庇護下の商人へ襲撃をした『欺瞞の翼』。
それを潰し、ダルフィの外れにある奴らのアジトから、
引き上げている最中の『ミッドナイトを照らす炎』団と傘下達。
出立の時に比べて数は減っているが、それでも60人強は残っている。
その殆どのメンバーは、浮足立った様子だった。
当然と言えば当然なのだろう。
『ミッドナイトを照らす炎』はダルフィでのトップを目指す盗賊団だ。
そして傘下の盗賊団も、そのおこぼれを貰うべく所属している。
そんな俺達は、ダルフィでも有名な盗賊団を、数に任せてとはいえ倒しきった。
これからダルフィの頂点に立つのは、自分達だと思うのも無理はない。
最初こそ渋々着いてきていた傘下の盗賊団も、
勝利とそれに伴う戦利品(優秀な装備の数々)の獲得で、今はジェイクにゴマをすっている。
そのジェイクも、『欺瞞の翼』の目的が見えない事に警戒こそすれど、喜びは隠せないようだ。
「今日は俺の奢りだ」などと言って、傘下の盗賊団を飲みに誘っている。
人心掌握術の面もあるのだろうが、俺が見るに、アレは普通に浮かれてもいる奴だ。
ダルフィの外れから中心部にある拠点に向かい、俺達が陽気に凱旋するのを、
町民たちは恐ろし気に、あるいは羨望の目線で見送っている。
空気を変えたのは、突如鳴り響き始めた、けたたましい銃声だった。
それも一つや二つではない、鳴りやまない銃声の矛先は俺達へと向けられていた。
奇襲によって、一人また一人と銃弾に倒れていく盗賊達。
ティリス民は頑丈で、多少撃たれたくらいでは死なないが、それでも限度はある。
突然の事にパニックとなり、恐怖で防御姿勢を取れてない人間なら尚更だ。
「どうなってる!?どこから撃って来やがった!」
「あの建物っす、団長!何人いるかは分かんないっす!でも沢山!めっちゃいるっす!」
混乱の中、元々警戒していたジェイクに、チアフーが襲撃者の位置を伝える。
そちらに目を向けると、4階建てのそこそこ大きめな建物があり、
確かに窓という窓から銃口が突き出て、此方へ向かっていた。
「よし野郎ども!アレに突撃だ!
大丈夫だ。接近戦に持ち込めば、ダルフィの誰も俺らに勝てやしねぇ!」
すかさず、ジェイクが味方に鼓舞をかけ、自分が先陣を切って建物へと切り込んでいく。
これは、敵アジトから引き上げる前に、予め決めていた事だった。
帰り道で奇襲があるかもしれない。
だが、最初に5、6人やられた程度なら、直ぐに反撃できれば、
『欺瞞の翼』も参戦出来ない以上、今のダルフィでこちらに抗えるほどの戦力は存在しない。
だから奇襲を防ぐよりも、その相手を見つけて叩き潰すことに注力する。
そしてその事は、配下の盗賊たちにも伝えられていた。
決められていたから、怯むことなく先陣を切るリーダーの姿に立ち直った盗賊たちは、
直ぐに付き従って建物へと攻め込むことが出来た。
想定外だったのは、奇襲で行われた銃撃の数と質が、思ったよりも高かったこと位だ。
それ以外は想定内であり、このまま奇襲をかけてきた奴を倒せば、
ダルフィにおける格付けを確固たるものにできる。
そのはずだった。
「なんで、お前らがここにいる……?」
ジェイクの思考に空白が生まれたのも無理はない。
このダルフィは、ジューア人を中心とした一種の自治区のようになっている。
そして永世中立国として、各国との関係を重視するパルミアも、それを黙認している。
だから、こんな場所にいるはずがなかったのだ。
よりにもよってジューアと抗争中である、イェルス国から派遣されたガード共が。
俺がジェイクよりも早く状況を理解したのは、原作知識を持っていたからだ。
セビリスが元はザナンの皇子であり、パルミア王とも繋がりがある事を知っていたから。
(ジェイク、セビリスの野郎はイェルスのガードと繋がってやがった!
逃げるべきだ、流石に準備してきた軍に勝てるわけがない!)
「っ!ダメだ、逃げる訳にゃあいかねぇ!
俺の名声はガードをぶっ潰して得たものだ、尻尾まいて逃げれば消えちまう!」
なるほど、セビリスの狙いはそれか!
アイツは俺たちが逃げても構わないのだ、それでジェイクが求心力を失うならば!
俺たちはもはや、勝ち目が薄いと分かっていても戦うしかない。
そうしなければ『ミッドナイトを照らす炎』団は、
大使館でいけ好かないガード共に打ち勝った、強大な盗賊団ではなくなるからだ。
とは言え、此方の士気は最悪だ。
その事はガード共と交戦しだすと、目に見える形でハッキリと分かった。
突然ガードと戦うことになった傘下の盗賊団たちは、明らかに腰が引けている。
その動揺は相手にも伝わっているようで、逆に向こうは積極的に切り込んでくる。
マトモに動けているのは、元々の『ミッドナイトを照らす炎』団メンバーくらいか。
既にガードに喧嘩を売ったことがあるという経験が、他に比べて精神を安定させているようだ。
「「駄目だボス、マトモに魔法が撃てねぇ!」」
「こっちもよ。この乱戦じゃ、狙いが付けられない」
「狭すぎるっす、敵も味方も多すぎるっすよ!」
だが、先ほどよりも狭い屋内であることもあり、ジェイク以外のメンバーは余り効果的に戦えない。
範囲魔法は撃てず、狙いを定めて撃つには敵味方が入り乱れており、間を縫って切り込む程の隙間が無い。
かといって、外に出れば銃撃の的になるだけだ。
必然、とにかく相手に突き刺して、属性攻撃を撃てる俺とジェイクが、戦闘の中心となる必要があった。
「怯むな野郎ども、敵を殺せなきゃ結局死ぬだけだ!そんなら、一人でも多く殺してから死ね!」
ジェイクの周りに、ガードのミンチが散らばっていく。
乱戦の中で既に、10人は倒しているだろう。
その姿を見て盗賊団員たちも、ようやく戦意を取り戻してきただろうか。
(とはいえ、状況は芳しくないぞ。
狭い屋内だから分かりにくいが、既にコッチの味方は40人程度ってとこだ)
「くそっ、対して敵の数はまだ分からねぇってか」
ジェイクの言う通り、敵の人数は未だにハッキリしない。
倒しても倒しても、上の階から増援が出てくるのだ。
4階建てのこの建物に、何人が入っているのかも定かではない。
流石にこんな場所へ、帰還の巻物で増援が来るとは思えないが、
もしそんな事があれば、こっちの勝ち目はゼロである。
唯一の救いは、入り口から別動隊が挟み撃ちにしてきたりは、されていない事か。
それも、逃げ道をふさがない事で、背水の陣とされるのを嫌っているだけかもしれないが。
戦闘開始から10分が経つ頃には、盗賊たちの数は20人程にまで減っていた。
高レベルの盗賊、それこそ『ミッドナイトの夜明け』団メンバーの殆どは残っているが、
それでも頭数が減ったことによる戦況の悪化は著しい。
唯一の改善点は、味方が減ったことで、魔術師が範囲攻撃を使えるようになってきた事か。
それも、上の階から際限なく降りてくる増援の前では、無いに等しいが。
こちらで体力が有り余ってるのは、俺の地獄属性攻撃で回復し続けているジェイクだけだ。
他の奴らはポーションを飲んで回復する暇もないか、既にポーションを使い切っている。
古参の『ミッドナイトの夜明け』団メンバーの内、最初に脱落したのはチアフーだった。
そもそもガード達の殆どは重装備を身に着けており、元々苦戦していたが、
スタミナが尽きて足を止めた所を、囲んで殺された。
次にやられたのは、カーラだった。
前衛も少なくなり、相手が肉薄してくるのを防げなくなった彼女は、
最後に、自分を刺し貫いた男の顔面に銃弾を撃ち込んで、息絶えた。
双子の魔術師はボール系の範囲魔法を用いて最後まで粘っていたものの、
魔力を回復する暇がなく、マナの反動で死んでいった。
そして残されたのは、ジェイクだけとなった。
ジェイクは奮戦した。
一人になってからも、囲まれればスウォームで相手を蹴散らし、
槍で突こうとした相手の獲物をひっ掴んで、逆に俺で刺し返し、8人は殺しただろうか。
だが、遠距離攻撃はどうしようもなかった。
狙撃銃、散弾銃、様々な銃器から放たれた弾丸がジェイクを貫き、
とうとう死ぬ気がないとしか思えないこのタフな男も、膝をついたのだった。
暫くして、アジトで這い上がったジェイクは、団員たちの前でただ一言「チクショウ」と言った。
「思った以上に手古摺ったようだが、これであの男も終わりか」
ダルフィに住む人々が宮殿と呼ぶ、盗賊ギルドの近くに建てられた豪奢な建物。
その最奥で、ダルフィの霧と呼ばれる男、セビリスが呟いた。
「はい、粗暴ながら暴力だけは一人前の男でしたが、結局は盗賊に過ぎぬという事でしょう」
返事をしたのは、盗賊ギルドから派遣された一人の側仕えだ。
辛辣なその言葉を聞いて、セビリスは苦笑する。
「盗賊というなら、我らも変わらぬだろうに」
「何を仰います!あの『欺瞞の翼』を手懐け、イェルスに援軍を約束させ、
パルミア王にダルフィへ軍が介入することを黙認させる!
こんな事を成し遂げられるものは、盗賊などではありえません!
あなたこそ、このダルフィの王にふさわしい!」
熱に浮かされたように語る側仕えに、セビリスはため息をつく。
「大したことなどしていないさ。
盗賊ギルド、ひいてはダルフィに貢献する私に協力しただけだ」
「ご謙遜を、ではイェルスとパルミア王の事はどう説明なさいます?」
「イェルスの援軍は、むしろ彼方が兵を出したがったくらいだ。
大使館への襲撃で失墜した権威を取り戻し、パルミア国に安定して軍隊を置き続けるためにな」
「そして、パルミア王はダルフィの治安悪化を嘆いていたからな、
個人的にツテのある私に、裏で管理をしてほしいと願っているだけだ」
何でもない事のように言うセビリスに、側仕えは感動で肩を震わせながら叫ぶ。
「おお!相手の望むものを見通すその慧眼!
そして、一国家の王とすら繋がっている人脈!流石はセビリス様です!」
さすセビ!と騒いでいる側仕えに、セビリスは疲れた様子で、またため息をつく。
彼にとってこの程度の事は実際、政治ごっこと呼べる簡単なものだ。
イェルスやパルミア王に渡りをつけることが出来たのは、
まだ皇子であった頃の人脈を、上手く活用することが出来たからに過ぎず、持って生まれたものを使っただけ。
それに比べれば、あの僅かな期間で自分に迫る所まで上り詰めた、
ジェイクの方が『行ったことの偉大さ』だけなら、上だとすら考えている。
だが、彼のやり方はダルフィの中で通じるやり方でしかないのだ。
悪名だけを使った成り上がりは、イェルスの憎悪とパルミア王の警戒を招いた。
だから、上に立つものとしての振る舞いを知る、己に敗れた。
それだけの事だと考えている。
「しかし本当に、ただ一度の敗北で、奴は再起不能となるのでしょうか?
またセビリス様の邪魔をするようになっては」
一通りさすセビ終えたのか、落ち着いた側仕えがセビリスへと問いかける。
「私は問題ないと考えているよ。まあ上手く行かなければ、また考えるさ」
「ですが、『欺瞞の翼』の報告を聞くならば、あの戦闘力は脅威です。
イェルスのガード共も、奴一人に何人が殺された事か」
「ふむ、確かにそれだけは脅威かもしれんな。
奴がもつ影響力の源は力。
あの異常なまでの殺傷力とタフネスがあれば、また私の脅威となる可能性はある」
だが、とセビリスは続ける。
「今回、行った作戦の最中で、面白い商人を雇ってな。
そやつが上手くやれば、我らが何もせずとも、問題は解消されるかもしれん。
とりあえず2、3か月ほどは様子を見てみようではないか」
そう言ってニヤリと笑うセビリス。
対して主君があまりに有能すぎ、興奮した側仕えは痙攣を始めた。