DOG DAYS DUAL-BRAVER   作:天木武

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Episode 28 緊急作戦会議

 

 

 「魔物が現れた」、その報告を聞いた瞬間、レオの心が大きく跳ねた。やはり自分が星を詠んだ通りになってしまった。

 だがその魔物の登場は、ソウヤ達としても予想外だったとも見える。ソウヤは多少落ち着いて入るようだが、ロランもレザンもあの慌てようはおそらく本物だろう。

 

「どうする、ソウヤ殿……?」

「……プランBでしょうね」

 

 プランBという聞き慣れない単語に、レオはそれは何かを彼に尋ねようと口を開きかけた。が、それより僅かに早くソウヤの声が彼女に届く。

 

「レオ、すまないが俺を斬るのは後にしてくれ。姫様とシンクも今は一時休戦ってことを提案させてほしい。まずは魔物を片付けるのを優先したい」

「ワシがそれを聞き入れると思うのか?」

「……お前本当に耄碌(もうろく)したのか? 今()()()()()()なのか、それすら見定められないほどに頭に血が上ってるのか? だったらまず頭を冷やせ。それが出来ないなら一発俺をぶん殴らせてやるから、それで多少気でも晴らして落ち着け」

 

 虚を突かれた。今のはまごうことないソウヤ本人の言葉だ。普段通りの、彼の言葉に違いない。さっきのあの一瞬だけがまるで別人のようだった。ではあれは、あの異常な様子はなんだったのか。

 

「レオ様、私からもここはこの提案を受け入れるべきと思っています。魔物とあっては、無関係な人々に被害が出るかもしれない……」

「ミルヒ……。お前は、それでいいのか?」

「構いません。私個人の話は後でいくらでも出来ます。まずは、この国の安全を確保するべきです」

「……わかった。お前がそう言うなら従おう」

「シンクもリコも、お願いします」

「言われるまでもないよ。こうなったらまずは魔物退治が優先だものね」

 

 しちめんどくさい話は一先ず保留、となったからか、シンクの顔に少し余裕が出たようだった。ミルヒもそれは同様である。だが楽観できる状況ではない。むしろ、魔物というイレギュラーの登場により、場はより混乱したとも言えた。

 

「失礼します!」

 

 と、その時先ほどと別な騎士が部屋へと入ってきた。

 

「何だ?」

「王子と、デ・ロワ卿に謁見したいと申している者が来ています。『天狐』と伝えてくれと……」

「待ってました。王子」

「ええ。すぐに会議室の方に通してくれ」

 

 了解の意思を示し、騎士が去っていく。その会話と、そしてソウヤの様子からレオはどうにも状況が飲み込めきれずにいた。

 どうやらこのことはソウヤ達側にとっても不利益、あるいはアクシデントといったような状況らしい。だが、ソウヤはそれも予想の範疇、であるかのように振舞っている。そして「休戦」を提案し、謁見したいと言っている者を会議室に通すとなっている以上、自分達の協力も得て魔物の討伐に動くだろう。

 ならさっきのはなんなのか、と再びそのことが心に引っかかる。魔物に操られたとばかり思っていたが、これから倒そうというのならそうではないということか。いや、そう思わせるための罠か。それとも野心が実っての凶行なのか。

 

「……皆さん、場所を変えましょう。この後、現状を詳しく知っている方がいらっしゃる。その上で魔物に対しての作戦会議を開きたいと考えています。ですので、すみませんが会議室の方へご足労願えますか?」

 

 当初のもてなしの様子と一変したような、丁寧なレザンの口調だった。そこにも違和感を覚えつつ、レオはミルヒの方を伺う。彼女は頷き、肯定の意思を示していた。

 もう何がどうなっているのかわからない。ともかく今は、成り行きを見守る方がいいかもしれない。この後の作戦会議、そこで何かがわかる可能性もある。そこを信じ、レオもミルヒ達と共に会議室へと向かった。

 

 

 

 

 

 会議室には既に騎士達が大勢待機していた。ドラジェの騎士達であろう。用意された椅子は前方は空いているが、後方には腰掛けている者もいる。若い者から歴戦の戦いを潜り抜けたであろう者まで、おそらくドラジェの隊長クラスと推察できる。

 と、そのドラジェの騎士達の前、ポツンと座る見慣れた背中にレオは気づいた。黒い髪と耳、椅子の背もたれからは鉤尻尾も覗いている。

 

「ノワールか!?」

 

 そのレオの言葉に反応したように、彼女は振り返った。レオの予想通り、ノワール・ヴィノカカオその人だった。

 

「ノワ!? なんでここに……」

「ごめん、シンク。細かいことは言えないんだけど……。ともかく、私も今回は協力するから」

 

 そう言って、近くの席を促す。ノワールのすぐ隣にリコッタが座り、他の3人も腰を下ろした。さらに少し離れた位置にロラン、レザンも腰を下ろす。

 肝心のソウヤは、というと、その騎士達の前、つまり全員を前にしてまるで講師か何かのように立っていた。どうやらこの場を仕切るらしい。

 

「さて……。役者も大体揃ったことだし始めるとしますか。まずは、自己紹介でも。この国の人間じゃないんですが、今回魔物との防衛戦の総指揮を執らせていただきます、ソウヤ・ガレット・デ・ロワです。レザン王子からの承諾も得ていますので、文句があるときは王子に直接言ってください」

 

 ジョークをまず飛ばしたソウヤだが、あまり笑い声は上がらない。状況は深刻だと捉えている人間が多いという証明だろう。

 

「……冗談はほどほどにして、真面目にいきます。知っての通り、ドラジェ国内の封印洞窟に魔物が封じられていたわけですが、どうやらそれが弱まり、魔物が現れてしまったらしい……。自分も詳しい情報待ちの状態です。そろそろその辺りを詳しく知っている者が到着の予定という話ですが……」

 

 ソウヤがそこまで話した時、ドアがノックされた。次いで返事を待たずにそれが開かれる。

 

「お連れいたしました!」

「遅くなってしまって申し訳ないでござる」

「お、来たか」

 

 入り口から聞こえてきたのは聞き慣れた声、いやそれ以上に独特の口調だった。

 

「ユキカゼ!?」

「ユッキー! どうしてここに……」

 

 思わず立ち上がって彼女の名を呼んだビスコッティの2人に「おお」と関心を示しつつ、ユキカゼは部屋の前の方へと歩いていく。

 

「シンクに姫様、無事辿り着くことが出来たでござるか。しかし到着早々この魔物騒動では……」

「おい巨乳ちゃん、悪いが世間話は諸々が終わってからにしてくれ。現状の報告を頼む」

 

 こんな場でも相変わらずの呼ばれ方にユキカゼは一瞬眉をしかめた。だが彼の言うとおりかとも思い、恨み言を飲み込み、ソウヤの隣に立つ。

 

「こちらはビスコッティ隠密部隊のユキカゼ・パネトーネ筆頭。皆さんも大陸最強剣士とも噂される『討魔の剣聖』ブリオッシュ・ダルキアン卿の名前ぐらいは聞いたことがあるでしょう。その方の右腕が彼女です。言ってみれば魔物対策のスペシャリストと言ったところですかね」

 

 室内が僅かにざわめいた。やはりブリオッシュの名は広く知られているようだ。

 

「で、ユキカゼ、現状を報告してくれ」

「了解でござる。そもそも、拙者達はここしばらく、ビスコッティを離れて各地の封印場を巡っていたでござる。実は拙者は星を詠むことで魔物の不吉な予感をある程度知ることが出来る……。元々魔物の噂は耳にしていたでござるが、とうとうその兆候が拙者の星詠みでも少し前に出た、というのが理由でござる。しかし詳しい場所まではわからずに数国を巡り、それでも危険が及びそうな封印は見当たらなかったでござる。

 そして今日、この国の封印洞窟を確認していたところで……一部、封印が非常に弱まっているところを発見した……。お館様達はその再封印をほどこそうとしたが間に合わず、一部の封印されていた魔物が甦ってしまったでござる。しかも不幸なことにまだ精霊化が完全ではない魔物が多く存在するため、それなりの数の魔物と定義される存在が野に放たれることになりかねない、それが現在の状況でござる」

「ちょっと待った。話の腰を折って悪いが、『精霊化』ってのはなんだ?」

 

 急かすように言ってきておきながら、言葉通り話の腰を折られたことに思わずユキカゼは眉をしかめた。だがその辺りも少し詳しく話した方が、この場にいる人間の理解と、ひいては信頼を得ることにもつながるだろう。

 

「そもそも『魔物』というのは初めからそういう存在だったわけではないでござる。例えば以前ビスコッティとガレットとの大戦の時に現れた魔物は土地神に突き刺さった禍太刀が原因であったし、あるいは本来するべき成長を出来なかったものが異形化してしまい、魔物と呼ばれる存在になってしまう。すなわち、後天的に魔物になってしまうだけであり、それはいわゆる『病気』のようなもの。そしてその病気を治すことが出来れば魔物という存在ではなくなる。魔物に対して研究を続けて知識を持ち、そういう持論を持つ方がお館様の知り合いにいらっしゃるでござる。実際、魔物を封印し、年月を経ることで少しずつ悪しき力が浄化されていき、そして最終的に土地神のような精霊となった、という例も報告されているでござる」

 

 ユキカゼがそこまで説明したところでノワールが立ち上がって騎士達の方へと振り返った。

 

「横から口を挟んですみません。私はガレットで魔物対策部署も兼ねている諜報部隊の隊長、ノワール・ヴィノカカオです。今彼女が言ったことはガレットでも何例か、私も実際にこの目で目撃しています。それに一口に『魔物』といっても種類は様々です。はぐれ土地神のようなどちらかといえば精霊の類のもの、あるいは野生動物の延長程度の存在であれば、倒せばだま化しますし、私達に与える影響も深刻ではありません。ですが、先ほどあったビスコッティとガレットとの大戦の最中に現れたような強大な存在が相手だと……。守護力は弱まり、私達も怪我をする可能性が出てきます」

「……ややこしくなってきたな。ともかく、放って置いて人里に現れれば被害が出る可能性がある、それは間違いないな?」

「その通りでござる。そして問題は精霊化がほとんど進んでいない……つまり、純に『魔物』と呼ばれる存在が、数体確認されていることでござる。今現在、お館様達がその大ボス、と言っていい存在と相対していて、封印しなおすのは時間の問題だそうでござる。さらに数体引き受けることは十分に可能だが、少々数が多い、と……」

「よかったのかよ、そんな状態でお前が来ても」

 

 フフン、と言いたげにユキカゼは笑みを浮かべた。

 

「それは全くの無用な心配でござる。お館様とイスカ様の他に、()()()()()()()2人(・・)いらしてくださってるでござる。イスカ様が話を通してくださっていたでござるよ」

「その助っ人、当てになるのか?」

「お館様とイスカ様がもう1組いると思ってくれて結構でござる」

「……そりゃお前が抜けても全然問題ないわけだ」

 

 大陸最強といわれる剣士のブリオッシュと、実際に手を合わせてその彼女に勝るとも劣らない存在とソウヤ自身が感じたイスカ。その2人と同等クラスという話なら、心配するだけ無駄なことだろう。

 

「ならそっちは任せるとして……。こっちは人里の防衛に回る、ということになるわけか」

「そういうことでござる。ただし、既に中型……いや、もう大型と言ってしまっていいでござるな。その魔物が1体、ここコンフェッティ城の方向へ迫っているという情報は入っているでござる。それ以外はほぼ小型か野生動物の延長線上の類……要するに数だけの相手、と見ていいでござろう」

 

 そこまでを聞き、ソウヤはレザンのほうへと視線を移した。彼は立ち上がり、既にソウヤが言おうとしていることを察しているようだった。

 

「王子、どうしますか?」

「ソウヤさんに一任したいと思っています。……ドラジェ騎士の皆、聞いてほしい。僕はこの件を友好国ガレットの頭脳、『蒼穹の獅子』ソウヤ・ガレット・デ・ロワ卿に任せるつもりでいる。理由は魔物との実戦経験のない我々より、知識と頭脳のある彼に任せた方が適任と判断したからだ。皆には今後起こり得るもしものためにも、今回は経験を積みつつも国を守ることに尽力してもらいたい。もし自分の決定に異論のある者がいたらこの場で受け付ける、名乗り出てくれ」

 

 レザンのその言葉に、誰も異を唱えなかった。凛とした態度、かつてはもっと弱々しく見えた彼が今は少したくましく見える、とレオは思っていた。だが、だからといって今回の一件を仕組んだことを許せはしない。「休戦」という扱いになってはいるが、魔物との戦いが終われば次は自分達だということは、レオはよくわかっていた。

 しかし彼女はどうにも解せなかった。結局この場を取り仕切るのはソウヤなわけだが、彼女はてっきり彼と、そこに付き添ってきた人間達は何かに操られているのではないかと思っていた。しかし、魔物対策のスペシャリストであるユキカゼまでもがここで防衛のために助言しているとなれば、彼らは魔物に操られてなどいないということになるはずだ。では一体なんだというのだろうか。本当にあのロランが国の転覆などを企んだというのだろうか。

 

「……ありがとう。皆の理解に感謝する」

 

 レオの不安をよそに、話は進む。一礼し、レザンは腰を下ろした。これで指揮は完全にソウヤが執ることになる。

 

「ユキカゼ、魔物の被害が出る可能性のある範囲は?」

 

 珍しくソウヤは正式に彼女の名を呼んだ。それを受け、彼女はドラジェ国内を表した地図に印をつけ、背後にそれを張り付けた。

 

「……先ほど言ったとおり、もっとも危険な存在である大型が1体ここへと進行中、その他はこの地図上に表した範囲に散らばりそうでござる」

「なら、ここを中心に……この地図の印に従って北と南、そしてここの城下町手前に本陣の防衛ラインを敷く形で3つの部隊にわけよう。王子、すみませんがドラジェ側の隊をそちらで3つに分けてください。その上で、共同戦線ということにしたい」

「了解です。将軍に掛け合って、すぐにそうさせましょう」

「北はロランさん、ビスコッティの隊でお願いします。騎士団も引き連れてきてるでしょうし」

「……ああ。まあ一応、な」

「ドラジェとの合同演習が生きましたね。『鉄壁のロラン』の活躍、期待してますよ。あと、ユキカゼはそこに合流してくれ」

「え……? いいでござるか、それで?」

「ああ。ここが多分一番隊長クラスの数が少ないのが予想されるからな」

 

 次いでソウヤはノワールの方へ視線を移した。

 

「ノワール、南側をガレットに任せたい」

「待てソウヤ、ガレットはこやつとその部隊しかおらんじゃろ?」

 

 もっともなレオの質問。だが、ソウヤはニヤッと笑ってそれを否定した。

 

「今ガレットの部隊がここに向けて移動中だ。だから移動後すぐに戦闘に移れる南側を任せるんだよ」

「なんじゃと!? ガレットの部隊がここに移動中!? どういうことじゃ!」

「うるせえなあ、細かいことは後でだ。今は魔物対策で手一杯なんだ、ともかくガレットが来る、だからそこは任せるって言ってんだよ」

 

 やはり何かを企んでいるのだろうか。ガレットを動かした、ということは裏で暗躍していたバナードがガウルにあることないことをまた吹き込んだのだろうか。

 だがここでの増援というのは助かるのは事実だった。ドラジェの兵の数にも限界がある。拠点であるこのコンフェッティ城以外の守りは言葉は悪いが「質より量」で守りを固めたいところだった。

 

「さて、最後に本陣の守り。中型だか大型だか、ともかくもっとも厄介な存在。それは……ここまで逃避行してきてくださった姫様達ご一行と俺が担当しようと思う」

「な、何!?」

 

 思わずレオは立ち上がっていた。どうにもきな臭いではないか。

 

「どういうつもりじゃ!?」

「どうもこうもねえだろ。考えてみろ。ここに大型が1体進行中、つまり一番厄介な存在と言っていいだろう。で、大型の魔物を討伐した経験がある人間が、そこに2人いるじゃねえか」

 

 そういわれて目を向けられたシンクとミルヒは不意に振られた話題に一瞬固まった。その後でようやく「え?」という声だけをあげる。

 

「なら、その2人に厄介な大型を任せる。そしてそういう単体で強力な存在だ、他は『質より量』で守るのが妥当だろうが、ここは『量より質』にするべきだ。魔物討伐の経験のある2人に加え、輝力出力なら絶対的なお前、そして砲撃能力に秀でるリコッタ。加えてこの指揮を任された俺はここに陣取って然るべきだろ?」

 

 確かにそうかもしれない。当初は奇妙な布陣を敷いたと思ったレオだったが、言われて納得しかけた。が、ここにソウヤが残るのはまるで「監視役」としても見ることが出来るではないか。

 とはいえ、理にはかなっている。確かにシンクとミルヒは協力して魔物を討伐した経験がある。それが生きる可能性は大いにあるだろう。もっとも厄介といわれる相手にぶつける駒としては的確、そしてその援護に自分が選ばれたということもレオは否定するつもりはなかった。

 

「……ミルヒ、シンク、どうする?」

 

 それ故、レオは最終決定を2人に委ねた。一瞬考えた様子を見せた後、ミルヒが頷く。

 

「……私は、ソウヤ様の提案は妥当と考えます。私とシンクは魔物と戦った経験がある……。だったら、それが生きるかもしれません」

「僕も姫様の意見に賛成だよ。さっきのあんなことの後でソウヤを完全に信頼するのは少し難しいけど……でも、言っていることはもっともだと思う。姫様の意見を尊重して、僕もそれに従うよ」

「自分には聞くまでもないことであります。2人がそういうなら、喜んでお供するでありますよ」

 

 逃避行組は自分以外この提案を飲むらしい。だったら、毒を食らわば皿まで、乗せられるにしてもやれるだけやってみるかとレオも心を決めた。

 

「……いいだろう、ソウヤ。ワシもその案に乗ってやる。だが忘れるな、妙な動きを見せたら戦闘中でも後ろから貴様を斬るからな」

「おお、こええ。肝に銘じておくよ。……よし、話は以上です。各自持ち場についてください。あ、あと最後に確認ですが、魔物の影響によって守護力が弱まっている場所が生まれる可能性があります。そうなれば怪我をする可能性もある、ということだけは忘れないよう。戦の時とは違う心構えで臨んでください。……では、解散!」

 

 その声にドラジェの兵達が部屋を後にする。これから部隊の再編成があるのだろう。ロランも席を立った。

 

「我々も行こう、ユキカゼ。……姫様、私が言うのもなんですが、くれぐれも無茶はしないよう……」

 

 どの口が言うか、とレオは突っ込みたかったが、それを飲み込んだ。思わぬ形で休戦、そして事態は一時お預け状態になっている。一応は共同戦線だ、あまり仲違いをするようなことを言うのもよくないだろう。

 

「私達も行きましょう、レオ様。準備しなくてはなりませんし」

「姫様、城のメイド達に準備できる部屋へと案内させます。僕では警戒されるでしょうが、彼女達は信頼してくれて結構ですよ」

「どうじゃろうな? 妙な動きを見せたら容赦はせぬ故、それは覚えておけ」

 

 レオの一言にレザンは苦笑を浮かべるしかなかった。いくら休戦の共同戦線でもやはり煙たがられるか、と思う。が、仕方のないことだろう。

 

 人々が部屋を後にする中、ソウヤはノワールのところへと近づいていった。手には何やら書状らしきものを持っている。

 

「……お前が心配してた通りになっちまったな。すまない」

「いいよ。賽は投げられたんでしょ? そして出た目がこれだった。なら……仕方ないよ」

「そう言ってくれると助かるな。……で、さっき言ったとおりお前と諜報部隊はこの後来るガレット本隊と合流してくれ。そうしたらガウ様にこれを渡してほしい」

 

 ガウルという名に一瞬眉を動かした彼女だが、平静を装ってその書状を受け取った。

 

「この戦いの理由が書かれた書状だね?」

「ああ、ほとんどそうだ。……ま、そうじゃない部分もあるが。言うまでもないが、あの人に渡すまで開けるなよ?」

「確認されるまでもないでしょ。重要機密だもん」

「あと……ここに書いてある俺の提案をあの人が承諾したら、それは領主命令扱いだ。それは理解しておけ」

 

 一度眉を寄せ、首を傾げるノワール。だが言ってることはもっともだと思う。ソウヤからの提案とはいえ、それを受け入れれば領主命令だ、自分がどうこういう内容ではないだろう。

 

「……うん、わかった」

「悪いな、ガウ様と顔を合わせるのはあまり望んでないのかもしれないが……」

「別に嫌ってるわけじゃないから。むしろ……。ううん、それはいいや」

「複雑だな、お前も。さっさと告白でもしちまえばいいってのに」

 

 出来るわけないだろう、と彼女はチラッとだけ、ソウヤを見つめた。それに対して彼はため息をこぼす。

 

「……まあいいか、今に始まったことじゃないしな。よし、じゃガレットの方は任せた。気をつけろよ」

「ソウヤもね」

「ああ。まあこっちのことは心配すんな。最悪の場合に備えて()()()が控えてるしな」

「あ、そっか。本隊に合流させるんだ」

「まあな。……たまには華を持たせないと拗ねそうな奴がいるんでな」

 

 ノワールは思わず失笑した。やはりこの男はどうしても一言多く言わないと気がすまない性質らしい。

 

「さて、じゃあ最終演目直前の飛び入り参加だが……招かれざる客にはご退場願わないとな……!」

 

 

 

 

 

 ソウヤからの書状を受け取ったノワールは諜報部隊と共にガレット本隊へと合流すべく、セルクルを走らせていた。幸い向こうもほぼ予定通りの時間で行軍を開始してきたらしい、予想より早く彼女は本隊を見つけることに成功した。

 

「ノワールか? どうした?」

 

 声をかけてきたのは隊の先頭付近にいるバナードだった。ノワールの姿を見てその表情が僅かに険しく変わったのがわかる。

 

「あ、バナード将軍。ガウ様は?」

「もう少し後ろにいらっしゃる。……もしや、懸念していた事態が?」

「うん……。詳しくは後でガウ様から説明があると思う」

「わかった。『プランB』か」

「そういうこと」

 

 短く会話を交わし、ノワールはさらにその後方、ガウルの元へとセルクルを進める。その様子にまず気がついたジョーヌが「ノワ!」と声を上げ、それでガウルもようやく気づいたようだった。

 

「あ? ノワ?」

「ガウ様、どこまで話を知ってるか知らないけど、状況が変わったの。今、ドラジェに魔物が出没しようとしてる」

「なになにィ!? ちょっと待て、わかりやすく説明しろ」

「私からじゃ難しいから、これを読んで。ソウヤからの書状だから」

 

 彼女は懐から、ソウヤから預かった書状を取り出してガウルへと手渡した。そこに確かにソウヤのサインが入っているのを確認し、彼は封を切って中身を読み始める。初めは驚いた顔を見せた彼だったが、次第に難しい顔になって内容を読み進め――最後の方になると再び驚いた顔へと戻った。

 

「……なるほど、大体わかった。要するに封印洞窟の封印が解け、魔物が出てきてしまった。で、俺達ガレットはこの後ドラジェの隊と合流し、主に南側を守れ。そういうことだな?」

「うん、そう」

「……で、お前、この書状の内容を読んだのか?」

「え? 読んでないよ。ソウヤに『機密文書だから』って念を押されたけど……」

「そうか……」

 

 そう言ってガウルは息をひとつ吐き、「ベール!」と現在遊撃隊長代理を務めている副隊長の彼女を呼んだ。

 

「なんですか?」

「あとジョーヌも聞け。……あの馬鹿、この書状に何て書いてきたと思う?」

 

 知らないよ、と言いたげに呼び集められた3人は顔を見合わせた。口の端を僅かに上げ、ガウルは続ける。

 

「最後の方にこう書いてある。『なお、殿下におかれましては、先陣を切って戦うものと思われます。ですが、そこで御身に何かあっては一大事と思います。つきましては一時的に自分の揮下にあります諜報部隊と遊撃隊を解散、騎士団長揮下の騎士団の所属として扱っていただきたい。そしてその諜報部隊の隊長と遊撃隊の隊長代理と将軍の3人。すなわち、ノワール、ジョーヌ、ベールに殿下をお守りする直々の部隊員としての役割を与えていただきたいと思っております』。……あの野郎、今日だけジェノワーズを再結成しろと言ってきやがったんだよ!」

 

 ノワールは目を見開いた。だからあの時「絶対に開けるな」と彼は念を押したのか。同時になんでそんなことを、とも思う。彼は自分の心をよく知っているはず。なのに、なぜ……。

 

「ええやないか、ノワ」

 

 が、そんな彼女の心を見透かしたかのような、耳に響いてきたのはかつて共に親衛隊として戦った友の声だった。

 

「そうよ。実は私もジョーも、期間限定でもいいからジェノワーズを復活させたいな、なんて言ってたところだったし」

「でも……」

「何を悩んでやがるんだよ、ノワ! ……よし、悩まなくていい方法をとってやろう。領主である俺様直々の命令だ、お前たち3人、今日は俺を守るために、即席の親衛隊になれ!」

 

 まったくこの人は本当に困ったものだとノワールは思った。自分の心になんて全く気づいてくれない。だが、それでも彼に惹かれ、しかし「領主である彼の相手に自分ではふさわしくない」と心に決めて離れるようにしていた。それでも、命令なら仕方がない。今日ぐらいは、久しぶりに親友たちと肩を並べて共に戦うのも悪くない。

 

「……命令じゃ、仕方ないよね」

 

 自分に言い聞かせるようにノワールはそう呟いた。だがそうと決まったなら、最近共に戦うことのなかったこの両翼の2人と共に、大暴れしようじゃないか。

 

「……よっしゃ! ほな久しぶりに、あれ(・・)、行くか!」

「え……やるの……?」

「勿論よ! あれをやらないとジェノワーズじゃないじゃない!」

 

 昔は嫌がっていたはずなのに、いつの間にこうなってしまったか。やれやれとため息をこぼしつつ、センターの位置にノワールが、その両隣にジョーヌとベールが立った。

 そして声高らかに、かつての親衛隊の口上文句を叫び上げる。

 

「久しぶりの再結成や! 派手に行くで! ……我ら、ガレット獅子団領!」

「ガウ様直属親衛隊!」

「「ジェノワーズ!」」

 

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