「えーと、私が何で冒険者をしているかですか?きっと面白くありませんよ?」
(いやいや、相互理解ってやつのために必要だろうと思ってね、それに全くあんたの事を知らないんじゃあ、会話のとっかかりもないからな)
永遠の孤独とかいう、それはそれで恥ずかしいキラキラネームを、駆け出し冒険者の少女、オーディに名乗った後。
俺は、まずオーディの人柄を探るため、オーディになぜ冒険者になったのかを尋ねた。
これが、オーディが『呪われていると知っている武器を装備するか』を見極める、一助になるだろうと思ったからだ。
「いや、ほんとうに前向きな理由とかじゃないんです。そうだ、剣さんのことについて話してくださいよ!」
(俺はこの世界に生まれた瞬間から、ずっと宝箱の中だったからな。生まれながらある程度知識は持っているが、逆にそれ以外は、何もこの世界について知らないんだ。だから、あんたの話を聞いてみたいんだよ)
よし、嘘はついてない。俺が転生してきたとか教えても、プラスになるとは思えんからな、上手く誤魔化せた方だ。
それに、こう言われたら断りづらいだろう。
「そうなんですか……。分かりました!ちょっと暗い話ですけど、良かったら聞いてください」
結論から言うと、現代日本人だった俺の感覚からすると、ちょっと暗いどころじゃなかった。
小一時間ほどドロドロした話が続いたが、彼女の話を掻い摘むと、こんな感じである。
「私、カオスシェイプっていう異形のお父さんと、人間のお母さんのハーフなんです。だから、人間から見るととってもグロテスクな見た目をしているし、腕が3本もあるんです。武器である永遠の孤独さんには、見た目がどうとか分からないかもですけど」
ごめん、分かってた。めっちゃキモイって思ってた。
「お父さんは物心ついた時にはいなくて、お母さんも私が3歳の時に、私を気味悪がって捨てました。どうやら、望まれない生まされ方をしたせいで、元々いやいや育てていたみたいです」
もうこの時点でハード。
「それからというもの、野原の食べ物を漁って食べて生き延びていました」
「量が足りたのかですか?いいえ、足りなかったので何度も餓死しました。その度這い上がりましたけど」
そうなんだよ、elonaだから、死んだら『はい、おしまい』じゃないんだよ。
「街に食べ物を探せなかったのか?……私、不細工だからそれだけで嫌われちゃって、石を投げてくる人もいるんです。だから、町だとすぐ死んでしまって、食べ物どころじゃありませんでした」
「もちろん野原にもモンスターは居るんですけど、数が少ないから、なんとかやり過ごしてきました。死ぬときは死んじゃいますけど」
「それでも何とか、たまに見かける冒険者さんの遺体から武器や防具なんかを拾って、体も成長して、コボルトくらいまでなら何とか倒せるようになりました」
もうね、めっちゃこの子タフ。何故この環境で埋まらず(永久ロストせず)に、コボルトが倒せるようにまでなれるのか。それとも、ノースティリス大陸では、これがスタンダードなのか。
「モンスターを倒せるようになったから、それでお金を稼げる冒険者になったんです。そうすれば、パルミアの国民として扱われて、むやみに殺されたりしなくなりますから」
「でも、やっぱり町の皆さんには嫌われたままで、碌に物を買うこともできないんです。二つ名だってひどいんですよ、『醜すぎる童貞』ですって、私女なのに」
「それでもやっぱり、冒険者になってから、大分暮らしが楽になりました。
だからもっと上を目指そうと、昨日の朝、15歳の誕生日記念に、顔を隠して、宝の地図をなんとか買ったんです」
「そしたら、此処の宝箱から剣さんが出てきて、もうびっくりしました!でも嬉しかったです。他の人とちゃんとお話ができるのは、初めてでしたから。」
以上が、オーディが話してくれた内容だ。
ブスだ、ブスだと心の中で言ってたけど、ここまでくると、ちょっと悪い事思ったかなと感じる。
何だこの世の中、
しかし、これでコイツに対するアプローチの方法は決まったな。
俺のエンチャントには、◆魅力を26上げる、とかいう超チート能力が備わっていたはず。
会話ができることを喜んでいるオーディなら、他の人から好かれやすくなるこのエンチャントを知れば、たとえ呪われていようと装備するだろう。
加えて俺個人としても、こいつに少しはいい目を見せてやろうか、という気持ちがある。
少し突然だが『生きている武器』という存在になった俺にとって、持ち主というのは共生相手である。
武器として力を発揮する代わりに、持ち主の血液と、倒した相手の血液を頂くわけだ。
そのためか、血液の摂取に役立つ相手を好ましく感じ、そうでない相手を疎むようなのである。
そして好ましい相手に持たれることを喜び、疎ましい相手に持たれる事を強く忌避するのだ
まだ一人の相手しか会ったことがないから、これが真実かは確かめられないが、本能がそうだと訴えている。
おそらくこれにより、血液の摂取に役立たない相手や、乱暴に扱う相手に所有されるのを避けるのだろう。
俺も、疎ましい存在に使われるくらいならば、独りのほうがマシと感じている。
だが、意思を持つ俺にとっては、『好ましい相手』『疎ましい相手』の判断基準に感情が大きく関わる。
ならば、俺が『助けてやろう』と思えるこいつは、良い関係を築き易いのではないだろうか。
そういう意味では、俺の持ち主として悪くはない相手だろう。
エヘカトル様も、伊達に幸運の女神ではない訳だ。
(なるほどな、お前も苦労してきたわけだ。だが、その苦労からも一発でおさらば出来るかもしれないぜ)
「へ?何かいい考えでもあるんですか?」
(考えなんて立派なもんじゃないさ、ただ俺を装備すればいい。説明となると、そうだな……、魅力ってステータスがあるって言われたら、分かるか?)
「えーと、はい!冒険者シートに書かれている数字で表される、人にどれだけ好かれるかを表す能力値ですよね。私はたった1しかないですけど……」
(まあ、そうだろうな。しかし、そこまで分かっているなら話が早い。俺にはその魅力を26上げるエンチャントが付いていてな、俺を装備するだけで、愛され少女オーディちゃんに早変わりってわけだ)
「ほ、本当ですかぁ!?すごい!26っていったら、ちょっとした商人さんより魅力が高いですよ!わ、私、夢でも見てるんじゃないでしょうか」
彼女はひどく驚いた様子で、降って湧いた幸運が信じられない、といった様子だ。
なお、とある事情で表情からは推し量れない模様。
(これは現実さ、だがそれだけにデメリットもある。それは、俺が呪われた装備だってことだ。そこらの剣より強いって自信はあるし、エンチャントにも自信があるが、それでも外せないって弱点があるし、何より生き血を吸うって言う大きなマイナスがある。その上で、お前がどうするかだ)
「そんなの、決まってます!剣さんが『自信がある』っていうなら、とっても強い武器なんでしょう。それなら他の武器に変えられないなんて、気にする必要ありません!それに、生き血を吸われるくらい、どうってことは無いです。ちょっと死にやすくなるくらい、私は今更気にしませんから!」
そういって彼女は、にこりと笑ったらしく、口周りが歪に捻じ曲がる。
やだ、なんかちょっと話しただけなのに、大分信頼されている。
こんなに他人から信じられたのは、前世ではいつ以来だっただろうか。
いや、なんか『ナチュラルに見下してくんのがむかつく』って言われんだよね。
俺は普通に話してるだけなんだけど、よく取引先をキレさせちゃったし。
まあ取りあえず、持ち主との信頼関係を築くことはできた。いい転生のスタートを切れたってもんだろう。
(ありがとうよ、そういってくれるとこっちも嬉しいぜ。それじゃあこれからよろしくな)
「はい、よろしくお願いします!」
そういって、彼女は今まで持っていた武器を袋にしまうと、改めてしっかりと俺のことを握りしめる。
恐らくこれが装備をする、ということなのだろう。
今までとは違い、明らかなオーディとの繋がりを感じる。
それと同時に、彼女の身体に大きな異変が起こり始めた。
グネグネと顔が蠢き、別の形へと移り変わっていく。
体もだ。
今までに比べ、何だか太くなっていっている気がする。
5秒ほどでその変化は収まった。
しかし、彼女には劇的な変化が起きていた。
おそらく、耐久が上がったからだろう。細く捻じれていた頼りなさげな体が、年頃の少女らしく丸みを帯びて、しっかりとした土台となっている。
だがそんなことがまるで問題にならない程、彼女の顔面には奇跡が起きていた。
まず肌が違う、ボコボコしていた部分は完全に無くなり、病的なまでに白く、そして滑らかになっていた。
唇は少し赤みがさしており、スッと引き締まっている。
目は切れ長だが、少したれめになっていて、あまりキツさを感じさせない。そして白目が存在せず、全体が青くなっている。
そして鰓はあまりハッキリと浮き出ておらず、しかし首周りで、ときおりパクパクと自己主張している。
……うん、紛うことなきモン娘ってやつだね。耳とかエルフ耳だし、間違いない。エルフ耳はモン娘。カオスシェイプ成分が、はっきり出てるわ。
いや、でもきっと、かわいいんだと思うよ?
俺は、女性の美的価値観とかについては前世のままだから、モン娘ってだけでちょっと引いちゃうけど、この世界なら普通にありだろうし。
しかし驚いた、武器によるステータス変化って、実際に肉体改造をすることで表現するのか。てっきり、魔法パワー的サムシングだと思ってた。
とりあえず、何が起こったか分からなくて、目をパチクリさせてる彼女に、現状を教えてやるか。
(よう、いっちょ前の別嬪さんになってるぜ。ほら、俺の刀身を鏡代わりにして、自分の顔を見てみな)
「ふぇっ?あっ、はい!見てみます」
そういうと、彼女はじっくりと俺のほうを見つめる。
そして、目を大きく見開く。
「こ、これ私なんですか?凄い!こんなに綺麗になれるなんて……。これなら町にも入れるし、買い物だってできます!ありがとう、剣さん!」
(なにお礼されるほどの事でもないさ。俺からしたら、ただちょっと装備されるだけの話だからな。これから宜しくやっていくんだ、仲良くいこうぜ?)
「はい!よろしくお願いしますね」
そういって、彼女はニッコリとほほ笑む。
その笑顔は普通にかわいくて、俺は魅力上昇エンチャントをつけてくれた神へと、感謝するのだった。
いや、正直あのホラー顔と一緒に旅をするとなると、流石にキツイからね。
「それじゃあ早速、町に出発しましょう!私一度、ちゃんと買い物をしてみたかったんです」
(おう、それじゃあ行くとするか。ここから一番近い町ってどこなんだ?)
「ここからならパルミアでしょうね。よーし、張り切っちゃいますよぉ」
そういうと、彼女は一目散に走りだした。
(おいおい、まだ変化した体に慣れてないだろうに、そんな走って大丈夫なのか?)
「平気ですよ!なんだかとっても体の調子がいいんです、剣さんのおかげですかね」
(ああ、一応耐久を上げる効果もあるからな、それだけ強い代償として、装備者の血を吸うっていうマイナス効果も付いているが……、あっ)
瞬間、自分の体に違和感を感じた。
体のどこかに穴が開いているかのような感覚、気持ち悪い、ただひたすら気持ち悪い。
だが幸い、どうすればこの空虚感を埋めることができるのかは、本能で分かっている。
自分の身体と繋がっているところから、持ってくればいいのだ、吸い取って…吸い取って……埋まった?いや、まだ必要だ、もう一度吸い取る…吸い取る……、ああ、ようやっと楽になっ「ちょ、剣さん待っ、ふぎゃあ!」……あり?
気が付くと、俺を持って走っていたはずのオーディが、弾けてミンチになっていた。
いやもう、爆発四散って感じ、死ぬと同時にそこら中に肉片が飛び散っていた。
俺の身体も返り血でベトベトである。剣になったせいか、不思議と嫌悪感は湧かなかったが。
もしかして俺、やっちゃった?今なんか吸い取ったけど、あれオーディの生き血だったりする?
もしかしなくても、そうなのだろう。
あの異常な空虚感は、恐らく飢えだったのだ。
これは直感だが、あのまま生き血を吸わないでいたら、恐らくエネルギー切れで力を発揮できなくなる。
先ほども言ったが、生きている武器の食料は、装備者と、切りつけた相手の生き血である。
そして吸った血の量だけ成長するのが、生きている武器という存在なのだ。
きっと、ゲームに出てくる生きている武器たちは、今のような急な飢えから逃げるため、装備者の生き血を吸うのだろう。
待てよ?なら、敵の生き血を吸うのは何故なのだろう。
意志があるというフィートが俺にあるということは、他の生きている武器は意志を持っていないのだろう。なのに、何故わざわざ敵の生き血を吸うのだろうか。
装備されると、腹が減るようになるとかか?
ふむ、丁度いい。そこら中と俺の身体には、オーディの血がぶち撒けられている。
今度は装備者との繋がりからではなく、身体で血を吸い取ってみよう。
幸い、さっきのオーディからの血吸いで、どうやって血を吸えばいいのかは、大体感覚で分かったしな。
もしかしたら、腹がいっぱいになるのかが分かるかもしれない。
どれ、まずは体にかかった血から……。
ンまああーーーーーーーーい!
なにこれ!?超美味いんですけど!体に力が沁み渡っていく感触、これだけで全ての栄養が取れるってことが心で理解できる!
なるほど、これが敵の生き血を吸う理由か。装備者の血を吸うのとは、まったく訳が違う。
装備者の生き血がエネルギーだとしたら、敵の生き血はそれ以外の全てだ。
なるほど、装備者の生き血でずば抜けた力を発揮し、その力で敵の生き血を奪って成長する。
これが生きている武器の生態という事なのだろう。
だから、原作である程度強くなると、必ず「それは使用者の生き血を吸う」が付与されるわけだ。
さて、飛び散っている血液をさっさと吸わないと、乾いて摂れなくなってしまう。
今のうちに吸えるだけ吸うとしよう、この生き血全て俺のものだ。
2、3分かけて其処らの血液を吸い取った後、俺は重要なことに気付いた。
そう、すなわち『やっべ、持ち主殺しちゃったじゃん、このあと俺どうしよう』ということである。
いや、うん。俺も多分普段だったらこんなヤバい問題、もっと早く気づいてたと思うよ?
でも、あの異常な飢えだとか、血が美味しすぎる件とかでさ、ちょーっと頭から飛んじゃってたっていうか。
まあ取りあえず気を取り直して、今俺にできることは……。
無いな、うん。俺自分からは動けないから。
仕方がない、もしゲームと同じようにアイツが生き返るとしたら、その時どうするかでも考えておくとしよう。
5分ほどたった後、俺は急に何処かへと引っ張られるような感覚を感じた。
そして唐突に視点が切り替わる。
気が付くと俺は、何やら洞窟らしい薄暗い場所に移動していた。
もしもゲームのシステムと同じようにこの世界が動いているとしたら、ここは恐らくオーディの住処なのだろう。
彼女が復活するのに合わせて、俺もテレポートしたと考えるのが妥当な気がする。確証はないけど。
しかし、意外と早く復活するんだな。多分まだあれから、10分くらいしかたってないっていうのに。
と、何だか目の前の床によくわからない赤黒いものが集まりだしたと思ったら、俺のことを巻き込んで人型を形作っていく。
何かよく分からなくて俺は少し慌てたが、剣の俺にはどうすることもできない。
そして、気が付いたら、本当に気が付いたらという程、あっけなくその現象は納まり、其処にはオーディが無傷で立っていた。
「剣さん、ひどいですよう!何で急に吸血しだすんですか。私痛かったんですからね!」
そう言ってオーディは、自分が死んだというのに、大したことが起こった訳でないかのように、ぷりぷりといった感じで俺に怒って見せた。
いや、きっと彼女にとって、一度死ぬくらいは本当に大したことではないのだろう。
この分なら何とか釈明できそうだ、出会ってすぐ関係破綻なんてことにならなくてよかった。
(いやすまなかった、さっき少し触れたけども、俺には装備者の生き血を吸うっていうエンチャントが付いているんだ。そのせいで急に、なんていうか飢えみたいなのが来てな、衝動的に吸い取ってしまった)
「う、お腹すいてたんですか……。まあ、そういうことなら仕方ないですね、お腹すいて死ぬのは一番つらいですから、私にも分かります。でも、それなら今まで宝箱の中で辛くなかったですか?」
(今までこんなことは無かったんだ。きっと、装備されていない間は血が必要ないんだろうな。俺も、ああいった現象があるとは知らなかった)
そういうと、オーディは少しうつむいたようだった。
「そうですか……、なら元はと言えば、私が装備したからお腹がすくようになった訳でもあるんですね」
(ん、ああ、そういう捉え方もあるか。だが気にすることは無いぞ、あのままずっと宝箱の中で暮らすよりは、腹が減っても外に出れた方がよっぽど良いからな)
「ふふ、ありがとうございます。でも、どれくらいの頻度で生き血を吸わないといけないんでしょうか?あんまり何回も死ぬのは、流石に困るんですけど……」
(悪いけど、そこまでは俺にも分からないな。感覚的には多分、定期的にどうこうではなく、突発的に起こるものだと思うんだが)
「そうですか、まあ分からないなら仕方がないですね、とりあえず改めて町に行きましょうか」
そういうと、彼女は今居る洞窟の外へと向けて歩き出した。
やれやれ、どうにか穏便に納得してもらうことができたか。
しかし確かに、こんなにすぐに死んでしまうようだと、お互いに困るだろうな。
どうにかする方法が思いつけばいいんだが。
とかなんとか考えていると、
お腹すいちゃったぜ☆。
(あ、やばい)
「ふぎゃー!」
そこにはミンチになって爆発四散したオーディが残されていた。
これはまずい、予想以上に血吸いの頻度は高いかもしれん。このままでは満足に移動もできないぞ。
でも取りあえずそれは置いといて、もったいないから飛び散った血を吸おう、美味しいし。
結局町に出発することができたのは、1日経ってからだ。
急に腹が減る可能性があるのは、オーディが歩いている間だけだということが判明して。
さらに、俺が手加減してゆっくりと血を吸うことを覚えるまでそれだけ時間がかかったのだ。
これにより、立ち止まってオーディの自然治癒が間に合うように血を吸うことで、ようやく移動ができるようになった。
その間、オーディは100を超える回数、爆発四散することになったが。
ちなみに、俺はその度飛び散った血を吸わせてもらった。