◆それは生きている   作:まほれべぜろ

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大変長らくお待たせしました。
もし待っていてくれた方がいましたら、感謝いたします。

取りあえず最終話、兼エピローグ以外は書き終えたので、
校正しながら一日一話のペースで投稿していけたらと思います。

余りにも書きあがるまで時間がかかってしまったので、
本当はelinの発売に合わせて投稿を再開しようかと思ったのですが、
なにやら発売延期になったようなので、取りあえず新年に合わせて投稿です。

ここからひとまずは2週間強、よろしくお願いいたします。

なお、12月31日に予約投稿に失敗し間違えて更新してしまっています。
その際に読もうとしてくださっていた方、申し訳ありません


3章 野望の盗賊団
キャラが濃いのはノースティリスだからか?


 「そんじゃお前ら、仕事の成功と新入り<<エーエン>>の加入を祝って、乾杯だぁ!!」

 

 団長であるジェイクの良く通る、しかしそれでいて粗野な声と共に、

 5人の盗賊団達は手を思い切り突き上げた。

 

 それに伴い満杯のジョッキから、三割方はクリムエールが零れ落ちた。

 だが、この場の誰もそれに構うことはなく、自分の酒を一気に飲み干す。

 

 

 

 ここは王都パルミアの外れにある、盗賊集団『ミッドナイトを照らす炎』の隠れ家だ。

 ジェイク曰く、本拠はダルフィにあるらしいが、仕事をする際はもっぱら此方を使ってるらしい。

 

 さすがに王都なだけあり、この町は国の中でも大いに発展している。

 だが、それでも貧民がいないわけでない。

 スラムと呼ばれるような区画は、むしろ人口の分だけ他の町より多い位だ。

 

 この隠れ家もそんなスラムの中にあり、町の治安を守るガード達の目も届かない。

 ロックから俺を奪った盗賊たちは、ここで盛大な酒宴を始めたのだった。

 

 

 飲み干したジョッキに新たな酒を注ぎ、買い込んだ食料に手を付け始めた団員達。

 ジェイクも、次の酒に手を出しながら団員たちに向かい話し始めた。

 

 「知っての通り、今回手に入れた剣は生きていて話もできる、意思のある武器だ。

  これから一緒にやっていく相手、名前も知らねぇんじゃやりにくいだろう。

  お前ら、一人ずつ挨拶してやんな。カーラ、お前からだ」

 

 そういって、ジェイクは大きな狙撃銃を背負った、長い黒髪の女へと声をかける。

 雷雨の中でロックの事を狙撃し、その首にテレポート阻害の首輪を巻き付けた女だ。

 

 カーラと呼ばれた彼女は、少々戸惑った様子でジェイクへ答える。

 

 「挨拶はいいけれど、手に持って話せばいいの?それとも装備しなければ離せないとか?」

 「あー、確かに分かんねぇな。<<エーエン>>、その辺りどうなんだ?」

 

 (俺が話を聞くだけだったら、このままでも問題ない。

  他の生き物と同じように、音は聞こえてるからな。

  ただ、俺の声は装備してる奴か、直接触ってる奴にしか聞こえない。

  俺からも話すなら、お前が通訳するか、話し相手が触りながらにしてくれ)

 

 

 この盗賊団に入ることとなった俺は、すでに首領であるジェイクに装備されている。

 そして呪われた武器だから、気軽に装備者を変えることも出来ない。

 

 他の団員は、俺に触っている間だけしか俺と会話できない訳だ。

 逆に、ジェイクは俺を実際に持っていなくても、装備中はいつでも俺の声を聞ける。

 

 そのことを伝えると、ジェイクは少し考えて、話をする相手に剣を持たせていく事にした。

 まずはカーラへと俺が受け渡され、会話ができるようになる。

 

 (初めましてだな、俺が<<永遠の孤独>>だ。<<エーエン>>と呼ばれることになっている) 

 「あら不思議、本当に声が聞こえてくるのね。私はカーラよ、この団の狙撃手をしているわ」

 

 声をかけた時は少々驚いた様子ではあったが、さほど取り乱すこともなく挨拶をするカーラ。

 かなり厚い化粧で分かりにくいが、見た感じでは20代後半くらいの年齢だろうか。

 ファンタジーなこの世界で、見た目にどの程度まで信用が置けるかは知らないが。

 

 なんにしても、騒がしいロックや若いオーディとは違い、落ち着いた女性という印象だ。

 色っぽい、なんて表現をしてもいい。

 剣になってからは美醜を気にしはしても、直接的な性欲を感じたりはしていないが。

 

 「ジェイクが認めたんなら、あなたもこの団の一員。歓迎するわ、お酒は飲めるのかしら?」

 (いや、俺が飲むのは生き血だけだ。

  味覚はあるが他の物を飲みたいとも思わんし、構わずに酒はそっちで飲んでくれ)

 「あらそう?残念ね」

 

 そう言って、俺を持っていない手で掴んだ酒を、一口飲み進めるカーラ。

 そこへ横から細長い手が伸びてきて、ヒョイと俺の事を取り上げる。

 

 「おいおいカーラ、酒飲むならさっさとこっちに回してくれよ」

 「そうそう、こんな面白そうなモン、さっきから気になってしょうがねえんだ」

 

 カーラから俺の事を持ち去ったのは、二人のヒョロ長い、背格好の似た男達だ。

 服装こそ違うが、顔だちもよく似ているため、同じ服を着たら見分けがつかないかもしれない。

 

 表情はどちらも『ニヤついている』という感じで、ボサボサの髪や丸めた背中と相まり、

 よく言えば飄々としている、悪く言えばかなりだらしない印象を受けた。

 

 その片方が俺の柄を持ち、もう片方がその刀身を持って話しかけてきた。

 

 「よう、鋭い兄ちゃん。いや、姉ちゃんだったりするのか?」

 「俺は弟のゼス、そっちが兄貴のボレス。見ての通りの双子だ。あ、双子って分かるか?」

 (兄ちゃんで間違いない、双子も分かる。

  生後1年弱くらいだが、大体の常識は持ってると思って貰っていいぞ)

 「一年弱って、0歳児ってことかよ!逆によく双子を知ってんな!」

 「その割には、受け答えがしっかりしてやがる。生きてる武器ってのはどうなってんだ?」

 

 嘘は言っていない。

 願いの女神には転生をお願いした訳だから、赤ちゃんスタートと考えていいはずだ。

 

 しかし、やはり双子だったか。

 あまりにも似ているので、兄弟なのは間違いないと思っていたが。

 

 「さっきの戦闘でもう見てるから分かるかもしれないが、俺たちが得意なのは魔術だ」

 「これでも、昔は魔術ギルドの端くれだったんでね。お前みたいな珍しいのに興味があるのさ」

 「アーティファクトに宿るエンチャントは、錬金術の範疇だからな」

 「ま、今の俺たちは出奔して盗賊ギルドだから、大したことは調べられないが」

 

 魔術的な興味って事か。まあ、調べられるのは構わない。

 それよりも俺的に重要なのは

 

 (ちなみに、魔術ギルド的にはアーティファクトの改名って専門だったりしないのか?)

 「名前?そりゃ他のギルドよりかは詳しいだろうが、わざわざ研究をしてる奴はいなそうだな」

 「名前とエンチャントの相関性を調べてた奴ならいたっけ?それも大して進んでなかったと思うが」

 (……まあ、そうだろうな。あまり期待はしていなかった)

 

 やはりダメか。仕方ない、取りあえずは祝福された名前の巻物が手に入るのを待とう。

 

 「なるほど、そういえば首領から名前を気に入ってないって聞いてたな」

 (ほっとけ、それよりもそっちは魔術ギルドでは何をしてたんだ?その錬金術でも研究してたのか)

 

 俺がそう聞くと、双子は『よくぞ聞いてくれた!』と言わんばかりに前のめりになり話し出す。

 

 「研究をしてたのは確かだが、俺たちが研究してたのは戦闘用の魔術さ」

 「生き物に必要なのは結局、戦う力だ。ならそのための魔術を極めることが、最も重要なのさ」

 

 そこまでかわるがわるで語っていた双子の兄弟は、そこで息をそろえてこう言った。

 

 「まあ結局、最強の魔法はアイスボルトなわけだから、如何にその魔法を極めるかってことだ」

 「まあ結局、最強の魔法はライトニングボルトなわけだから、如何にその魔法を極めるかってことだ」

 (いや、どっちだよ)

 

 俺がそう言うと、2人はワザとらしく『心底驚いた』という表情で顔を突き合わせる。

 

 「おいおいブラザー、装備を砕き、寒さと氷で敵の機動性を奪う。氷魔法が最強とこの前に決まったじゃないか」

 「いやいや兄貴、雷足で貫き、相手の神経をマヒさせる。雷魔法が最強とこの前に分かったはずだろう?」

 「一瞬の間だけ麻痺したところで、決定打にはなりはしないさ。氷魔法こそが最強だ!」

 「相手が耐冷ブランケットを持つだけで、装備を壊せなくなることこそ致命的だね。雷魔法こそが最強だ!」

 

 そういって俺をおいて、芝居がかった様子でヒートアップしていく双子たち。

 間で挟まれている俺には、いい迷惑である。

 

 (おい、めちゃくちゃ唾が飛んでくるんだが。俺を挟んで盛り上がらんでくれ)

 「おっと失礼。ならばブラザー、表で決着をつけるとしようか」

 「いいぜ兄貴、ちょうど新しいライトニングボルトの打ち方を考えたんだ」

 「よしチアフー、こいつ預かっててくれ」

 「俺たちはどっちの魔法が上か証明してくるからよ」

 

 いうが早いか、双子たちは小柄な金髪の少女、チアフーへと俺を手渡した。

 そしてそのままアジトの外へと、連れ立って出て行こうとする。

 その背中へ、うんざりした様子でカーラが声をかける。

 

 「ちょっと、また通りで決闘もどきをするつもり?いい加減にしてくれないかしら。

  この前も隣の店をメチャクチャにしたじゃない。

  私たちはパルミアでは新参なんだから、揉め事ばかり起こすんじゃないの。

  ジェイク、あなたからも何か言ってちょうだいよ」

 「だとよお前ら、暴れるんなら足がつかねぇようにやってこい」

 「「あいよ!首領!」」

 「暴れるなって言ってるのよ……」

 

 カーラが疲れた様子でため息をつくと、まあいいじゃねえか、と言ってジェイクがその背中を叩く。

 そのやり取りを背後に、双子はアジトを出て行ってしまった。

 

 

 俺を受け取ったチアフーとか言う少女は、ここまでの喧騒に対して『我関せず』という様子で、

 片手で俺を持ったまま、食事にかぶりつき続けている。

 

 (……あれは放っておいていいのか?何か前に問題があったっぽいが)

 「???」

 

 話しかけてみると、キョトン、という擬音が最も似合うだろう表情で、彼女は辺りを見回した。

 顔だちの幼さや、小さくまとまった体型も相まって、小動物のように見える。

 

 どうやら、俺が話しかけたことに気づいて無いようだ。

 

 (おい、俺だって。今お前が持ってる剣だっての)

 「うひゃあ!剣が喋ったっす!」

 (いや、その件は昼にもやっただろうが!)

 

 俺が話しているのに気づく、気づかない、以前の話だったらしい。

 どうやらこいつは、散々周りが俺に自己紹介をしてたのに、

 俺が意思を持つ、生きている剣だという事を忘れていたようだ。

 

 しかも、こいつがロックから俺を奪い取った際に、

 同じようなやり取りを、今日すでにやっているというのに。

 

 「そういや、そんな事もあったっすね。オレはチアフーっす!

  盗賊団の用心棒と鉄砲玉と切り込み役とぶったくり担当をしてるっす!」

 (……多いな?)

 「ボスが直々にオレを任命したっす!」

 

 それは子供に役割を与えて、張り切らせる的なアレではないのだろうか。

 見た目的には、中学生くらいに見えるが。

 

 (ちなみに、お前は何歳なんだ?)

 「17歳っす!」

 

 思ったよりそこそこ上だった。

 ただ正直、中身は見た目と同じ中学生くらいのメンタルに見える。

 ロックから俺を『窃盗』した時の腕前から見て、実力は確かなのだろうが。

 

 と、話がそれてしまった。気になったのは別の事だったのに。

 

 (それで話は戻るんだが、あの二人が外で暴れるのはマズくないのか?

  カーラだったかが、何か前に問題があったように言っていたが)

 「んー、二人の喧嘩ならいつもの事っす。ボスが気にしてないからいいんじゃないっすかね?」

 (大分適当だな……、まあ新入りの俺が心配するような事ではないか)

 「そーっすよ。せっかくメシ食える時は、とにかく食うのが一番っす」

 

 そういうとチアフーは、机に乗っていたピザを半分ちぎり、豪快にほおばる。

 そして咀嚼するのもそこそこに、大量のクリムエールで流し込んでいった。

 

 ちなみに、ノースティリスに未成年の飲酒を禁じる法はない。

 この飲みっぷりを見るに、法律があってもこいつが飲まないという事はなさそうだが。

 

 「えーっと、そういえばアンタは、何て名前なんですっけ?」

 (もう忘れたのか……、<<エーエン>>と呼んでくれりゃあいい。本当は<<永遠の孤独>>と呼んでもらいたいが)

 「そんじゃ<<エーエン>>さんは、何でウチの団に入るんすか?」

 (なんでも何も、お前が以前の主から『窃盗』して引っぺがしたんだが……)

 「あー、そりゃそうっすよね。それじゃあ、正直に言って無理やり盗賊団に入れられるのとかイヤだったり?」

 (いや別に、俺は剣だからな。持ち主の敵を切りたいってのが一番の欲求だ、食事にもなるしな。

  そういう意味では、盗賊団なんて物騒な職業は、俺にとって望ましいと言える。

  そもそも、前の主だったロックってやつも、そのまた前の主から俺を無理やり奪ってたしな)

 

 これは建前とかではなく、事実だ。

 俺にとってロックは悪くない主だったが、既に主が移った以上は特に義理立てするつもりはない。

 

 

 「へー、確かに盗賊団なんてやりたがるのは、食い詰めた奴か暴れたい奴っすから、殺しがしたいってんならピッタリっすね!」

 

 そういってチアフーは楽しそうに笑って、今度は焼かれた鳥肉に食いつく。

 ノースティリスでは命の価値が軽いとは言え、こいつも17歳のわりに随分と物騒なことを言うな。

 見た目が小柄で少女然としているから、日本出身としては、なおさら違和感が際立って見える。

 

 (そういうお前は、何がしたくて盗賊団に入ったんだ?)

 

 と、気になって聞いてみた。

 それに対して、チアフーは何でもないように答える。

 

 「オレは食い詰めた奴の方っすね。

  小さい頃から親がいなかったんで乞食をやって、育ってからはスリやってたんす。

  で、ボスの財布に手ぇ出したときに、見つかってボコられたんす。

  そんで這い上がって、暫くした後にまた盗みにいったんすけど、そん時も見つかって

  『根性もあるし筋も良い』って褒められて、盗賊団に入れてもらったっす!」

 

 うわぁ、また重いやつ来ちゃったよ。

 しかもなんか少年漫画みたいなノリの中で、気軽に殺されて這い上がってるし。

 

 (あー、なんか言いにくいこと聞いたか?悪かったな)

 「んー?いや、別に大丈夫っすよ。ダルフィでは、娼婦とヤッて卵産んだら後は放置で、できた子供が孤児になる事なんて、日常茶飯事っすから」

 (まあ、そうなのかもな。そうだよな、あれだけ治安が悪けりゃ、卵産んで放置なんて日常茶飯事……卵?うん、卵か。卵……)

 「えっ、今の流れでなんか引っ掛かる所あったっすか」

 

 いや、うん。そうだよな、特におかしいところは無いわけだよな。

 人間みな、卵から産まれてくるもんな。

 

 (すまん、今のは気にしないでくれ。そしたら、お前は今の生活で満足してるわけか?)

 「そりゃそうっすね。武器や装備も貰えたし、美味いと思うもんがいくらでも食えるっすから!」

 (なるほどな、ちなみに他の奴らは何で盗賊団やってるんだ?)

 「カーラのアネゴは、ボスに誘われたからって言ってたっすね。

  ゼスとボレスの兄ちゃんは、魔法を人間に撃ってみたかったって言ってたっす。

  ボスは、何か……ビッグになりたいって言ってたっす!」

 

 どうしよう、何か団員の動機がふわふわしてたり、軽い感じのものが多い。

 盗賊団みたいな奴らに、そんな崇高な動機は要らんのだろうが、それでも著しい適当さを感じる。

 

 まさかのゆるふわ空間に俺が戸惑っていると、

 今までずっとカーラの双子に対する愚痴を聞いていたらしいジェイクが、此方へ話しかけてきた。

 

 「おうチアフー、<<エーエン>>の奴をこっちに寄こしてくれるか?話がしたかったらまた後で渡すからよ」

 「はいっす!ボス!」

 

 そういって、チアフーからジェイクへと俺が手渡される。

 

 「ありがとうよ。……なんかヌルついてんな」

 (チアフーが、さっきしこたまピザ食ってた手で、俺を手渡したからな)

 

 器物ヌルつかせ罪の実行犯は、既に此方への興味はない様子で、今度はフライドポテトへ取り掛かっていた。

 逆に、今までジェイクと話していたカーラは、まだ少々不機嫌なようで

 酒を片手に頬杖をついて、此方をジト目で眺めている。

 

 そんな視線を気にせずに、ジェイクはズボンで俺の柄を拭き、改めて話し始めた。

 

 「と、いう訳でこいつら四人と俺を合わせて、五人が『ミッドナイトを照らす炎』だ。

  お前を入れれば、五人と一振りになるな」

 (ああ、装備者のお前には聞こえてただろうが、一通りと顔合わせはできた。

  五人ってのは、盗賊団的には多いのか?)

 「いや、多くはないな。戦力については其処らの盗賊団に負ける気はねぇが、人数で見ると大したことはねぇ方に入るだろう。

  頭数は力だ、3倍の人数の盗賊団とやりあったら、まず勝てることはねぇ。

  そこで、今までは五人でやってきたが、団員を増やすためにお前を手に入れたって訳だ」

 

 この言い方だと、2倍位までなら勝てる見込みはあるのか……。

 ともあれ、団員を増やすためってのは最初の段階で聞いていた。

 俺のエンチャントを使えば、お手軽に魅力のステータスを底上げできるからな。

 

 (団員を増やすって事は、戦力の増強を図りたいんだろうが、何か理由はあるのか?)

 「おう、正にその話をしようと思ってたところだぜ」

 

 ジェイクはそう言って、ズイッと顎鬚顔を近づける。めっちゃ暑苦しい。

 

 「さっきチアフーから、少しは話を聞いてただろうが、俺はダルフィで1番の大首領を目指してたのよ。

  そして、これまでは腕利きの仲間を集め、育てることで地力を付けようとしてたわけだ」

 「まあ、急に拡大してうまくいくとは限らないからな。

  で、そんな前振りがあるって事は状況が変わったのか?)

 「話が早いな。最近、ダルフィで大きな動きがあったんだ。

  今までダルフィでは、誰が一番上に立つってわけでもなく、

  盗賊ギルドを中心とした横のつながりでやっていた」

 

 ジェイクが、苦虫を嚙み潰したかのように、しかめっ面で苛立たしげに言う。

 

 「だが、ここ数ヶ月で状況は急速に変わった。

  まだ表には余り顔を知られちゃいないが、セビリスってのが町を裏で牛耳り始めたのさ」

 

 セビリス、って事はダルフィの霧か。

 原作に出てきたキャラで、ハッキリ覚えてはいないが、

 たしか原作の数年前から、急速に台頭したみたいな話だった。

 

 すると、原作開始までもうしばらくってことじゃねーか!だからって、今のところ何もないが!

 

 「セビリスの奴は、お偉いさんみたいな権力闘争の真似事が得意でな。

  これまでダルフィでは、金を持ってる奴と力を持つ奴が上に立ってたんだが、

  あいつが来てから、裏取引やら内通やらが流行り始めたんだ」

 (どっちにしても、ロクな奴らじゃなさそうだが)

 「そりゃそうだ、ダルフィだからな。

  単純に、俺が気に入るか気に入らないかの話さ」

 

 そういって、ジェイクはガハハと豪快に笑う。

 

 「俺はセビリスの野郎が気に食わねえ、だから奴を蹴落としてやるのさ。

  昔ながらのダルフィのやり方でな」

 (裏表のない暴力でってことか。

  で、そのための仲間集めに俺を使うって事だな)

 

 正直、ちょっと楽しそうには聞こえる。

 別にロックと居た時が楽しくなかったというではないが、

 やはり、剣という生き物として、戦いの話には格段にワクワクするものがある。

 

 (それで、これからどうするつもりなんだ。考えてること位はあるんだろう?)

 「おうよ、資金稼ぎはルルウィ像を使って十分にできたからな。

  次は、仲間を集めるために、俺たち盗賊団の名前を売り込んでいくのさ。」

 

 そう言ってジェイクは、両手を強く握って熱く語り始める。

 右手に握られた俺に、その熱量がダイレクトに伝わってきた。

 

 「生半可な戦力じゃあ、セビリスに正面から勝つには足りねぇ。

  だが俺の力量で直接何十人も指揮する、って訳にもいかねぇ。

  新しく手に入れたお前の力込みでも、せいぜい十何人かが限界だろう」

 

 (なら、必要なのは腕っぷしの即戦力って訳か。

  そしてそいつ等が自分から『この団に入れてくれ』って言いたくなる名声が必要と)

 

  顔は完全に脳筋の蛮族っぽい悪人面なのに、割としっかり考えてるんだな。

  まあ、そうじゃなければ、あの周到なロックがやられる訳もないか。

 

 (それで、具体的には何をするんだ?)

 「これまでは、手口がバレないようにコソコソ隠れながらやってたが、

  それじゃあ俺たちの名前が広がらねえ。

  だから、警備が固められた所から、力づくでぶんどっていく。

  最初の目的は徴税所だ」

 

 徴税所、それはもちろん金が集まっている事だろう。

 なんせこのパルミア中から、民衆が税金を納めに行くのだから。

 そこを襲撃し、成功したとあらば名前が広まることは想像に難くない。

 

 (目的は分かったが、それ本当に上手くいくのか?

  徴税所なんてそれこそ、この国でも有数に防備が堅そうなイメージだがな)

 「ところがどっこい、世間が思ってるほど、あそこはお堅くねぇのさ。

  お前、徴税所の防備が固いと思ったのはどういう理由だ?」

 (そりゃ、国中から税金を集める訳だからな。警備が手ぬるいとは思えないさ)

 「国中の税金全部が集められてるなら、そうだろうな。だが実際はそうじゃないのさ」

 

 そういってジェイクは、楽しそうに説明を続ける。

 こうした計画を話すのが好きなのだろう、あるいは会話自体が好きなのだろうか。

 

 「ある程度以上に収入を持った奴らは、現金を持って移動するのを避けるため、自分で徴税箱を用意するからな。

  そしてその金は、徴税所以外の別の場所へと運ばれていく。

  あそこに集められてる金は、いわば貧乏人のはした金でしかないのさ」

 (それでも、世間からは金があると思われてる以上、警備は必要じゃないのか?)

 「ああ、ちょっと調べたら”置いてある金に対して、襲撃しても割に合わない程度の警備”がある事は分かるぜ。

  つまりはその程度って事だ、名前を売るのにはちょうどいいと思わねぇか?」

 

 命が軽いこの世界では、襲撃で死人が出てもそれ自体は取り返しのつく事柄だ。

 なら、調べたらすぐに”割に合わない”と思って手を引かせる位の対策で充分、という訳か。

 別に万が一襲われて死人が出たとしても、結局はそれだけな訳だからな。

 

 (なるほどな、それは今回の目的に打って付けそうだな)

 「おうよ!準備はさっそく明日からだ、腕が鳴るってもんだぜ」

 

 「ジェイク、新人さんと次のお仕事の話も結構だけれど、今日は前のお仕事の打ち上げでもあるのでしょう?

  あなたの団員が一人で寂しく飲んでいるから、声をかけてもいいと思うけど」

 「おうカーラ!なら前に買ったウィスキーがあるから、一緒に開けるとするか。

  そんじゃ、明日からよろしく頼むぜ<<エーエン>>、暇だったらチアフーの奴にでも構ってくれや」

 

 そういうと、ジェイクは俺をチアフーに『持っててくれ』と言って手渡し、

 拗ねた様子のカーラの元へと向かった。

 

 渡されたチアフーはというと、食事に夢中だったようで、げっ歯類かと思わせる頬袋をしている。

 「ふぁ、もふぁあしぼわっふぁんえうで、うぶはひほおばっふぁんへびいへはふぁっふぁっふ」

  (いや、飲み込んでから喋れ。全くもって何を言ってるか分からん)

 

 頬袋が縮んでいくのを見るうちに入り口から、双子の魔術師が戻ってきた。

 片方が、朦朧としたもう片方を背負っている。

 服装を見るに、電撃使いの弟が勝利したようだ。

 

 「いやはや、やはり雷が最強の様だ。新入り君も魔法を覚えるなら電撃にすると良いぞ!」

 「ぬう……、言っていろ……最後は結局、氷の前に屈することになるのだからな……」

 

 背負われていた兄の方から、フラフラながら声が聞こえる。

 どうやら、命に別状はないようだ、身内だから当然なのだろうが。

 

 「あんた達、周りに被害出してないでしょうね?」

 「3つ隣の薬屋の屋台が一つ燃えた位なら大丈夫だよな、ボス!」

 「あー、まあ大丈夫なんじゃねぇのか?」

 「大丈夫な訳ないでしょうが、さっさと金持って詫び入れてきなさい!」

 

 ジェイクと飲みなおし始めて、直ってきていたカーラの機嫌がまた直滑降する。

 双子魔術師を蹴り出すカーラを見て、ジェイクは何が面白いのかメッチャ盛大に笑っていた。

 

 いや、まあうん。

 この団で退屈はしないんじゃないかな、知らんけど。

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