◆それは生きている   作:まほれべぜろ

31 / 35
アルティハイトの妖精さん

 ノースティリスの西端に位置する、パルミア国の港町ポート・カプール。

 諸外国との連絡窓口となるこの町は、人が溢れ常に活気で満ちている。

 

 しかし、今日はそれを考慮しても、嫌に人々が興奮しているように見える。

 久しぶりにパルミア国を訪れた旅商人は、異常なまでの喧騒に疑問を抱いた。

 

 さて、これは商人として訳を知っておかねばならぬ、と奮起する旅商人。

 ひとまずは顔なじみの宿屋を尋ねて、何故こんなにも騒がしいのかと女主人に尋ねてみた。

 

 妙齢の女性たちが噂を愛するのは、ノースティリスでも変わりない。

 女主人はこれ幸いと言わんばかりに、旅商人へ自分の知識を勢いよく授け始める。

 

 それは、今ノースティリス中で知らぬものはいない、ある冒険者の英雄譚であり。

 その冒険者が、今度は竜殺しを為してこの町へ凱旋している、という話だった。

 

 ()()()()()()()、特別な来客がこの町へと来ているのだと言う。

 

 

 

「あれが鮮血プリンセスか。確かに、この世の物とは思えん美貌だ」

「今度は誰も倒せなかった、ダルフィ近郊の火炎竜を倒したって話だ」

「なんでも、猫の神様を食べて、あの美貌を手に入れたんだって?」

「ええっ、猫を食べるなんて!

 この前はパルミアでガード相手に暴れたって聞いたし、危ない奴なんじゃ……」

「いやいや、それはそのガード達が町で威張り散らしてたからだと聞いたぜ。

 イェルス野郎をやり込めたって話を聞いて、スッとしたもんだ」

「なんでも猫の神様ってのは、エヘカトル様だと聞いたぞ!

 アイツはとんだバチ辺りもんだ!」

「流石にそりゃあデマだろう。神様を倒せるほどに、強そうな奴には見えないね」

「鮮血プリンセスは、故郷のヨウィン近くに巣くった、イークの盗賊共を倒してくれたんだ!

 俺は彼女を応援するね!」

 

 

「……流石にエヘカトル様とは戦ってないわね」

(しかし、町は我が主の話でもちきりだな。

 まあ、目の前に話題の冒険者がいるからこそ、話をしているという面もあるだろうが)

 

 フリージアを討伐した日から3か月。

 その短い期間でリーシャは、数々の冒険譚を繰り広げた。

 

 東に行っては、温泉街ラーナにて、悪徳おみやげ屋と美徳おみやげ屋をまとめて打ち倒し。

 西に行っては、ピラミッドからあふれ出た、アンデッドの群れを根こそぎ狩り尽くし。

 北に行っては、合体した超巨大妹から、神々の休戦地を守り抜き。

 南に行っては、セビリスと結託して逆らう物を潰し、ダルフィにて確固たる地盤を築き。

 町に行っては、酒に酔って暴れるガード達が気に食わないと、酒に酔って斬り殺す。

 

 勇名とも悪名ともいえぬ、どっちつかずの功績達だが、リーシャが得た名声には変わりない。

 

 

 フリージアの肉を食べた彼女は、本人すら驚くほどにずば抜けた美貌(魅力)を手に入れた。

 実力はともかく魅力だけに限って言うなら、彼女に勝る冒険者は最早いないだろう。

 そんな彼女は、とにかく目立つ。

 

 人は口では何と言おうとも、美男美女が好きなものだ。

 

 誰よりも美しいリーシャは、その一挙手一投足が注目される。

 良くも悪くも過激なリーシャは、それでも変わらず自分の道を歩み続ける。

 彼女が行う冒険譚は、娯楽に飢えたノースティリス民の噂の的だった。

 

 

 リーシャの願い通りという訳だ。

 彼女は元々、自分が理想とする英雄として、人々に注目されることを望んでいた。

 今の状況は、彼女が求めていたものに近いだろう。

 

 なればこそ、俺とリーシャはこの状況を更に進めるために、

 これからどう活躍していくか、考えていく必要があった。

 

 幾ら話題になっていたとしても、今はまだ有力な冒険者止まりだ。

 彼女がなりたいのは『英雄』である。

 それこそ歴史に名が残るような、多くの功績を残していかなければならない。

 

 

 そんな折、俺達が「良い頃合いだ」と、竜窟で火炎竜『ヴェスダ』を打ち倒し、

 剥製と共にパルミアへと向かい、竜殺しの名誉を得ようと画策していた時の話である。

 

 糧食を準備するためにダルフィに寄ったリーシャは、酒場にてある話を聞いた。

 6月の頭に、ザナンの白子皇子が、ポート・カプールへやって来るというのだ。

 

 それを聞いた俺は、まだ伝えていなかった原作知識をリーシャへ伝えておく。

 

(リーシャ、いよいよゲームのストーリーが進む時間が来たみたいだ)

「その白子皇子っていうのが、何か関係あるの?

 私も、病弱だってことぐらいは知っているけれど」

(関係あるも何も、コイツ、サイモアが大体の黒幕ってレベルだ。

 ゲームの物語はサイモアがヴィンデールの森を焼いて、世界を滅ぼしかけるのが主軸になる)

 

 サイモアは、ヴィンデールの森から吹くエーテルの風が、

 凶悪な細菌メシェーラを押し留めていることを知っている。

 

 にも拘らず、森を焼いてメシェーラを世界へと解き放つのだ。

 そこから更にどうなるかについては、詳しくゲームで描かれなかったのだが。*1

 

「じゃあ、実際にその物語とやらの中で、どうすれば英雄となれるかは分からない訳ね」

(そうだな。だから俺も、詳しい話はリーシャに伝えていなかった。

 いつ頃にゲームのストーリーが始まるかも、覚えていなかったしな)

「でも、サイモアがノースティリスに来たことで、そろそろ物語が始まると。

 そういう訳ね?」

 

 リーシャの確認に、俺は頷く。首はないが。

 

(必ずしも、物語に関わる必要はないだろうけどな)

「でも、英雄への道筋がハッキリしていない今、その情報はとても魅力的ね」

 

 ノースティリスどころか、全世界を巻き込む大事件の情報だ。

 英雄への道を求めるリーシャとしては、興味を持たない訳もないだろう。

 

「決めたわ。ひとまずはそのサイモアとかいうのを、拝みに行きましょう。

 関わるかどうかは置いておくとしても、世界を壊そうって言う男の顔には、興味があるもの」

(まあ、見るだけなら害はないだろうしな。

 それじゃあパルミア行きは辞めにして、ポート・カプールに行くか)

「そうね。アレも大きな町だし、竜殺しの話を広めるだけなら、そこでも出来るでしょう」

 

 

 

 こうして俺達は、火炎竜『ヴェスダ』の剥製を抱えて、ポート・カプールへ来たのだった。

 剥製を売りさばいて、町民たちの注目を集めるという方の目的は果たした。

 

 ならば次は、もう一つの目的である、サイモアの様子見だ。

 

「とは言っても、遠くから見るだけならば簡単なのよね」

(サイモアの方から、人を集めようとしているからな)

 

 どうやらサイモアは、このポート・カプールで遊説を行う予定らしいのだ。

 原作の事を思い返せば、ある程度は内容の予想が付く。

 ヴィンデールの森に関する話だろう。

 

 演説の内容はともかく、サイモアをこの目に収めるチャンスだ。

 俺達は予め告知されていた、サイモアの遊説予定地へと足を運ぶ。

 

 辺りは人でごった返していたが、さすが鮮血プリンセスの名と言うべきか。

 唐突に斬り殺されるのを恐れた民衆は、勝手にリーシャが通れるよう道を開ける。

 

 そのまま、最前列でサイモアが登場するのを待つことが出来た。

 

(と、出てきたな。色白な肌で体が弱い、アレがサイモアか)

「ええ、横の男に支えられて……」

 

 ?リーシャが珍しく言葉を濁しているが、確かにサイモアは側近に体を支えて貰っている。

 気を使っているのだろうか?彼女がそんな事をするなんて、滅多にない事だが。

 

 しかし、話には聞いていたが、リーシャ以上に真っ白な肌は、明らかに病的だ。

 そして側近に支えて貰っている事からも分かるが、体も弱いらしい。

 

 とは言え、腐っても大国ザナンの皇子と言うべきか。

 体幹こそ余りにも弱弱しく、支える側近へともたれかかっている。

 だがその目からは強い、いや妄執と言えるまでに強烈な意思を感じられる。

 

 また、落ち着いた振る舞いからは、確かな知性と教養が見て取れた。

 エーテル研究の権威としても知られているらしい、相当に頭がキレるのだろう。

 

 と、そう言えば横で支えている男だが、青髪で長髪のエレアか。

 

 なら、ヴァリウスで間違いないだろう。

 詳しい特徴は憶えていなかったが、ザナンでは珍しいエレアの男だって事は憶えている。

 

 コイツもサイモアの共犯者、というか主犯に近い奴だったな。

 エーテルとメシェーラの真実を知った上で、

 理想郷の創設とかいう御大層な目的のために、ヴィンデールの森を焼こうとしている奴だ。

 

 

 そんなヴァリウスに支えられながら、サイモアは俺からすれば茶番でしかない演説を始めた。

 

「愛すべき我が友好国、パルミア国に住む賢明なる民の諸君。

 私の為に時間を割いて、この場に訪れてくれた事にまず、深い感謝を示そう。

 今日、私が皆に伝えたいのは他でもない。

 異形の森とエレア達による恐ろしい試み、悪しき巨人『メシェーラ』の復活についてだ」

 

 

 

 そこからの演説は、サイモアの独壇場だった。

 

 最初の一言から引き込まれ、シンと静まり返る聴衆達。

 そこへサイモアは、片手と声の抑揚だけを用いて、心を掌握していった。

 

 内容は概ね、俺が予想していた通りの物だ。

 

 かつて栄えたレム・イドの時代を滅ぼした『星を食らう巨人』メシェーラ。

 異形の森とエレアを放置すれば、すぐにでもそれは復活してしまう。

 にも拘らず、エウダーナとイェルス、世界を主導する二大国家は争い続けている。

 これを止めて、人類を救うには、中立国であるパルミアの協力が必要だ。

 

 おおまかに纏めれば、こんな所だろう。

 

 演説が終わると同時に、静まり返っていた聴衆から歓声が響き渡った。

 兄と違って平和を愛すると噂の、サイモア皇子。

 そんな彼の力になりたい、ともに力を合わせようという声が聞こえる。

 

 阿保らしい事だと言いたいところだが、実際サイモアの演説は素晴らしかった。

 もしも真実を知らなかったら、俺も引っ掛かっていたのかもしれん。

 そう思うと、少し安易にバカにするのも難しくなるレベル。そんな演説だった。

 

 と、気づけばそんなサイモア皇子の方を、リーシャがジッと見つめている。

 演説に感心しているでも、周りの聴衆を見下している訳でも無いようだ。

 少々、様子がおかしいとさえ感じる。

 

(どうだったリーシャ?演説を聞いた感想は)

「えっ?ああ、もう終わってたわね。顔も見れたことだし、一度離れましょうか」

 

 声をかけてみた所、大分うわの空だったようだ。

 俺の声でようやっと戻ってきたリーシャは、スタスタと演説の会場から離れていく。

 

 その姿が周りの反応と異なり、あまりに浮いているからか。

 サイモアとヴァリウスの視線がこちらに突き刺さったのは、少し失敗だったかもしれん。

 これからの行動で、変に注目されたら原作介入しにくいだろうしな。

 

 

 

 足早に去るリーシャの姿を見送る、サイモアとヴァリウス。

 

 実の所サイモアは、別段リーシャのことを気に掛けたわけではなかった。

 

 その美貌こそずば抜けていたが、今のサイモアにとって女など二の次。

 演説も人々を騙すための方策にすぎない以上、興味を持たぬ人間は捨て置いて構わない。

 

 だが、それでもサイモアがリーシャの後ろ姿に注視した理由。

 それは自分の最大の理解者であり、共犯者のヴァリウスが、

 演説の最中からその女の事を、なぜだか気に掛けている様子だったからだ。

 

 演説会場を後にしたサイモアは、自分を支えるヴァリウスへと問いかける。

 

「おやおや。ヴァリウス、君が女性に秋波を送るなど珍しい。

 これは私も主として、新たな恋を応援しなくてはならないかな?」

「お戯れを、サイモア様。今の我々にそんな時間はありますまい。

 実は、あの女の事はノースティリスに着く前から探っていたのです」

 

 どこか楽し気に揶揄うサイモアに対し、丁寧な態度を崩さずにヴァリウスが返す。

 

「初めは、ノースティリスでも有数の危険な冒険者、ということでの調査でした。

 しかし、調査の途中で面白い情報が手に入ったのです。

 何でも彼女は『エーテル病に罹らず、生きた武器の扱いに秀でた冒険者』である、との事で」

 

 それを聞いたサイモアは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ほう、それは興味深い。()()()()()()彼の一族と、似た特徴を持つ冒険者とは。

 いや、確か一人だけ邪魔が入り、取り逃したんだったかな?」

「その通りです。恐らくその生き残りとみて、間違いないでしょう」

 

 わざとらしく、『思い出した』と言う事実を確認するサイモア。

 対してヴァリウスは、淀みなく自分の見立てを主へと伝える。

 

「ならばどうする?最早、その一人だけで状況が変わることはあるまい。

 捨て置いたところで、問題はないと私は考えるが?」

「いえ、彼女は私の事を見て、何かに気づいた様子でした。

 このままではサイモア様の計画の、敵に回る可能性があるかと。

 ひとまず私の方で、探りを入れさせていただければ」

 

 そう願い出るヴァリウスに対して、サイモアは終始楽しそうな様子を隠さない。

 

「私の忠実な右腕の申し出だ、もちろん構わないとも。

 ところで探りを入れると言っているが、本当にそれだけだろうか。

 君の目的は『新たな新秩序』とやらから、彼女を弾き出す事ではないのかね?」

「まさか、あくまでもサイモア様の目的に支障が出ないよう、

 予め不安要素を排除しておくだけですよ」

 

 そういって、自分の代わりにサイモアを支える近衛を呼びつけ、側を離れるヴァリウス。

 その背中を見届けながら、サイモアは近衛がいる事も気にせずに、独り呟いた。

 

「フフフ、そう言う事にしておこうか。

 しかし今この時になって、過去の因縁に突き当たろうとは。

 運命など今更信じないが、この舞台は中々に盛り上がりそうな気がするよ」

 

 

 

(で、どうしたんだリーシャ。サイモアを見てからずっとうわの空だったようだが)

 

 借りている宿屋にまで帰ってきたところで、俺はリーシャに尋ねてみる。

 

 思い返せば、リーシャの様子がおかしかったのは、サイモアを見てからだ。

 まさか、一目惚れをしたという訳でもあるまいが。

 

「……以前メイドから聞いた事があるの、私の故郷を襲った奴らについてね」

 

 唐突に、リーシャがそんな事を言い出す。

 『何を関係ないことを』と言う程に、俺は鈍感な訳ではない。

 むしろ、著しく嫌な予感が体中を駆け回ったくらいだ。

 

「そいつらは、故郷の人間を片っ端から捕らえて、一所に集めていったらしいわ。

 そんな中、メイドが私に危機を伝えようと、何とか逃げようとした」

 

「でも、当然見つかって追い込まれそうになったの。

 そんな時に、襲撃者の中心と思われる男が、こう言ったから助かったらしいわ。

『そいつはゴーレムだから、今回の目標じゃない。

 それに構う暇があったら他を取りこぼさないように、包囲の方に参加しろ』ってね」

 

「その男の特徴、珍しかったから覚えていたらしいわ。

 青い髪で、長髪のエレアですって」

(……それがサイモアを横で支えてた男、ヴァリウスだって訳か)

「あなたがそいつの名前を知っているって事は、そう言う事なんでしょうね」

 

 どうやらリーシャが動揺していたのは、サイモアではなく横のヴァリウスを見たからだったらしい。

 俺がヴァリウスの名前を知っていた事で、リーシャも俺と同じ結論に辿り着いたようだ。

 

「詳しい特徴があっているかは後でメイドに確認するけれど、まず()()()()()でしょうね」

(ああ。ヴァリウス、または後ろにいるサイモアが、リーシャの故郷を襲わせたんだろう)

「そしてその目的についてだけれど」

 

 リーシャは、口に手を当てて考えながら、また話し出す。

 

「一族に対する怨根による襲撃、ではないと思うわ。

 ザナンの重鎮には暫くの間、エウダーナから襲撃の指示が出ていなかったはずだから」

(ならば、目的は一族の特性の方か)

「ええ、メシェーラによる影響を受けていない一族の体。

 どう関わるかまでは分からないけれど、奴らの目的に邪魔だったんじゃないかしら?」

 

 そこまで話した所で、部屋の扉から不意に声が聞こえてくる。

 

「ふむ、そこまで知っているとは、流石に予想外ですね。

 私自ら、様子を伺いに来たかいがあったという物です」

「っ、何者だ!」

 

 叫ぶと同時に、リーシャが宿の扉を切り捨てる。

 崩れ落ちた扉から姿を現したのは、さっき見かけたばかりの、青い長髪をしたエレアだった。

 

「お初にお目にかかります。私はサイモア様の側仕えをしている、ヴァリウスという者。

 もっとも先ほどの独り言を聞くに、自己紹介は必要なかったかもしれませんが」

 

 そこまで言ってヴァリウスは、今気づいたかのように*おっと*と声を上げる。

 

「たしか独り言ではないのでしたか?

 『鮮血プリンセス』の名は、ザナンにも届いています。

 世にも珍しい、意思を持つ生きた武器を持った、優秀な冒険者だという事もね」

 

 確かに、俺が意思を持つ武器であることは、特に隠し立てしていない。

 そういった特別な要素がある方が、大衆には受けがいいだろう、という事でだ。

 

 だから、ヴァリウスがそのことを知っていても、おかしくはない。

 だが、それを知っているのならば、もう一つの特別な要素も知っていたと見ていいだろう。

 

 ヴァリウスは元々、リーシャがエーテル病に罹らない体質だと、知っていたのだ。

 それでノースティリスに来る前から、彼女の事を警戒していた。

 

 こうなっては、サイモアの様子を見に来たのは失敗だったか?

 いや、警戒されている事を知りさえ出来ないよりは、マシだったかもしれん。

 何故だか知らないが、こうしてヴァリウスが、情報を落としに来てくれたのだから。

 

(わが主よ、ヴァリウスは元々こっちにご執心だったようだ。

 最終的な目的はわからないが、とにかく注意した方がいい)

 

 取り急ぎ、リーシャにも所感について共有したところ、

「分かっているわ」と、念話で返答が返ってくる。

 

 どうやら彼女も、俺と同じ事までは考え至っているようだ。

 

 抜き放った俺をヴァリウスに向けたまま、獰猛な笑顔をヤツへと向ける。

 

「それで、逢引の約束もなく、はるばる宿屋まで私の事を尋ねた理由を聞いてもいいかしら?」

「もちろんです。しかし、お互いに聞きたい事もあるでしょう。

 ここは、一つずつ質問に答えていく、というのはどうです?」

「あら、世界を騙そうっていう詐欺師の言葉に、信じる価値があるっていうの?」

 

 呆れた事だわ、と言わんばかりに大仰に肩をすくめるリーシャ。

 それに対して不愉快な様子を見せることもなく、ヴァリウスは落ち着いた様子を見せる。

 

「おっしゃる通りです。

 なので話すかどうか、信じるかどうかは、双方の判断に任せるとしましょう。

 ああ勿論、こちらとしては真実を話すつもりでいますよ」

 

 嘘か誠か、そんな事を軽い様子で言い放つヴァリウス。

 そしてその調子のまま、何でもない様に言葉を続ける。

 

「今回あなたを尋ねたのは、5年前に我々が滅ぼしたエウダーナの隠れ里。

 その生き残りがいるのではないか、と思い確認しに来たからです。

 どうやら、当たりだったようですね」

 

 ……向こうも隠す気はないらしい。

 そうだろうとは思っていたが、

 これでリーシャの故郷を滅ぼした犯人は、確定したと思っていいだろう。

 

「あら、そうだったのね。

 あんな故郷も一族も未練はなかったから、感謝してあげてもいいわよ?」

 

 皮肉とも本音ともとれるリーシャの言葉を、ヴァリウスは笑顔で受け流す。

 

「そう言って頂けるならば有難いですね、では次はこちらから質問を。

 メシェーラという名前、そしてエーテル病に罹らない貴方達が持つ体質の真実。

 これらを貴女が知っているのは、一族の間でレム・イドに関する伝承が残っていたと見ても?」

「ええ、一族全体には伝わっていなかったけれど、

 我が家系には秘伝として伝えられてきたわ。

 失われたレム・イド崩壊の真実、

 そしてメシェーラの脅威から逃れるために、エーテル製の武器を使ったこともね」

 

 リーシャが、何食わぬ顔で噓をつく。

 これらは全て、俺がリーシャに伝えた知識と考察だ。

 正しい情報は伝えないほうが、こちらの利益になると見たのだろう。

 

 しかし、俺が異世界から来た等という真実よりは、よっぽどそれらしい。

 ヴァリウスの方も納得した様子を見せ、疑っている様子はなかった。

 

「次は此方から質問ね。実際、あなた達が一族を狙った理由は何なの?

 メシェーラの真実、それを知っていることを恐れたから?」

「いえ、そちらは重視していませんでした。

 メシェーラの真実だけなら、頭の固いエレアの長老達も知っています。

 しかし、彼らはヴィンデールが排斥されている今でさえ、その事実を公言しません」

 

 ヴァリウスはそう言って、理解できないとばかりに、やれやれと首を振る。

 

「それは、エーテルが持つ()()()有用性が知られる事で、

 レム・イド崩壊の悪夢が再来するのを恐れているからです。

 ならば貴女の一族も、彼らと同じくこれからも公言することはない、と見てよかったでしょう」

「では、知識の封印とは別の理由があったわけね」

 

 そういうリーシャに対して、ヴァリウスはしたりという顔をする。

 

「来るべき新世界、その理想郷にあなた方がいては支障があるのですよ。

 私は、メシェーラという共通の脅威に対して、世界が団結することを望んでいる」

 

 理想郷、ゲームでは頓挫したロスリアの事か。

 ザナンが崩壊した後に作られた、第二のエーテルの森を擁する都市だ。

 

「メシェーラ無しでも生きていけるあなた達は、団結の妨げとなる事でしょう。

 希望の象徴になるかもしれないし、はたまたお零れに預かりたい物が祀り上げるかもしれない。

 あなた一人であれば、見逃しても大丈夫かもしれませんが、出来ればリスクは取り除きたい」

 

 ヴァリウスは、宣戦布告とも取れそうなことを言い放つ。

 リーシャを軽んじる様な発言に、俺を握る力が強くなるが、

 ヴァリウスは彼女が動く前に、次の発言へと移行する。

 

「次は私が質問をする番ですか。

 しかし、貴女がどこまで知っているかを聞くつもりだったので、

 襲撃の理由を知らないのであれば、次の質問はどうするか悩みますね」

 

 そんな事をうそぶいた後に、芝居がかったままリーシャと目を合わせる。

 

「では、この質問にしましょう。

 少し気分を害されるかもしれませんが、

 そこは貴女の度量を見込み、最後まで聞いてくれるものと信じます」

「……いいわ、言ってみなさい」

 

 感謝を、とヴァリウスは言い、次の言葉を紡ぐ。

 

「恐らく襲撃の日に貴女を救ったのは、見逃されたゴーレムなのでしょう。

 ゴーレムは標的ではないため、見逃すよう部下に伝えたのを覚えています」

「ええ、それが質問かしら?」

 

 リーシャの問いには答えず、ヴァリウスは次の質問を口にする。

 

「たかがゴーレムとは言えど、情報を持つゴーレムを私が見逃すと思いますか?」

 

 ……ヴァリウスの問い、それは俺も気になっていた事だ。

 普通、標的じゃない相手が少し遠くに逃げてしまったからといって、

 自分たちの情報を持った相手を、見逃すことがあるだろうか?

 

 黙り込むリーシャに構わず、ヴァリウスは話し続ける。

 

「ゴーレムの目的に目途は付いていました。

 なので、泳がしておき部下に後を追わせれば、

 ゴーレムが危機を伝えに行った標的(貴女)が見つかる、という訳です」

「……でも、そうはなっていない様だけど?」

「ふむ、どうやら本当に一族とは仲が悪かったようですね。

 その可能性に、全く心当たらないとは」

 

 ヴァリウスが言わんとする所に、リーシャは気づいていないようだが、俺は察しがついた。

 しかし目的が分からず、リーシャにどう伝えるべきかまごつく間に、

 ヴァリウスはそのまま言い切ってしまう。

 

「そのゴーレムの持ち主である二人が、後を追うのを阻んだのですよ。

 ゴーレムが危機を伝えた相手が、無事に逃げられるようにとね」

 

 その言葉は、リーシャにとって余りにも予想外だったのだろう。

 今まで不敵な態度を取っていた彼女が、明らかに動揺して表情を固める。

 

「もちろん、その二人は念入りに始末をしましたが、

 そのおかげで、ゴーレムは取り逃してしまいました。

 ですから、これまで生き残りがいるかもしれない事は、気に掛っていたのですよ」

 

 ヴァリウスは気にせずに、話を先へと進める。

 しかし、リーシャの様子が変わった事には、間違いなく気づいているだろう。

 

「ああ、もしも彼らと不仲だったのならばですが、

 宜しければどのように苦しみ、死んでいったのかをお伝えしましょうか?

 機密事項もあるので、話せる範囲だけですが」

 

 明かな挑発だ、だが今のリーシャにそれを流せる余裕はない。

 

「言いたいことはそれだけかしら?

 どうやらアナタは私をなめてるみたいだから、

 お望みならば、すぐさま首を抉り取ってあげるわよ?」

 

 そう言って、リーシャは俺をヴァリウスへと突きつける。

 すぐに殺さないのは彼女のプライドが、

 最後まで言葉を聞くといったのにも拘らず、殺してお開きとするのを許さなかったのだろう。

 

 そんな内心すら見透かしているのか。

 ヴァリウスは穏やかな笑顔を崩さないまま、最後の言葉を話す。

 

「貴女の尊厳は、一族を滅ぼした者を捨て置く事を許すのですか?

 今から一週間の滞在中、私とサイモアは這い上がる際、このポート・カプールへ現れます。

 エーテルの武器で殺され続ければ、私達は這い上がることも出来なくなる」

「しかし、ここから離れる事で襲撃地点と這い上がる場所が離れるか、

 防備の固いザナンへと戻れば、あなたの襲撃はもはや成功することがない。

 汚された誇りを雪ぐ気があるのならば、そのチャンスは今しかないと言えるでしょう」

「なるほどね、良く分かったわ」

 

 そういって、リーシャはヴァリウスの喉へと俺を突き刺す。

 

 いくら力を重んずるザナンに使えており、戦いの心得があると言えども、

 ノースティリス有数の冒険者であるリーシャに、ヴァリウスが抵抗することはできない。

 されど、むしろ受け入れるかのようにヴァリウスは刺突を食らい、死んでいった。

 

 

 

 

 ポート・カブールの港近くに存在する、来賓用の大きな館。

 滞在先として用意されたそこでくつろいでいたサイモアの横に、ヴァリウスが這い上がった。

 

「どうやら、手酷くやられたようだな?ヴァリウス」

「ええ、慎重に後をつけたのですが、気づかれてしまいました。申し訳ございません。

 彼女は私を覚えているようでしてね、弁解の余地もなく殺された次第です」

 

 白々しいヴァリウスの態度を咎める事なく、

 サイモアはヴァリウスを送り出したときと同じく、楽し気に笑いを零す。

 

「では、私も危ないだろうな。この館の防備を固めて置かなくてはなるまい」

「ええ。まずは、ロイターに連絡を。彼と共に防衛計画を練って参ります」

「任せよう。舞台の幕開けには相応しい狂騒曲だ。

 ザナンの軟弱な白子の皇子を見せた後には、強壮なるザナンの勇士に彩って貰わねばな」

 

 にわかに騒がしくなった来賓用の館で、かつて取り逃したレム・イドの残滓を、

 今度こそ仕留めるための謀略が張り巡らされていく。

 

 謀略の糸を繋がれた先にいるリーシャは、未だ新たに知った情報の混乱から抜け出せずにいた。

*1
続編が出ない限り、公式でその後どうなる予定だったか、知る方法はないだろう。続編が!出ない限り!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。