◆それは生きている   作:まほれべぜろ

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1章 駆け出し冒険者
俺、転生オリ主になります


 「……なんだってこのクソ暑い中、外回りの仕事をせにゃあならんのだ」

 

 ついつい愚痴が漏れてしまったが、大目に見てほしい。

 何といっても、今日は夏真っ盛り、最高気温は35℃に登り、テレビは異常気象だと騒ぎ立てている。

 そんな頭がおかしいような猛暑日だというのに、俺は取引先のお偉いさんに会うために、電車で1時間、バスで1時間、徒歩1時間(少々誇張は入っているが)の別荘を訪ねなくてはならなくなったのだ。

 

 しかも、まだ往路だというのに、持参したミネラルウォーターを半分は飲んでしまった。

 相手は気難さで有名な人だから『水を分けてください』なんて言えば、不機嫌にさせるかもしれない。

 

 従って、帰りに飲む分の水を確保するためには、残りの道を水分補給なしで踏破しなければならないのだ。

 自分の準備不足の事など棚に上げて、愚痴でも溢さないとやっていられない。

 

 「くーっ、せっかくの別荘なんだから、交通の便がいいところに立てておけよ。そしたら行きやすいだろうが……って、んん?」

 

 ふと道の脇を見てみると、そこには井戸らしきものがあった。

 喉が渇いている俺は、果たして飲めるものだろうかと、確認をしに行く。

 

「田舎とかだと、まだまだ井戸は現役だって言うしな。ちょっと味見を……、こりゃ美味い!」

 

 井戸の水は、明らかに清涼だとわかる味で、俺はすっかり安心してガブガブと井戸水を飲み始めた。

 その時だ。

 

「何を望む?」

 

 目の前に、何の前触れもなく女神が現れて、こう言った。

 

 いや、本当に女神かは分からない。

 

 だが、整った顔立ち、水面のように靡く美しい金髪、シミ一つ見えない純白のローブ、そして心なしか見える、彼女の周りの薄く白い光。

 そんな現代社会から浮いたような彼女の存在を、俺は、女神か何かだとしか思えなかったのだ。

 

 『本当に願いをかなえてくれるのか?』

 『貴方は神様なのか?』

 そんなことを尋ねそうになった自分の口を、慌てて捻じ止める。

 

 もし叶えてくれるのならば、そんなことを聞く必要はないし、叶えてくれないなら聞いても意味がない。

 なのにそんなことを聞いて『その質問への答えがあなたの望みね』だの『気分を害したから帰る』だのと言った返答が返ってきたら、一生悔いが残るだろう。

 

 ならば今考えるべきは、自分が何を願うかだ。

 

 と言っても、自分の中ではもう、ほぼ決まってしまっているのだ。

 現代人が神様に願うことと言ったら、転生しかないだろう。

 

 嘘ですごめんなさい、言いすぎました。でもやっぱりロマンだと思わないか?

 自分がこの世界で死んだ後、強い力と現在の記憶をもって、別の世界に転生することを願うのだ。

 そしてその世界で無双する。これは現代日本のトレンドともいえるだろう。

 

 そうと決まったら、さっさと女神様に言うべきだろう。

 時間をかけてる間に、愛想でも尽かされたら元も子もないのだから。

 

 とは言っても、適当なことを言って、ネタ系転生小説のように、歪な存在に転生してしまったり、劣悪な条件で転生させられたりしたくはない。ここは慎重に条件を付けるとしよう。

 

 「私がこの世界で死んだ後、一般的日本人が想像するような、剣と魔法のファンタジー世界に、高貴な身分を持つ人間として転生させてください!その時、その世界で生かせるようなチート能力を使えるようお願いします!」

 

 こんなものだろうか。本当はチートの内容までしっかりと口をはさんだりしたかったのだが、咄嗟に思いつかなかったので、目の前の神にお任せすることにした。

 

 と、目の前の女神が反応を見せた。

 その瑞々しい唇からこぼれた言葉は……。

 

 「…もう後戻りはできないわよ」

 「え?何か問題でもあり」

 

 ましたか?と俺は繋げようとしたが、それ以上言葉を重ねることはできなかった。

 道の横から突如現れたトラックが、そう本当に『突如現れた』としか表現できない程、唐突に表れたトラックが、俺を引き潰し、ミンチにしたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれから1ヶ月が経ちました。現状の再確認をします。

 

 まず1ヶ月前、俺は今居る世界へと転生した。

 

 なぜ、急にトラックが出現して、俺をミンチにしてくれくさったのか。

 それはあの女神様が、『この世界で死んだ後』という部分を無視して、俺をその場で転生させようとしたからだろう。

 

 だがまあ、これは仕方のない事なのだ。

 

 何故なら、あの人は恐らく、elonaというゲームに出てくる、願いの神その人だったからだ。

 この願いの神という存在は、叶える望みが長文だった場合、適当なワードを抜き取って、その何かを与えるという形で願いをかなえる。今回の場合はとりあえず転生という願いを叶えたのだろう。

 未婚であり、独り立ちしてから家族とも疎遠だった俺にとって、特に元の世界に未練がある訳でもないし、しっかり転生ができただけ、ラッキーだと言える。

 (なお、殺害手段がなぜトラックなのかは考慮しないものとする。elonaだからで済みそうだが)

 

 ではなぜ、あの人が願いの神だと思ったのか。それは転生先の世界が、elonaの世界だったからだ。

 (あと井戸水飲んでたら出てきたし、まず願いの女神で確定としていいと思う)

 

 だがまあ、別段忌むほどの事ではない。

 

 この世界は、前世の世界よりも、かなり殺伐とした世界だ。

 しかし、願いの神に頼んだ通り、剣と魔法のファンタジーではある。

 それに、elonaは俺が転生する前、大分やりこんでいたゲームだ、愛着もある。むしろちょっと楽しみにしているくらいだ。

 

 ではなぜ、この世界がelonaの世界だとわかったのか。それは転生した後、まず自分の状況を確認しようとしたとき、こんな文字列が頭に浮かんできたからだ。

 

 ◆細い刀身の剣だ

 ◆それはオブシディアンで作られている

 ◆それは炎では燃えない

 ◆それは酸では傷つかない

 ◆それは武器として扱うことができる(2d11 貫通5%)

 ◆それは攻撃修正に8を加え、ダメージを4増加させる

 ◆それは生きている [Lv:1 Exp:0%]

 ◆それは体力回復を強化する [******]

 ◆それは混沌への耐性を授ける [**]

 ◆それは耐久を7上げる

 ◆それは魅力を26上げる

 ◆それは異物の体内への侵入を防ぐ

 ◆それは使用者の生き血を吸う [*]

 ◆それは意志を持っている

 ◆それは五感を持っている

 ◆それは所持者と念話ができる

 

 そう、もうお察しのとおり、俺は皆さんご存知、elonaの『生きている武器』として、転生してしまったのだ。

 

 だがまあ、これも別に今となっては大した問題だとは思わない。

 

 すでに武器として生まれてしまった今、武器として人生を送ることに、まったく違和感を覚えないのだ。

 価値観が大分変わっているので、むしろ『人間として生きろ』と言われた方が、困惑するまである。

 それに『意志を持っている』というエンチャントのおかげか、しっかりと自我を保てているし、生きている武器ってだけで強いのに、超良質エンチャントが盛りだくさん。

 俺TUEEEEのチートボディを手に入れた、と喜んでもよさそうなくらいだ。

 

 ではなぜ、五感を持っているなんてフィートを持っているのに、この情報を知るまで自分が武器だと気付かなかったのか。

 それは、今の俺が閉じ込められていて、何処とも知れない暗い密閉空間の中で、自分の身体を視認する事すらできないからだ。

 

 だがまあ、恐らくこの問題はその内解消されるだろう。

 

 elonaの世界において、生きている武器のような貴重な武器は、大抵宝箱の中に生成される。

 そしてここが宝箱だとするなら、いずれ誰かが開封すると思う。

 その後、自分がどう扱われるかは分からないが、それはその時に考えよう。

 

 さて、此処まで人によっては発狂しだしそうな様々な案件を、前向きにとらえることができている俺だが、そんな俺でもただ一つ、許容できないことがある。

 武器の情報欄だが、武器の名前が書かれていないことにお気づきだろうか。

 

 

 

 

 何で!!

 

 俺の!!

 

 銘が!!

 

 ☆呪われた神殺しの長剣!!

 

 <<エターナル・ぼっち>>(2d11+4)(8)なんだよおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 呪われているのはいいんだ!

 これだけ良質なエンチャントが付いてるならお釣りがくるし、何より別に俺自身に直接デメリットがあるわけじゃない!

 でも、<<エターナル・ぼっち>>はあんまりだろう!

 

 

 は?いやいや、ぼっちじゃねーし?

 会社の飲み会にもちゃんと参加して、「二次会どうする?やめとく?」って聞かれたし!

 同窓会では「お、猿山じゃん久しぶりー、元気してた(笑)」「あ?誰お前?」って盛り上がったし!

 

 …………。

 

 

 ああ!ぼっちさ!

 空気が読めず、休日は家でひたすらelona遊んでいるような、日本社会の弱者さ!

 ぬああああああああ!幸運の女神というものがいるのなら、俺はその存在を恨もう!

 

 

うみゃ~?>>

 

 あ、エヘカトル様!素晴らしい美声ですね!僕貴方の事大好きです!恨むとかとんでもないです!

 

 

 

 

 

 危なかった、これで幸運の女神であるエヘ様に嫌われたら、この先生きのこれないかもしれなかった。

 

 あの後、めちゃくちゃエヘカトル様の事を褒め殺して、『これからエヘカトル様に改宗します!』って言ったら、

『うれしい!君のこと好きだよ。だよ!じゃあ君は今から私の信者!すぐに持ち主に会えるようにしてあげるね。あげるね!』(要約)

 ってめっちゃ喜んで、改宗作業を代行してくれた上に、なんか持ち主に会える加護までくれた。

 

 エヘカトル様ちょろかわすぎ。天使か。あ、神だったわ。

 

 しかしこの世界の神、めっちゃ身近だな。1月前には、井戸水飲んだら願いの神出てきたし。

 あれホント、なんで地球に出てきたんだろうな。なんかが原因で、この世界の井戸があっちと繋がったりでもしていたのだろうか。

 

 まあ考えただけで、わかるはずもないか。

 今はひとまず、エヘカトル様が会えるようにしてくれたという、俺の持ち主を待つとし「あった!宝の地図に書いてあった宝箱……!」

 噂をすればってやつか、さて声の主はどういった奴か。声の感じではちょっと嗄れ声の女性っぽいが。

 

 

 

 

 

 はい、あの声がしてから、およそ1時間が経過しました。

 彼女?は、やっとこさ土を掘り返し終えて、俺が入っている宝箱を開けるみたいです。遅えよ!

 

 いや現実に、土に入った宝箱掘り起こそうとしたら、それくらい時間かかるかもだけども。

 ファンタジー世界なんだし、もうちょっとそこらへんファジーな感じに終わらせてほしかった。割と待たされた。

 だがようやく、カチッと鍵を開ける音がし、宝箱を開ける音がした。

 1か月ぶりに見る日の光、それに照らされているはずの、宝箱を開けた人間に目を向けると……。

 

 

 脂ぎってテラテラ光った黒い髪に土埃をつけて、宇宙人みたいに異様に細く捻じれた体に支えられる顔は、ベッチャリと潰れた目鼻立ち、幸薄そうな暗く淀んだ眼はゲッソリと落ち窪み、異様に色が薄い唇の横に、エラ張っている――いや、あれホントのエラだわ――たぶん、女。

 あご周りにでかい、よくわからないボコボコが付いていたのを覚えている。

 

 えら(鰓)いブスがそこにいた。

 っていうかなんか、腕三本あるんですけど、カオスシェイプか。

 

「わあ、お金がたくさん!見たことないくらいある!あと耐炎ブランケットと、小さなメダルと……」

 

 わあ、じゃねーよ。それかわいい子に許されるセリフだから。カワイ子ぶっても、その見た目じゃあ……。

 いや、ちょっと言い過ぎた、流石にかわいそうだった。

 でも実際この子見たら、皆そう感じると思うよ?だって不細工通り過ぎてグロいもん、もう。

 思わず、サンタクロースをいつごろまで信じてたか、とか思い出して、現実逃避しそうになったもん。

 

「それと……あれ?剣もあるのかぁ、私の装備してるのと、どっちが切れ味いいかなあ」

 

 彼……女?が、俺のことを手に取っ、ひぃっ!なんかヌメヌメしてるぅ!

 俺、念話できるとかだったよね?こいつとするの?念話。めっちゃ気が進まないんだが……。

 とはいえ、せっかく1ヶ月越しの持ち主との対面だというのに、会話をしないというのも勿体ない。ここは話しかけてみるとしよう。……こんな感じか?

 

(おい、俺の声聞こえてる?)

「!?だっ、だれかいるのっ!?」

 

 女……?は、突然聞こえた声にひどく狼狽した様子で、飛び跳ねて周囲を伺う。

 ひどく慌てたようだったが、幸い剣は落とさなかったので、続けて呼びかけてみる。

 

(俺は、今お前が手に持っている剣だ。俺の特殊能力で、お前に話しかけている)

「こ、これはご丁寧に……。剣が喋ったあ!」

 女と思われる奴は、ぺこりとお辞儀をした後、もう一度ぴょん、と飛び跳ねる。だから可愛くねっての。

 

(おう、俺は生きている武器で、意志を持つ、所持者と念話ができるっていう特殊なエンチャント持ちでね。俺の持ち主様にご挨拶ってわけさ)

「い、生きている武器ぃ!?し、しかも意志があって、念話ができる……!」

(やっぱりこういうのって珍しいのか?)

「えっと、珍しいんじゃないでしょうか?私、駆け出し冒険者だからあまり詳しくないですけど……」

 

 ふむ、この世界だと生きている武器が全員念話ができる、という訳でもないか。

 元のゲームと同じく、俺のような『意志を持っている』エンチャント付きの生きている武器は、そうそうなさそうだな。

 つまり、俺はオンリーワン、超希少な存在だという訳だ。

 ならば、呪われていることを含めても、俺には十分な価値がありそうだ。

 

 後は、正直にコイツに呪われていることを話すかどうか、だろう。

 別にこの女に使ってもらいたいという訳ではないが、持ち主とは良好な関係でいたい。

 もともと『俺TUEEEEE』がしたくて、転生を願ったのだ。『持ち主との不和が原因で使ってもらえない』とか話にならん。

 そういう意味では、先に自分が呪われた武器だと伝えることはプラスになるだろう。

 

 だが、予め呪われている、と教えられた場合。いくら『駆け出し冒険者だ』と言っているコイツには、過ぎた性能の武器である俺とは言え、倉庫送りにされる可能性もある。

 ならば、先に装備させてから呪われていることを教え、その後で俺の強さをアピールするのもありだろう。それで通せるだけのポテンシャルを俺は持っているはずだ。

 

 と、こういったメリット、デメリットについては一か月の間に考えてきた。

 だが、どちらの方が俺にとって得になるか、今はまだ判断するには早いだろう。此処は俺の持ち主になるこの女についてもう少し探りを入れて……、と、いつまでも名前が分からんままでは不便だな。

 まずは名前から聞いてみるとするか。

 

 (まだ、お前の名前を聞いていなかったよな、お前の名前はなんていうんだ?)

 「私ですか?私はオーディっていいます!剣さんにはお名前はあるんですか?」

 

 しまった!藪をつついたら大蛇が出てきやがった!

 

 くそっ!そりゃそうだろ、相手に名前聞いたら、俺の名前だって聞かれるに決まってる!

 だが、嘘をついたり、前世の名前を教えても、町で鑑定されてバレたら、『ボッチって隠したかったんですね……(笑)』ってなる!それは恥ずかしい!

 

 「剣さん?お名前分からないんですか?もしそうなら、私お金出しますから、町で鑑定しましょうか?」

 (……いや、その必要はないよ。俺の故郷は別の場所だから、此処だと何て訳せばいいのか思いつかなかっただけさ。武器の名前ってのは、相手に意味が伝わるように伝える、って決まりがあるからな)

 「へー!そうなんですか!だから奇跡的な品質を持った武器の名前に、艶やかなる、とかこの世ならざる、とか付いているんですね。私、知りませんでした!」

 (へ?あー、うん、そうそう多分そう、で、俺の名前なんだけどさ)

 「はい!」

 

 くっそ!キラキラした振りした淀んだ目で見やがって!かわいかねえんだよ!

 だがこの設定なら、後からばれてもなんとか誤魔化せる!後は<<エターナル・ぼっち>>と同じ意味の、まあカッコいい名前を……、無茶があんだろ!くそっ!これ以上は引き延ばせん、とりあえず語感がいい感じでっ。

 

 (えーと……永遠の孤独っていうんだ!)

 「わあ!カッコいいです!」

 

 俺の異世界転生が、超無理のある恥ずかしい嘘から始まった瞬間だった。




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 シェゾの闇の剣とか、才人のデルフリンガーみたいな意志を持ってる武器が好き、
 そして、elonaの小説書いてみたい、
 んじゃ生きてる武器主人公で小説書こう。

 そんな浅はかな思いから、こんなものを書き始めてみました。

 作者はほとんど小説とか書いたことないため、割と苦戦しています。
 次の投稿までどれだけ時間かかるか分かりませんが、次も見ていただければ幸いです。

 また、どうしたらもっと読みやすくなる、分かりやすくなるなどあれば、どんどん教えていただければと思います。

 よろしくお願いします。
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