◆それは生きている   作:まほれべぜろ

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結構、食事の機会は多そうだと思う次第である

 俺がミッドナイトの夜明け団に加わった翌日、

 盗賊団は全員揃って、パルミアから2時間程度の距離にある、道から外れた野原へと来ていた。

 

 ジェイクが次に目標としているのは、徴税所の襲撃ではあるが、

 俺という非常にピーキーな武器が加入したにも関わらず、即襲撃したのでは思わぬ事故が起こりうる。

 

 そこで、ジェイクによる俺の試し斬りも兼ねて、

 野原に湧いたモンスターを相手に、戦闘訓練をする事になったのだ。

 

 現実になったこの世界では、厳密にはモンスターが湧いてくるのではなく、

 敵の強さもまばらに出てくることになるのだが、細かい事は言いっこなしである。

 

 

 ジェイクに道中で伝えられた、盗賊団の基本的な戦い方はこうだ。

 

 まず、重装備をしていて、最も耐久力もあるジェイクが先頭となり索敵しながら進む。

 

 敵の集団とぶつかったら、向かってくる敵の前衛はジェイクが押しとどめ、

 後衛がいる場合は機敏なチアフーが潰しに行く。

 

 双子魔術師と狙撃手のカーラは、各自の判断で攻撃を行っていく。

 

 回復役がおらず、盾役が一人しかいない。非常に攻撃的な布陣であると言えるだろう。

 

 

 そこに俺が加わることで、ジェイクは俺の地獄属性による追加攻撃で、回復が出来るようになる。

 しかし、行動の際に俺が血吸いを発動してしまえば、逆に余計なダメージを負うことになる。

 

 この辺りがどう作用するかを、実戦で確認していくわけだ。

 

 

 

 で、取りあえず2~3時間ほどかけて雑魚モンスターを刈り続けた後の、ジェイクの感想だが。

 

「火力については申し分ねぇし、斬りあってる分にはむしろ前より回復する位だ。

 だが、不意打ちされた後衛を守りに行く時に、血吸いが発動するのが難点だな」

 

 つまり、移動中の血吸いが問題になった。

 

 ダメージ自体はポーションで回復できるが、頻繁に使うとなれば出費になるし、

 移動中に飲めば、後衛へと駆け付けるのが遅くなる。

 

 火力と継戦能力が上がった代わりに、機動力が落ちてしまったわけだ。

 

 

「まあ、今回の襲撃では通路が限られた屋内だからな、特に困らねぇだろ。

 その後は頭数を増やしていくから、そん時に対処できるようにするか」

 

 という事になった。

 

 

 して、実践を終えたその帰り道である。

 

「そんじゃ、予定通り明日は徴税所の襲撃だ。

 今日ばっかりは、はしゃぎすぎんなよ双子ども。

 明日に響くようなケガしやがったら、承知しねぇからな」

「わかってるよボス、流石に俺達も馬鹿じゃないさ」

「ふざけていい日と、そうでない日の区別位はつくともさ」

「今日に限らず、大人しくしていて欲しいんだけどね……」

 

 調子よく軽口をたたく双子と、あきれた様子のカーラ。

 その姿からは、毎日このような様子なのだろうな、という事を容易に想像できる。

 あきれながらもそれ以上言わないのは、何度言っても聞かないからなのだろうから。

 

「ボス、あっちの方に人影が見えるっす。4、5人くらい」

 

 そこへジェイクに肩車されたチアフーが前方に指差すと共に、集団は一気に引き締まる。

 敵への警戒から緊張した、訳ではなさそうだ。

 獲物を見つけ、狩る為の体勢に移ったのだろう。

 

 盗賊団の襲撃が始まったという訳だ。

 

「チアフー、敵の強さは分かるか?」

「んや、この距離だとちょっと分かんないっす」

「そんじゃあ奇襲をかけるぞ。

 チアフー、お前は降りて横から挟めるよう、回り込んで来い」

「了解っす!」

 

 そう言うと、チアフーは猫のような軽やかさでジェイクの肩から飛び降り、

 そのままさっき指差した方角から、北西へずれた場所へ、

 背中に装備した翼と共に、文字通り飛ぶように音もなく駆け出した。

 

 ジェイク達は、それと合わせて敵がいると言う方角へと移動を始める。

 当然の事であるかのように、即座に決まり、始まった襲撃に対して、俺はジェイクへ問いかける。

 

(ジェイク、敵の強さが分かんないんだろう?無策で突っ込んでいいのか)

「安全に準備整えてから襲える相手なんて、まず居ねぇよ。

 お前のこの前の持ち主、ロックだったか。

 あいつからお前を奪う準備にどんだけ時間を掛けたと思う?3か月だぜ!毎回そんな手間掛けられねぇさ」

 

 俺の問いに対して、ジェイクは楽しそうに笑いながら答える。

 

「襲撃なんてもんは、基本的に出たとこ勝負だ。

 もちろん、勝てねぇと分かってる相手にわざわざ挑んだりはしねぇが、

 勝てるか分かんねぇ相手だってんなら、まず殴ってから考えりゃいいのさ」

 

 なるほど、確かに一理あるか。

 こちらが相手に気づいたという事は、相手もこっちに気づき兼ねないという事。

 

 ならば早急に、相手を襲撃できる体制を整えるのが優先という訳か。

 

(確かに、襲撃をやめるのかどうかは、

 相手に勝てないと分かる距離まで近づいてから決めればいいわけだもんな)

「いや、チアフーに襲撃をやめるって伝える手段がねぇから、

 負けそうでも取り合えずぶん殴ってみんぞ」

(……マジです?)

 

 思ったよりも、もう少し蛮族だった、

 

(何か襲撃を取りやめる時の合図とかないのか?)

「前、それも試してみたんだがな、チアフーの奴バカだから上手く行かなかった。

 最終的に迷子になったアイツを探すまでに、2日掛かったぜ。

 なら、間違いなく合流できるように、一緒に襲撃して死んだ方がマシだ」

(襲撃をやめる時は、チアフーだけ特攻して後で這い上がるんじゃだめなのか?)

「いや、そりゃチアフーの奴が可哀そうだろ、一人で行ったら捕まるかもしれんしな」

 

 一人で突っ込ませるのはアウトで、皆で特攻するのはOKなのか(困惑)。

 こっちの世界にきて1年弱が過ぎているが、未だに価値感のズレが埋まりきらない。

 こいつらが、この世界でも特殊な可能性もあるが。

 

(じゃあ、チアフーに俺を持たせてから行かせるのはどうだ?

 余り装備者と遠くに離れたことはないが、遠距離でもチアフーとお前の両方と会話が出来れば、

 襲撃の中止を念話で俺に伝えて、俺がチアフーに伝言できるんじゃないか?)

「おっ、そりゃ面白いかもしれんな!次からそうしてみるか。

 惜しいな、もし先に気づいてたら、今回から試せたんだが」

 

 結構軽く、事が決まった。

 

 ちょっと襲撃前にすり合わせをしたら、今回からこの作戦を試せたのだろう。

 だが、ジェイクは口でこそ悔やんではいるが、本気で後悔しているようには見えない。

 

 彼らにとってこんな襲撃は、本当に日常なのだろう。

 失敗したところで、大した損害とは感じない。

 その結果として死んだとしても、きっと這い上がり、ビア飲みながら笑い飛ばすのだ。

 

 

 

 もう数十メートル、という距離まで近づいた。

 装備を見るに、どうやら相手は冒険者の一団のようで、

 ジェイク曰く、此方と同じくらいの戦力に見えるとのことだった。

 

 編成は、戦士が2人に魔術師が2人、そしてペットであろう自走砲が1体の様だ。

 

 見晴らしのいい野原であるため、向こうもこちらに気づいていると見ていいだろう。

 此方からは何処にいるか見えないが、チアフーの事もバレてるかもしれない。

 

 此方へと構える敵集団へ、ジェイクが俺を相手に向けながら近づく。

 そして、余裕たっぷりに笑顔を作りながら、脅し文句をかけた。

 

「俺たちは盗賊団『ミッドナイトの夜明け』だ!知ってんだろう?

 有り金と積み荷を全部おいてきな!さもなきゃ命も置いてってもらうぜ!」

 

「ハッ、聞いたことねぇな!テメェらごとき返り討ちだ!」

 

「利口じゃねぇなぁ、それなら力づくで奪わせてもらうぜ!」

 

 当然というべきか、相手に投降する意思は無いようだ。

 

 返答を聞いたジェイクが切り込むと同時に戦闘が始まり、

 お互いの魔術師が魔法を放った。

 

 

 

 戦闘は、非常に目まぐるしいものだった。

 

 今まで俺の持ち主は、一人で行動する人間だったが、

 新たな持ち主であるジェイクは、5人の盗賊団のリーダーである。

 

 ここで更に敵も複数人だから、俺にとっては初めての集団と集団での戦いとなる訳だ。

(雑魚モンスターとの連携確認での戦闘は除く事とする、戦いとは呼べないレベルだった)

 

 ジェイクの攻撃に合わせて、追加の属性攻撃を発動するのは問題なかった。

 相手も実力者であり、とどめを刺した時には美味しく敵の生き血を頂けた。

 地獄属性を用いてジェイクを回復することもでき、剣としての役目は果たせただろう。

 

 しかし、戦況の把握は正直言って全く出来なかった。

 

 自分と相手、それぞれの後ろに、さらに味方の後衛と敵の後衛が居て、

 敵の攻撃を避けるために位置を変えながら、魔法と銃弾を撃ち合っているのだ。

 

 まだ味方が出来ることも十分に把握出来ていない身としては、状況の理解など望むべくもない。

 

 その中でもジェイクは、ある程度は戦況が見えているようで、たまに

「先に右のボルトを撃つ魔術士を狙え」

 などと指示を出していた。

 

 本来ならば、実際に体を動かすことが無い俺が、戦況の把握と伝達をある程度出来れば良かったのだろう。

 だが、俺が満足に戦況を把握できたのは、お互い頭に血が上ってきた頃。

 チアフーが乱入し、敵後衛の魔術師達が壊滅してからだった。

 

 そこからは一方的な戦いだった。

 

 敵の戦士を一人ずつ袋叩きにしていき、2つのミンチが出来たら自走砲を囲んで殴る。

 

 戦闘開始から止めを刺すまでは、恐らく5分もかかっていないだろう。

 お互いに攻撃的なパーティであり、それも戦況を混沌とさせていた理由だからだ。

 

 しかし、余りにも内容が濃かったので、俺にとっては何十分も経ったような心地だった。

 

「よぉし、よくやったぞお前ら!さあ、さっさと遺品を漁ってずらかんぞ」

 

 その号令と共に、盗賊団の面々は残された装備や道具を回収し始める。

 特に双子魔術師なんかは、喜んで歓声を上げながら、相手魔術師の遺品を物色していた。

 

 

 俺は参加できず少々暇なので、ポーションを飲んで傷を癒し始めたジェイクに話しかける。

 

(一人も死ななかったし、快勝だったな。いつも大体こんな感じなのか?)

「いや、こんなに丁度いい獲物が見つかる事なんて少ねぇな。

 これより強ければ誰かが死ぬだろうし、弱すぎれば実入りが悪ぃ。

 新入りが入っての初仕事としちゃあ、完璧すぎるくらいだぜ」

 

 つまり、運がよかったという事か。

 それは幸先のいいことだ、エヘカトル様の加護かもしれんな。

 いや、エヘカトル様は窃盗とか推奨しなさそうか。

 

「お前もなかなか良い仕事だったんじゃねぇか?

 あのレベルでの襲撃中に、ポーションを飲まずに済んだのなんざ久しぶりだぜ」

(いや、それを言うならお前の方が良い仕事だろう。

 あの混戦で敵と斬り結びながら、よく周りの状況を把握して指示が出せるもんだな。

 俺も前の持ち主には似たようなことをしていたが、今回はからっきし状況が掴めなかったぞ)

 

 相手に煽てられて気分が良いので、素直にこっちも称賛の言葉を返す。

 ジェイクもそれを受けて楽しげに笑う。

 

「そんくらいは出来なきゃあ、トップは張れねえさ。

 ま、同じような戦場で何度も戦ってるからってのもあるがな。

 お前もここで戦ってりゃあ、その内周りが見えてくるようになるさ」

 

 なるほどな、確かに多人数での戦いの経験は重要かもしれん。

 なら、それまでは大人しく剣としての仕事だけするかね。

 

 本当は転生オリ主として、もっと活躍の場が欲しいところだが、

 実力が身についてない内に出しゃばるのも、見苦しいと言うものだ。

 

 ここは、大人しく下積みをするとしよう。

 

 

 

「ジェイク、戦士二人の遺体漁り、終わったわよ」

 

 そうこう話している内に、まずカーラが仕事を終えたようで、ジェイクのもとへと歩いてくる。

 

「チアフーは自走砲が物珍しいみたいで、残骸を弄り回してたから、もう少しかかるかも。

 双子は、ついさっきまではしゃいでたけど、

 目ぼしい物は探し終えたみたいだから、もうすぐ終えると思うわ」

「ボス!この魔術書は俺が貰っていいよな?」

「俺はこのスクロールが欲しいぜ、ボス!」

「……どうやら終わったみたいね。チアフー、あなたも適当に切り上げなさいね」

 

 他の面々も、続々と集まってくる。チアフーも名残惜し気ながら、カーラの指示に従った。

 戦利品を抱えた団員たちに、ジェイクが号令をかける。

 

「戦利品はいつも通り、アジトに戻ってから分配すんぞ。

 おい双子ども、確りお前らに欲しいもんが渡るようにするから、

 分ける前に戦利品を使っちまうんじゃねぇぞ」

 

 ジェイクは、今にも魔術書とスクロールを調べ始めそうな程、ワクワクした双子に釘を刺す。

 分配する前に戦利品がなくなっちゃあ、揉め事になるからだろう。

 特に、魔術書なんかは読むのに失敗すれば、とんでもない事*1になるしな。

 

 いやそれにしても、団に入って初めてのまともな戦闘から、さっそく上質な強者の生き血が飲めた。

 これは、ここからの食事にも期待が持てそうというものだ。

 

 戦闘以外の活躍については、しばらくは要研鑽といった所かもだがな。

*1
QDK(急にドラゴンが来た)とかありえる

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