◆それは生きている   作:まほれべぜろ

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一度倒した相手が、強くなって襲ってくる奴

 庇護下の商人へ襲撃をした『欺瞞の翼』。

 それを潰し、ダルフィの外れにある奴らのアジトから、

 引き上げている最中の『ミッドナイトを照らす炎』団と傘下達。

 

 出立の時に比べて数は減っているが、それでも60人強は残っている。

 その殆どのメンバーは、浮足立った様子だった。

 

 当然と言えば当然なのだろう。

『ミッドナイトを照らす炎』はダルフィでのトップを目指す盗賊団だ。

 そして傘下の盗賊団も、そのおこぼれを貰うべく所属している。

 

 そんな俺達は、ダルフィでも有名な盗賊団を、数に任せてとはいえ倒しきった。

 これからダルフィの頂点に立つのは、自分達だと思うのも無理はない。

 

 最初こそ渋々着いてきていた傘下の盗賊団も、

 勝利とそれに伴う戦利品(優秀な装備の数々)の獲得で、今はジェイクにゴマをすっている。

 

 そのジェイクも、『欺瞞の翼』の目的が見えない事に警戒こそすれど、喜びは隠せないようだ。

「今日は俺の奢りだ」などと言って、傘下の盗賊団を飲みに誘っている。

 人心掌握術の面もあるのだろうが、俺が見るに、アレは普通に浮かれてもいる奴だ。

 

 ダルフィの外れから中心部にある拠点に向かい、俺達が陽気に凱旋するのを、

 町民たちは恐ろし気に、あるいは羨望の目線で見送っている。

 

 

 

 空気を変えたのは、突如鳴り響き始めた、けたたましい銃声だった。

 それも一つや二つではない、鳴りやまない銃声の矛先は俺達へと向けられていた。

 

 奇襲によって、一人また一人と銃弾に倒れていく盗賊達。

 ティリス民は頑丈で、多少撃たれたくらいでは死なないが、それでも限度はある。

 突然の事にパニックとなり、恐怖で防御姿勢を取れてない人間なら尚更だ。

 

「どうなってる!?どこから撃って来やがった!」

「あの建物っす、団長!何人いるかは分かんないっす!でも沢山!めっちゃいるっす!」

 

 混乱の中、元々警戒していたジェイクに、チアフーが襲撃者の位置を伝える。

 そちらに目を向けると、4階建てのそこそこ大きめな建物があり、

 確かに窓という窓から銃口が突き出て、此方へ向かっていた。

 

「よし野郎ども!アレに突撃だ!

 大丈夫だ。接近戦に持ち込めば、ダルフィの誰も俺らに勝てやしねぇ!」

 

 すかさず、ジェイクが味方に鼓舞をかけ、自分が先陣を切って建物へと切り込んでいく。

 

 これは、敵アジトから引き上げる前に、予め決めていた事だった。

 

 帰り道で奇襲があるかもしれない。

 だが、最初に5、6人やられた程度なら、直ぐに反撃できれば、

『欺瞞の翼』も参戦出来ない以上、今のダルフィでこちらに抗えるほどの戦力は存在しない。

 

 だから奇襲を防ぐよりも、その相手を見つけて叩き潰すことに注力する。

 そしてその事は、配下の盗賊たちにも伝えられていた。

 

 決められていたから、怯むことなく先陣を切るリーダーの姿に立ち直った盗賊たちは、

 直ぐに付き従って建物へと攻め込むことが出来た。

 

 想定外だったのは、奇襲で行われた銃撃の数と質が、思ったよりも高かったこと位だ。

 それ以外は想定内であり、このまま奇襲をかけてきた奴を倒せば、

 ダルフィにおける格付けを確固たるものにできる。

 

 そのはずだった。

 

「なんで、お前らがここにいる……?」

 

 ジェイクの思考に空白が生まれたのも無理はない。

 

 このダルフィは、ジューア人を中心とした一種の自治区のようになっている。

 そして永世中立国として、各国との関係を重視するパルミアも、それを黙認している。

 

 だから、こんな場所にいるはずがなかったのだ。

 よりにもよってジューアと抗争中である、イェルス国から派遣されたガード共が。

 

 俺がジェイクよりも早く状況を理解したのは、原作知識を持っていたからだ。

 セビリスが元はザナンの皇子であり、パルミア王とも繋がりがある事を知っていたから。

 

(ジェイク、セビリスの野郎はイェルスのガードと繋がってやがった!

 逃げるべきだ、流石に準備してきた軍に勝てるわけがない!)

「っ!ダメだ、逃げる訳にゃあいかねぇ!

 俺の名声はガードをぶっ潰して得たものだ、尻尾まいて逃げれば消えちまう!」

 

 なるほど、セビリスの狙いはそれか!

 アイツは俺たちが逃げても構わないのだ、それでジェイクが求心力を失うならば!

 

 俺たちはもはや、勝ち目が薄いと分かっていても戦うしかない。

 そうしなければ『ミッドナイトを照らす炎』団は、

 大使館でいけ好かないガード共に打ち勝った、強大な盗賊団ではなくなるからだ。

 

 とは言え、此方の士気は最悪だ。

 その事はガード共と交戦しだすと、目に見える形でハッキリと分かった。

 

 突然ガードと戦うことになった傘下の盗賊団たちは、明らかに腰が引けている。

 その動揺は相手にも伝わっているようで、逆に向こうは積極的に切り込んでくる。

 

 マトモに動けているのは、元々の『ミッドナイトを照らす炎』団メンバーくらいか。

 既にガードに喧嘩を売ったことがあるという経験が、他に比べて精神を安定させているようだ。

 

「「駄目だボス、マトモに魔法が撃てねぇ!」」

「こっちもよ。この乱戦じゃ、狙いが付けられない」

「狭すぎるっす、敵も味方も多すぎるっすよ!」

 

 だが、先ほどよりも狭い屋内であることもあり、ジェイク以外のメンバーは余り効果的に戦えない。

 範囲魔法は撃てず、狙いを定めて撃つには敵味方が入り乱れており、間を縫って切り込む程の隙間が無い。

 かといって、外に出れば銃撃の的になるだけだ。

 

 必然、とにかく相手に突き刺して、属性攻撃を撃てる俺とジェイクが、戦闘の中心となる必要があった。

 

「怯むな野郎ども、敵を殺せなきゃ結局死ぬだけだ!そんなら、一人でも多く殺してから死ね!」

 

 ジェイクの周りに、ガードのミンチが散らばっていく。

 乱戦の中で既に、10人は倒しているだろう。

 その姿を見て盗賊団員たちも、ようやく戦意を取り戻してきただろうか。

 

(とはいえ、状況は芳しくないぞ。

 狭い屋内だから分かりにくいが、既にコッチの味方は40人程度ってとこだ)

「くそっ、対して敵の数はまだ分からねぇってか」

 

 ジェイクの言う通り、敵の人数は未だにハッキリしない。

 倒しても倒しても、上の階から増援が出てくるのだ。

 4階建てのこの建物に、何人が入っているのかも定かではない。

 

 流石にこんな場所へ、帰還の巻物で増援が来るとは思えないが、

 もしそんな事があれば、こっちの勝ち目はゼロである。

 

 唯一の救いは、入り口から別動隊が挟み撃ちにしてきたりは、されていない事か。

 それも、逃げ道をふさがない事で、背水の陣とされるのを嫌っているだけかもしれないが。

 

 

 

 戦闘開始から10分が経つ頃には、盗賊たちの数は20人程にまで減っていた。

 高レベルの盗賊、それこそ『ミッドナイトの夜明け』団メンバーの殆どは残っているが、

 それでも頭数が減ったことによる戦況の悪化は著しい。

 

 唯一の改善点は、味方が減ったことで、魔術師が範囲攻撃を使えるようになってきた事か。

 それも、上の階から際限なく降りてくる増援の前では、無いに等しいが。

 

 こちらで体力が有り余ってるのは、俺の地獄属性攻撃で回復し続けているジェイクだけだ。

 他の奴らはポーションを飲んで回復する暇もないか、既にポーションを使い切っている。

 

 古参の『ミッドナイトの夜明け』団メンバーの内、最初に脱落したのはチアフーだった。

 そもそもガード達の殆どは重装備を身に着けており、元々苦戦していたが、

 スタミナが尽きて足を止めた所を、囲んで殺された。

 

 次にやられたのは、カーラだった。

 前衛も少なくなり、相手が肉薄してくるのを防げなくなった彼女は、

 最後に、自分を刺し貫いた男の顔面に銃弾を撃ち込んで、息絶えた。

 

 双子の魔術師はボール系の範囲魔法を用いて最後まで粘っていたものの、

 魔力を回復する暇がなく、マナの反動で死んでいった。

 

 そして残されたのは、ジェイクだけとなった。

 

 ジェイクは奮戦した。

 一人になってからも、囲まれればスウォームで相手を蹴散らし、

 槍で突こうとした相手の獲物をひっ掴んで、逆に俺で刺し返し、8人は殺しただろうか。

 

 だが、遠距離攻撃はどうしようもなかった。

 

 狙撃銃、散弾銃、様々な銃器から放たれた弾丸がジェイクを貫き、

 とうとう死ぬ気がないとしか思えないこのタフな男も、膝をついたのだった。

 

 暫くして、アジトで這い上がったジェイクは、団員たちの前でただ一言「チクショウ」と言った。

 

 

 

「思った以上に手古摺ったようだが、これであの男も終わりか」

 

 ダルフィに住む人々が宮殿と呼ぶ、盗賊ギルドの近くに建てられた豪奢な建物。

 その最奥で、ダルフィの霧と呼ばれる男、セビリスが呟いた。

 

「はい、粗暴ながら暴力だけは一人前の男でしたが、結局は盗賊に過ぎぬという事でしょう」

 

 返事をしたのは、盗賊ギルドから派遣された一人の側仕えだ。

 辛辣なその言葉を聞いて、セビリスは苦笑する。

 

「盗賊というなら、我らも変わらぬだろうに」

「何を仰います!あの『欺瞞の翼』を手懐け、イェルスに援軍を約束させ、

 パルミア王にダルフィへ軍が介入することを黙認させる!

 こんな事を成し遂げられるものは、盗賊などではありえません!

 あなたこそ、このダルフィの王にふさわしい!」

 

 熱に浮かされたように語る側仕えに、セビリスはため息をつく。

 

「大したことなどしていないさ。彼ら(欺瞞の翼)はあれで義理堅いからな。

 盗賊ギルド、ひいてはダルフィに貢献する私に協力しただけだ」

「ご謙遜を、ではイェルスとパルミア王の事はどう説明なさいます?」

 

「イェルスの援軍は、むしろ彼方が兵を出したがったくらいだ。

 大使館への襲撃で失墜した権威を取り戻し、パルミア国に安定して軍隊を置き続けるためにな」

「そして、パルミア王はダルフィの治安悪化を嘆いていたからな、

 個人的にツテのある私に、裏で管理をしてほしいと願っているだけだ」

 

 何でもない事のように言うセビリスに、側仕えは感動で肩を震わせながら叫ぶ。

 

「おお!相手の望むものを見通すその慧眼!

 そして、一国家の王とすら繋がっている人脈!流石はセビリス様です!」

 

 さすセビ!と騒いでいる側仕えに、セビリスは疲れた様子で、またため息をつく。

 

 彼にとってこの程度の事は実際、政治ごっこと呼べる簡単なものだ。

 イェルスやパルミア王に渡りをつけることが出来たのは、

 まだ皇子であった頃の人脈を、上手く活用することが出来たからに過ぎず、持って生まれたものを使っただけ。

 

 それに比べれば、あの僅かな期間で自分に迫る所まで上り詰めた、

 ジェイクの方が『行ったことの偉大さ』だけなら、上だとすら考えている。

 

 だが、彼のやり方はダルフィの中で通じるやり方でしかないのだ。

 

 悪名だけを使った成り上がりは、イェルスの憎悪とパルミア王の警戒を招いた。

 だから、上に立つものとしての振る舞いを知る、己に敗れた。

 それだけの事だと考えている。

 

「しかし本当に、ただ一度の敗北で、奴は再起不能となるのでしょうか?

 またセビリス様の邪魔をするようになっては」

 

 一通りさすセビ終えたのか、落ち着いた側仕えがセビリスへと問いかける。

 

「私は問題ないと考えているよ。まあ上手く行かなければ、また考えるさ」

「ですが、『欺瞞の翼』の報告を聞くならば、あの戦闘力は脅威です。

 イェルスのガード共も、奴一人に何人が殺された事か」

「ふむ、確かにそれだけは脅威かもしれんな。

 奴がもつ影響力の源は力。

 あの異常なまでの殺傷力とタフネスがあれば、また私の脅威となる可能性はある」

 

 だが、とセビリスは続ける。

 

「今回、行った作戦の最中で、面白い商人を雇ってな。

 そやつが上手くやれば、我らが何もせずとも、問題は解消されるかもしれん。

 とりあえず2、3か月ほどは様子を見てみようではないか」

 

 そう言ってニヤリと笑うセビリス。

 対して主君があまりに有能すぎ、興奮した側仕えは痙攣を始めた。

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