大使館への襲撃により『ミッドナイトを照らす炎』団の名は、
ノースティリス中で知られるようになった。
白昼堂々と行われた力任せの略奪は、力なき市民たちの恐怖を煽る。
積極的に噂を広めたこともあり、もはや『ミッドナイトを照らす炎』団を知らない者の方が少ないだろう。
また、同じく略奪を生業とする者たちにとっての、憧れともなった。
ジェイクが広く仲間を募ったこともあって、今や団員の数は15人に膨れ上がり、
さらに3つの盗賊団が傘下に加わりたいと申し出てきて、これを受け入れた。
傘下に加わった盗賊団は、ジェイクが大規模な襲撃をする際、
呼びつけて共に戦わせる代わりに、分け前を渡すこととなっている。
彼らを加えれば、盗賊団はいまや30人近い勢力となっており、
もはや村の1つくらいならば、単独の勢力で落とせるレベルだ。
辺鄙な村を襲撃したところで、大した収益にもならないのでやらないだろうが。
団員の数は、これ以上増えてもジェイクが直接指揮を取る事が難しい。*1
なので、これからは別の盗賊団を傘下に加えていく方針だ。
頭数を増やすことで暴力の威圧による影響力を高める。
そして、ゆくゆくはセビリスを抑えて、ダルフィのトップに立つのだ。
大使館襲撃からしばらくして。
ジェイクは活動拠点を、パルミアのスラムから、ダルフィの一角にある建物へと戻した。
この拠点はもともと盗賊団の持ち物だったのだが、
近頃はセビリスの影響を避けるために、使っていなかったらしい。
ジェイクはダルフィにおいて、野心を隠すことはしなかったので、
ダルフィの実権を狙うセビリスにとって、邪魔な存在と認識されかねなかった。
以前のジェイク達5人の実力でも、セビリスの手勢だけを追い返すことは訳ないだろう。
だが、セビリスが周りを焚きつけて、袋叩きにしようとしたら話は別だ。
短期間でダルフィを掌握したセビリスの手腕*2によって、
再起不能になるまでミンチにされる、もしくはそれ以上の処置を可能性があった。
そのため、下手にセビリスに目を付けられないように、パルミアを活動拠点としていたのだ。
しかし、今の『ミッドナイトを照らす炎』団は、ノースティリス有数の力を持っている。
例えセビリスがこっちを疎ましく思ったとしても、簡単に排除できるような戦力は用意できない。
名が売れてる盗賊団と戦うってのに、腰が引ける奴らも多いだろうしな。
ならばダルフィで活動しても問題ない。
そして、セビリスを押し込めることが出来る戦力を集めるため、
傘下の盗賊団を増やしたいならば、ダルフィで行った方が効率が良い。
だから、拠点の場所をパルミアからダルフィへと戻したわけだ。
ダルフィでは、盗賊団が昼間から練り歩いてるからな。
盗賊団同士でコミュニケーションをとるなら、この町が一番だ。
最近のジェイクは、有力そうな盗賊団を見かける度に、俺たちと手を組まないかと誘っている。
反応はまちまちだが、少なくともこちらを馬鹿にするような態度はほとんど見ない。
これも、盗賊団の名が巷に広まっている証拠だろう。
当然ながら、耳聡いセビリス側がこの動きを把握していない訳がない。
セビリスは、以前にも増して積極的に活動するようになったと専らの噂だ。
盗賊ギルドのメンバーに自分の手勢を増やしたり、
ブラックマーケットから多くの武器を買い取っていると聞く。
今までは、セビリスに対抗できるような勢力は、ダルフィに存在しなかった。
だが、ジェイクが現れた事によって、急いで地盤を固める必要がある、とセビリスも判断したのだろう。
と、この前ダルフィの盗賊ギルド職員が話していた。
今のところ、セビリスとジェイクの間で直接の争いごとは起きていない。
だが、酒場ではいつ、どちらが仕掛けるのか、と話題に上がることもしばしばだ。
こうして、直接関わりのない人間達が知ることになるレベルで、
ダルフィにて二勢力による拡張争いが勃発した訳だ。
「俺たちは泣く子も黙る『ミッドナイトを照らす炎』団!
命が惜しけりゃ、積み荷と有り金の半分を置いてきな!」
そんな『ミッドナイトを照らす炎』団の今日の活動は、団員のみでの隊商襲撃である。
「わ、分かった。言われたとおりにするから、武器を納めてくれ……」
団員のみと言っても、総出となれば16名だ。
この人数で襲撃を掛ければ、ほとんどの隊商は戦う事を選ばずに降伏する。
襲撃者が、有名な大使館襲撃の犯人だという事も、無関係ではないだろう。
最近の隊商襲撃では、まともな戦闘になる事は稀だった。
「くっ、出番だぞお前たち!馬車の積み荷を守れ!」
それでも、抵抗することを選ぶ奴も存在する。
積み荷を取られれば後がない者、評判の良い用心棒を雇っている者。
理由は様々だろうが、これまでで一度も積み荷を守りきれた奴はいない。
この世界では死んだ人間が何度でも蘇る。
ならば、数の暴力の偉大さを最大限まで生かすことが出来る。
すなわち相手が全員死ぬまで、味方全てが捨て身で戦い続けることが出来るのだ。
強力な集団戦スキルである、鼓舞が入る人数が増えるというのも大きい。
一度死んでも生き返る『契約』状態が、全員にかかるという事は、
すなわち16人の命が32個になる訳だからな。*3
こんな状況で一つの隊商風情に、負ける方が難しいという話でもあるな。
今回も用心棒達を、6人の新入り盗賊団員を犠牲に、殺し尽くすことが出来た。
「ま、待ってくれ。分かった、金ならやるから命だけは助けてくれ!」
「遅せぇんだよ、今更そんな虫のいい話がある訳ねぇだろ」
この世界では、死んでも這い上がる事が出来るので何度でも蘇れる。
だが、死んでもタダであるという訳ではない、能力値の減衰が発生するのだ。
それを恐れて、完全な負けが分かってから商人が命乞いをするが、そんな物が通るはずもない。
ジェイクは耳を貸さずに、そのまま俺を商人へと突き刺した。
すかさず、俺は血吸いを発動して、相手から血液を吸い上げていく。
結果として、商人は血液を殆ど漏らすことなく干からびていき、そしてミンチになった。
盗賊団に加わったばかりのメンバーで生き残った内、
2人はまだ、俺のコレを見たことが無かったため、
得体のしれないものを見た恐怖で、慄いた様子である。
うーん、既に何回か別の新入りでもやっているが、これは気分がいい。
自分だけが持っている力を使って、他人から畏れの視線を受ける。
これも俺TUEEEの基本であると言えよう、転生オリ主の本懐だ。
商人がミンチになったことで、略奪を止める者はいなくなった。
俺たち盗賊団は用心棒が死んだ場所や、馬車の荷台から金目の物を集める。
もちろん、死んだ仲間たちが落とした装備を拾う事も忘れない。
今回の実入りは、ざっとみて20万gp相当といった所だろうか?
そこそこの金額に見えるが、全員で頭割りすれば1万gp程度であり、
戦闘で使った消耗品の補充を考えれば、さらに金額は減る。
命がけで戦った報酬として見合っているかは、人それぞれというところだろう。
俺からしてみたら、少々物足りないというのが本音だ。
戦闘を終えた俺たちは、戦利品と共にダルフィのアジトへと帰った。
先に戦闘で死んだ団員たちは、既に這い上がって先にアジトへ戻っている。
「よし、野郎ども!今日もよく戦った、戦利品の山分けの時間だ!」
「「「ウオォォォォォォォ!」」」
いよいよ報酬の山分けだ、ジェイクの号令に歓声で返事をされる。
「まずは、今回の襲撃で死んじまった6人の分だ。売りゃあ、1万5千gpにはなんだろう。
お前らが死んだときに落とした装備もあるから、自分の分を取ってけ」
ジェイクが言い終わると同時に、喜びの声と共に報酬へと群がっていく。
だが、その数は5人だけであり、今回の死人の6人に対して一人分少なかった。
その報酬にありつかなかった一人が、おずおずとジェイクへと申し出る。
新入りでも特に入ったばかりである、中肉中背の若い男だ。
名前は確か、スタンリーとか言ったか。
レベルは15で、今の盗賊団でも一番低い。
ジェイクが今31あるから、大体半分ってところだろうな。
「あの、ボス。俺、やっぱりこんなに受け取れません。
今回の襲撃でも一番に死んじまって役に立てなかったし、他の人達と同じ分で充分です」
引っ込み思案な奴だな、何でそれで盗賊団に入ろうと思ったんだか。
そんなスタンリーにジェイクが近づき、ガシリと上から頭を掴む。
自分に比べて非常に大柄なジェイクに掴まれ、
すわ、殴られるのかと思ったスタンリーは目をつぶったが、ジェイクはそんな彼に目線を合わせる。
「ドアホウが、お前は俺みてぇな強い男になりてぇってんで、この盗賊団に入ったんだろう?」
ああ、確かにそんな事を言って盗賊団に入ったんだっけか、興味がないから忘れていた。
そんなジェイクの言葉に、スタンリーは目を開けてジェイクに目を合わせた。
「役に立たなかったんなら、尚更多くの金を取んなくてどうする。
今回死んで、能力値も下がってんだから貰った金でいい装備を買え。
そもそも、俺が『死んでもいいからとにかく突っ込め』って指示を出してんだぞ」
そう、この盗賊団の基本的な戦闘スタンスは、バフかけてからガンガン行こうぜ!だ。
そして双子の魔術師にカーラと、後衛火力は十分足りているので、
新入りは前衛を多めに採用しており、
「俺は、強く成りてぇって貪欲な奴は好きだぜ。
だからお前も、申し訳ねぇってならとにかく強ぇ武器でも買って、それで恩を返しな」
コイツみてぇなよ、と言ってジェイクは俺を鞘から抜き放ち、スタンリーに持たせる。
「こ、これって確か団長の持ってる、すげぇ生きた武器ってやつでしたっけ?」
「そうだぜ、おら<<エーエン>>何か喋ってみな」
(急にそんな無茶振りされても困るんだが、せめて5秒は心の準備の時間をくれ)
「うわっ、本当に喋った!?大丈夫なんすかコレ、血ぃ吸われるって話っすけど……」
「なぁに、急に吸うのは持ち主の俺の分だけだ、後は吸わせようとしなきゃ平気よ」
慌てるスタンリーに満足したのか、ジェイクはまた上機嫌そうに笑いながら俺を手元に戻す。
「ハッハッハ、怯えすぎだろうよスタンリー!」
「うるせぇなビッジ!ちょっと気になっただけだ、ビビっちゃいねぇよ!」
スタンリーがムキになって叫び返すが、その姿も面白いのか団員の半分ほどは既に彼をからかう様子だ。
彼を中心になって囃し立てるのは、これまた入ったばかりのビッジ。
調子の良い奴という感じだが、魅力はあるようで、入団すぐにも関わらず団の中心部にいる。
「ふむ、そうだな。お前もコイツを味わっとくか?」
そう言うと、ジェイクが今度はビッジの方に俺を差し出す。
「おっと面白そうじゃないですか。やらせて下さい、俺はビビんねぇっすけど」
ビッジは口で言う通り、スタンリーとは違い全く気負わない様子で、俺を受け取ろうとする。
そのタイミングにジェイクが念話で、俺だけに聞こえるように指示を出す。
(<<エーエン>>、俺が刺したらいつも通りに吸え)
(いやだから、早めに言っておいてくれって)
とはいっても、こっちは会話と違って慣れている。
ビッジが受け取ろうと出した右手を、ジェイクがガッシリと左手で掴んだ。
驚き、戸惑うビッジ、その右手の指先に、ジェイクが浅く俺を食い込ませる。
「ってぇ!おいアンタ、いったい何をッ……!?」
腕を引き戻そうとするビッジに、俺が神経属性の追加攻撃で麻痺させる。
動けないビッジの腕から、俺は急激に血液を吸い上げていった。
「が、がっ!?」
血液が満足に回らないほどに、ガッシリ掴んだジェイクの手。
そして中の血液を急激に吸い上げる俺。
この二つのもたらした結果は、まるで老人のように干上がっていくビッジの右手だ。
まるで、この世界にはないホラー映画のような光景に、
スタンリーを始めとする、本当に最近入ったばかりの者は、
得体のしれないものを見る、怖気に満ちた視線を送り。
そして、新入りの中でも早めに入ってきた者の視線には、
恐怖の中にも「また始まった」と残酷なショーを見るような、好奇の感情が入り混じっていた。
なお、元からジェイクの仲間だったカーラと双子は、
特に気にすることもなく「早く終わんないかな」という視線を送っており、
チアフーに至っては暇になったのか、こっそり手持ちのチーズを食べ始めていた。
暫くして、カラカラになった右手をジェイクが離すと、ビッジはヨロヨロと座りこむ。
どうやら恐怖で、まともに動くことが出来ない様子だ。
そんな彼の前に、ジェイクは目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「なあビッジ、さっきスタンリーに言った話の続きだけどよ。
俺はお前たちに、とにかく突っ込んで戦えって指示出したんだ。
なのにお前、遠距離攻撃を織り交ぜて、死なないように立ち回ってたよな?」
「そっ、そんなもん当たり前だろう!?どうせ勝つなら、死なずに勝つに越したことはねぇ!」
ビッジが、理不尽な仕打ち*4と、恐らくそんな目に遭った理由。
それへの憤りが恐怖を上回ったのか、ジェイクへと言い返す。
「そんで、お前の代わりに死んだ奴がいるかもしれねぇだろ」
「それこそ分かんねぇだろう!?」
「分かんねぇなら、決めるのは全部ボスの俺だ。
テメェが、俺の指示に従わなかった事に変わりはねぇ」
「んな頭おかしい指示だと思う訳ねぇだろ!?」
「まあそうだよな、だから今回の事はこれで仕舞だ。報酬も他の奴らと同じ分を取れ。
次からは指示通りにやれ、嫌ならこの団を抜けろ。以上だ」
そういって、ジェイクは重症治癒のポーションをビッジの前に置く。
ビッジは非常に不服そうな表情をしながらも、
それ以上言い返すことはせず、渡されたポーションを飲んで手を癒し始めた。
「よーし、報酬山分けの続きやんぞー。スタンリー、さっさと自分の分とれよ、後がつっかえてっからよ」
ジェイクはそう言うと、ビッジの前を離れる。
その様子に怒っている様子などは欠片も滲ませず、
固まっていた他の団員たちも、少々ぎこちないながら山分け作業へと戻っていった。
さて、この一連の見せしめの流れだが、既に何回かこの団で行われている。
そして!このやり方の原案は!なんと俺である!
とは言っても、カーラが中々新入りが言うこと聞かないって愚痴るから、俺が最初に
『意識があるままに血ぃ全部抜き取って、自分が干からび死ぬとこ見せたら大人しくなるんじゃねぇの?』
と言った時には、
「お前、自分が血を吸いたいだけじゃねぇだろうな、
っていうか団の戦力低下になるし、そんな事しても誰もついてくる訳ねぇだろ」
って事で即却下されたんだがな。
しかし、その後数日してから、"あの"問題児である双子から、
このまま人数を増やすと団が纏まらないんじゃないか、という進言が出るレベルだったことから、
ジェイクは俺の案を少し抑え、ある程度の方向を定めて実施することにした。
すなわち「普段は豪快で優しいけど、気まぐれにやべー事をしかねないボス」しぐさである。
正直、方向を定めなくても、もともとそんな感じの奴だったと俺は認識している。
これにより、盗賊団に加わりたがるような荒くれどもを、
「悍ましいボスの威厳」で縛る事に現状は成功しており、
しかも俺は「ボスが持っているヤバい剣」としての立ち位置を確立することが出来たのである!(ココ重要)
いやー、いいよね。
なんかこう、漫画とかで邪悪なオーラ放ってて、触れると体に影響が出る感じの剣。
転生者としても強い奴ムーブが出来て、俺は満足である。
その後は、問題なく報酬の山分けを進めることが出来た。
これまであの見せしめムーブを見たことのなかった新入り達が、
良くジェイクの言う事を聞くようになって、ビッジ君の血液も役に立てたと喜んでいることだろう。
ちなみに、ビッジ君の血液は可もなく不可もなしという所だった。
彼はレベル20くらいだから弱くは無いんだけど、あまり才能無い感じなのかもなぁ。
ステータスがいい奴は、血の味も良いことが多いしね。