◆それは生きている   作:まほれべぜろ

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エーテル抗体のポーションが不要って、爆アドでは?

 大槌と盾を持った、一見なんて事の無いサイクロプスを、リーシャが斬る。

 

 生命力が高いサイクロプスとは言え、リーシャが握った俺の一撃に抗う事は出来ない。

 たった一度の反撃を行う事すらできず、そのままミンチへと変わる。

 しかし、攻撃を喰らわなかったリーシャの手には、無数の切り傷が残されていた。

 

 手傷を負わされたリーシャだが、その表情に怒りは欠片もない。

 むしろ、興奮と歓喜を併せた感情のままに、サイクロプスが残した盾を拾い上げた。

 

「どうやら、お目当ての物は無事に手に入ったみたいよ?」

 

 リーシャが拾った小盾、その表側を俺の方へと向けた。

 その表面には無数の鋭い突起がある事を、俺も確認する。

 

 

(これが<<棘の盾>>か、これ手に入れるために随分と出費させられたな)

 

 72枚の神託の巻物と、2か月の時間。

 これらの消費によって、俺たちはようやっと棘の盾を発見したのだ。

 

 神託の巻物を買い集めるのにかかった費用は、60万gpを超える。

 一流の冒険者であるリーシャと言えども、気軽に出せる価格ではない。

 

 

「とは言え、それだけの価値はありそうよ。おまけも手に入った事だしね」

 

 しかし、リーシャは十分に元が取れたと考えているようだ。

 そこには棘の盾を手に入れる過程で手に入った、二つの装備が勘定に入っているだろう。

 

(<<謎の貝>>と<<紅凛>>どちらも上質な装備だ。

 盾が弱くなった事を十分に補ってくれるだろうな)

 

 この世界における神託の巻物は、

『周囲に固定アーティファクトがあるならば、その種類と大まかな方向を教えてくれる』

 と言う仕様のようだった。

 

『チクチクする盾は北に存在する』と言った感じだな。

 

 使い方がゲームと違うのは、この世界では『一々マップが生成される訳でないから』かもしれない。

 

 ゲームでは、例えばネフィアに入った時には、そこで初めて今居る階層分のマップが生成された。

 そして、そのマップに固定アーティファクトがあれば、神託の巻物が反応するようになる。

 

 だがこの世界では町もネフィアも、自分が入る前からそこに存在し続けている訳だ。

 なら、どのタイミングで神託の巻物が反応するかは異なるのだと思う。

 

 ともあれ、この仕様で固定アーティファクトを探すならば、

 各地で神託の巻物を読み歩く必要がある。

 

 すると見つかる訳だ、棘の盾以外の固定アーティファクトの在処が。

 

 オーディが居た時にも手に入れた、ヤドカリが落とす首輪<<謎の貝>>。

 手堅い耐性と中々の防御力を持つ、ブレイドの落とす腰当<<紅凛>>。

 

 どちらも回避力よりも防御力を重視している装備だ。

 棘の盾は防御力が低めなため、そこで落ちた能力を埋められることだろう。

 

「どんな能力を持つかが予め決まっている『固定アーティファクト』、ね。

 神託の巻物が、優秀な装備の在処を示す事があるのは有名な噂話だけれど。

 これだけ明確な目的をもって使ったのは、私たちが初めてかもしれないわよ?」

(確かに。この世界では、情報共有と確認の方法が乏しいからな。

 そんな状況で『神託の巻物でこんな装備が手に入りますよ』なんて言われても、

 神託の巻物が高級品なのも相まって、ただの与太話扱いだ)

 

 なんてったって、この世界にはインターネットや新聞がない。

 どんな情報も、人から人への噂話か、町の掲示板でしか共有されていかないのだ。

 

 自分の状況に合った固定アーティファクトの装備があったとしても、

 それ一点狙いで、お値段が1万gp近い神託の巻物を湯水のように使うのは、抵抗があるだろう。

 だって『本当にその装備が実在するか』を、確かめる方法は無いんだからな。

 

 それならブラックマーケットを覗いて、

 神託の巻物を買う金を使って、優秀な装備を買う方が現実的であると言えよう。

 

 俺達だって、実際に棘の盾を見つけるまでは少々不安があった。

 本当にゲームと同じ装備が、この世界にも存在するだろうかってな。

 

 だから、神託の巻物に「チクチクする盾」の文字が浮かんだ時は大いに喜んだものだ。

 

「これで固定アーティファクト探しは終了ね。

 後は、現状で狙う気はないもの位しか思い当たらないのでしょう?」

(ああそうだ。

 まだ3つほど、フリージア戦に有用そうな固定アーティファクトは思い当たるんだが……)

 

 そう言いながら、俺はゲーム知識の装備名を列挙する。

 

(鋼鉄竜の指輪、めちゃくちゃ防御力が上がる、優秀な指輪なんだが……)

「流石に速度を落とすわけにはいかないわね」

 

 この装備は、防御力と引き換えに著しく速度を落とすからな。

 残念ながらフリージア戦で使うのはリスクが高いという事になった。

 

(パルミア・ブライド、速度も防御力も上がる、これも優秀な指輪なんだが……)

「パルミア国が持つ装備を狙うのは、いくら私でも流石に難しいわね」

 

 この装備は、ゲームではパルミア国からのクエスト報酬で支払われる物だ。

 いくらリーシャでも、そんな貴重品を狙ってパルミア国を敵に回すのは、無謀が過ぎる。

 

(火炎竜ヴェスダの篭手、防御力が高く軽い、優秀な篭手なんだが……)

「竜退治!絶対に私の英雄譚の一部にするわ!

 それを手に入れるのは、フリージアを倒してからよ!」

 

 リーシャが目をカッと見開き、めちゃくちゃグイグイ来る。

 

 この武器は十分に狙えるし、性能的にもフリージア戦に使える品だ。

 そして、神託の巻物でゲームと同じく、竜窟にある事も確認できた。

 

 だが、竜窟とその最奥にいる火炎竜『ヴェスダ』の話を聞いて、

 リーシャが待ったをかけたのだ。

 

 すなわち、フリージアを倒してその美を自分の物にした後。

 竜窟を攻略し、その装備と凱旋し民衆に披露したい、という事だ。

 

「確かに良い装備を手に入れる事も重要。

 けれど、結局それも私が英雄として輝くための物よ。

 古来より誉とされる竜退治を確実に行うチャンス、逃す訳には行かないわ」

(分かってる。目的と手段が逆になっちゃあ、しょうがないからな)

 

 俺はリーシャの武器だ。

 彼女が望むというならば、それを優先することとしよう。

 燃える篭手*1を掲げて、澄ましたドヤ顔で凱旋する美人は、俺も絵になると思うしな。

 

 幸い既に、『エーテル製で神器のガントレット』という、優秀な篭手は既に確保してある。

 エーテル製の防具は、防御力より回避力が高くなるのは難点だが、それでも十二分に強い。

 回避力だって、戦闘で無駄になる事は無いからな。篭手はこれで十分としよう。

 

 

 

「さて、棘の盾は手に入った。後は切り傷を与える鎧の確保ね」

(そうだな。だが、尚且つ優秀な防御力も求めるとなれば、探すのは困難だろう)

 

『相手に切り傷を与える』のエンチャントが付いている鎧は、あまり多くない。

 その上で奇跡以上の品質を求めるならば、あまりランダム要素に頼るべきとは思えない。

 

 例えば、ネフィア攻略で手に入れるのを狙う、などの手段は現実的でないだろう。

 

「ならやはり此方は、今まで通りにやっていくとしましょう」

(冒険者からの強奪狙い、だな)

「とは言え、私達から能動的に動けないのはもどかしいわ」

 

 実は、神託の巻物での<<棘の盾>>捜索と併せて、鎧の捜索もやってはいたのだ。

 

 具体的に言うならば、様々な町の情報屋に

『切り傷エンチャント持ちの鎧を持った冒険者の情報が欲しい』

 という事で、依頼を出している。

 

 だがその成果は芳しくなく、殆ど情報は入って来ない。

 

 一度だけ、情報が入ってきたこともあったのだが、

 その時見つかった鎧は高品質止まりで、あまり優秀な鎧とは言えなかった。

 

 それをスルーして以来、情報屋からの続報はなしのつぶてだ。

 

(情報収集については、俺達も素人だからな。

 餅は餅屋に任せて気長に待つしかないか)

「そう、ね。

 ネフィアでも巡りながら気長に待つとしましょう」

 

 情報ルートの伝手とか、俺たちには無いからな。

 町の情報屋たちも、専門は冒険者の居場所を探る事で、

 その冒険者が持っている装備までは、専門外だから時間がかかると言っていたし。

 

 彼らが、上手く情報を収集出来るまでは待って……待って?

 

(リーシャ。今思い出したんだが、まだ情報を聞ける相手が残ってたかもしれん)

「?町のギルドに居る情報屋には、全て声をかけたと思うけれど」

(そうなんだが、その時に見かけなかった情報屋を思い出したんだ)

 

 不審そうなリーシャに対して、俺は思い出した情報を伝える。

 

 

 

「で、ウチのとこに来たっちゅう訳か。

 久しぶりに会ったと思ったら都合のいい女扱いとか、寂しいやんかー!エタやん!」

(そう言って、正直リーシャが足繫く通って来たらガクブル物なんじゃないか?

 相手はあの鮮血プリンセスな訳だからな)

「……否定はせんな!おっと、怒らんといてやお姫さん」

 

 そういって俺を握っているロックは、おどけた様子をリーシャへと向ける。

 店に置かれた椅子に座ったリーシャは、特に気にした様子もなく、

 組んだ足をロックに向けて平坦な声で尋ねた。

 

「それで、お目当ての情報は手に入るアテがあるのかしら?」

「ん、少なくともギルドの情報屋よりか、優秀な情報ルートはある。

 仕事料と仲介料は、前金で取らせてもらうけどな?」

「それは構わないけれど、そのルートとやらは本当に信用できるんでしょうね?

 金を払って、結局ギルドの情報屋と同じ仕事しかしませんでした。

 それじゃあ私の面子も潰れてしまうと言う物だわ」

 

 リーシャは鋭い視線をロックへと送る。

 高レベル冒険者の軽い威圧に、さしものロックも少しだけ怯んだようだ。

 

(あー、すまないロック。我が主は非常にプライドが高い方でな。

 裏で舐められたとかが起こる可能性を、許せないタチなんだ)

「<<永遠の孤独>>、余計なことを喋るんじゃないわよ」

「かまへんかまへん。エタやんを売る時の件でこういう人やって知っとるしな」

 

 リーシャの威圧について、俺からロックへと謝罪する。

 それに対して、リーシャは威圧する態度を崩さずに、ピシャリと俺を嗜めた。

 

 が、これはロックを尋ねるにあたって、予め決めておいたことだ。

 

 リーシャは身内以外に対して、理想とする冷酷な英雄像を崩したくはない。

 だが、それでロックとのやり取りに支障が出ても困るからな。

 だから彼女は厳格に接したまま、俺の方からロックへと、説明と依頼をする形にしたのだ。

 

 ロックの方が、それを察しているのかいないのかは分からない。

 それでも鷹揚に此方の言葉を受け止めてくれた。

 これは、客を相手に対するロックの態度を知っている、俺の予想通りだ。

 

「で、依頼内容は『特定のエンチャントを持つ装備』を所持する冒険者の捜索やろ?」

(ああそうだ。

 ロック、お前が俺を持っていた時に、

 見慣れない情報屋から、生きている武器の情報を仕入れてたのを思い出してな)

「エタやんお察しの通り、そいつは冒険者の装備に詳しい情報屋であっとるで。

 タウンギルドじゃあ、装備までは専門じゃないって言われたやろ?

 あそこの情報屋は、パーティを組む相手を探すための情報屋やからな」

 

 そう言って、ロックはフフンと笑う。

 

「ウチの贔屓にしとる情報屋は違う。

 こっちは、奪う装備を物色するための情報屋やからな」

(それ、声高に言っていいのか?)

「ブラックマーケットの仕入れ先なんざ、非合法がメインなんやから、今更やろ」

 

 それもそうかと俺が納得したのを確認し、ロックは説明を続ける。

 

「その情報屋とも、長らくやって来とるからな。

 ウチからの依頼っちゅう事にすれば、邪険にはされへんやろ。

 いつもと違う内容やから、時間はかかるかもしれんが、

 少なくとも、ギルドの情報屋とは比較にならんはずや」

(我が主、ロックがこういうのならば信じてよいと思う。

 実際に見つかるかは分からないが、彼女は少なくとも客には誠実だ)

 

 俺の言葉を聞いたリーシャは、一拍置いて口を開く

 

「……分かったわ。あなたがそう言うならば信じましょう。

 ロック、それじゃあ正式に依頼をさせて頂戴。

 私は暫くこの町に滞在する事にするから、情報が見つかったら私へ届けて」

「よっしゃ、ひとまず一通り情報を集めて貰って、結果が出たら伝えるっちゅう事でええか?」

「任せるわ」

 

 

 前金をロックへと渡し店を去る。

 それからポート・カブールの宿で情報を待つリーシャの元に、

 目当てとなる情報がロックから届くまで、3日と掛からなかった。

 

 

 

 

「あれが目当ての冒険者で間違い無さそうね」

(ああ、鎧もあからさまに棘が付いてやがるし、情報通りだな)

 

 ヴェルニースの外れ、尻が最高と噂の看板娘がいる酒場にて。

 俺とリーシャは、目的の鎧を着た冒険者を発見した。

 

 声をかけるために店に入ると同時、多くの客達の視線がリーシャへと突き刺さった。

 

 ある者は、その豪奢な鎧と美しい容貌に目を惹かれ、ヒュゥと口を吹く。

 またある者は、聞いた事のある噂話から彼女の素性を察し、目を付けられぬよう縮こまる。

 

 各々の反応がどうであれ、酒場の空気が変わったことに気づいたようだ。

 目当ての棘のある鎧を着た冒険者も、こちらに視線を向けた。

 

 これといった特徴が特にない、地味で陰気な顔つきの男だ。

 パッと見た所、レベルは25前後といった所か。弱くはないが突出している訳ではない。

 リーシャは男のすぐ横の席に腰掛け、そのまま話しかける。

 

「あなたがディルアノって冒険者で間違いないかしら?」

「あ、ああ。そうだが……何か俺に用か?」

 

 どうやら彼は、店の空気を変えた美女が、自分の方へ向かって来た事に戸惑っている様子だ。

 まあ、突然知らない女に話しかけられれば、多くの人間が戸惑うものかもしれんが。

 

 困惑する男、ディルアノに対して、リーシャは率直に用件を伝える。

 

「あなたの鎧を譲ってほしいのよ。対価は支払うわ」

「鎧、俺が着ている奴の事か?確かに珍しいが『ギャハハハハハハ!』」

 

 リーシャとディルアノの会話に割り込むように、隣のテーブルから笑い声が上がる。

 

 声の出所へと視線を向ければ、かなり酔った様子なスキンヘッドの冒険者の様子だ。

 レベルは45前後、リーシャより少々上といった所か。

 

「男の鎧が欲しいなんざ、よっぽど温もりに飢えてんのか?

 それなら俺が温めてやってもいいぜ!」

「お、おいやめとけって。またシーナさんにどやされるぞ」

「しかも相手は、あの鮮血プリンセスじゃねぇか。

 よっぽど手が出るのが早いって噂の奴だぜ」

 

 パーティメンバーらしき二人の男が、スキンヘッドを止めに入る。

 彼らも同じくらいの実力者だ、かなり高位の冒険者仲間なのだろう。

 

 酒場の方は、騒ぎが起こりそうな予感に色めき立ち始めた。

 彼らの予想は正しいだろう。

 なんせ我が主様は、こんな絡まれ方をするのが大嫌いだろうからな。

 

 リーシャは無言で立ち上がり、スキンヘッドの男へと向き直る。

 その冷たい視線を向けられた男は、ニヤニヤとリーシャの動向を見ている。

 近くで巻き込まれた哀れなディルアノは、怯えた様子で行方を見守っていた。

 

「悪い、こいつ完全に酔ってんだ。君みたいな綺麗な女と見ると、すぐ絡みに行きやがって」

「見逃してやっちゃくれねぇか?これ以上に邪魔しないよう、俺達で抑えるから」

「何ビビってんだお前ら!

 プリンちゃんだか何だか知らねぇが、

 ここ数年で売り出し始めた程度の冒険者に、この俺が遅れをとると思ってんのか?」

 

 何とか諫めようとする冒険者仲間に怒鳴り返し、スキンヘッドが更に挑発をする。

 

 瞬間、我慢しようとしていたかすら定かではない、我が主の沸点を超えたらしい。

 素早く俺を抜き放ち、スキンヘッドの心臓を突き刺しに行く。

 

 突然の不意打ちであったが、相手も高レベルの冒険者だ。

 咄嗟に利き腕ではないだろう左腕で受け止め、致命傷を避けた。

 

「ぐがっ、テメェやる気か!いいぜ、相手してや「吸え」(了解だ)っ、ぁぁあア?!」

 

 普通の相手ならそのまま戦闘に移行できただろう。だが、俺相手にその判断は悪手となる。

 ゴチャゴチャと言いながら、獲物を抜こうとした相手の言葉を待つことはなく、

 リーシャは俺に短く命じ、俺は応えた。

 

 生き血を吸われながら、混沌と神経と地獄の潮流を叩き込まれた男は、

 そのまま物を言わぬ死体へと変わる。

 

 余りにも早すぎる決着に、酒場の客達も戸惑った様子だった。

 

「悪いわね、私はこういった類が大嫌いなの。

 我慢ならないから、こうさせて貰ったわ」

 

 言葉とは裏腹に、全く悪びれていない様子で、スキンヘッドの連れ2人へと告げるリーシャ。

 

「あ、ああ。気にしないでくれ、今のはアイツがかなり悪かったしな」

「這い上がったらこの機会に、いい加減あんな絡み方はやめるよう言っとくよ」

 

 対する二人は、怯えて日和ったのではなく、本心から言っている様子だ。

 戸惑いこそ見えるが、その言葉に恐怖はなく、むしろ誠意を感じられた。

 

「そう?ならお任せするわ。邪魔したわね」

 

 リーシャもそれに毒気を抜かれたのか、改めて元のテーブルへと向き直る。

 それを境に、騒ぎが終わったと判断したのか、酒場の空気も少しずつ戻っていった。

 死体の方は汚れを嗅ぎつけた、酒場据え置きのダンジョンクリーナーが片付けていく。

 

 唯一、緊張を増したのは、相対しているディルアノである。

 この酒場でも高位の冒険者であろう男を、瞬殺したリーシャ、

 彼女に装備を要求されている事実に、だいぶ恐怖している様子だ。

 

「話の途中で抜けて、悪かったわね。

 別にあなたを脅そうとした訳じゃないのよ、本当にああ言うのが我慢ならないの」

 

 リーシャの言葉は本当だ。

 今回、リーシャは確実に目当ての鎧を手に入れるために、

 対価になりそうな品を、幾つも取り揃えてこの場に臨んでいる。

 

 襲撃して鎧を狙うんじゃあ、とてもじゃないけど確実に鎧が手に入るとは言えないからな。

 出来るならば十二分な対価を渡してでも、鎧を回収したいと考えている。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 格下相手に脅迫まがいの事をするなんて、みみっちいからな。

 

 その時は何度殺してでも、欲しい物を手に入れる方がマシと言う物だろう。

 

 そんな此方の思惑を知ってか知らずか、ディルアノは交渉をしてくれると言う。

 

「あら、ありがとう。それなら何と交換をするか、話をするとしましょうか」

「は、はい!とは言え、この鎧は私が冒険者として活動するための、主力装備です。

 なにせ、私の実力に見合わぬほどの高級な代物ですから。

 交換するからには、もしお金となら、十分な装備を買い揃えられる額が欲しいのですが……」

 

 怯えながらも、ディルアノはキッチリ要求をしてくる。

 それも当然だろう。何せ情報によれば、その鎧は神器級の物だそうだ。

 

 レベル25前後の冒険者にとっては、それこそ生命線とすら呼べる装備だろう。

 これがあるとないとでは、戦闘に天と地ほどの影響が出るはずだ。

 その事はこちら側も把握している。

 

「そうよね、私も冒険者としては活躍している方だと思っているけれど、

 流石にその装備に見合うだけのお金を、ここに用意してこれる程ではないわ」

 

 貴重なエンチャントをもった神器の装備だ。

 いくらリーシャと言えども、即金で買い取れるような額ではなるまい。

 

 だから、変わりになるような品を持ってきた。

 

「私は生きている武器を多く持っているから、それを譲る事も考えたんだけどね。

 それよりはコレの方が、小回りが利いて換金もしやすいかと思って、持って来たわ」

 

 そういって、リーシャは大量のポーションを、カチャカチャとテーブルに並べていく。

 

「……!!コレ、まさか全部」

「ええ、エーテル抗体のポーションよ」

 

 ディルアノが目を見開いたのも無理はない。

 机に置かれたのは、20個を超えるエーテル抗体のポーション達。

 もしも店で買おうと思えば、200万gp位にはなるだろう。

 

 これらは、リーシャがこれまでにネフィア巡りで見つけてきた品だ。

 

 エーテル抗体のポーションは希少だが、

 高難度のネフィアからは、比較的見つかりやすい傾向にある。

 エーテル病を恐れる者の中には、このポーションを手に入れる為、冒険者になる物もいる程だ。

 

 だが彼女は、そもそもエーテル病にならない。

 そのため、手に入れたエーテル抗体のポーションを使う必要がないのだ。

 

 かといって、換金しようとすると取られるマージンが馬鹿にならない為、

 これまで死蔵していたらしい。

 

 

「これだけあれば、十分な装備を整えられるし、エーテル病を恐れる必要もなくなる。

 いかがかしら?」

「交換します!ぜひ交換させてください!」

 

 

 

(予想通りとは言え、鎧の回収はメッチャ順調に言ったな)

「相場で言うならば2倍近くの価値はあるもの、順当ではあるわね」

(いやはや、ロックと情報屋様々、といった話だ)

 

 無事に鎧を手に入れた俺たちは、新しい装備を染色する為にまたラーナへと来ていた。

 とはいえ既に作業は終えているため、今はまた温泉でリラックスしているところだが。

 ちなみに、俺もまた入らせてもらうために、宿は温泉を貸し切りにできる場所を選んでいる。

 

(これで、必要な装備はそろったか)

「ええ。ようやく、あの猫の女王を跪かせる時が来たって訳ね」

 

 リーシャが、好戦的な笑みを浮かべながら言う。

 

(準備は万全にしないとな、戦闘中に回復役が足りないなんてなれば目も当てられない)

「もちろんよ。決戦は1週間後、十分に装備以外も整えてから行くとしましょう」

 

 とうとうリベンジマッチだ。

 これが成功すれば、リーシャはいよいよ本格的に、英雄の道を目指すことになるだろう。

 

 俺は久しぶりに幸運の神エヘカトルへ、主に幸運があるようにと祈りを捧げるのだった。

*1
火炎竜ヴェスダの篭手の別名

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