(アレはヤバいな)
「アレはヤバいわね」
猫使いケシーの召喚魔法の物量により、地下室から押し出された俺たち。
魔物に溢れかえってしまった、地下室への階段こそ、何とか扉で塞ぐことはできた。
が、再侵入の目途は立っていなかった。
その場で立ち呆けても仕方ないと、ひとまず俺たちはタムの家を離れ、
エーテルの風が吹き荒れる酒場の一席で、作戦会議を行う事にする。
「あいつ、ケシーって言ったっけ?倒すだけなら、恐らく何とでもなると思うわ。
見た限り、あの魔物だけなら負ける気はしなかったもの」
(だが、奴は俺達よりも早く動き出し、部屋から押し出されるほどの魔物を召喚してきた。
そんな相手を手早く仕留めるのは、不可能に近いだろう)
「そうね。そして手間取るという事は、痕跡を残すという事」
リーシャは、面白くなさそうな顔でプチ肉のサンドイッチを頬張る。*1
「あなたが呪いの装備である以上、私は他の武器で戦う事は出来ない。
どうしたって、魔物の死体は悍ましいものになるでしょうね」
(俺が殺せば、混沌・神経・地獄属性の痕が残るし、生き血も吸うからな。
場合によっては、俺たちが戦ったんだと噂になるかもしれん)
「そうなれば、何でアソコに私たちがいたのかって話になる。
その上で素材槌なんか盗んだ日には、私の名はコソ泥として広まる事になるわ」
今回の問題点はここである。
既に悪名高いリーシャは、殺人犯として名が広まる事は意に介していない。
だが、無力な一般人の家に家主がいない間に押し入って、
コソコソと
「私は魔道具も使えるから、とにかく魔法の杖で焼き払うという手もあるけれど……」
(厳しいだろうな。数で押されればマトモに狙いを付けられんし、
何よりも魔法が素材槌に当たって、焼失してしまえば今回の作戦は失敗だ)
素材槌は別段、丈夫なアイテムという訳でもない。
魔法の流れ弾が当たれば、俺たちの手元へ無事に届くことは無いだろう。
(リーシャは確か、遠距離用の生きた武器も持っているんだよな?
そっちで狙撃とかは出来ないのか?)
「確かに持っているし、スナイパーライフルの生きた武器もあるけれど。
近接武器ほどに使い慣れている訳じゃないし、それこそあの数でマトモに狙うのは無理ね」
俺とリーシャは幾つか案を出すが、上手い事ケシーを突破する手段は出てこない。
そうこうしている間に、会議開始から1時間が経ってしまった。
少し疲れが出たのか、リーシャが軽く腕を伸ばして伸びをする。
「んー、これはあの魔物を倒して、その後に素材槌を探すのは無理そうね」
(かもしれんな。少なくとも俺と我が主だけでは、これ以上アイデアが出そうにない)
「なら、方向性を変えましょうか」
リーシャはトン、トン、と俺の柄頭を、指で叩きながら言った。
「エーテルの風が吹いている間に素材槌を盗み出すプランは、無しにしましょう。
<<永遠の孤独>>、あなたが言うゲームとやらでは、
その素材槌を手に入れる手段があったのよね。それはどうやったの?」
問われた俺は、脳の奥からもう大分前になった、ゲームの知識を引っ張り出す。
(ゲームでは、あの猫使いケシーが地下室に住み着いたせいで、地下に猫が溢れちまうんだ。
あの家の主は猫嫌いだから、冒険者に様子を見に行かせるが帰ってこない。
だから、主人公にも様子を見に行ってもらったら、あんな化け物が住んでいたって流れだな)
「待って、帰ってこない?這い上がれないくらいに、念入りに殺し尽くされたってこと?」
我が主の疑問も当然の事だろう、この辺りはゲームと現実が混じってややこしくなっている。
(そもそもゲームでは、『物語』と『戦い』の2パートに分かれると思ってくれ。
で、『物語』では這い上がるという行為そのものが存在しない。
死んだ人間は、死んだままなんだ)
「……想像できないわね、寿命でもエーテル病でもないのに、生き返れないなんて」
(興味があれば、今度詳しく話すよ。
ちなみに『戦い』のパートはこの世界と同じで、死んでも這い上がる事が出来る)
俺の話を聞いたリーシャは、中々に困惑した様子だ。
「おかしな話ね。世界と言う舞台が同じなのであれば『物語』こそ同じでありそうなものだけれど」
(言われてみればそうかもしれんな。だが実際にそうだから、受け入れてくれとしか言えん)
「それこそ神にでも聞かないと分からない、か。
そうね、話の腰を折って悪かったわ。ゲームではどうなったかの話を続けて頂戴」
促されてゲームでの話を続けるが、後は大した所は残っていない。
(主人公がケシーを見つけたら、後は簡単だ。
そいつを倒して、依頼主のタムに伝えたら大喜び、報酬として素材槌をくれたって話よ)
「……魔物一匹を倒しただけで?
竜鱗の素材槌を得る仕事としては、簡単すぎる気もするけれど」
リーシャは疑問を示すが、俺はこちらについては説明できる。
(這い上がれない『物語』の世界では、家に住み着いた危険な魔物が倒されれば、大感謝なのさ。
特に、その依頼者は猫嫌いで、相当参っていたようだから猶更だ)
「なるほど、そこで這い上がれないってのが関わってくる訳ね」
納得がいったようで頷くリーシャだが、一転して顔が曇る。
「そうなると、ゲームと同じことをしても素材槌は手に入らないかもしれないわね。
這い上がれるこの世界では、多少危険なことをしても、大した恩にはならないもの」
(あー、そういう問題があるのか)
別世界出身の俺では、そこには思い当たらなかった。
命の軽いこの世界での魔物退治は、個人差はあれど気軽に頼める行為なのだ。
(あと、地下室に猫がいなかった事を考えるに、これまで猫に困ってはなさそうだしな。
被害期間の短さも、あまり報酬が良くならなそうな要因になるな)
「それに私、人助けをするようなキャラじゃないわよ?なんたって鮮血プリンセスだもの。
私の事を知っていれば、地下室を見てこい、なんて頼まないでしょうね」
(となると、ゲームと同じ方法で手に入れるのも難しそうか)
手詰まりになる俺とリーシャ、頭を捻ってはみるものの、妙案は出ずに時間ばかり過ぎていく。
このまま考え込んでも仕方ないという事で、俺はハードルを下げてみる事にした。
(正直言って、確実性・名声の維持・素材槌、全部狙うのは無理なんじゃないかと思うが、
ここはある程度まで、妥協するって言うのはどうだ?)
「妥協ね、するのは構わないけど、どうするって言うの?」
俺の提案に、リーシャが小首をかしげて問う。
(基本の方向性は、ゲームの通りにやって上手く貰えたら良いな、だ。
まずは、タムが地下室の異常に気付いて、騒ぐのを待つ)
「騒ぐって、そんなに騒ぐかしら?魔物を見る位なら、誰でも経験のある事だけれど」
(ゲームの感じだったら騒ぎそうな気がするが、正直言ってあまり自信は無い)
「既に先行き不安ね……」
にじみ出る妥協の匂いに、リーシャが苦笑いをするが、取りあえず続ける。
ゲームでの情報を交えて、俺のプランを説明する。
苦笑いの強かったリーシャも、話を聞くにつれて、その顔に真剣みが入っていく。
「悪くないわね。最悪でも、実入りが無いわけじゃないのが気に入ったわ。
それで行きましょう」
最後には、リーシャも俺の作戦に乗り気になってくれたようだ。
方針の決まった俺たちは、次の議題へと移る事にする。
すなわち、エーテルの風が止むまでの間、どう時間を潰すか、であった。
「アァアアア!!地下室にィ!!地下室に猫が湧いている!!」
エーテルの風が過ぎ去り、いつもの生活に戻ろうとしていた、のどかなヨウィンに。
一人の青年が上げた、悲痛な叫び声が響き渡る。
最初は突然の大声に、ギョッとした様子の村人もいたが、
大半は「ああ、またアイツの発作か」と言った様子で、構わず自宅の掃除を始める。
そんな中で、彼の友人らしき男が、未だ錯乱状態の青年へと声をかけた。
「おいおい、またかよタム。
お前の猫嫌いは有名だが、今回はいくら何でも大仰ってもんだぜ。
毎回これじゃあ家畜たちは、魔物の襲撃と、猫の襲撃の区別がつかなくなっちまう」
「違う、違うんですよエリック!今回ばかりはおかしいです。
地下室に、地下室に大量に猫が湧いてるんですぅ!」
「猫が湧くってどういう状況だよ……、分かった分かった。
じゃあその猫を追い出してやるから、地下室の扉を開けさして貰うぞ」
無造作に地下室の扉へ手をかけた、エリックと呼ばれた男を、
震えながらタムが制止しようとする。
「やめた方が良いエリック!猫に食われる!」
「食われねぇよ……。さぁてどんなもんか、ってぬわぁ!!」
地下室を開けると同時に、数十対の光る細長い目がエリックを見つめる。
その不気味さに、エリックは驚いてそのまま扉をバタン!と閉めてしまう。
「く、食われるかと思った……」
「だから言っただろう!だから言っただろう!」
「いや、流石に信じられないだろう!マジで湧いてきたみてぇに居るじゃねぇか!」
突然の事に騒ぐ二人の男達、そこへ一人の女性が近づいてきた。
黒を基調に、金と赤で豪奢に装飾された鎧から、一目で戦闘職の冒険者だろうと目星が付く。
2人に訝し気に見られている事を意に介さずに、その女性は話しかけてくる。
「猫がどうのって言ったわね?その話、私に聞かせなさい」
「突然、それも大量に湧き出たって言うなら、それは猫の神の一種がいるでしょうね。
レベル30弱で、無限にモンスターを召喚するのが特徴よ」
話を聞いたその女性は、事も無さげに聞いた事のない名前を出す。
「猫の神?そんなの聞いたことがありませんが、それが私の家の地下にいるというんですか?」
「そう。元々私がこの村に来たのも、その猫の神に属するモンスターを狩る為。
この村の近くで目撃情報があったからよ」
「にわかには信じられんな。村の近くでそんな強力なモンスターが出たって話も、聞いたことが無い」
エリックが不審そうな様子で、恐る恐るながらも疑問を口にする。
「あんた、鮮血プリンセスだろう?村に来た行商人から話を聞いた事がある。
あまり評判の良くない冒険者だと。
そのモンスター、アンタの差し金かでっち上げか、って訳じゃあないのか?」
それに対して、鮮血プリンセス、リーシャと名乗った女は
フンと不愉快そうに鼻をならしてから答える。
「目当てのモンスターを見つけて、機嫌が良いから答えてあげるわ。
一つ、猫の神はそんな都合よく差し向けられるほど、簡単に見つかる魔物じゃない。
二つ、私は村人ごときに手間暇をかけて、策を仕込むような安い女じゃない。
三つ、今度舐めた口をきいたなら、アンタのミンチ肉を私の良くない評判に加える。
以上よ、覚えときなさい」
「……分かった、ひとまず信用させてもらう」
そう言って、エリックも一応は納得した様子で引き下がる。
それを見てから、リーシャはタムへと改めて向き直った。
「とは言え、本当に猫の神かってのは、私の口だけじゃ信用できないかもね?
私の目的はソイツの肉だけだし、はく製はアンタに上げるわ。
今からアンタの家でヤンチャをするから、掃除代の足しにはなるでしょう」
「……それは、貴女が魔物を退治して下さる、という事でしょうか?」
「別に、アナタの為じゃないけどね。元々そいつが私の獲物だったってだけよ。
……ああでも感謝するってなら、この家で最も価値がある物を一つ、私に寄こしてもいいわよ?
そしたらアフターサービスとして、地下にいる猫ども、一匹残らず駆除してあげる」
それを聞いたタムは、神妙な顔で頭を下げる。
「お願いします、あの悪魔どもが家に居ると思うと我慢なりません。
駆逐してください!一匹残らず!」
「ふふ、いいわ。頼み方ってものが分かってるじゃない。
任せなさい。私にかかれば猫の神なんて、余興程度のものよ」
そう言って、上機嫌に討伐を引き受けたリーシャと俺は、また地下室への階段前へと立った。
タムとエリックは『巻き込まれたくなければ』と脅して既に遠ざけている。
(思った以上に上手く行ったな)
「あそこまでトントン拍子に行くとは思わなかったわ。
よっぽど猫が嫌いなのね、あの人」
珍しい、と意外そうな反応を見せるリーシャ。
この世界における猫は、皆に愛されるアイドルポジだからな。
(後のお祈り要素は、この家に素材槌がある事と、タムが素直にそれを出すことか)
「そうね、戦闘中に地下室で素材槌を見つければ最良だけれど、
そこは余り期待しないでおきましょう。
猫の神とやらの肉、それ自体も中々に楽しみだしね?」
(ああ、魅力を高めるという意味なら、効果は高いかもしれん)
俺が今回考えた作戦、と言うよりシナリオはいたってシンプルだ。
リーシャの目的が、元々猫使いケシーの討伐だという事にして、
タムに恩を着せ、報酬として素材槌が貰えたらいいな、という内容である。
正直言って、作戦と呼べるものですらない。
だが、この世界にゲームと同じ部分がある以上、
同じ事をすれば、同じ報酬が貰える可能性もまた事実。
それをやってみる事に価値はある、と感じた。
もし成功すれば、いわゆる歴史の修正力ってやつがありそうだ、と検討をつけられる。
そうなれば今後も、俺の原作知識を活かしながら、立ち回れるかもしれない。
逆に、失敗すればあまり原作知識を当てにして動くべきではない、となるだろう。
それはそれで、重要な情報ではある。
だがこれだけでは、失敗した時にリーシャが得るリターンが薄すぎる。
素材槌はリーシャにとって最優先ではないとはいえど、
せっかく戦闘を行うからには、ある程度のメリットが欲しい所だ。
ので、今回の目的を猫使いケシーの討伐にしてみた。
より正確に言うのであれば、その肉を手に入れて食べる事である。
ゲームにおいて、ケシーが所属する猫の神という種族は、ある特徴を持っている。
それは出てくる種族の中で、『最も魅力が上がりやすい』という事だ。
そしてゲームの中では、その肉を食べても大して魅力が上がらなかったが、
この世界では肉を食べた時に、その生き物の優れた部分を取り入れられる、という考えがある。
猫の神を食べたならば、膨大な量の魅力経験値を手に入れ、美しくなれる可能性があるのだ。
俺の今までの経験上、種族毎にどの能力が伸びやすいかは、ゲームとさして変わっていない。
ならばケシーもゲームと同様に、高い魅力を持っているのは間違いないと思われる。
これを食べてみると言うのは、魅力上げに拘っているリーシャにも、魅力的に思えたようだ。
結果、俺の作戦は採用され、現在に至るという流れである。
「それじゃあ侵入するわ、戦う準備はいいわね?」
(問題ない、いつでも行ってくれ)
リーシャが地下室への扉を開けると、中から何十もの、ネコ科動物の鋭い瞳が睨み返してくる。
それを意に介さずにリーシャが下りていくと、早速5匹ほどのライオンが飛びかかってきた。
「邪魔よ!」
しかし、リーシャとの間には、倍以上のレベル差がある。
ライオン達の牙はマトモに届くことはなく、その前に体を引き裂かれミンチとなった。
獰猛な猫達は、それでも怯むことは無い。
今度はカーバンクル達が朦朧の眼差しを、リーシャに向けて放ってくる。
一度くらいならばどうって事は無いが、何度も受ければリーシャにも影響は出る。
リーシャはフラリと立ち眩みを起こして、その隙にカーバンクルの鋭い爪が襲い掛かる。
「……ッ!生意気ね!」
突き立てられた爪は、リーシャの鎧に突き刺さり、多少の手傷を負う。
その一撃で意識を取り戻したリーシャは、返す刀でカーバンクルを切りつけた。
当然ながら、その一撃でカーバンクルはミンチとなる。
だが、地下を埋め尽くす猫達は、その程度では数が減った内にも入らなそうだった。
(消耗戦か、俺が居なければ堪えたかもしれんな)
莫大な物量には、ただ強いだけの冒険者なら飲み込まれたかもしれない。
だが、俺というチート武器を握るならば、餌へとなり下がる。
「そうね、やりなさい<<永遠の孤独>>奴らから根こそぎ奪うように」
(任された)
俺は体に秘めた属性攻撃の力から、地獄属性の追加攻撃を、体に満ち溢れさせる。
その刃が、次に襲い掛かってきたライオンに突き刺さると同時、
リーシャが先ほど負った傷は、完全に癒えていた。
「ふふ、本格的に運用するのは初めてだけれど、これは使いやすいわね。
切りつけると同時に、傷と体力まで回復するなら、無限に戦い続けられるわ」
(地獄属性は、HPとスタミナを吸収できるからな。
相手が格下の群れならば、これほど優秀な属性はない。
そして、全ての攻撃を確実に属性攻撃に出来るのは、我が主の特性あってこそだ)
リーシャの特性によって、毎回発生する俺の地獄属性による追加攻撃。
これにより、この戦闘は完全なる格下狩りへと変貌した。
敵の一撃はこちらの致命傷にはなり得ず、返しの斬撃で此方は傷を回復する。
もはや万に一つも敗北はないだろう。
(ふはは、血が飲み放題だ。惜しむらくは、格下の血では大した栄養にならない事か)
「ふふ、猫どもじゃあ、恐怖を覚えて逃げるなんて、高尚な事はできないみたいね。
久しぶりに際限なく斬り続けられて、私も気分が良いわ」
リーシャの言う通り、猫科のモンスターは、絶える事無く襲い掛かってくる。
そして、その悉くがミンチへと変わっていくが、モンスター達の勢いが衰える事は無かった。
「あなたのお食事もいいけれど、そろそろ決着をつけたいわね」
(そうだな、流石にもうそろそろ姿も見えると思うが)
敵の押し寄せる勢いこそ落ちないものの、召喚する速度が追い付かないのか、
地下に満ちるモンスターの密度は、少しずつ下がり始めている。
戦闘が始まってから、20分ほどが経っただろうか。
とうとう、今いる部屋がモンスターで溢れきらない程度に、数が減ってきた。
こうなれば、他のどの部屋からモンスターが入ってくるかも見えてくる。
(リーシャ、あの部屋から追加のモンスターが出てきた)
「了解。足の踏み場も出てきたことだし、そちらに向かいましょう」
そう言ってリーシャは、襲い掛かってくるライオン達を、半ば無視しながら、
強引にモンスターが湧いてくる方向へと突き進んでいく。
果たしてそこには、必死になって猫モンスターを召喚している、猫使いケシーの姿があった。
返り血だらけになったリーシャの姿を見て、慌てて背中を向けて逃げ始めるケシー。
そこへリーシャは容赦なく猛追して、その背中へ俺を突き立てた。
俺が送り込む混沌属性の追加攻撃に、混乱して暴れまわるケシー。
だが、それで解放される訳もなく、そのまま混沌に飲まれ息絶えたのだった。
「ふぅ、これでようやく終わりね」
(中々に骨の折れる戦闘だったな)
ケシーに止めを刺した俺たちは、地下に残った猫科モンスターたちに止めを刺して回る。
そして、ケシーの肉を回収した俺たちは、その剥製を携えて地上へと帰還したのだった。
「おお!これが猫使いとかいうモンスターですか!
いやはや、ありがとうございます。お礼の言葉もありませんよ、冒険者さん!」
はく製をみた猫嫌いのタムは、満面の笑みで礼を言った。
隣にいたエリックと言う男も、激しい戦闘を示すリーシャの鎧に付いた返り血と、
初めて見る、高レベルそうなモンスターの剥製に驚いている。
「こちらの目的を果たしただけだから、お礼はいいわ。約束の報酬さえ貰えたならね。
とは言え、この私を謀って安く済まそうとしたら許さないけれど?」
「勿論そんな事は致しませんよ!少々待ってくださいね」
そういって、タムは地下室へと降りていく。
アソコには大量の猫モンスターのミンチがあるはずだが、死体なら大丈夫らしい。
たくましい事だ。
「お待たせしました、此方をお持ちください。
その剥製は持ち帰っていただいて結構です、余り触る気にはなれませんので。
ああ、それとこれは気持ちという事で」
そう言って、タムが差し出したのは気持ちと評された4枚のプラチナ硬貨。
そして、お目当ての竜鱗製の素材槌であった。
「これで今回の目的は完璧に達成ね」
帰還の巻物で自宅へ帰ったリーシャは、巨大な流しテーブルの前に腰掛け、満足そうに笑う。
(ああ、この素材槌があれば、暫くは俺も戦力として問題ないだろう)
それに、原作知識が中々に当てになりそうなのも分かったしな。
この分なら、リーシャに色々と伝えても、間違いで不利益になるケースは少なそうだ。
リラックスするリーシャの下に、メイドが料理を持って現れる。
「お待たせいたしました、猫使いケシーの大葉焼でございます」
「ご苦労、早速いただくわ」
メイドが持ってきたのは、今回戦ったケシーの肉を調理したものだ。
出来る限り経験値を無駄にしないよう、美味しく調理されたそれを、リーシャが口にする。
食べきったリーシャに、その変化は顕著に表れた。
肌艶が良くなり、髪は輝きを増し、顔は更に人の目線を惹きつけるようになる。
端的に言えば、美しくなっていた。
その事にはリーシャも気づいたようで、だが初めての体験に呆然としながら呟く。
「ちょっとメイド、<<永遠の孤独>>、私きれいになってない?」
「なっておられるかと」
(なってるな、大分)
「食事ってこんなに効果出る者なの!?ハーブでもこんなに効果が出たこと無いわよ!?」
困惑するリーシャに対して、俺が推論を述べる。
(もし理由をつけるとしたら、自分よりも著しく魅力が高い生き物の肉を食べたことで、
莫大な魅力経験値で急激に魅力が身に付いた、ってところじゃないか?)
「……なるほど、確かにそれくらいしか思いつかないわね」
あのモンスターが私より魅力を持っているというのは、ちょっと不満だけれど、
と、リーシャは小さく独り言ちる。
「<<永遠の孤独>>、あのモンスター他にはいないの?
あの肉を重点的に食べることが出来れば、私の魅力も大きく上げられると思うのだけれど」
(アイツは難しいな、ゲームでも一匹しか出なかった奴だから)
正確には、この世界でも"すくつ"で出現する可能性もあるだろうが、
強さが跳ね上がる上に、会えるかどうかは運しだい。
今のリーシャがその可能性を追うのは、困難が過ぎるだろう。
そう、と落ち込むリーシャに対して、だが、と俺は続ける。
(もう一匹、同じ種族である猫の神のモンスターがいる。しかも更に格上の奴だ)
「!! へぇ?それは私の獲物として相応しいわね」
喜びに獰猛な笑みを見せるリーシャに対して、俺はソイツの名前を告げる。
(そのモンスターの名は猫の女王『フリージア』。
レベル80に届く強力なモンスター、ダルフィの南にある混沌の城の主だ)