異世界転生の特典はメガンテでした   作:連鎖爆撃

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砕け散れぇぇぇぇ!

「ウガァァァァ!」

「うぉぉぉ!」

 

ゴールドマンの一撃。

俺は、《どくばり》と《ポイズンダガー》を交差させる。

振り下ろされたゴールドマンの太い腕を《やいばでぼうぎょ》し、受け流す。

 

ゴールドマンは、思い切り地面を叩き、泥が辺りに飛び散る。

 

俺の両腕がきしみをあげるが、Lv.25ともなれば一撃くらいは耐えきれるものらしい。だが、ダメージを通されたのを感じる。

そのうえ、特技として成立していない《刃の防御》なんかに使ったせいで、右手のダガーが砕け散ってしまった。

 

くっそ、愛用してたんだぞ!弁償しろ、弁償!

 

「ウガァァァァ!」

 

腕を削られた痛みにだろうか、苦悶するゴールドマン。あいつら痛覚あったのかよ。まぁ、断末魔の悲鳴をあげるくらいだし。

 

だがまぁ、いい。もう終わりだ。

 

「ウガァァ……ァ…?」

 

ゴールドマンの動きが目に見えて鈍くなった。

状態異常《麻痺》。

 

俺の使っていた《ポイズンダガー》は、その刃に神経毒が焼き付けられているマジックアイテムだ。俺の前任の勇者達の遺産の中にこっそり紛れ込んでいた一品。

この時代に麻痺の概念は存在しないはずのため、おそらく前任の転生勇者の特典なのだろう。

こいつで繰り出す一撃は、すべて《マヒ攻撃》と化す。

正真正銘の一品物。この世界で、もう手に入ることはありえない。

奥の手として最後まで取っておきたかったのだが、仕方あるまい。

 

何故俺はメガンテでゴールドマンをかたさないのか?

 

ジリッ ジリッ HP49→48→47→46→………

 

今俺が立っている場所が、《毒の沼地》だからである。

メガンテなぞ使おうものなら、1秒後にはお陀仏だ。

 

そして、こんなところで、逃げ出さずにリスキーな戦いを繰り広げている理由。

 

「ゲホッ……うっ……」

「意識をしっかり持て!今助ける!」

 

 

 

今、俺は背後に行き倒れている冒険者を庇っていた。

 

「《疾風突き》かーらーの!」

 

ゴールドマンの胸元に飛び込んで、おっさん直伝の必殺技を繰り出す。

《どくばり》が半分ほど、ゴールドマンの胸に突き刺さった。

ゴールドマンの胸からくもの巣状にヒビが入る。

 

剣を引き抜くのと同時に、俺はそこに右拳を叩き込んだ。

 

「《ギラ》だぁぁぁぁ!」

 

右手から、圧縮された炎が生み出される。

ゴールドマンの体内に叩きこまれ、行き場を失ったそれは……

 

「うぉぉぉ!」

「ウガァァァァ!」

 

激しい閃光と、爆音。

ゴールドマンは、くだけちった。

 

HP20→19→……

 

俺のHPも大分、ヤバイ感じになりつつあったが……

 

「大丈夫か!」

 

俺は、倒れている冒険者に駆け寄る。

顔面が蒼白で、今にも呼吸をやめてしまいそうだ。

 

くそ!やばい、やばい、やばい、やばい!

こういう時、どうすればいいんだっけ!

えっと、昔学校で習ったろ、倒れている人間にはまず、人工呼吸とか!

 

ポーチから《アモールの水》を取り出す。

俺は、それを一口分、口に含むと。

 

こ、こうか!

 

「うっ……むっ……」

 

 ◆ ◆  ◆   ◆

 

その後、一命を取り留めたその冒険者と一時的にパーティを組んで、キメラの翼で一緒にマイラまで飛んだ。

 

俺と違って、その冒険者は毒の沼地の《毒》が抜けきらず、1ヶ月ほどの療養が必要だった。

 

しかし、その冒険者には、手持ちも、マイラに知りあいもいなかったため……

 

 

 

「言い訳はそれだけですか?」

「い、いや、俺は人として当然のことをしていたわけで!」

「言い訳はそれだけですか?」

「……それだけです」

 

ラダトーム城の一室。

神を祀る祭壇の前で、俺はまた、女僧侶に正座させられていた。

 

ラダトーム城では、俺は1ヶ月の間、行方不明として扱われていたのだ。

まぁ、三日ぐらいなら前例もあるわけなのだが、今回はリムルダールまでの道程に、《毒の沼地》《沼地の洞窟》などの危険地帯が存在することも相まって、「これ、勇者死んだんじゃね?」とまことしやかに噂されていた、というわけである。

 

俺はといえばその間、その冒険者さんを見捨てるのも嫌だったので、薬草を煎じては飲ませるという看病を冒険者さんの毒が抜けきるまで続けていただけなのだが。

 

……信じてください。神に誓って、何もやましいことはしてないんすよ。

 

 

 

「勇者様は、わたしの命のおんじんなのだ!あまりおこらないでほしいのだ!」

 

……本当にやましいことはなにもないんすよ。

 

「1ヶ月間、消息不明で。挙句、幼い女の子を連れて帰ってきた勇者様を見て、信用しろ、という方が無理がありませんか?」

 

……。

 

………。

 

…おっしゃるとおりです。

 

ここファンタジー世界なんだよな?

なんで兵士共に「事案発生!事案発生!勇者様ご乱心!」とか騒がれなきゃなんないのさ。

 

「わたしと、勇者様は“きよいかんけい”というやつなのだ!ちかってやましいことはなにもないのだ!」

 

そこ、ちょっと黙ってなさい。話が余計こじれるから。

 

 

 

今現在、俺の隣には、幼女がちょこんと正座をしていた。

 

異世界転生してから8ヶ月。俺の肩書が勇者から“ロリコン”へと変わるかもしれない。

 

(社会的に)俺は死にかけていた。

 

……胃がヤバイ。




(後)
本編で触れられない設定

14.どくばり
初出はⅢ。毒蜂の針を剣へと加工した武器。
固い敵にも確実にダメージを与えられるが、刃が小さいためダメージ量は小さい。その代わり、ランダムで攻撃が即死攻撃になる。
この時代のアレフガルド(初代の冒険の舞台となる世界)には存在しないモンスターの素材を使っているため、かなり希少価値の高い武器である。それをポンと渡してしまえるあたり、実は武器屋のおやじもこの主人公に期待しているらしい。
また、モンスター素材を使って加工している武器であるため、金属素材の武器よりかなり耐久が高い。

15.毒の沼地
ダメージ床の代表格。
この世界では足を踏み入れた時間に応じて、その体力を削っていく(およそ15秒にHP1)。
リアル化したこの場所には毒草などが生い茂り、それらが出す毒に体力を削られる。また、抵抗力が無いと毒が体内に残留し、後遺症を患うことになる。

16.刃の防御
ダメージを軽減しつつ、相手の物理攻撃にカウンターするという特技。
この世界では剣技の一種。剣で敵の攻撃をいなしながら、隙を見て攻撃する。
主人公は刃に毒を塗りこむことで、相手の状態異常を誘うことが可能だと考えたが、武器屋のおやじに怒られたのでやめた。曰く、「手入れをするこちらのことを考えろ!」と。
ポイズンダガーがお亡くなりになったので、もう無理な戦法になってしまった。

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