異世界転生の特典はメガンテでした   作:連鎖爆撃

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おっさんが勇者やったほうがいいって、絶対。

Side ???

 

沼地の洞窟の奥。そこに10年もの間、()()は囚われていた。

 

彼女は祈る。

娘は逃げ切れただろうか?

 

もうすぐ自分は殺されるだろう。

 

 

 

コツコツ、と足音が聞こえる。

 

来た。

ああ、神様。どうか、あの娘だけは無事で。

どうか。

 

体が震える。

怖い、怖い、怖い。

覚悟したはずなのに、どうして。

 

 

 

足音が止んだ。

心臓がバクバクする。

ああ、止めて。

もういっそのこと。

そんな考えが頭をよぎる。

 

恐怖でどうにかなりそうだったが、叫ぶ出すことだけは堪える。

それが彼女に許された最後の抵抗だった。

 

 

 

………いつになっても、扉が開く音はしなかった。

 

 

 

気がついたら、足音の主は、既に()()()()に立っていた。

 

 

 

「ワレノ ネムリヲ サマタゲルモノハ ダレダ ?」

 

番のドラゴンが、目を覚ます。

扉を()()()侵入してきた足音の主は、明るい調子で答えた。

 

「なぁに、しがない一兵卒よ、ただ道に迷っちまってな」

 

 

 

「……あの日、奪っていったもの、返してもらえるか?」

 

 

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

リムルダールに着いた次の日。

 

朝起きたら、おっさんが消えていた。

以上。

 

……状況を整理しよう。何か気がつくことがあるかもしれない。

 

朝起きたら消えていたもの。

おっさん、キメラの翼が2つ、目覚めの粉、聖水一瓶。あと、薬草の丸薬が一袋。そして、昨晩のうちに購入していた、《魔法の鍵》が一本。

 

朝起きたら増えていたもの。

書き置き、おっさんの財布。

 

よし、書き置きになんて書いてある?

 

「(意訳)お前が足手まといだから一人で行く。ラダトームに帰る時はちゃんと連れて帰ってやるから安心しろ。保険でアイテムをいくつかもらっていく。金はその代金だ。待つ間、ハネでも伸ばしておけ。そっちに行くまで3日もかからんけどな」

 

で、最後に「(意訳)マジでたまには休め。俺ほどじゃないが働き過ぎだ」か……。

 

いや、これ喜んでいいの?怒るところなの?え、どんな反応を返せばいいんだよマジで。足手まといとか酷くないか?本当の話だけどさ。

 

おっさの財布には、消えたアイテムでは到底吊り合わない金額が入っていた。

おっさん、大人だな。大人は汚いとか言って済まなかった。

金の力で黙らせるとか、やっぱ大人は汚いわ。

 

思考を整理して、伸びを一つする。

 

 

 

よし、今日は寝よう。

 

布団に潜り込み、結局その日一日はゴロゴロしていた。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

翌日。

 

いや、休んでろと言われたって、そうそう寝てばかりいられるわけねぇだろ。

 

鍵屋や道具屋に寄り、アイテムを揃え直す。

あと、街の人達に話を聞く。

 

RPGにおいて、ストーリーを進めるためのフラグはMobに話しかけることでそのヒントを得られることが多い。確か、リムルダールにもいくつか情報が落ちてたはず。

 

多くない街の住民たちに話しかけていく。

そして、わかったこと。

 

……やべぇ、全然フラグのヒントが集まらねぇ。

 

10年という時間の壁。ゲームからリアルになった世界では、人も、それらが持つ情報も移ろっていく。

 

くそ、わかってたはずだ。この世界はゲームなんかじゃ無いってことを。

 

…落ち着け、俺。今回《魔法の鍵》は手に入った。

マップもあるんだ。

最悪、メルキドの番のゴーレムは《メガンテ》で吹き飛ばせばいい。

 

トラマナさえあれば、《ロトの鎧》はいらない。

マップがあるから、《王女の愛》が無くても《ロトのしるし》も何とかなるだろ。

 

……そう言えば、王様に「ローラ姫を救ってくれ」って言われなかったな。

10年か。

ゲーム内ではどこに囚われてるんだっけ……?

でも、もうそこにいるとも限らんよな。

 

おそらく、《雨雲の杖》は北にある祠にある。

《魔法の鍵》があるから、ガライの墓のダンジョンにはもう、潜れる。ダンジョンのマップは無いが、慎重に攻略しながら作っていけばいい。

《太陽の石》は……売ったことを爺さんにばれないようにしなきゃな……

 

宿屋に戻った後、地図と睨めっこしながら、頭のなかでつらつらとゲーム内の情報を上げていく。

 

紙に書いて整理するような真似はしない。万が一のことを考えてだ。

 

……よし、次はガライの墓のダンジョンを攻略。

その後は、おっさんに頼んでメルキドまで一緒に千里行だな。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

で、さらに次の日。

 

おっさんの書き置き通りなら、今晩か明日にはリムルダールに飛んでくるはず。

短い休みだったな。

 

まぁ、やることないから、おっさんが来るまでモンスターでも狩ってるか。

 

 

 

「《ギラ》!」

「シャアアアアア!」

 

魔法による牽制。キラーリカントが、後ろに跳躍する。

 

だが、その選択は間違いだぜ!

―――――《燕返し》!

 

リムルダールに着いた夜。俺はこの技をおっさんに教わっていた。

 

―――――《疾風突き》が使えたんなら、コツさえつかめりゃコイツもすぐに使えるはずだ。

―――――剣のリーチ外に殺気を飛ばせ。本気の殺気は、敵の心臓を、切り裂く。

―――――今さらだけど、言っておく。お前には剣の才能があるよ。

 

キラーリカントが一瞬その動きを止める。

………違う。ビビらせただけだ。やっぱ、そう上手くは行かないよな。

おっさん、俺に剣の才能がある?それは買い被りってもんだぜ。

 

一足飛びで、距離を詰める。

 

《疾風突き》!

 

そして、どくばりの一撃で、キラーリカントの心臓を貫いた。

 

 

 

ゴールドを回収しながら、おっさんの戦う姿を思い出していた。

おっさんは、強い。だけど、それはステータスのせいだけじゃない気がする。

 

おっさん曰く、剣技に必要なのは“意志の力”とか“心の力”なんだとか。

 

……おっさんは、普段はおちゃらけているけど、魔物との戦いに一切の容赦をしない。

俺との稽古の時とは大違いに、殺気とか“憎悪”とかそういうものが溢れているのを感じた。

 

Q.何がどうすれば30前半でカンストするまでに強くなるんだ?

A.………俺はあいつらが許せん。人の幸せを奪い、人の命を脅かす魔物って存在が。

 

転生してきた俺がいうのも何だけど、おっさんの方が主人公しているんだよな。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

 

 

その晩、おっさんはリムルダールに来なかった。

 

 

 

 

その次の朝も来なかった。

その次の日も。

その次の日も。

 

俺は装備を整え、単独でのラダトーム帰還を決行する。

リムルダールを発ったのが、着いてから7日目のこと。

 

何故か魔物の数が増えていた《沼地の洞窟》の単独踏破に失敗。

《リレミト》による脱出。

三日後に再び、洞窟に挑む。街に逗留していた旅の剣士の力を借り、力ずくで進む。

洞窟を抜けた直後で、キメラの集団に襲われる。剣士の離脱。

キメラの群を《メガンテ》で撃退。

 

マライを目前にして、アイテム切れにより、《キメラの翼》によるリムルダールへの帰還を余儀なくされる。

 

小型化アイテムのストックが尽きる。

 

現在レベルによるラダトームへの帰還を断念。

 

リムルダールから南下しながら、経験値稼ぎのため、強力な敵を求める。

 

おっさんの小遣いは、そのほとんどをアイテムのために使い切る。

 

勇者 Lv.29 ♂

HP/MP:120/105

現在装備 

頭:なし

胴:チェーンメールに皮の鎧

武器:どくばり&鋼の剣・改

盾:なし

特技:《ギラ》《メガンテ》《ホイミ》《レミーラ》《リレミト》《疾風突き》《トラマナ》《燕返し》《ゾンビ斬り》《ベギラマ》

 

《ギラ》の上位呪文、《ベギラマ》をもって、洞窟の単独踏破に成功。

 

マライの街に着いたのは、ラダトームを最後に発って1ヶ月過ぎてのことだった。

 

マライの街で、《魔法の聖水》だけを大量に購入。

 

強引にラダトームへの帰路を突き進む。

 

 

 

異常事態の連続。胸騒ぎが、おさまらない。

 

 

 

俺がボロボロになりながら辿り着いた時、ラダトーム城は、竜王軍の襲撃を受けていた。

 

 

 

おっさんが一人で戦線を保たせていた。

 

おっさんが俺に気が付き、城門を開ける指示を大声で出した。

 

群の中に切り込み、《ベギラマ》を唱える。

魔物たちの虚をつき、城門の中に飛び込む。

城門の閉じ際に、もう一度《ベギラマ》を放つ。

 

 

 

ラダトームへの帰還を、俺は単独で果たした。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

「すまん……」

 

おっさんが謝ってくる。

 

いいって。竜王の軍が攻めてきたんなら、仕方ねぇよ。

むしろ、俺が遅くなって悪かった。

 

「違う。俺が悪いんだ……この事態は、俺が招いたことなんだよ」

 

項垂れるおっさん。

 

「勇者様!」

 

あの女の子が駆け寄ってくる。顔をぐしゃぐしゃにして泣きはらしている。

 

「ゆるしてほしいのだ。おじさんは、おいかりになったお父様からおかあさんをたすけてくれたのだ。それでお父様がおいかけてきたのだ……」

 

………どういうことなんだよ。

 

 

 

そこで、あることに気がつく。

 

城の兵士たちの様子がおかしい。

疲れきって、覇気が無い。

何故だ、この城には凄腕のヒーラーが居るはずだろ?

 

 

 

女僧侶はどこだ?

 

 

 

城に駆け込み、彼女の姿を探す。

 

広間にはいない。

祭壇の部屋にはいない。

食堂にもいない。

俺の部屋にも居るはずがないとわかっていても、探す。

 

いない。

 

 

 

玉座の部屋にまで、辿り着く。

 

そこでは、王様『ラルス16世』が、頭を抱えていた。

 

「……つかぬことをお伺いします。僧侶殿を見かけませんでしたか?」

 

喉がカラカラに乾いているのがわかった。

まぁ、ありえねぇよな。

 

 

 

彼女が死んだわけがないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言おう。俺の想像は外れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もっと、悪い方向でだ。

 

 

 

「……勇者よ。僧侶は、ここにはおらぬ。竜王に、さらわれた」

 

ラルス16世は、苦悶の表情と共にその言葉を口にする。

 

 

 

「頼む、勇者よ。竜王を打ち滅ぼし、囚われの身となった()()()を、救いだして欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローラ姫を救ってくれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異世界転生してから11ヶ月。

おい、どうなっていやがる。

 

 

 

何がどうなっていやがるっていうんだ!




本編で触れられない設定

23.フラグ
早い話が、ストーリーを進めるために回収していく、イベントやアイテムなどの要素、RPGにおける謎解き要素のこと。ドラクエではMobに話しかけることでフラグのヒントを集めていくことがほとんど。
この世界では原作から10年経っているため、原作のフラグのヒント回収が困難になっている。

24.設定のズレ
この世界は原作をもとに『神』が作り出したもの。神はそこに勝手な設定改変を加えている。戦闘システムだったり、世界観だったり。さらに説明なしでそこに転生者を送り込むため、何かしらのすれ違いが生じることになる。

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