◆それは生きている   作:まほれべぜろ

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ロックったら嫌われ者

 「さあてっと、もうそろそろ税金振り込みに行かな、ガードが煩くなってきてまうな」

 

 俺がロックの元に来てから、2か月ほど経とうかと言う頃。ダルフィ近くにあるロックの這い上がり拠点(我が家だとかアジト等とも呼ぶ)で、急にそんな発言が飛び出した。

 

 (意外だな。お前窃盗上等、殺しも上等みたいな奴だし、カルマとか全然気にしないタイプの奴かと思ってたわ)

 

 正直、結構驚いている。

 ロックの生き方は、ゲームでのelonaにおける悪人プレイと言う奴に近いものがあり、それと同じく税金も踏み倒し、何食わぬ顔で生きているんだろうと勝手に思っていた。

 

 「いやー、何だかんだ買い物が気軽にできへんのと、町入る度ガードに追い回されんのはキッツいモンやで?ちょびーっと金払ったり、おサイフ届けたりするだけで回避できんのやから、そんならそれに越したことは無いわ」

 (まあ、例え盗みをやったところで、窃盗してるところさえ見つからなきゃ大してカルマは下がらんようだしな。大してカルマが低くないのなら、そうやって金払って安全に街を歩けるようにした方が利口、ってなもんかもしれん)

 

 実際、ここ2ヶ月ほどで、何度かロックの生き武器狩りに立ち会ったが、大抵の場合、武器を吹き飛ばしてから相手を殺して手に入れるか、誰にも見られない場所に武器ごと帰還して、安全に窃盗で所有権を奪うかしている。

 

 そのおかげかロックのカルマはそれほど低くもないらしく、街中でガードに追い回されている所を見たことは無かった。

 

 「何より、あんまり悪名高いと、お客さんが寄ってこれへんからな。やっぱり商人は信用第一や、お客さんに安心して買い物させられるようにせな」

 (闇討ちで冒険者から武器を奪ってるような奴に、信用も何もない気がするがな……)

 「そいつ等はお客さんと違うからエエの!」

 

 この世界では多少闇討ちしたぐらいなら、周りで見ている人間たちも顔を顰める程度、というのは確かだが。

 それにしたって、流石にマイルール剥出しに見えるロックは、『そもそもそうやって勝手に信用を求める奴は、相手に利益を与えずにサービスを欲しがって云々』等と持論を展開しながら、給料箱から税金の請求書を取り出した。

 

 正直に言ってロックの商売哲学とやらは、普段から大分聞き飽きている。

 俺は彼女の熱弁を遮り、

 

 (分かった分かった、お前なりに考えがあるのは知ってるから。さっさと税金払いに行こうぜ、時は金なりってやつだ)

 

 と、提案する。

 ロックも自分がいくら話しても大して意味がない事は分かっているらしく、まだブツブツと何か言いながらも拠点を出て、王都パルミアの方向へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 道中、特に何があるわけでもなく。

 俺達は無事にパルミアの北にある納税所、パルミア大使館へとたどり着くことができる。

 

 当然と言えば当然である、ロックは盗賊などから身を隠すための技術、隠密をかなり高いレベルで納めており、

 その上、旅の途中の安全を確保するため、積み荷を一切荷車に乗せて運んだりせずに旅をしているのだ。

 

 これだけ徹底していれば、そうそう盗賊団に目をつけられたりするものでは無い。

 事実、これまで俺は、ロックが盗賊まがいの行為を行っているところは見ても、彼女が盗賊から襲われている所は見たことが無いのだ。

 

 話が逸れたが、兎に角大使館に着いたロックは、その足で大使館のロビー正面に鎮座している納税箱へ、拠点から出る際に持ってきた請求書と、その用紙に書き込まれた金額を入れる。

 

 これで納税は完了だ。

 そのまま彼女が大使館を出ようとする所で、少し気になったことがあったので聞いてみた。

 

 (そう言えば、納税箱を自分で買って、自宅から納税することもできるだろう。どうしてわざわざ大使館まで来て金を振り込んでいるんだ?移動の時間も考えたら、余りに非効率的な気がするんだが)

 

 別にロックは極端な銭ゲバという訳でもないが、それでも商人なだけあって、割と倹約家な人間である。

 だからこそ、商機を逃しかねない、アジトとパルミア間の往復を、わずかな金額と手間で省略できる納税箱の購入。

 これを行っていないことに違和感を覚えたのだ。

 

 辺りには此方へ注意を向けている者もいないようで、足を止めずに大使館から出たロックは、普通に俺の疑問に答えてくれる。

 

 「いや、本当ならそっちのが効率エエんやろけどな。ウチはこの稼業始めたころから、税金納めるときに、一緒に神様へのお祈りもするって決めてるんや。あの頃は納税箱にまで回すような金なんか無かったし、お供えもんもあんまり用意できんかったしな。今となってはどっちかって言うと、お祈りをしに行くついでに税金納める、っていうのに近いかもしれへんけど」

 

 成程、確かにこの大使館は教会のあるパルミアに非常に近い。

 このまま歩き続ければ、1時間程で教会へと辿り着くことができるだろう。

 流石に祭壇の方は家に置くことができないし、ついでに納税もしてしまうというのは中々に合理的だ。アクリ・テオラにも祭壇はあるが、ロックの活動範囲圏にはあまり近くないしな。

 

 しかし、ロックが神を信じているというのは初めて知ったな。

 この世界では神が実在すると分かっているし、人々の心に強く信仰が根付いているのは知っていた。

 だから、当然ロックも何かしらの神は信じているとは分かるが、やはり未だに俺の意識としては余り宗教と言うのは身近なものでは無く、彼女の信仰について考えたことは無かった。

 

 (この機会だから聞いてみるが、ロックって何処の神を信じているんだ?俺はエヘカトル様だが)

 「んん?エタやんエヘカトル様の信者かいな!?なんや、エタやんも信じてる神様とかおったんやな。てっきり剣だから信仰とか関係あらへんのかと思うとったわ。となると、他の武器ちゃんたちも誰か信じてる神様居るんやろか……?」

 

 (いや、俺もちょっとした縁があって、成り行きで信者になっただけでな。実際恩恵に与ったし敬ってはいるが、この身体じゃあ捧げ物なんかできないし、形だけに近いもんだ)

 

 まあたまに、夜、信者たちが寝静まってて、エヘ様が暇なときとか、睡眠しなくても平気な俺に、話しかけてきたりとかはするが。その時は不肖の身ながら、話し相手を務めたりすることもある。

 ……いや、別に本気で不肖の身だと思っているわけではないが、相手は神でファーストコンタクトからしてこっちの思考が読めるわけだし、形式上の礼儀はね?

 

 「はぁ~、何ヶ月か付き合いがあっても、新しい発見ってのはあるもんやなあ。で、ウチの信じとる神様やったか。とは言え、商人が信じる神様っていうたら、この辺りでは一柱しか居らんわ」

 

 ……ああ、あの神様か。

 確かに狙撃銃とかplus要素は出て来てたし、派生ヴァリアントの神様が居てもおかしくないだろうな。

 銃とか使ってるからマニ()を信仰している可能性もあるかと思ったが、商売に関わる神がいるなら、それはそっちを信仰するだろう。

 elonaで商売に関係する神様で、コテコテの関西弁を使うロックが信仰している。これらの情報から浮かび上がる神様と言ったら……。

 

 (『富のヤカ「当然『財のイナリ』様や!」そっちかい!)

 そっちって何が?と、キョトンとした様子でロックがこちらを見てくる。

 いや、確かに勝手に勘違いして変なテンションでツッコミをしてしまった。補足をしておかなければ。

 

 (いや、俺の知識では富のヤカテクト、って神様が居たはずだなと思ってな。確かその神も商売の神で、しかも関西弁だったから、ついそっちを信じているのかと)

 「ああ、サウスティリスで割と有名な神様やな。確かにそっちも商売の神様やけど、流石に関西弁ってだけで信仰の対象決めたりはせんよ」

 

 (いや、そうだろうけども。でもまず一番に浮かんでくるだろ?)

 

 「まー、分からんでもないけどもな」

 

 そんな益体もない事を話しながら、しかし周りをしっかりと警戒してロックはパルミアへと歩き続ける。

 

 しかし、信仰対象は財のイナリだったか。

 確かoverhaulに登場していた神様だったな。

 もちや、うどん等を捧げ物として受け取る神様だった気がする。ゲームの時は、信仰マラソンの間だけしか信者じゃなかったから、うろ覚えだけども。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、街中のパン屋で大量の麺類を買い占めた(パン屋で麺を買うことに突っ込んではならない)ロックは、パルミアの教会の前へとやってきた。

 ここに来るのは久しぶりだな、最後に来たのは2,3か月ほど前にオーディと別れる直前だったか。

 別に感傷に浸るという訳では無いが、持ち主が変わっても同じ場所を訪れるというのは、何だか得体の知れない感覚である。

 

 中に入ると、そこには特に変わった様子もない見知った顔の、癒し手のフィーヌが客人を迎え入れる態勢に入っている。

 ロックは大して特別な反応も見せず、

 

 「失礼しますー、ちょっと神様に捧げものしに来ました」

 

 と言って軽く挨拶をし、祭壇の前へと陣取りに行く。

 それに対し、フィーヌは軽く眉を顰めて、軽い小言を始めた。

 

 「ロックさん、何度も言いますが捧げ物を1度にまとめて行うというのは、余り褒められた行為ではありませんよ?日々の積み重ねこそが、とても尊いのです」

 「あんまり口うるさく言わんといてやー、ウチかて悪いなとは思ってるんやで?でもやっぱり、そう頻繁にパルミアに来るってのは厳しいんや」

 「そう言いながら、何度も『仕入れ活動』の為に、パルミアに来ていることは知っているんですよ?あまり不精をせず、しっかりお祈りに来るべきです」

 「あ、ばれてた?ま、ま、堪忍してや」

 

 そう言って、ロックは祭壇の前で捧げ物を始めた。

 祭壇に乗せられたうどんや蕎麦が、白い光と共に消え去っていく。

 

 しかし、フィーヌのあの小言も久しぶりに聞いたな。

 オーディも同じようなことで怒られてたわ、ちょっと懐かしい。

 

 そして仕入れ活動については説教が無い、ティリス大陸クォリティ。

 ここはいつだって世紀末である。

 

 

 

 5分ほどかけて、ロックは購入した麺類を全て奉納し終え、最後に懐から何かを取り出した。

 

 「よーし、粗方納め終わったな。最後にコレ差し上げますぅ、お納めください」

 

 そう言ってロックが祭壇に乗せたのは鏡餅だった。

 ロックは、何だか心なしか丁寧にそれを祭壇に乗せた後、*パン!パン!*と二度手を叩いて祭壇を拝んだ。

 すると、さっきより少し強い光が祭壇を包み込み、鏡餅を持って行った。

 それと同時に、空から何やら大きな存在を感じられるようになり、穏やかそうな女性の声がしてくる。

 

 『いつもありがとうございます。これからも末永く宜しくお願いしますね』

 

 恐らく、今のが財のイナリの声だろう。

 その予想は間違いなかったらしく、ロックは恭しくそれに返答する。

 

 「とんでもございません、こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 

 そうしてロックが一礼をすると、白い光が消え、財のイナリと思われる気配も消え去った。

 

 その姿からは、本当に神を敬っているのだろうと感じさせるものがあった。

 普段はあんなに軽く、何だか商売以外に興味が無さそうなロックも、信心深い普通のティリス人なんだと思わせる一面である。

 

 「ほんじゃ、また来ますわ。そん時はまたよろしく」

 「出来るだけ早く来るようにしてくださいね」

 「はっはっは、善処しますわ」

 

 そう言って教会を後にするロックは、いつも通り食えない様子に戻っていたが。

 

 

 

 

 

 パルミアでの情報収集を終え、特に有用そうな情報はないという結論に至ったロックは、もう一度拠点に戻って休息を取るべくパルミアを出立した。

 

 そこで、先ほどふと疑問に思ったことをロックに聞いてみることにする。

 

 (そう言えば、さっきは大分神に供物を捧げていたようだったが、いつもあれだけ捧げていたら、神様から下僕を下賜されたりはしてないのか?)

 

 ゲームにおいては、あれだけの供物を何回も捧げたら、神の下僕が仲間、つまりはペットとして貰うことができた。

 ロックの信仰スキルがどの程度の物かは分からないが、話を聞いた限りでは随分と前からイナリを信仰しているようだったし、貰っていてもおかしく無いのではないかと気になったのだ。

 それに対するロックの返答はこのような物だった。

 

 「神様の下僕かぁ、あれはよっぽど神様から目を掛けられてるような信者でないと、貰えるモンとちゃうで。なんでも、最低でも10年単位での深い修業が必須だとか聞いたことあるわ」

 (10年!?マジでか?)

 「そら、神様の下僕やからなあ。それ位は必要になるやろ、他には時代を導くような運命に関わるような人間には、割とポンポン下僕をくれたりすることもあるらしいけど、そっちのが稀らしいわな」

 

 なるほど、ゲームでの主人公は後者という訳か。

 となると、今となっては作られることのない第三章では、プレイヤーが何か大きなことを仕出かしたりする予定だったのだろうか?

 

 気にはなるが、どうせ元の世界に戻って作者に確認したりすることはできない。

 もしかしたら、この世界でその偉業とやらがどんな物かを知る機会も、あるかも分からんがな。

 

 「そんなわけやから、ウチみたいなもんには神の下僕が来たりすることはないやろ。もし神の下僕を連れてるやつがおったら、ものっそい敬虔な信徒か、これからどエラい何かを仕出かすかもしれん奴やと思っとけばええわ」

 

 そしてロックは、”とは言え神々は気まぐれな方も多いから、もしかしたら偶々気に入った人間に与えただけかもしれへんけどな”と、締めくくる。

 

 (だが、そうなると信仰に即物的な面はあまりないんだな。それでも十分な見返りってもんはあるんだろうが)

 「もちろんそうや。例えば財のイナリ様なら、その信仰の深さによってその美貌や口先とかに加護をくれはるし、ちょっと特別どころとしては……」

 (信仰が深まれば深まるほど、天候が雨で固定しやすくなる、と)

 「なんや、知っとったんかいな。ま、元々名前まで聞いたことあったみたいやし、大して不思議でもないけども。というか何でそんなことまで知っとるんやろうな」

 (俺がこの世界に生まれ落ちた時からこんなもんだからな、気にしたって仕方ないんじゃないか)

 「そりゃそうやな。話戻るけど、天候が雨ってのは結構便利なもんやで。雷雨になりにくくなるから、安定して旅ができるようになるし。足跡を消すための翼さえ持っとけば、隠密も大分やりやすくなるからな。

 ……お、噂をすれば降ってきおったか」

 

 そう言ってロックは空を見上げる。

 其処には確かに、チラホラと落ちて来始めている、細かい粒が見えた。

 冷たく、ふわふわとしていて、白く見えるその粒は……。

 

 (これ、雪じゃね?)

 「……雪やな」

 

 まごうこと無き雪だった。

 全然、まったくもって雨じゃなかった。

 

 「いやいやいや、これはちゃうやんか!パルミアの近くやから雪が降りやすいのを、ちょーっと雨と勘違いしただけで、本当に雨が降りやすくなるんやって!」

 (別にロックの信仰が薄いから、雨が降らなかったとか言わんけどな)

 「ウチ知っとるんやで!エタやんがそう言う物言いをするときは、嘘ついてからかっとる時やって!あ、ほら見てみい!すぐ雨に変わりおったで、雪と雨なんか同じようなもんやな!」

 

 確かに、ロックの言う通り。降ってきた雪は、すぐさま雨へと移り変わった。

 

 「ほーらな、やっぱお稲荷さんはウチの事ちゃあんと見てくれてるんやで?」

 (ここらは気候的には雪と言うより、雨が降りやすい範疇だからな。すぐに雨に移り変わっても、不思議ではないか)

 「さっきの雪はノーカンやノーカン!見とき、これから暫く雨続きになるやろうからな」

 

 自分の神の加護を証明できたロックは、さっきとは打って変わって上機嫌である。

 

 そう言って喜ぶロックの背後を見上げると、そこには雲の切れ目から見え始めた太陽がサンサンと地面を照らしていたが。

 

 

 

 

 

 結局、パルミアを出てここまでの道中、雨はあれから一度として降らず、空にはずっと太陽か月が輝き続けていた。

 そのおかげで、ロックはすっかりしょげ返って、

 

 「ちゃうねん、エタやんが来てから確かに雨の日はあんま無いけど、ホンマはもっと雨が続くねん……」

 

 等と繰り返している。

 

 (わかったわかった、それに関してはそういう事で良いっつの。ほれ、もうそろそろ家に着くぞ)

 

 既にこの場所は、ダルフィ近郊だ。

 ロックの住処隠蔽を兼ねた、遠回りの移動のせいで今この場所の正確な位置は分からないが、それでも少し見覚えがある場所であることは分かる。

 

 と、ロックが急に立ち止まって、その場に蹲った。

 

 (……?どうした急に、いくらなんでもそんなに気にする事でもないよな?)

 「もちろんや。いや、なんか変な気配がすんねん。このあたりの生き物とちゃう、モンスターか何かやろうか」

 

 そう言いながら、ロックは地面に耳を当てて辺りの音を聞く。俺も一応、目線が低いロックの代わりに辺りの警戒をしてみるが、すぐ傍にはおかしなものは見当たらない。

 

 しばらくすると、ロックは地面に押し当てていた顔を上げた。

 その顔は少々苦々しい物となっている。

 

 「こいつはちょーっと嫌な展開になるかもしれへんな。取りあえずアジトまで戻って見よか」

 (なんかあったのか?)

 「この物音、完全にウチの拠点の方から聞こえ寄るんや。しかもウチの予想通りの奴やったら、エライめんどい事になると思うわ」

 

 ロックは、少々急いだ様子で、しかし足音は完全に消しながら、遠回りを辞め拠点へと一直線に戻っていく。

 当然俺も一緒だ。剣なのだから、どうやったら一緒じゃなく移動するのか、っていう話だが。

 

 

 

 

 

 ある程度開けた荒れ地に、ベッドや給料箱と言った家具が点在している空間。すなわちロックの住処に辿りつくと、そこには俺の見たことが無いモンスターが、何匹も蔓延っていた。

 いや、正確に言うなら俺が『この世界に来てから』見たことが無いモンスターになるだろうか。

 

 白色の石でできた、細長い円錐状の体。

 人で言う顔の部分にある、十字の形状。

 その姿は、俺にとっては中々に見覚えのあるものだ。

 

 (なるほど、<キング>か。確かに厄介なモンスターだな、特に拠点に陣取られたって部分が)

 

 ロックは、特に驚いたようでもない。

 これまでにも俺は色々と知識があるところを、彼女には見せているし、これもその一部だと判断されたのだろう。

 

 「知っとったか、アイツは無限に配下のモンスターを召喚し続けるタイプのモンスターや。本来はこの辺に出てくるモンスターでは無いんやけど、どういう訳かウチの拠点で繁殖しくさっとるな。あの数にいっぺんに召喚されたりしたら、とてもや無いけどこの家は住むどころじゃあなくなりそうや」

 (どうせお前の被害者のうちの誰かが、ペットの<キング>をここで離して繁殖するよう仕向けたんだろう。心当たりでもあるんじゃないのか)

 「両の手で数え切れん位にはな」

 

 だろうよ。

 

 ロックは卑怯上等のブラックマーケット商人だ、恨まれる覚えは十分にあるだろう。

 そして、ノースティリス中を走り回るロックに復讐をするとしたら、拠点を利用するのが利口と言うものだ。

 ロックもそれを分かって、出来るだけ住処がばれないように立ち回っているが、

 復讐したいと思った奴が本職の情報屋等を頼れば、流石に対処しようがない。

 恐らくこの状況を作り上げたやつは、そうしてこの場所にたどり着いたわけだ。

 

 だがこの世界では、窃盗は重罪なので、復讐相手の家が分かったとしても、物を盗んだりすることで意趣返しをすることが難しい。

 だから基本的には、本人を待ち伏せて闇討ちするという方法で復讐するのがセオリーの一つなのだが、いつ来るか分からない上に、会えたとしても返り討ちにされるか、逃げ切られる可能性がある。

 そこで、対象の家に汚物をまき散らしたり、このようにモンスターをばら撒いて繁殖させたりする訳だ。

 

 強力なモンスターが居る状況では拠点が安全地帯となり得ないし、引っ越すにしても中々の金額が必要になる。

 十分強いモンスターを相手の拠点にばらまくことができれば、まず間違いなく相手に嫌がらせができる、ということになる。

 

 今回ここにいるモンスターは<キング>というチェスをモチーフにしたモンスター。

 ステータスで見るならば大したことは無く、むしろレベルにしては貧弱と言えるモンスターなのだが、

 

 (あいつ、手駒をどんどん召喚してきやがるからな。しかも何体もいるから、一体を相手にしている間に、他の奴らによって拠点を駒モンスターで埋め尽くされかねん)

 

 そう、駒召喚が厄介なのだ。

 奴はモンスターを召喚して戦うタイプのモンスター。耐久型の<ルーク>や投擲を得意とする<ナイト>、魔法攻撃を撃ってくる<ビショップ>などを大量に展開されると、満足に<キング>に近寄ることすら難しくなり、いずれ物量に圧殺されてしまう。

 

 「せやねん、一体位ならウチにも何とかする自信はあるけど、見た限り四体は居りそうや。これはちょっと厳しいかも分からんな」

 

 ロックのレベルは、持っている武器の上質さに比べると大分見劣りする。

 ある程度格上の相手なら戦うことができるだろうが、確かゲームでレベル20以上だったキングに、自分と同程度のレベルのモンスター達を召喚され続けては、当然苦しいだろう。

 ここは拠点を諦めるのも手かもしれない。

 

 (どうする?別の場所に引っ越してあいつらほっとくか?)

 

 俺がロックに聞いてみるが、彼女は横に首を振った。

 

 「それでまた同じことされたらかなわんのよなあ、出来ればウチの力でしっかり対処して、何度来ても無駄やって見せつけたいところや。んー、取りあえず死ぬまで戦ってみて、無理やったら這い上がり次第逃げ、核の炎で拠点ごと焼き払う方向でいこか」

 (物騒な話だ)

 「召喚するタイプのモンスターにはこれが一番効くんや」

 

 まあ、確かに数を頼みにする奴相手なら、核爆弾は良く効くだろう。

 この場所はダルフィに近いから、爆弾魔のノエルから仕入れるのも容易、確かにいざとなったらその方面で対処するのもアリか、自宅でなら大してカルマも下がらんだろうし。

 

 それに、駒モンスター相手なら俺の出番もあるかもしれんな。

 大量の雑魚をさっさと片付けられる俺の瞬間火力は、捨てたものでは無いと思う。

 バブル工場で手に入れた地獄属性攻撃で継戦能力もあるし、久しぶりにモンスターを血祭りにあげたいところだ。

 

 「さあて、ほいじゃあボチボチやろか」

 

 そう言って、ロックは加速のポーションをグビグビと飲み干す。

 この戦いはどれだけ相手に召喚を許さず、さっさと敵を倒し切るかが肝になるだろう、短期決戦を目指すならこれくらいの投資は必要か。

 

 ポーションを飲みきったロックは、一番手近な<キング>に向けて、時止弾の装填された拳銃を向ける。

 距離は少々離れていたが、こちらに気付いていないモンスターを狙い撃つ分には問題なかったようだ。引き金が引かれるとほぼ同時に、<キング>が弾のぶつかった衝撃でグラリと揺れ、さらに時止弾の力で世界の時間が止まる。

 

 すかさずロックはスナイパーライフルに持ち替える、弾は武器を弾き飛ばすための紙の貫通弾では無く、実用性重視の鉄製の物に入れ替えられている。

 

 時が止まっている以上、標的に弾を当てるのはロックにとっては朝飯前だ。

 1発2発と<キング>に向けて弾丸を打ち込んでいく。

 

 6発ほど当てた所で、時は再び動き出した。

 瞬間、弾を撃ち込まれ続けた<キング>は、衝撃で俺達とは反対方向へと吹っ飛ぶ。

 だが、致命には至らなかったようだ。フラフラとよろけた様子はあるが、外敵からの吸収に反応して、モンスターを召喚し始めた。

 出てきたのは、2体の<ポーン>と1体の<ルーク>。遠距離攻撃は持たないが中々耐久力のあるやつらだ。

 

 しかも、仲間が攻撃されたことに反応して、残り3体の<キング>達もこちらに感づいたようだ。

 まだ何処にいるかまでは気付いていないようだが、すぐにでも見つかって奴らも召喚を始めるだろう。

 

 「くっそ、一発の時止弾で仕留めきれへんかったのはキツイな。2発目撃ってもええけど、時止弾は大分スタミナ使うから、あいつを倒しても疲労でまともに戦えへんようになってまう。そしたら召喚でまともに<キング>狙うどころや無くなるし、ここは温存しとこか」

 (なるほど、そんならさっさと手負いの奴から始末していくべきだろうな)

 「言われんでも、な!」

 

 そう言って、ロックは再びスナイパーライフルから弾丸を発射しだす。

 2発3発と撃っていくと、元々瀕死に近かったらしい<キング>は、最後の力で<ポーン>を1体、<ナイト>を2体出して力尽きた。死の間際でも駒を召喚するその執念は、復讐心からくるものか、はたまたモンスターのくせに味方を守ろうなんて言う義侠心からくるものか。

 

 だが、厄介なことは確かだ、特に<ナイト>。

 今の発砲音で、残りの<キング>達がこちらに気付いてしまった。

 ここからは3体のキングを相手にしなければならないのに、近場に遠距離攻撃を加えてくる<ナイト>が生まれてしまっている。

 奴の攻撃を避け、<キング>との間に居るモンスター達に阻まれないように、親玉の<キング>達を狙い撃っていかなければならないわけだ。結構に難易度が高そうな話である。

 

 とは言え、やるからには成功させるつもりである。問題は俺にできることは大して無いという点だろうが。

 

 「こっからはテレポートしながら狙撃し続けるしかないわな。っかー!手持ちの道具だけで殺し切れるやろか?」

 (なんだ、別に勝算とかあった訳じゃあないのか)

 「ウチは、モンスターとの戦闘は専門外やで?あくまで商売人やさかい」

 (そりゃそうかもしれんが。まあ俺の見立てだと何とかなると思うぞ、お前の射撃の腕が問題なければだけど)

 「なら失敗したら、エタやんの見立てが間違っていたってことやな」

 

 俺のゲーム時代の経験に基づく判断に、ロックは群がり始めた<ルーク>や<ポーン>を、散弾銃で撃ちながら答える。

 確かあの銃には、暗黒属性の追加攻撃が付いていたはずだ。

 近接要員を一時的に無力化できると思えば、キング達の召喚を少し放置してでも多少盲目を付与するため、奴らを撃っておくのは悪い手とは言えないだろう。

 

 ゲームで言う、NPCであるロックにスタミナという概念がある以上。ゲーム中のelonaと違い、恐らく<キング>にもスタミナに限りはあり、連続で駒召喚を行い続けることはできないはずだ。

 実際、今の所3体の<キング>は1度位しか駒召喚を行っていないようで、俺達と<キング>達の間には10体くらいの駒たちしか存在していない。

 

 奴ら<キング>達とはそれぞれ3~40m程度距離があり、ある程度開けた空間がある。今<キング>達に召喚された駒たちは、召喚者の敵であるロックに向かってきているが、<キング>への射線を阻むほどに密集してはいない。

 盲目状態に陥り、まともにロックに向けて剣を振り下ろせない<ポーン>や<ルーク>を尻目に、ロックは遠くに居る<キング>達に、3発ほど狙撃銃の弾を叩き込むことに成功する。

 そしてもう一発撃とうかと言う所で、先ほど死んだ<キング>が召喚した、<ナイト>の投げる手裏剣に阻まれた。

 遠距離攻撃主体の<ナイト>とは少し距離があった為、奴にはまともに暗黒属性の弾が当たっていなかったようで、中々正確にこちらへ投擲攻撃を仕掛けてくる。

 銃を撃ちあぐねている間に、新手の駒達が30mの距離を踏破し、こちらに合流しようとしていた。

 

 (取りあえず立ち上がりはこんな物だろうな。そろそろ向こうの新しい召喚駒達で、射線が通らなくなってくる。テレポートの使い時だろうな)

 「見かけよりあいつら素早いもんやな。もう少し撃つ時間作れると思っとったんやけど」

 (気持ちは分かるが、こういう時に未練は禁物ってもんだぞ。あと少し行けそうって思った時は、得てしてあと少し行けないもんだ)

 「真理やな。ちょっと早いかもやけど、使っとくとするか」

 

 ロックは携帯していたテレポートの杖を振り、今居るモンスター達から離れた場所へと転移する。

 即座に辺りを見回すと、どうやら背後5mと言った地点に、先ほどまで狙撃していた、2体目の<キング>が居る場所に出たようだ。

 

 「んげっ!よりにもよってここに出るんかいな!」

 (いや、チャンスだ。とっとと俺をあいつに突き立てろ、最悪突き刺さらんでもいい)

 「い、イケるんかいな?」

 

 ロックは少々怯んだ様子を見せたが、そこは対人百戦錬磨だ。

 すぐに開き直り、俺を手近の<キング>に突き刺すため走り寄る。

 <キング>の方も少々面食らったようではあったが、元々奴の配下には<ビショップ>というテレポート使いもいるし、動揺は少なそうだ。

 すぐさま、改めて駒召喚を行って来、そのまま召喚された駒は<キング>の取り巻きとなる。

 

 「これ刺しに行ったら袋叩きに合うんとちゃうか?」

 (だろうな、時止弾撃ちこんどけ)

 「いやいや、だからそないなことしたら、暫くまともに狙えんくなるっちゅーねん!」

 (だとしても、まずは敵の数を減らさないとどうにもならん。とにかくやっとけ)

 「ああもう、ホンマに大丈夫かいな!?」

 

 そう言いつつも、ロックは俺の言葉に従って時止弾を撃つ。なんだかんだモンスター討伐の経験は少ないようなので、俺の自信満々の物言いが効いたのだろう。

 本日二発目の時止弾が敵に炸裂し、またも辺りが静止する。

 

 ロックは少々疲労で足取りが重くなったが、それでも<キング>の元へとたどり着き、俺を突き刺すことに成功した。

 大して深く突き刺さった訳でもないが、追加属性攻撃を加えるには十分だ。

 

 (ロック、血ぃ吸うぞ。もし途中で時間動き始めたら、防衛者と回復ポーションガン飲みで耐えといてくれ)

 「おま、ホント頼むで!?ウチ戦術や回避系統は大して育っとらへんのやからな!」

 

 ロックは少々焦っているようだ。まあ周りを駒モンスターに囲まれている現状だから、圧迫感ハンパないだろうし、分からんでもないが。

 そんなロックを置いておいて、俺はバブル工場での血液採取によって手に入れた、地獄属性の追加攻撃によって<キング>にダメージを与え始める。ついでに生き血も吸って、ダメージはさらに加速だ。

 地獄属性は、敵から体力を奪い取る吸血系の属性攻撃だ。

 本来なら、俺の属性追加攻撃の任意発動は、大分生き血を奪う必要があるので、乱発することはできない。

 

 だが、地獄属性によって敵からHPを奪い続ける事ができれば、そのデメリットを概ね補いながら攻撃することができる。

 そして時が止まっている中でなら、安全に突き刺し続けて攻撃することができるし、この攻撃方法なら剣の扱いに長けている必要はない。

 中々にロックとの相性がいい攻撃方法だ、といえるのではないだろうか。

 

 俺が地獄属性攻撃を行い続けていると、ロックが声をかけてくる。

 

 「もうそろそろ時間も動き出すで、行けそうなんか!」

 (停止時間内に殺し切るまでは無理そうだ。回復とテレポートの準備しといてくれ)

 「ああもう平気で言いおって……」

 

 ロックは俺と言いあうのを諦めた様子で、懐から防衛者のポーションを取り出して飲み干す。

 これで時間が動き出し、駒達がロックに殴りかかっても、聖なる盾の防御力上昇効果が、ある程度緩和してくれるだろう。

 

 俺の方は、あと少しで相手の生き血と体力を吸いきれると言ったところだ。

 だが、ここで時間停止の効果が切れたようで、俺に突き刺されていた<キング>が急に動き出した。

 

 気が付いたら、敵対していた者が懐で攻撃しているという突然の事態に、<キング>も戸惑っているようだ。

 防衛反応だろうか、駒召喚によってまた新たな僕たちを傍に展開させる。

 本人も逃げようと後ろに後ずさるが、それだけはロックが許さない、改めて距離を詰め、しっかりと俺の事を捻じ込んでいく。

 

 だが、その分ロックも攻撃に晒され始めた。

 召喚された駒達は、我先にとロックに手持ちの武器で攻撃を始める。

 四方を敵に囲まれたロックは、まともに攻撃を防ぐこともできない、身に着けた装備の防御力と、適宜飲んでいく回復薬で体力をおっつけるのがやっとだ。

 

 しかし、それでずっと凌ぐのは無理だろう。

 剣、棍棒、斧、拳、様々な方法で、暴行を加え続けられるロック。

 傷は、明らかに治るそばから増えて行っているし、少し離れた場所を見れば、別の<キング>が召喚した<ビショップ>や<ナイト>達が、遠距離攻撃を加えようとこちらに近づいてきている。

 焦りと不安が心中にあることは、俺でも察することができる。

 

 「エタやん、どうや!」

 (待ってろ、今……。……行った!テレポートだ!)

 

 間一髪……かどうかは分からないが、なんとか間に合わせることができた。

 俺の前で、生き血吸いによる出血と地獄属性攻撃で、HPを奪われ続けた<キング>が、ミンチとなって冥界へと落ちていく。

 

 「よっしゃあ!ようやってくれた、いったん撤退するでぇ!」

 

 ロックも、この状況から開放されたおかげで、高揚した様子だ。

 すぐさまテレポートの杖を2度、3度と振り、安全圏へと移動しようとする。

 

 2回ほど敵のすぐ前に転移してしまったが、その後なんとか敵から離れた位置にテレポートすることができた。

 これで2体の<キング>を葬り去り、敵の司令塔の内、半分を潰すことができたわけだ。

 

 (問題はここからだな。ロックの疲労からして時止弾はもう使えない、今迄とは違う方法で敵の<キング>を潰す必要がある)

 「本当は狙撃銃でバンバン行くつもりやったんけど、ちょい疲労で、しばらくキッチリ狙えそうにあらへん。エタやん、何か考えとかあるんか?」

 (いや、特にこれといった物は無いが)

 「えー……、何かあったからあんだけ自信満々に言ってたんとちゃうの?」

 (あれはあの時無理して倒しておかないと、ジリ貧になるだろうから、無理にでも倒しに行っただけだ)

 

 ゲームの時を思い出せば、いやと言うほど覚えがある展開だからな。

 <キング>のような大量にモンスターを呼び出すタイプの奴は、さっさと数を減らさないと回復薬などのリソース不足で、結局倒し切れなくなることになりやすい。

 

 それに比べれば、疲労が回復するまでの間は、多少一時的に劣勢に陥るとしても、

 相手が出し続けてくるモンスターの量が少ない方が、まだ展望が持てるだろう。

 

 まあゲームの中の頃での、イメージを基にした話だから、絶対役に立つとは言えないが、アレは戦闘シミュレーションか何かだったと思えば、ある程度の信憑性はあるだろう。俺にとってだが。

 

 (取りあえずテレポートしながら、安全圏で配下の駒達を始末していくのが良いだろう。散弾銃なら疲れて狙いが定まっていなかろうが、充分ダメージを与えられるだろうしな)

 「意外やな、『俺なら疲れていても、突き刺すだけで確実にダメージ与えられるぞ』とか言い出すんやろなーと思っててんけど」

 (今の状況で、敵に接近を許すのは悪手だろう。一応俺にも、戦闘用の生き物だという意識がある、持ち主に不利になるのを覚悟して、俺を使えという気は無い)

 

 俺は、俺が活躍するのが好きなのだ。強い敵の血を飲むのは楽しいが、使えない剣の烙印を押されてでも、自分が敵を斬りたいとは思わない。

 敵に棍棒のような鈍器を武器としているものが居るので、敵が近接戦闘を行える位置に来るのを許すのは、朦朧のリスクが大きいのだ。

 さっきは<キング>を倒すという目的があったから、そのリスクも許容できただろうが、今は只の雑魚散らし、そこまでしてやるほどの事ではない。

 

 「そんじゃ、ちょっと言われた通りやってみようかいな。ほい、テレポートの杖っと」

 

 ロックはテレポートの杖を振り、敵の駒達から距離を取る。

 敵を一瞬見失った駒達だが、すぐにロックのテレポート先を見つけ、押し寄せてくる。

 そこにロックによる散弾銃の乱れ撃ちだ。

 

 近づいてくるまでに3体ほどの<ポーン>が砕け散り、何体かの<ルーク>と<ポーン>が、散弾銃の暗黒属性攻撃により盲目に陥ったようで、フラフラとした足取りに変わる。

 

 とは言え、それだけのモンスターを倒したくらいでは、焼け石に水だ。

 次々に<キング>に呼び出されるモンスター達が、散弾銃の弾幕を物ともせずに押し寄せてくる。

 

 この位置でこれ以上粘るのは無理と判断したロックは、すぐさまテレポートの杖を振る。

 走って逃げて時間稼ぎをしないのは、疲労回避や<キング>の召喚時間を作らせないという意味もあるが、それ以上に血吸い対策と言う点が多い。

 血吸いは基本的に、身体を大きく動かす時、移動の時などに発動する。

 ロックは、大量の血吸い付きの生きている武器達を装備している。

 なので、比較的移動の少ない立ち回りをする必要が出てくるわけだ。

 

 

 テレポートと散弾銃での攻撃を続け、2~3分ほど経っただろうか。

 この戦術を始めた、最初の頃は疲労で息の上がっていたロックだが、大分それも落ち着いてきた様子である。

 戦場は、散弾銃で近くの敵を掃討していた関係で、<ポーン>や<ルーク>の数が少なめになり、遠距離攻撃持ちの<ナイト>と<ビショップ>の比率が多めになってきている。

 奴等は遠距離からチビチビとロックを狙い撃ちしてきているので、結構厄介である。

 

 (ロック、これ以上待つと遠距離タイプの敵が増えて削り殺される気がする。そろそろ<キング>の狙撃はできないか?)

 「おう、ウチもそう思うとったところや。まだ時止弾はキツいけども、狙撃だけなら十分やれるで」

 

 其処からは、テレポートから<キング>を狙い撃ちする作業だ。ロックは加速のポーションを飲み干し、再び狙撃銃を両手に持ち戦闘を始める、

 

 ここで、最初に<キング>を間引いていたことが効いてくる。

 

 やはり、敵が新たに召喚してくる駒達が厄介なのだ。

 本丸を狙撃をしている間、他の駒達を相手にしている暇はない。ぼやぼやしていれば、<キング>は自然治癒で回復していってしまう。

 だが、射線上に入って来る駒達は厄介だ。

 時間がたてばたつほど、散弾銃で数が減った当初とは、比べ物にならない程に数が増えていくため、ロックの狙撃の邪魔になっている。

 

 もしも2体目の<キング>を倒していなければ、今の更に1.5倍の駒達が俺達の障害となっていたわけだ。

 <ナイト>と<ビショップ>が間引けなかった分、遠距離攻撃によってロックは、中々にダメージを受けてしまっているが、

 空いた時間で回復を出来ることを考えれば、攻撃のチャンスがなくなる可能性のあった分、<キング>を倒しておいた方が良い戦場を作ることができたと言えるだろう。

 未だ油断はできないが、戦場には十分勝機が見える、後はロックがどれだけ狙撃決められるかだな。

 

 

 

 (もう7、8発ほど狙撃を叩きこんだかね。そろそろあの<キング>もやれるんじゃないか)

 「せやなー、大分駒の数も増えてきおったけど、この分なら何も無ければいけそうやわ」

 (お前またそんなフラグ臭い事を……)

 「縁起でもない事言いなさんな……っと、もうそろそろテレポートせなやわ」

 

 見れば、あと数歩の距離まで駒の尖兵達が近づいてきている。

 

 当然逃れるために、テレポートの杖を振ったロックだったが、転移先が少々悪かった。

 

 <ルーク>や<ナイト>と言った強力な駒達の、ど真ん中に出てしまったのだ。

 当然ながら、まともに戦えたものでは無い。すかさずテレポートを行おうとするロックだったが……。

 

 不意に<ナイト>から放られた手榴弾に、テレポートの杖を取り落としてしまう。

 

 「やっば、取り直して…いや、あれはもうええわ!ここは巻物で確実に行くとしよか」

 

 杖は失敗する可能性もあるが、巻物ならば確実にテレポートをすることができるからだろう。

 そう言ってテレポートの巻物を取り出し、読み上げようとするロックだが、ここで<ビショップ>による鈍足魔法を掛けられてしまった。

 突然の事にテンポを崩され、スムーズに巻物を読めなかったロックは、<ルーク>から鈍器による手痛い一撃を喰らってしまう。

 さらには、当たり所が悪かったらしく、軽い朦朧状態に陥ってしまったようだ。

 

 (やはりフラグ回収は必須事項か)

 「ああ、くそっ!とにかくテレポートや!」

 (あ、待て。お前頭うったみたいだし杖でやった方が「へ?」)

 

 俺が言ったその頃には、ロックは既に巻物を読み上げ始めていた。

 其処に声をかけてしまったせいか、ロックは集中を乱したようだ。朦朧状態だったこともあり、テレポートは失敗する。

 それどころか巻物の文章が頭を離れず、混乱状態に陥ったようで、もはや前後不覚の様子だ。

 

 「くぅっ、まだや!巻物はまだあるんやから、多少殴られても読みけれれば!」

 (落ち着けロック。その状況で巻物は無理だ、杖を使え杖を)

 「何で巻物読み損ねたと思ってんねん!大丈夫や、ちゃんと集中すれば……!」

 (今となっては巻物の方が不安定だ!混乱でまともに頭が働かなくなっているだろう、ここはいう通りにしとけ)

 

 ロックは、立て続けのトラブルと敵に囲まれた現状、そして混乱の状態異常から極度に焦っているようだった。

 この世界はターン制のローグライクゲームでは無い、一瞬で様々な判断をし、そして行動しなければならないリアルタイムの世界だ。

 俺には関係ないが、思考に関わってくる状態異常もあるだろうし、どうしたって、まともに判断ができず、激情に駆られることはあるだろう。

 

 

 

 「……せやな、回復ポーションがぶ飲み!いくら失敗しようが杖振りまくったるわ!」

 

 それでも、即座に反省し、実行に移せる辺り、やはりロックは中々に理性的な奴らしい。

 

 回復ポーションでモンスター達からの攻撃を耐えながら、ロックはバッグパックから取り出したテレポートの杖を振る。

 

 瞬間、視界が切り替わり、すぐ傍からモンスター達が見えなくなった。

 どうやら、テレポートは一度目で上手くいったようだ。

 

 「サンキューやでエタやん。これでひとまず立て直せるわ、八つ当たりして悪かったな」

 (まあ、今回については途中で余裕を持たずに行動を止めた、俺の失敗でもあるだろう。そんな気にすることでもあるまい)

 朦朧状態のロックは、このままでは狙撃はできないと判断。こういう時の為に持っていた、マジックミサイルの杖による、確実な攻撃に切り替える。

 ロックの魔道具スキルはそれほど高くないし、狙撃銃に比べると明らかに火力が控えめだが、それでも何度かテレポートを繰り返しながら撃っている内に、<キング>を虫の息に追い込む。

 

 (どうやら混乱も抜けきったみたいだな、そろそろ狙撃、狙えるんじゃないか?)

 「せやな、よーしバキッと決めたるでー」

 

 そして時間経過によって健康な状態に戻ったロックは、また狙撃銃を手に取り、射線から敵配下の駒がいない時を見計らい、<キング>に銃弾を叩き込む。

 

 どうやら、それが致命の一撃となったようだ。

 散々ロックの銃弾を喰らいまくった<キング>は、ダメ押しの一撃にその身体を保てなくなり、ガラガラと崩れ落ちてミンチとなる。

 

 後はまあ、消化試合だ。

 倒せる敵の量が、敵<キング>の召喚の量を上回ったので、残った敵を掃討していく。

 

 <ポーン>や<ルーク>と言った近接系の近寄ってくる敵は、散弾銃よりも時間に対するダメージ量が多いという理由で、俺が地獄属性攻撃でミンチ。

 <ナイト>や<ビショップ>と言った、遠隔攻撃でちびちび来る敵は、ロックが適宜散弾銃と狙撃銃で切り替えてミンチ。

 そうこうやってる内に、ロックの疲労が大分回復したので、<キング>は時止弾で時間を止めた後、至近距離に近づきながら大量に散弾銃をぶち込み、最後に俺を突き刺してミンチにした。

 

 「これで、チェックメイトって訳やな」

 (あー、チェスだけに)

 

 大分危ういところもあったが、これで拠点内の駒モンスター達を殲滅できたわけである。 

 また一つの場所を核の炎(身内の犯行)から救ってしまった。

 

 

 

 

 「辺りに敵の気配は無し。ふー、これでようやっと休めるってもんや」

 

 そう言って、ロックはベッドへとなだれ込んだ。

 

 「いやー、エタやん思ったよりモンスターとの戦闘慣れとったなあ。これならその方面での売り込みも、行けるかも分からんわ」

 

 それはゲームとかいろいろやってたから、こういった場合のセオリーみたいなのを、ある程度知っていたからだろうな。前世の話とかになるから、詳しく話したりするつもりはないが。

 

 (あー、まあ俺は剣だし、こういった戦闘に強いようにできてるのかもしれんな。ずっと安全圏に居るから、安心して考え込むことができる、ってのもあるかもしれんが)

 「なるほどなー、戦闘でも今回は結構役に立っとったし、結構ご満悦とちゃうの?」

 (ああ、<キング>の血は特に美味かった。また機会があったら飲みたいものだ)

 「いやー、もう来ないんとちゃう?誰が此処に<キング>ばら撒いたんかは分からんけど、エタやんのおかげで核も使わんと、少ない出費で対処できたわけやからな。連れてくるのも手間やろうし、大して相手が困らんとなれば、もう同じことをされたりはせんと思うわ」

 (む、まあそうか。それはそれで構わんがな)

 

 ロックは、これ以上拠店にちょっかい出すにしても、今回とは同じ方法では来ないと思っているわけだな。

 実際<キング>を人の拠点に放つとなると、大分手間と金がかかりそうだし、その通りかもしれん。

 

 久しぶりにモンスターを大量に斬れたし、活躍した感あるから、割と楽しかったんだが、こないものは仕方がないか。また別の機会を待つとしよう。

 

 「しかし、やっぱエタやんの用途は、弱めのモンスターに止め刺す時と、動かない相手に突き刺し続けんのが一番それっぽいなあ。雑魚専として売り出すのもありかもしれん」

 (……)

 

 そして、この発言によって喜びに水を差されたわけだ。

 商人として、売り先への商売文句を俺に相談する意味もあったのかもしれんが、それはそれとしてイラッ☆と来た。

 

 

 

 ので、この後ロックが寝ようとしている間、5分ほど嫌がらせで、寝そうになった時に血吸いを繰り返してみました。

 

 割とキレられた。




大分投稿間隔が開いてしまっています。

やはり、上手くいかないからと言って逃げていてはだめですね。
ロックの話が書けないのなら、なおさらさっさと別れの所まで書いてしまわねば。
此処はしっかりと、ハイスピードで投稿を進めることを宣言し、自分を追い込まないとですね。

では……



『今日から毎日、小説を書くことにしよう。』



……よし!

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