最近になってようやく余裕が出来たので今のうちに投稿しておきたいと思います。
一人暮らしだとすっごく気楽でいいですね。
……食事が塩と水だけなんて事はありませんので安心してください。
「これが、今日から吉井君にこなしてもらう訓練メニューよ!!」
これが依姫が渡した訓練メニューである。
9:00~柔軟体操
9:30~腹筋・背筋・腕立て伏せ・300回。
10:30~11:30重量30キロのリュックを背負ってのランニング10キロ、又は依姫特製特殊アスレチックルーム走破3セット、あるいはキャッチボール。
12:00~13:00 昼食(ただしこの訓練をこなせなかったら昼食抜き)
13:30~地獄の走破訓練(発情期のヤンデレ玉兎軍団との鬼ごっこ・鬼役全員が鉈・および包丁を装備しているので、もし捕獲されたら……)
15:30~地獄の銃撃回避訓練(八意印の禁薬注射弾の銃撃の雨をよけ続ける)
17:00~地獄の実践訓練(稀神サグメ・清蘭・鈴瑚・綿月依姫の内の3人を同時に相手取ってもらう。 1分戦えたらクリア)
18:00~反省会後に解散
「なにか不満はあるかしら?」
「「午前の訓練メニューは考慮してくれてる感がありますが、午後の訓練に関しては死ねると思います」」
明久と鈴瑚の二人が手を挙げながら抗議する。
『地上の人間にとっては地獄に等しいレベルの訓練』
特に13時以降の訓練に関してはロクな事にならない気がしてならない。
「依姫様? この訓練メニューだと基礎的な身体能力は大幅に向上するとは思いますが、戦うための技に関しては一切身につかないと思いま~す」
清蘭に言われてみんな気が付くが、どうもこの訓練……
最後の地獄の実践訓練以外の全てのメニューが逃げ回ったり避け続けたりするなどの「運動能力」「回避能力」を向上させる訓練だったりする。
「え? 今から吉井君を八雲紫クラスを相手取れる兵士に鍛えあげる? いくら月の都の文明が優れていても絶対に無理よ。 おバカなくせに女玉兎をたぶらかすのだけは大得意な天然ジゴロが相手では八意様が残してくださった人体改造薬を使っても筋肉が肥大化して破裂するだけよ」
「「『何それ!? 超怖いんですけど!!』」」
あまりにも危険すぎる薬である……
そんな薬を使われたらと思うと背筋に寒気が走る明久。
「それに午後の訓練も地獄と銘打っていますが、ただの人間レベルだと地獄に思うというだけで本物の地獄に比べてみれば全然ぬるいとすら思いますよ?」
依姫曰く「一週間も続けていれば体が慣れるからそれに合わせてレベルを上げていく」らしいので月人基準ではむしろ容易にこなせる程度の訓練で済んでいるのだろう……
「依姫様…… 午後の訓練の方ですが、私達玉兎でもかなりキツイ訓練になっていますよ?」
「特に最後の実践訓練の方とか現役兵隊玉兎の最強でも3秒持たないと思いますが……」
そんな事は無かった。
妖怪基準でもハードな訓練を続けるなど、拷問以外の何物でもないだろう……
「大丈夫よ。 最終的にその実践訓練ではサグメちゃんが使っているのと同じ月の都流最上級護身術、通称『捌き』を強引に体得させるまでだから、そんなに不安になることも……」
「「”強引に”体得って言われる地点で不安しかないんですが!?」」
強引なんて言葉が出てくる地点で無理を押しているとしか言い様がない訓練だ。
「そう…… ならこのまま八雲紫に拉致監禁されて、両手を鉈で切断される未来がいいのね。 私としてもそんな展開は心苦しいが、流石の私でも「境界を操る程度の能力」のような空間移動系の能力を相手に守り切れる自信は無いし、それでも訓練は嫌だというのなら私にそれを強要する権利は……」
「全力でやらせていただきます!! 訓練頑張ってみんなの迷惑にならないくらいにはならないとなぁ~!!」
即座にジャージに着替える明久。
とは言っても中に着せられていただけなので上の制服を脱いだだけなのだが……
「それじゃあ……」
「死ねぇ! 吉井明久ああああああああああ!!」
「「『訓練じゃなかったの!?』」」
「依姫さん、あれで手加減しているだなんて……」
「吉井ったら、依姫様との柔軟体操を始めてからすぐに死にそうな顔をしていたもんね」
「いきなり筋肉をほぐすとか言い出して四の字固めかけたり、チョークスリーパーとか卍字固め……弓矢固めまでいろんな関節技と絞め技をかけまくってたからね。 悶え苦しんでいる吉井君の顔が凄く面白かったよ」
清蘭の口からとても兵士とは思えない発言が聞こえたが、鈴瑚に自覚が無いだけかもしれない……
「ま、あの柔軟体操は吉井にとっても役得だったんじゃない? 地上の民の男子にとって女の感触ってご褒美らしいから、依姫様の胸の感触とかよかったんじゃ……」
「いや、豊姫さんの豊満な胸とかならともかく、依姫隊長の貧相な胸では美波からの制裁と同じくらいにゴリゴリとした痛みしか感じないよ」
『女の価値は胸じゃない! 女の価値は腰の括れと太腿で決まるのよ!!』
「ギャアアアア!! サグメさん!! 分かったから、僕の腕を取り掴まえて関節技を入れるのはやめてよ!!」
折れこそはしなかったものの、完全に後ろで固定されてギチギチと怪しい音を立て始めている腕の痛みに悲鳴を上げてしまう明久。
そんな状況にも拘らず、何気にサグメのそこそこのボリュームと安定した形の美乳の感触を味わえたらと思っていた明久だが、そんな都合のいい事にはならず、折れそうで折れないギリギリのところで固定されている腕の痛みでそんなものを感じ取る余裕などは一切なかった……
そんなくだらない話を続けながら昼食を食べよう街を歩いていたその時だった……
「うわあああああ!! 妖精だ! 妖精が出たぞ!!」
「みんな逃げてぇ!!」
店で注文を取ろうとした途端に大慌てで中に入り込んできた玉兎の言葉に驚いてウエイトレス達が大騒ぎしながら逃げて行ってしまう。
「嘘でしょ…… 今はまだ、防衛部隊が抑えているはずなのに…… なんで妖精なんかが……」
「とにかく、一般玉兎の避難が先だよ! 清蘭!!」
明久が動揺している数秒の間に清蘭と鈴瑚の二人は店に入ってきた一般兎から事情を聞いてすぐに現場へと向かっていった……
「サグメさん、月の都で妖精ってそんなに嫌われているの?」
はっきり言って日本人感覚で「妖精」と言われるととてもかわいらしくて子供っぽい純真無垢なイメージを持っている明久。
なぜ慌てているのかが分からない事もあってこの場で質問できそうなサグメに質問する事にした。
『あなたが住んでいる日本での妖精のイメージは分からないけど、月では穢れと呼ばれている不純物の塊と言う扱いよ。 その思考回路は腐っていて、拉致された男は去勢されて牢屋に入れられた後には狂犬に襲わせる非人道的な扱いを…… 女はおもちゃにされた末に穢れきったFB玉兎として爆弾感覚で投入されて月の都を汚染するモンスターとして捨てられてしまうの……』
「ちょっと待って…… サグメさん、いろいろとツッコミどころは満載だけど、まずはその”FB”ってなんの略なの?」
『「F(ファッキン)B(ビッチ)」の略……』
「うん! とんでもなく危険な存在だと言う事だけは分かったよ!!」
月の都で言う妖精は、どちらかと言えば西洋的な悪魔のようなイメージに戦争時の軍隊の悪いイメージを詰め込んだような存在だと言う事なのだろう。
明久にはあまりイメージが湧かないが、そんなのが実在するという世界観の住民にとって今の状況は洒落にならない事態なのは確かだった。
『今の吉井君では、去勢されて汚い鬼の餌にされるか女装させられるのが関の山。 私とおとなしく避難所に逃げてもらう』
「そんな! 清蘭と鈴瑚の二人が心配…… ちょっ! 分かった!! 分かったからお姫様抱っこはやめ……」
完全にサグメのヒロイン枠に収まりつつある明久は彼女の手によってお姫様抱っこで避難させられた。
「ねぇパパ…… こわいようせいはまだそとにいるの?」
「心配ないさ、外で頑張っている兵隊さんたちがきっとやっつけてくれるさ」
年端も行かない子供なのだろう。 父親らしき玉兎はぐれる事が無いように子供の手をしっかりと手を握ってあげている。
避難所の中には何千という一般玉兎や月人達が集まっている。
平和な……文月学園の環境が平和かどうかはともかくとにかく平和な日本という国で暮らしてきた一学生でしかない明久には見慣れない光景だった。
こんな光景を生で見せられたら改めて戦争になっている事を認識させられてしまう。
「それにこのシェルターにもなっている屋敷の中にいれば絶対安心さ。 いざとなったらここに避難したみんなで力を合わせれば妖精なんてやっつけちゃうさ」
頼もしいことを言う父親玉兎だが、日常的に鎌やらナイフやらと言った凶器を当たり前のように持ち出して理不尽な理由で追い掛け回す覆面集団を相手に逃げ回る事に慣れている人間でも戦いに長けた存在を相手取るのは不可能と言うものだ。
「きゃああああ!!」
いきなり聞こえた悲鳴。
サグメが悲鳴が聞こえた方向に向かう。 そこに続くように明久と兵隊玉兎らしき少女数名が付いていく……
「イッツ・パーティィィィィ!!」
恐らく中に妖精が紛れ込んでいたのだろう。 10歳くらいに見える羽の生えた少女が怪しくうねる棒のような物を持ち出しながら小さな兎耳の女の子に暴力をふるっている。
『女の子が取り残されてる!!』
「サグメ様!! よかった…… 力をお貸しください!!」
「って、あの男の子何やってるのよ!! 早く止めないと……」
明久はウサ耳少女をを助ける為に先ほどから妖精が叩きつけているうねる棒を捕まえて動きを止めようとする。
その瞬間にその棒が一瞬で砕け散る。
どうやらこの棒は何かしらの異能の力で作られたいる道具だったようだ。
「サグメ様、お見事です!!」
「殴り倒した上でうつぶせになって倒れた妖精を相手に一瞬で手錠をかけて拘束…… 相手に気が付かれるよりもはやく逮捕するなんて現場の警備隊でもここまで迅速に出来る者はいませんよ……」
妖精が装備していた棒が砕けた事に驚いている間に少女を助け出した明久と立ち位置を入れ替えるように殴り掛かったサグメ。
どうやらその一撃に耐えられなかったのか、すぐに立ち上がれなかった妖精はサグメが持ち合わせていた手錠で簡単に拘束されたようである。
「けがはないかな…… あれ?」
「痛い痛い痛い痛い!! 痛いよ!! お兄ちゃああああああん!!」
よく見てみると腕の関節が外れているようである。
これは子供どころか大の大人でも悲鳴を上げるだろう……
「まずい…… 医療班を呼べ!!」
「ダメです!! 医療班は全班現場の方に行っていましてこちらに手を回すのに30分はかかると……」
「そんな……」
あまりにも遅い…… 死ぬような怪我ではないかもしれない……
だが、脱臼と言うのは形容しがたいほどの痛みが伴う上、外れた関節から先の部位を正常に動かすことが出来なくなる。
大人でも体の一部が動かせないと言う事態に対してパニックになるだろう……
そんな激痛と恐怖に子供が30分も耐えられるわけがない。
「……すこし痛いかもしれないけど我慢できるかな?」
「……何するの?」
関節が外れて脱臼した部位を明久なりに診てみる事にした。
「うん…… これならいける」
『明久君? いけるって何が?』
サグメのコメントが全く目に入っていない明久。
関節が外れた腕をつかんだ瞬間だった……
「いぎゃあああ!!」
少女の腕の関節を完璧に戻して見せた。
明久の関節戻しは異端審問会と名乗る異常者集団のせいで文月学園の男子生徒にはもはや必須技能の一つとなっている普通の学生には無用の長物と言ってもいい技術である。
その無駄技術を活用し、少女の脱臼を応急処置ではあるが治療して見せたのである。
「ちょっと痛かったかな…… ごめんね」
「ごめんね…… ってなにやってるんですか貴方!?」
「今、ボコって変な音が鳴ってましたよ! これ、大丈夫なんですか!?」
警備玉兎の少女たちもいきなりすぎる明久の行動が理解できず、明久をはねのけて少女の腕を確認する。
「うそ…… 外れたはずの関節が戻ってる……」
「貴方…… 本当にいったい何やったんですか?」
「えっと…… 外れた関節を元に戻しただけなんだけど……」
『明久君、月の都に迷い込む前は何やっていたの……』
明久の持つ謎技術に驚いている避難所の面々だが、はっきりしている事も一つだけあった。
「若干腫れてはいるけど、これなら……」
「ええ、私達だけで処置できるわ。 誰か、冷水か氷を持ってきて!」
どうやらこれで大丈夫なようである。
警備玉兎の指示通りに氷や湿布などが運ばれ、急いで治療が行われた。
「これで大丈夫かな?」
『明久君、どういうつもり?』
今度はこっちのほうがケガするんじゃないかと思わんばかりの強い力で明久の肩を掴みながら書いたコメントを見せるサグメ。
明久に見せている顔は若干怒っているようにも見えるが、それ以上に心配しているようにも感じられた。
「勝手に飛び出して…… もしあなたに万が一の事があったらどうするつもりだったの!? 今回はたまたま無事だったからよかったものの、これからはこんな無茶なんてしないで!!」
「ご、ごめんなさ……」
「私は謝ってほしいんじゃないの! 明久君に会ってから思っていたことがあるけど、今回の件ではっきり言わせてもらうわ! あなたのそのバカで無茶でその癖優しい行動は穢れた地上の人間として生かすのがもったいないくらいの美徳だとは思う。 でもね、そんな無茶な行動のせいで心配する人も中にはいるの!! そんな風に想ってくれている人達がどんな気持ちで……」
なかなか喋らないサグメが珍しく声を荒げながら説教を始めてしまう。
基本的に無口な事もあって、すぐに説教も終わるかと思っていたが、一度しゃべりだしたサグメの説教は鉄人以上に長く、それでいながら澄んだ声で明久の脳内に直接響くかのようにすらすらと流れ込んでくる為に無視するなんてマネは出来ない……
これには避難民も含めた皆が同情しだしてサグメを説得しだしたおかげでようやく解放された明久だった。
「つ…… 疲れた……」
『ごめんね明久君…… 明久君なりにあの子の事を想ってやってあげた事なのに、明久君の事だけが心配だからってあんな言い方……』
「ううん、サグメさんは悪くはないよ…… むしろその後でどうやって関節をはめなおしたのかについて警備玉兎の娘達に延々と教え続ける方が大変で……」
あの少女の一件の後、警備玉兎の女の子達から明久が実行した関節戻しの技について何度も聞かされ、そのたびに同じことを何度も説明をする事になってしまった。
外での妖精との戦争の件もあり、もはや依姫が組んだ訓練どころではなくなってしまったために今日は解散する事となった。
「あ、ようやく見つけたよ。 おーい、サグメ様~! 吉井く~ん」
どうやら、清蘭と鈴瑚も戻ってきたようである。
本来の役目を放棄してまで最前線の玉兎隊の増援に向かっていった件について何か言われてないかと思ったが、特に何もなかったようである。
『今日は時間も遅いし、明久君も疲れているから外で済ませる?』
「さすがに今日は割り勘にしましょうよ…… なんか外食するたびにサグメ様からおごられてる気がしますし……」
『別に気にしなくてもいい。 私が奢りたいから奢ってあげているだけ……』
サグメの心遣いに感謝しながら今日の夕飯を食べに行こうと適当な露店に向かっていった。
「ん? あの子……」
「あ、治療してくれたお兄ちゃん……」
先ほどの兎耳少女である。
本格的な治療は無事に終わったのだろうか? はめられた関節の部分には包帯が巻かれている。
頭にはサーカスのピエロのようなアメリカンなデザインが書き込まれた帽子をかぶっている。
活発そうなこの子には非常に似合っている。
「こんな時間にどうしたの?」
「あの…… 実はお願いがありまして……」
「お願い?」
「蔵雲(クラウン)の事をお兄ちゃんのおうちに止めてくださいです! ちゃんとシャワーも浴びてきましたから! アタイなんでもします!」
「わー! 蔵雲ちゃん、ちょっとストップストップ!!」
大声でとんでもない事を頼みだしてきたアメリカン少女。 名前は蔵雲(クラウン)と言うらしい。
蔵雲ちゃんの大声を抑えるべく口と帽子を押さえておとなしくなってもらおうとするのだが……
「イヤアアアア!! 触らないでください!!(兎耳に)」
「なんだか分からないけどゴメ……」
帽子を押さえて俯いてしまう蔵雲に謝る明久。 その明久の目の前には変態を見るような目で見ている清蘭と鈴瑚の二人……
「二・・・にっこにっこにー♪ あなたのハートににこにこにー♪ 笑顔を届ける吉井にこにこー♪ ヨッシーって覚えてねラブよし……」
「「ああっ、野生のポリスメンが!!」」
「二人とも、通報はやめてよ!」
笑顔でどうにか誤魔化そうとするが全く通じなかった。
通報をやめさせるために通話ボタンを押させないよう二人の指を掴んで抑え込んでいる。
「安心してよ。 二人は誤解しているだけなんだよ」
「「ほう?」」
「あの子が妖精に襲われていたのを僕が助けただけなんだ。 だからそのお礼が言いたかっただけなんじゃないかと……」
「くねくねする気持ち悪い棒で叩かれていた時にお兄ちゃんが身を挺してかばってくれたですっ。 その時に翼が生えているお姉さんと入れ替わるときに抱き締めながら妖精から突き放してくれて……」
「「ああっ、またしても野生のポリスメンの部隊が!!」」
「本当に何も無いから! だから通報はやめてよ!!」
傍から聞けば戦場で庇い立てするふりをして幼女に抱き着いたロリコンのような印象が残るのだろう。
清蘭と鈴瑚の二人が謎の端末で通報しようとするのをやめる気が無いようだ……
『二人とも、その子が言っているのは本当。 だから通報はやめて』
サグメの一言で二人は謎の端末をポケットに収める。
「危うく月の都からも見放されるところだったよ……」
『そうなっても明久君の事は私が地上に降りて面倒を見てあげるから安心して』
「なんかサグメさんのコメントが重いんだけど……」
『もし明久君が本当に誘拐目的だったとしても私がしっかりと教育してあげるから安心してね』
「教育って言いながらへんな珠を出すのはやめてよ。 一体どんな目に遭わされるのさ?」
『そんな事……書けない』
「「サグメ様も大概な変態だった!?」」
サグメの最後のコメント…… 顔を赤らめながら目を背けて見せたものである。
明久にはなんのことか全く見当がつかなかったが、清蘭と鈴瑚には意味が分かったようである。
「クスッ」
「あ、やっと笑ってくれたねぇ?」
明久達と再会してからずっと困り顔だった蔵雲がようやく笑顔を見せてくれた。
「まあ、今吉井が住んでいる家は吉井の家じゃなくてサグメ様の家だからね。 許可はサグメ様にとりなよ、蔵雲ちゃん」
『私は別に構わないけどなぜ明久君に近付いたのか、その理由だけは教えて欲しい』
サグメのコメントを見てまた困り顔に戻ってしまった蔵雲だが、おとなしく理由を説明してくれた。
「あの… アタイ、商店街の露店の店長さんの家に住み込みで働いていたんだけど、さっきの戦争のせいでお店がつぶれちゃって…… もう、蔵雲どころかみんなの面倒が見切れなくなったからって…… 勝手なお願いですけど、兄ちゃんだったらしばらく泊めてくれるかなって……」
『とりあえず今日はゆっくりしていって。 とは言ってもまだご飯食べてないからすぐに家に帰るわけではないけど……』
「いいんですか?」
『ええ、もちろん』
うるんだ瞳で頼んできた蔵雲のお願い。
サグメも断り切れなかったのか、少女のお願いをかなえてあげる事にした。
another story 鈴瑚Side
『鈴瑚、蔵雲の働いていたお店の人に連絡を入れといてくれるかしら?』
夕食後、サグメは蔵雲の世話を明久に任せて鈴瑚と話をしていた。
「それはいいですけど、なんでですか?」
『あの様子だと向こうへの挨拶をせずにいきなり来ているかもしれない。 住み込みで働いていたと言うのなら一応身元の確認も兼ねて……』
どうやらサグメは明久程蔵雲の事を信用していないようである。
「と、言う事がありまして」
『ありがとうございます。 実は急にいなくなったものですから、私も心配していたんですよ』
どうやらサグメの読み通り向こうで世話になった店長とは別れの挨拶はしていなかったようである。
粗方、明日にでも話をつければいいと思っていたのだろう……
「それにしてもなんで蔵雲ちゃんはこっちに頼ってきたんですかね? なんかウチにいる吉井って男と繋がりがあるそうですけど……」
『ああ…… 蔵雲から聞いたと思いますが、先の戦いであの子が住み込みで働いていたウチの店がつぶれてしまって…… 恥ずかしい話、従業員の面倒を見れなくなってしまったんですよ。 他の娘達は実家に帰ったのですが、どうやら蔵雲の方は訳アリで実家に帰れないとかで…… そのことであの子の身の振り方を考えていたら宛てがあると言ってそのまま出て行ったので心配していたんですが……』
どうやら事情は説明していたようである。
「蔵雲ちゃんはサグメ様がしばらく面倒を見てくれるそうです。 明日にサグメ様が改めて挨拶に向かうって言っていました」
『いえ、ウチとしても助かりました。 他の娘達は帰る家があるそうなので大丈夫だったのですが、蔵雲だけは帰る場所が無いと言われて困っていたところだったんです。 いやはや、サグメ様が面倒を見て下さると言うのなら私も安心ですよ』
蔵雲が働いていたと言う店の店長への連絡も済ませた鈴瑚は買い込んだ団子を食べながらサグメ宅へ向かう。
another story 鈴瑚Side end
井上賢二先生が原作をなさっている漫画「ぐらんぶる」がアニメ化するそうです。
笑いあり、ダイビングあり、全裸ありのダイビングギャグ漫画です。
井上賢二先生らしいギャグが盛りだくさんの楽しい漫画ですので皆さんも見てみてください。
……皆さんと言えるほどこの作品を見ている方がいるかどうかはわかりませんが……