異世界転生の特典はメガンテでした   作:連鎖爆撃

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トリックだよ

―――――《ドラゴン斬り》!

 

ダースドラゴンを一撃で切り捨てる。

おっさん、今のはどうだ?

 

「うーん、ちょっと違うな。もっと、こう、引き寄せる感じだ。わかるか?」

 

わかるか。もっと丁寧に説明しろ。

 

「と、言われてもなぁ……。いいんじゃないか?斬ってるうちにコツが掴めるだろ」

 

……ああ、そうだな。

 

剣を握り直し、表情を引き締める。

 

 

 

ダースドラゴンの群れが、“虹の架け橋”を渡ってこちらにやって来ていた。

 

 

 

竜王の婚礼まで、あと六日。

おっさん率いる部隊と俺は、既に虹の架け橋を掛けることに成功していた。

 

え?リムルダールから、南の祠まで往復が1日で済むわけがないって?

 

 

 

トリックだよ。

 

 ◆ ◆  ◆    ◆

 

おそらく、この時代、この世界に俺より“キメラの翼”を投げた人物は居まい。

だからこそ思いついた移動時間短縮法。

 

 

 

今一度、この世界における“キメラの翼”の効力について説明しておこうと思う。

 

 

 

キメラの翼。帰還アイテム。

コレを投げることにより、1パーティ全員を最後に泊まった宿のある街に帰還させる。

コイツの特筆すべき点は、帰還場所を記憶しているのは、“キメラの翼”自身であるということだ。

 

つまり、Aという街に帰還するキメラの翼を誰かから買い取ることで、Aという街に足労なしで行くことができる、という使い方もある。

ビジネスとして確立すれば結構儲かりそうなものだ。

だが、街と街の間の移動が命がけの冒険である以上、そんなことを思いついても、この世界ではまずそんなことをやらない、というわけである。

 

そして、もう一つ特筆すべき点。キメラの翼は、必ず人のいる街にしか帰還しない。

ダンジョンなどで一夜を明かすことになったとしても、キメラの翼を投げれば帰還するのは必ず、最後に泊まった街である。

どうやら、キメラの翼の帰還先を書き換えるのに必要な情報は、街に居た時間だけではないらしい。

 

俺はこっそり地脈が関係しているのだと踏んでいる。パワースポットと言い換えた方が良いだろうか?

人が集まり、街ができるにはその場所に特別な何かが必要だ。

この世界の“街”は、おそらく地脈のエネルギーの溜まる場所にできているのだろう。

その情報を元にキメラの翼は帰還先を選別しているのではないか?

 

俺がそんな仮説を建てた理由。

覚えているだろうか?

女僧侶に無茶苦茶しぼられたあの一件である。

 

 

 

実は、キメラの翼で帰還できる先には“ロトの洞窟”も含まれているのだ。

 

 

 

実はあの時、俺は女僧侶との約束を破る気など、(初めは)さらさら無かった。

 

一晩ロトの洞窟で寝泊まりし、昼ごろラダトームに帰還しようとキメラの翼を投げたところ、何故かロトの洞窟の入口に立っていたのだ。

 

初めは焦った。

だが、冷静になって考えてみればわかることだ。

 

あ、ここ街判定なん?  てな。

 

で、俺は約束の時間に帰ることをすっぱり諦め、もう一晩寝泊まりしてからラダトームに歩いて帰還したというわけである。

 

女僧侶に正直に話せばよかったじゃん、だと?

 

言えるか。

もっと怒られそうだわ。

 

「そんなことなら、なんでもう一晩泊まるんですか!馬鹿なんですか!」てな。

 

 

 

で、女の子の件で、リムルダールからラダトームへと帰還するためのレベル上げの際、俺は1つのことを確かめていた。

 

リムルダール南の祠。

ここには、ロトの洞窟と同種の、“聖なる気配”が漂っていたのだ。

そして、そのことを確信する。

 

“あ、ここも街判定じゃね?”と。

 

 

 

もうお分かりいただけただろうか?

今回、俺が使ったトリックの内容。

 

 

 

おっさんがリムルダールからメルキドへと向かうのに合わせて、南の祠へとおっさんの部下の数人が向かっていたのだ。

 

俺とおっさんがリムルダールに帰還するのに合わせて、その部下たちも祠からリムルダールに“徒歩で”帰還する。

 

俺は“太陽の石”と“雨雲の杖”、“ロトのしるし”を持ち、おっさんの部下から、祠へと帰還するキメラの翼を受け取る。あと、ついでにリムルダールでキメラの翼を買う。

 

こうすることで、俺は祠に帰還するキメラの翼と、リムルダールに帰還するキメラの翼を同時に手にすることに成功したわけである。

 

あとは、一瞬。

 

キメラの翼を投げる→祠で虹のしずくを作成→時間を置かずにキメラの翼を投げてリムルダールに帰還。 へへ、頭いいだろ?

 

 

 

………いや、わかってるんだ。ちゃんと時間が噛み合うか、賭けだったってことは。

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

女僧侶の誕生日は明後日に迫っている。

日が暮れる頃には、俺達は、竜王の城の目前に陣地を構えていた。

 

おっさんの部下、ちょっと優秀すぎである。

 

ダースドラゴンの群れを《ドラゴン斬り》で片付けているさまは、悪鬼修羅のそれ。

砂漠も、山岳地帯も、毒の沼地すらものともせずに突き進む姿は、まさしく“最強の軍隊”だった。

まぁ、《トラマナ》なら、俺がラダトームを立つ前に全員にかけてるんだけども。

 

竜王の城の前で大規模な戦闘を繰り広げるも、これを()()()な兵力で押し返し、陣を構えることに成功。

 

いやいやいや!

ドラゴンとか死霊の騎士とか、500体ぐらいいたと思うんだけど、こっちは200人しかいないんですよ?

 

おっさんの部下たちが戦う様子を眺めながら少しだけ思ってしまった。

 

…………俺いるかな?




本編で触れられない設定

31.主人公がレベル上げしていた時、兵隊長本人のしていた仕事
1.ラダトーム城下町の防衛強化
2.部下たちをドムドーラで育成
3.悪魔の騎士の討伐、ロトの鎧の入手。
4.物資を補充後、隊をリムルダールまで移動
5.時期を見計らって、リムルダールからメルキドへ。キメラの翼を使って主人公とリムルダールに帰還。
6.主人公に頼まれていたものの手配

32.竜王の城
原作とは違い、地下に潜るのではなく、玉座に行くためには上に登る必要がある。さらに言うと、迷路にもなっていない。
これは、現実的に軍事利用されているため。ちゃんと城として運用されている。

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