(この鎧なら、及第点と言えるんじゃないか?)
「そうね。今回はあくまで偵察、これ以上拘っても仕方ないし切り上げましょう」
打倒フリージアの準備を始めてから、6か月。
俺たちは深度45相当のネフィアにて、ようやく納得が出来るレベルの厚鎧を手に入れた。
これでやっと、フリージアへ威力偵察を行う用意が整ったのだ。
……ちなみに準備開始から3か月目に「後は鎧を手に入れたらフリージアに挑もう」
と決めてから、さらに3か月が経過している。
何故こんなにも期間が空いたのか。
ソシャゲやガチャが飽和する現代日本にお住まいの方なら、想像に難くはないだろう。
そう……
沼ったのである!
あれから町のブラックマーケットを覗く事5度。
道を行く行商人を襲撃すること3度。
攻略したネフィアの数に至っては11個に及ぶ。
それだけの探索を行ったにも拘らず、奇跡品質を超える鎧は、一度も落ちなかったのだ。
同じ胴体を守る装備である、ローブやコートは幾つか見つかった。
途中、「もうこれで良いのではないか?」と思う事もあった。
だが、フリージアへの偵察で求められるのは防御力だ、動きやすさではない。
ここで装備の中でも、最も防御力に影響する鎧選びに妥協し、
そのせいで偵察に失敗したとなれば、後悔する事は間違いないだろう。
俺たちは後ろ髪を引かれながらも3か月間、鎧を求め続けた。
そして今、その努力が報われ、俺たちは
…………
(欲を言えば、一番重要な鎧なら、もう少し良いのが落ちて欲しかった所だがな)
「不幸中の幸いは、鎧を探す過程で他の装備が充実した事かしらね。
この首当てなんて、ダイヤ製でかなり優秀よ?」
(そうだな。我が主もレベルが上がったし、悪い事ばかりではなかった)
この半年間、数々の高難易度ネフィアを回ってきた。
その経験と報酬は、リーシャの地力を更に高めている。
リーシャのレベルは、既に45という数字まで到達しており、
今、ノースティリスで最も伸びている冒険者として、界隈では注目されていた。
その美貌とエーテル病にならない神秘性も相まり、名声はうなぎ上りである
(なかなか高難易度のネフィアを巡ったからな。
強いモンスターの血をたらふく飲めたおかげで、俺も満足だ。
レベルが上がって、追加の魅力上昇エンチャントも付いたしな)
「ちょっと、たらふくなんて粗野な言葉使わないでちょうだい。
優雅さポイントが下がるじゃないの」
リーシャがポイント制を持ち出して来て、
大げさに肩をすくめながら『私呆れてますよ』アピールをする。
(ぬう、……だが血を喰らう呪われた武器としては、
少々品がなくとも、貪欲さをアピール出来ていいのでは、たらふく)
「へぇ、面白いところを付いてくるわね。
でも駄目よ。この私の武器が、そんな低優雅さでいる事は許されないわ」
(左様か、では封印するとしよう。たらふく)
リーシャとの関係性は、中々に良好と言えよう。
ロールへの拘りが強く、非常に自分本位。
正直言って、あまり社交的とは言えない我が主ではあるが、
俺が剣であり使われる立場である事、少し方向は違えども似た趣向を持つ事。
これらが上手く作用し、この半年でかなりの信用を得ているつもりだ。
勿論、こちらから彼女への信用は最大である。
我が最高の主様だからな。
彼女が持つフィートから来る信用だろうが、関係ない。
我が主が、絶対なのだ。
「さて、鎧も整ったことだし、いよいよ大詰めね。最後の準備と行きましょうか」
(最後の準備?ポーション類は既に買い揃えていたと思うが、何か不足があったか?)
「ふふ、わが剣もまだまだ未熟ね。一番肝心なことが済んでいないでしょう」
得意げな表情で、俺の柄頭をトントンと叩くリーシャ。
「この新たな装備達を、私が身に付けるにふさわしい色へと染め上げるのよ!」
(ああ、そういう事か……)
彼女がいま身に付けている、黒色と金の装飾で彩られた装備。
どうやらこれは、染料を用いて色を変えた結果の代物らしい。
考えてみれば当然ではあるか。
集めた優良な装備が、たまたま自分のファッションに合う色をしている訳もない。
(そう言えばこれまで、新しく手に入った防具は身に付けていなかったな)
「私はどちらかと言うと、回避を主体に戦うから。
防御力重視の装備は、あまり普段使いには向かなかったのよね」
(だから、今回の偵察で初めて使うにあたって、まとめて色を変えるって訳か)
『そう言う事ね』と言いながら、リーシャは帰還の巻物を読み上げる。
「さあ、ラーナの染色店に向かうわよ。
どの装備をどんな色に変えるのか、今から楽しみね!
あ!<<永遠の孤独>>アンタもイメチェンしたかったら、染料買ってあげるけど?」
(いや、俺は遠慮しておこう。竜鱗の緑色は結構気に入っているんだ)
「それも悪くないわね。凡百の剣とは素材が違うと、ひと目で分かるもの」
等と言っている内に、時空がねじれ、俺たちはネフィアを脱出する。
程なくして俺たちを出迎えたのは、ラーナの名物である温泉の匂い。
そして、激しく吹き荒れるエーテルの風だった。
「そう言えば、もうエーテルの風が吹く季節だったわね」
(ネフィア巡りばかりで忘れていたな……)
エーテルは数時間前に吹き始めたようなので、あと1~2日は待ちぼうけをくらう事になる。
完全に出鼻をくじかれたリーシャは、
「折角ラーナに来ている訳だし、温泉でも入りましょうか」
と、誰もいない露天風呂を貸し切りにして、寛ぐことにしたようだ。
良さそうな温泉施設を見繕い、紙幣を受付に置いて勝手に入場した。
ちなみに俺は、鞘に入れられた状態で、一緒に温泉に入らせて貰っている。
少々シュールに見えるかもしれんが、まあ理由を聞いてくれ。
まず呪われた武器だから、余り離れることも出来ない。
そもそも不用心だから、そう遠くに放り出すこともないだろうが。
次に風呂に入るからには、リーシャも服を脱ぎ捨てる。
俺はそれに対して、ほぼ欲情しないとはいえ、
前世の記憶から、リーシャの裸体への興味が捨てきれない。
俺の能力の影響もあるが、彼女はとても美しい女性だ。
豊満とは言い難いが、スレンダーで女性的な体。
滑らかでハリのある真っ白な肌と、煌めいて見える赤みがかった黒髪。
そして、見つめられると息が止まりそうな、切れ長のツリ目。
今は剣であろうとも、なお魅力的である。
と、俺はリーシャに伝え、風呂に入る際は鞘にしまって貰う事にしたのだ。
それはそれとして、温泉である。
折角エーテルの風が止まるまで堪能するのであれば、俺も入りたい。
なので、鞘に入れられたまま、俺も入浴させてもらっている。
え?それこそ剣だから、温泉の効能なんて関係ないだろうって?
そんな理屈など知るか!こちとら温泉の匂いも、お湯の暖かさも分かるんじゃ!
元日本人として、温泉入れるんだったら入るだろうが!
あ?温泉が苦手な人もいる?うるせぇ!!!入ろう!!!
「エーテルの風の時期に、ラーナに来たのは初めてだけれど、中々に開放感があるわね。
また次にエーテルの風が吹いた時も来ようかしら?」
(良いんじゃないか?俺もまた温泉入りたいし)
「あら、剣でも温泉のよさが分かるの?」
悪戯気の混じった声でリーシャが聞く、鞘に入っているので顔は見えないが。
(特に、効能があるわけでも無さそうなんだがな。
前世の記憶で、温泉の匂いと暖かさに包まれると、リラックスするよう、躾けられているんだ……)
「何それ、おかしな教育方針もあったものね」
リーシャがクスクスと笑った後、一時の沈黙が訪れる。
温泉に浸かりリラックスしているのだろう、と勝手に納得していたが、
不意にリーシャは、ポツリと呟いた。
「こんな風に、エーテルの風の中で、誰かとゆっくり語らうのは久しぶりだわ。
私たちの一族以外で、エーテル病にならない者は、見たことが無かったもの。
メイドもゴーレムとは言え、一族の者じゃないから、エーテルの風には勝てないし」
(そう言えば、リーシャはエーテル病にならないらしいが、それは一族の特性なんだったか)
「そうよ。故郷の話は、まだ詳しくしたことが無かったわね」
聞きたい?とリーシャは物憂げに問いかける。
彼女はもしかしたら、あまり話したくないのかもしれないが。
(もし、聞けるのならばな。我が主の話で、聞きたくない事などあり得ないとも)
俺は正直に、自分の気持ちを伝える事にした。
それを聞いたリーシャは「あら、そう」と軽く返事をする。
「なら、話をしましょうか。私の故郷とその末路の話をね」
「以前も話したけれど、私の一族はある二つの特徴を持っていたの。
一つはエーテル病にかからない事。
そしてもう一つは、一族の皆が何か一種類、武器の扱いに優れていた事よ」
「そしてその能力を活かして、先祖代々エウダーナ国お抱えの殺し屋をしていたわ。
エーテルの風に乗じて、国の指示通りに暗殺をするの。
場合によっては、同盟国の要人を殺すこともあったわ」
「一族は100人以上いたけれど、私が生まれた家は上から数えた方が早い、名家ってやつでね。
幼い頃は一人娘として、それはもう周りから可愛がられたものよ」
「ああ、メイドはそんな家に、300年以上前から仕えてるらしいわ。
彼女が言うには、一族自体はそれより、遥かに昔から続いているそうだけど」
ここまで聞いた俺は、少し気になったことがあり、話を止める。
(遥か昔、か。それって具体的な話や、何か言い伝えとかはあるのか?)
「無いはずよ、少なくともメイドは聞いたことが無いらしいわ。
一族の誰かが知っていた可能性はあるけれど、滅んだ今では確かめる術はないわね」
(そうか……、それともう一つ。
確か一族には、幼い内にエーテルの武器を与える風習があるんだよな?
それって、何か理由は聞いているか?)
「詳しくは知らないわね。
エーテルという優れた素材の、自分に合った武器を、
幼いころから身につけ続ける事で、更にその力を引き出す事が出来るだとか。
後はしきたりを破れば、神から恐ろしい天罰が下るから、とか言われてたけど」
「でも、私はある程度成長するまで、生きた武器が専門だって判明しなかったのよね。
だからそれまで特に得意でもない、エーテル製の弓しか身に付けていなかった。
それでも、これだけ強くなれているのだから、ただの迷信だったのでしょうね」
リーシャはそのように言っている。
だが俺には、一つ思いついたことがあった。
この世界をゲームとして知識を持つ、俺だからこそ気付けることが。
(力を引き出すってのは出鱈目かもだが、天罰の方はあながち脅しじゃないかもな)
「?、一族じゃないあなたに、何かわかる事があるって言うの?」
(ああ、この世界を舞台にした、ゲームでの情報と合わせるとな)
俺は、メシェーラについてリーシャに説明する。
それは遥か昔に、エーテルを採取するために作られた、細菌である事。
だが暴走し、全ての人類を滅ぼしかけて、実際に一つの文明が消え去った事。
今の人類は、メシェーラと共存するようになった、新しい人類である事。
それ故に、エーテルの風でメシェーラが弱ると、体内環境が崩れる事。
これこそが、エーテル病である事。
「そのメシェーラとかいう悍ましいのが、私にもいるって言うの?」
そう言って、リーシャは少し怯んだ様子を見せる。
こんなリーシャの声を聴くのは初めてだ、だが。
(いや、いないんじゃないかと思っている)
「……なるほど、そう言う事」
此処まで聞いて、リーシャも俺の言いたいことを、察したようだ。
(ああ、我が主の一族は
『人類の身体が、メシェーラに適応する前から続く一族で』
『たまたま、エーテル製の武器を携帯する習慣があって』
『エーテルによってメシェーラに侵されないまま、今日に至った』
つまりメシェーラとの共存を、必要としない一族なんじゃないか?
これなら、エーテル病にならない理由になる)
「それじゃあ一族の言う、天罰って言うのは?」
(メシェーラは、そんな人類にとっては猛毒だからな。
エーテルを携帯しなくなれば、メシェーラに侵されて死ぬんだろう)
「なるほどね、面白いじゃない」
そう言って、リーシャは自嘲気味に笑う。
「まあ、私の一族は滅んだから、だから何だって事にはなるけれど」
(一応我が主が子をなしたら、メシェーラに侵されてない可能性はあるが……)
「無理だと思うわよ。一族以外の人間と子をなせば呪われて生まれる、とかいう話があるし」
(ああ、それは期待薄だな……)
また一時の沈黙が訪れた後、リーシャはまたポツリと言った。
「じゃあ私は、一族以外の血は入っていないって訳ね。
今更になって証明されるだなんて、思ってなかったわ」
リーシャが、闇が深そうなことを呟く。
(何かあったのが?親の事で)
俺は構わず踏み込むが。これたぶん、聞いて欲しそうだし。
「私は生きている武器だけが専門でしょう?
だから小さい頃はちやほやされたんだけど、
専門の武器が中々見つからずに、次第に周りから、落ちこぼれって言われ始めたの」
(それで、一族の人間じゃないんじゃないかって?)
「いいえ、マイナーな武器が専門な事はたまにあるから。
両親もその時は、ゆっくりでいいから、自分の武器を見つけるよう言ってくれたわ」
「10歳になった時、族長が生きた武器の短剣を持ち帰ってきたの。
それを握らせてもらった私は、すぐに『これが私の専門だ』って分かったわ。
その短剣は、私が貰える事になった」
「喜んだ私は、いつもその短剣を持ち歩いたわ。
専門こそ見つかったけど、一度落ちこぼれ扱いされたから、
周りの同い年とは、だいぶ距離が空いていてね」
「生きた短剣は、唯一いつでも一緒に居てくれる友人だった。
よくモンスターを狩りに出かけては、その短剣が喜ぶから、望むままに血を飲ませたわ。
あまりに美味しそうに飲むから、私もモンスターの生肉を食べちゃった」
「狩りをして帰った私は、褒められたわ。
一族の者として鍛錬をし、好き嫌いなく肉を食べてえらい、ってね。
しっかり食べて強くなるのも、修行の内だって言われたわ」
「12歳の時、私は初めて一族の仕事についていったの。
なんて事はない、ただの盗賊退治よ。
もちろん私ひとりじゃない、一族数人での仕事だったわ」
「ただの盗賊と言えど、私が倒してきたモンスターよりは強敵だったわ。
その日の短剣は強敵の血を、一層おいしそうに盗賊の血を吸っていた」
「だから、私もその肉を食べたの」
「急に周りの奴らが騒ぎ出したわ。
人肉を食べるなんておかしい、そんなのは人のする所業じゃないってね。
外でこそ人肉食をする人はいるけど、私の一族では人肉食をする者はいなかったの」
「私からすれば、何を言われてるのか分からなかった。
私にとって短剣は友人だったし、その彼と同じ物を、私が食べて何がおかしいのか。
皆も自分の武器を、人間の血まみれにしているのに、何故自分だけがってね」
「何も言えなかった私は、そのまま気が狂った子として扱われたわ。
今ならまあ、色々弁明も出来るでしょうけど。
その時は何で怒られているのか、よく分かってなかったから」
「父はそれで、私が言い伝えの呪われた子なんじゃないかと疑った。
母が一族外の者と交わったんじゃないか、ってね。
母はそうして疑われた怒りを、私のせいだと言って罵ったわ」
「二人とも、私の相手はメイドに任せて、放り出すようになった。
私はメイドと話をして、ようやく人肉食が好かれない事を理解したの。
だけどその頃には、もう私は一族の中で呪われた子となり、取り返しがつかなかったわ」
「一族の仕事に呼ばれることもなく、私は孤立し続けた。
家にある英雄譚を読むのと、生きた短剣と狩りに行く事だけが楽しみだったわ」
「戦い続けた私と短剣は、18の頃には一族でも随一の実力を手に入れた。
それでも私は、仕事に呼ばれることもなく、一族で避けられ続けたわ」
「だからって、一族の集落から出ていくことも許されなかった。
仮にも名家で生きてきた私が外に出れば、多くの情報が流出しかねないから」
「何も出来ず、ただ実力を磨き続ける事しかできない私は、夢見続けたわ。
いつかこの集落を出て、物語に出る英雄よりも華々しく闘い、
誰もが私を、羨望の眼差しで見る日が来ればいいのにと」
「でも、そんな事が起こる訳ないとも思ってた。
いくら私でも、一族皆を敵に回して勝てるほどの実力はない。
抜け出した所で、活躍して有名になれば、場所がバレてしまうから」
「そうして20歳になってからのある日。
いつもの様に狩りをしていた私は、集落の方が騒がしい事に気づいたわ。
その日は祭事で一族全員が集まる日だったから、それでかとも思った。
私は呼ばれなかった訳だけど」
「集落に近づくと、そうじゃない事が分かったわ。
怒号が聞こえるのよ、明らかに集落の人数では足りない規模でのね」
「暫く離れて様子を伺っていると、メイドが集落から逃げて来たわ。
村を何処かの国の軍人達が襲っている。
自分はゴーレムだからと放逐されたが、一族の者は悉く捕らえられていると」
「前も言ったけど、私の一族は恨みを買っているから、不思議はなかったわ。
まあエーテル病にならないし、どう無力化するつもりなのかは、不思議だったけれど*4」
「メイドを近くの町へ向かわせて、私は1ヵ月、集落の近くに潜伏し続けたわ。
そしてエーテルの風が吹くのを待って、集落の様子を確認しに行ったの」
「そこには、一族の人間が埋まった跡しかなかったわ」
「どうにかして、這い上がれないようにしたんでしょうね。
私は当時、何らかの方法でエーテル病にしたのかと思っていたけれど。
あなたが言うには、私たちはエーテル病にならないようだから、それ以外の方法で」
「悲しくはなかったわ、むしろ自由の身になったのが嬉しくすらあった。
私の事を排斥していた連中だもの、当然よね?
だから、集落を襲った奴らを憎むつもりは無いわ」
「その後は町でメイドと合流して、このノースティリスまでやってきたの。
この地特有のダンジョンである、ネフィアを攻略して活躍すれば、
私の理想とする英雄に近づけるかと思ってね」
「それからの4年間は、特に故郷とは関係ないわ。
ただノースティリスで鮮血プリンセスとしてやっていただけよ」
そう言って、リーシャは話を締めくくった。
(前は口淀んでいたが、こうして話してくれたのは、信頼の証みたいなものか?
だとしたら、感謝の言葉を述べるが)
「別に隠しているつもりは無かったから不要よ。
ちょっと不愉快な思い出もあるから、今まで話さなかっただけ。
でも今日は、エーテルの風の中で懐かしい気分になったから」
そう言いながら、リーシャが温泉から立ち上がる音がした。
遅れて俺も引き上げられる。
「十分温まったわね、今日はこれくらいにして寝ましょうか。
明日は風が止むと良いけれど。
これ以上に足止めを喰らったら、流れが悪くなるってものだわ」
(物事には勢いってのも重要だからな。
温泉で英気を養ったら、次はいざフリージアと行きたいものだ)
鞘から少し引き抜かれた俺が見上げたのは、
「その通りね」と言いながら、いつも通りの鎧に身を包み、
いつもより少し、愁いを帯びている様に見えた、リーシャの笑顔だった。