 

「……ありがとうございます、騎士団長」

「何、礼ならいいさ。それなら、言葉よりこの後の戦いで心を示してくれ」

 

 上空の映像板、今さっきロランがつい愚痴をこぼしてしまったミルヒが映し出される。さらには今回の対戦国であるクーベルの姿も映し出された。

 

『ご無沙汰じゃのう、ミルヒ姉! 久しぶりの戦じゃが、今日はウチ等パスティヤージュの勇姿をまざまざと見せてつけて勝利を頂くつもりじゃ、覚悟するのじゃな!』

 

 茶番よろしく、2人の戦闘前のやり取りが始まる。どうやら開戦の時は間近のようだ。

 

「よし、エミリオ、持ち場に戻れ。さっき言ったように今回我々は攻撃に打って出る、開戦の合図と同時に一気に突撃だ。遅れるなよ」

「はい!」

 

 気合十分のエミリオの返事を耳にし、ロランも心を戦闘へと向けて集中させる。

 

 映像板のミルヒはクーベルとのやり取りを終え、いよいよ開戦となるようであった。

 

 

 

 

 

『姫様の開戦の言葉により、とうとう久しぶりとなるパスティヤージュ対ビスコッティの戦が始まりました! パスティヤージュ自慢の飛空術騎士団はビスコッティ本陣へ一路前進! かたや、早くも地上では双方の部隊が激突、戦いは激しさを増しております!』

 

 パスティヤージュのアナウンサーであるカリンが興奮気味に戦の状況を告げる。その言葉を証明するように、パスティヤージュの飛空術騎士団、すなわち空騎士達はリーシャを先頭に一斉に前進し、少し遅れてキャラウェイが率いる隊が続き、ビスコッティ本陣を目指している。

 一方で地上では早くも互いの主力部隊が激突していた。ロランの予想通り、晶術銃によるパスティヤージュ陸戦部隊の先制攻撃によりビスコッティの1番隊は多少のダメージを受けたようだが、怯む様子もなく突撃を仕掛けている。元々パスティヤージュの主力は空騎士だ。制空権を確保して敵を殲滅。本陣の守護、残敵掃討、及びその後の制圧が地上部隊の役割となる。

 よってお世辞にもパスティヤージュの地上部隊は優れているとは言いがたい。晶術銃による遠距離攻撃は他国にはない脅威ではあるが、距離を詰められればその性能は発揮できない。劣勢に陥ってしまうのだ。

 一方でビスコッティは「鉄壁のロラン」を筆頭として防御に定評がある。晶術銃によるダメージは皆無ではないが、それで怯むようなこともない。防御を固めて間合いを詰め、白兵戦へ。

 こうなるとパスティヤージュは不利だ。両軍が激突してまださほど時間は経っていないが、戦局は明らかにビスコッティが有利となっている。

 

 この状況を打破するべく、リーシャは空騎士を一気に本陣付近へと突撃させた。途中眼下に見えた地上部隊には目もくれず、隊を猪突させる。明らかに本陣制圧の狙いを見せていた。地上部隊が時間を稼ぎ、その間に空騎士が突撃。

 リーシャとしては不満も何もなかった。もっとも危険であろう突撃役の部隊であったが、前回の戦いでいいところがないばかりか、あの時被った汚名を未だ返上できずにいる。それでもクーベルは自分を信頼し、その上でこの役を任せてくれたのだと信じていた。いや、そうでも思わなくては1度ならず2度までも打ち砕かれた彼女の自尊心が耐えられなかった。だからこそ、自分に任されたこの役割を全うしなくてはならない。そんな思いと共に彼女はブランシールを羽ばたかせる。

 だがそれを阻止するべく、リコッタ率いる対空部隊が迎撃態勢に入っていた。セルクルに引かれた荷車には何かが積まれているようだが、布がかけられていて見えない。しかし十中八九対空用の対策兵器と見て間違いないとリーシャは判断した。

 

「敵の迎撃、来るよ! 撃てる者は防御用の拡散晶術弾装填! 撃墜されないことだけを考えればいい!」

 

 荷車の布が取り払われ、その彼女の言葉が正しいことが証明される。現れたのは従来のものより大型の砲身を持った対空砲が3基、砲身の長さこそ先のそれより短いものの、砲身を2つ構える対空砲が2基。どちらも新型、リコッタの発明品と推測できる。更にこれまでの戦でも使われている対空砲が複数セルクルに引かれて鎮座し、加えて地上の歩兵達も弓や銃と言った武装で身を固めている。

 

「こりゃ主席大分本気だね……。そんなに根に持たれたかな」

 

 そんなはずはないとわかっていつつも、思わずリーシャは苦笑をこぼした。領主からの命令だったとはいえ、あの時彼女を誘拐した張本人は自分だ。後ろめたく感じているためにそう思ってしまうのかもしれない。

 

「リーシャ隊長、覚悟するでありますよー! 主砲、発射準備であります!」

 

 リコッタの声に合わせて対空砲を操る兵士達が狙いを空騎士達へと定める。

 

「散開行動!」

 

 撃とうと思えば初撃をとれる位置まで空騎士達は間合いを詰めていた。が、最初から防御弾幕を展開するつもりでいたリーシャは隊へと散開を命じる。だが部隊の移動はらしくなく緩慢、どちらかといえば密集に近い状態で、お世辞にも散開したとはいいがたい。

 しかしこれはリコッタ達ビスコッティ側にとっては好都合。主力を一網打尽にするべく、自慢の砲身が一斉に火を吹く。同時にパスティヤージュも防御弾幕を展開した。

 

「一斉発射であります!」

「防御弾幕、撃て!」

 

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