異世界転生の特典はメガンテでした 作:連鎖爆撃
俺がこの世界に送り込まれた理由について、一応、神様おつきの天使がちゃんと説明してくれている。
この世界に今現在、「ロトの勇者」はいない。
この世界の時間にして10年前に、ロトの子孫は竜王に敗れて、死んだ。
だが、死んだだけならデスルーラしてラダトーム城からやり直せるはずなのである。
だというのにそこで問題が生じた。いつまで経っても勇者の棺が、城に帰還しないのだ。
バグ、である。
どうやら「ロトの勇者」様も転生者だったらしく、竜王の城に行くまでに大分好き勝手していたらしい。具体的には特典を使って俺TUEEE!しまくった挙句、海を渡って空から魔王城を急襲したらしい。
………羨ましい気がしないでもない。
だが、そこはラスボスの貫禄、竜王様はチート野郎と真正面から対決し、ギリギリのところで勇者を倒した……らしい。
まぁ、チートだよりでレベルは全然上げていなかった=戦闘経験皆無なため、勝負の内容は「ターンバトルでお互いの奥義をぶつけ合う」という駆け引きも何もないようなものだったらしいが。
しかし、その時の勇者は負けることすら計算のうちで、単純に「くっ……次はお前を殺すゥゥ、殺してやるゥゥゥ!(憤怒)」というロールプレイングをやってみたかっただけらしい。イヤラシイ性格していやがる。
ただそこで計算外の事態が生じる。
元々ゲームのこの世界で原作ブレイクしすぎたせいでシステムに歪が生じたらしく。
勇者の棺はラダトーム城に転移(テレポート)するのではなく。
勇者が魔王城に飛び込んだ軌道を逆になぞるように飛行(フライ)していき。
………勇者が魔王城に飛び込んできた“窓”に引っ掛かって、動かなくなり、10年間そこで放置されているらしい。
神様も天使もこの世界を覗き込む“窓”の前で大爆笑だったらしい。
そんな訳で、俺がデスルーラできないという縛りはバグを防ぐための保健であり、万が一死んでも一応俺はデスルーラできるらしいという説明を改めて天使から受けてはいるのだ。
なんだヌルゲーじゃん!
……とか思った時期が俺にもありました。
天使くん《ザオラルガード》外し忘れてんじゃねーよ!
◆ ◆ ◆ ◆
Sideラダトーム城
「いやぁ、今度の勇者はなかなか長生きですな。鎧も買わず、棒きれ一本で登城してきたときは今度も外れかと思いましたが」
「ええ、《ロトの勇者》がいなくなってからというもの、何人もの青年を勇者として送り出しましたが帰ってきたものは結局いませんでしたからね」
「口を酸っぱくして、“勇者とは名ばかり、大精霊の加護を受けることができるのはロトの勇者のみ。そなたらは加護を受けることができぬ以上、蘇生が叶わぬ”と言ってきましたのに無謀な輩ばかりで……」
「最近は“ファンタジーだから問題ない”とか言う輩が立て続けに来ましたな。アレは何だったんでしょうな?怪しげな宗教でなければよろしいのですが。命を落としては元も子もないというのに」
「……そういえば彼の者も“ファンタジー”なる単語を呟いておったような……」
「「「「え」」」」
「……次の勇者候補を探しておいたほうがよろしいだろうか」
「賛成だ」「……私も」「同意する」「……そのほうが懸命だろうな」
「「「「「はぁ……」」」」」
大臣たちの苦悩は続く。
◆ ◆ ◆ ◆
「ぶぇっくし!…風邪かなぁ」
海からの風は冷たい。それで体が冷えたのだろう。
俺は今、対岸の竜王の城を眺めていた。
理由は単純。
「見えねぇかなぁ、棺」
馬鹿な勇者の馬鹿な姿を拝むためである。
……まぁ、もちろん見えないのだが。
気を取り直して、俺は次の目的地に向かうことにした。
ラダトームから一番近い街へ。名前なんだっけ?
ガライの街?まだ行かねーよそんなとこ。
勇者 Lv.12 ♂
HP/MP:62/17
初期装備
頭:羽のついた帽子
胴:布の服の上に皮の鎧
武器:木製の剣
盾:なし
特技:《ギラ》《メガンテ》
特典スキル:
ザオラルガード(ザオラル系の呪文への完全耐性、蘇生アイテムも効かない)
メガンテマスター:メガンテを使っても必ず一回瀕死になる。
この世界に転移させられてから2ヶ月。俺はやっと隣町に踏みだそうという気分になっていた。
相も変わらず、ザオラルガード持ちだが、考えてみれば元々復活できるという事のほうが異常なのだ。別にこの程度、何のハンデでもない!
……考えてみたら勇者ってブラックな職業だな。何だよ初期費用渡しただけで魔王倒して来い!っておかしくないか。そして倒すまでは次の職業にはつけないって。俺には死ぬか魔王を倒すかの選択肢しかないってことだろ?
相変わらず調子の悪い胃を抑えながら、街へ向かう。
……隣町には、いい胃薬とかあったりしないかなぁ……。
本編で触れられない設定
01.大精霊
この世界を作ったとされる存在。この世界の伝説の存在であるロトをかつて異次元から連れてきた。(ドラクエⅢ参照)。
しかしあくまで、システムの一部的な存在であり、転生させる神様とは何の関係もなく、神様の存在も知らない。ゲームの中だけの存在にすぎない。
故に、原作以上の行動を取ることができず、ロトの子孫以外に祝福を与えればいいという発想に行き着かず、結果多くの若者が勇者を名乗り、命を散らしていった。
02.デスルーラ
勇者が死ぬと、城に棺のみ帰還する。これは本来ならば大精霊の加護ありきの現象だが、転生者たちは神の力で城まで飛ばされている。
どうやら、ロトの勇者の棺が飛んで行く姿がツボだったようで、これ以降、棺は皆、転移するのではなく棺が飛行するので、厳密にはデスルーラではない。
ゲームのモブたちは棺が転移でなく飛行してくる姿を見て、大精霊の加護を受けれなかったか、という解釈をするに至った。
03.勇者
この世界ではロトの勇者が10年前に失踪して以来、多くの若者を名ばかりの勇者として送り出している。
ただし、教会で蘇生するためにはこの世界のルールを司る大精霊の加護を受けていないといけないため、名ばかりの勇者は皆、教会での蘇生を受け付けない。
……というのは建前。ほとんどの勇者は転生者でザオラルガード持ち。そして、天使の説明で勘違いをしていた。
同じように全ての転生者が神に縛り(ザオラルガード)をつけられ、天使に説明を受けていたようである。
どうやら天使は、「説明の矛盾に気が付きもしない(観察力・洞察力の足りない)勇者では攻略に時間がかかる」という考えで転生者たちをふるいにかけていたらしい。つまり神様が神動画を作るための協力者。グル。
04.勇者を送り出すための費用
《薬草》+《魔法の聖水》を1回の戦闘ごとに使ってると、1ヶ月戦いぬく前に費用がそこをつくのではないか?。
実は、この勇者(主人公)が貰った初期費用は30000Gを超えている。
以前の勇者たちが死んではデスルーラする度にその装備と貯蓄をラドトーム城では回収していて、次の勇者へと引き継いでいる。
なので、実質ラダトーム城で負担しているのは、回収にかかる人件費と、一人目に渡した1500Gのみ。
主人公が死ぬと、費用はほとんど底をついているため次の勇者がおそろしく苦労することになる。
05.調子の悪い胃
実は、死ぬかもしれないというストレスにさらされて胃を痛めているわけではなく、《魔法の聖水》の飲み過ぎ。死の恐怖にさらされているというなら、とっくの昔にノイローゼ気味になって引きこもってしまっている。この主人公は結構図太い神経をしているが自覚はない。