刻の召喚士   作:jnsto

1 / 67
夜泣鳥

ここは魔王城の大広間の前。怪しげに黒く輝く両開きの門が、俺達が行く手を阻んでいた。ここで逃げ帰ってもいいんじゃないか。そんな思いが頭によぎる。でも、それはできない。してはいけない。今日の責任から逃れることが出来たとしても、明日の責任からは逃れることは出来ない。出来ると決断した。細かい方法なんて後から見つければいい。そして最善は尽くした。後はそれを最後までやりきるだけだ。

 

 

 

 

「…緊張してるの、リッカ君」

 

右を見ると、そこには銀色の髪をした狐獣の半亜人(ハーファ)の少女がいた。彼女の名前はココ。年はオレと同じ17歳。彼女はいつも傍にいてくれて、いつも俺を助けてくれた。

 

「…まあ、な。ここまで、本当に長かった」

「…そうだろうか?貴様達は急に時間が長く感じるのか?昨日も今日も私にとっては変わりはない。強いて言えば、私にとってはこれは始まりにすぎない。…何故ならここから私の名声が世に広まって、圧倒的な天才性(カリスマ)を持つ私の覇道が始まるのだからな!」

 

左の若干痛くてうるさい女が叫ぶ。こいつの名前はハムリン。ハンニバルと呼ばないとキレる変態科学者(マッドサイエンティスト)だ。最終決戦前だというのに今日も冴え渡っていらっしゃる。そのツインテール引っこ抜いてやりたい。

 

「…まあ貴様には長すぎたかもしれないな、古鉄(スクラップ)」

「…そうだな。…オレには長すぎた。…だから、ここで終わらせる」

 

後ろから蒸気が上がる音と共に重低音が聞こえる。彼の名はアンドリュー。体の9割が鉄で出来ている大男。むしろ魔獣に近い存在の彼は、俺達の中で一番の年長者であり、一番辛い人生を過ごしてきている。蒸気機関で制御された拳を強く握り、決意を固めている。

 

「…しみったれるのも俺達らしくないな。よし皆、いつも通りに元気に行こう!召喚(サモン)!」

 

俺は右手の指輪からデトーレを召喚する。前世で言うとギターみたいなもんだ。

 

「リッカ君、こんなところで演奏する気…?」

「いいアイデアだ、それも私達らしい。愛する人よ、私も付き合うぞ。思うままに歌ってやる!」

「ちょっとハムリンさん、抱きつかないでください離れてください!リッカ君は!ボクの!許婚です!!!」

「ハムリンって呼ぶなって言っているだろ!ハンニバル!私はハンニバルだ!それに許婚?まだ結婚はしていないんだろう?そんなものに何の意味があるんだ。言ってしまえば結婚すらただの紙切れ一枚の約束にすぎない。最終決戦の前に前哨戦と行くか、小娘」

「の、望むところですよ!」

 

激しくにらみ合う両者。本気だ。何で本気なんだ。

アンドリューは握っていた拳を振り上げ、力を抜き頭を掻きはじめる。なんかもう、台無しだ。

 

「………帰りたくなってきたぞオレは。リッカ、おふざけが過ぎるぞ」

「…あーいや………こういう展開を望んでいたわけじゃないんだが…まあいいや。肩の力は解れたみたいだな。行こうぜ、皆」

「話は終わってないぞ愛する人!私と小娘、どっちをとるんだ!!」

「そうだよリッカ君!今ここで決めてよ!!」

「はーい皆行くよーはぐれないでついてきてねー。あ、そこ段差あるから気をつけてな」

「「ちょ」」

 

そのまま扉を思いっきり開け放ってやった。

 

 

 

 

「よく来たな、勇者リ」

 

ゴンッ

 

突然後方から鉄と鉄がぶつかる嫌な音が聞こえた。それもかなりの重さだ。なんていうか、振り向きたくない。身内の失敗な気がする。さっき帰りたいとかなんとか真面目ぶってたあいつだ。

 

「……ちょっとアンドリューさん…?」

「あ、ああ、すまない。ちゃんと見ていたんだが。思ったより引っかかりやすいな、これは…」

「…アンドリューさん…流石にそれはちょっと…」

「貴様、やるときはやる男だな」

「…お前はいつも言葉の選択がおかしいぞ、ハンニバル……あ、痛っ腰が………」

 

鉄の塊が思いっきり段差に躓いてこけていた。あー…この空気どうしようか…ていうか鉄の体なのになんで腰痛持ちなんだよ。

 

「…もう一回やり直させてもらってもいいか………?」

 

なんだったらもっと厳かに扉から入ってくる。それはもう、命を捨てる覚悟をしたものの目で。今はなんかこう、申し訳なさで若干涙滲んできてる。

 

「…よく来たな、勇者リッカ。いや、刻の召喚士、の方がいいのかな?」

 

あ、続けるんだ。続けちゃうんだ。以外に陽気な人だよなこの魔王。

 

「すまん魔王イヴィス。勇者は…俺じゃないからな。大層な肩書きはいらないさ」

「そうだ。私達はただ貴様達が気に食わないだけだ。殴りにきた。なんだったら少し実験させろ。なに、悪いようにはしない。じっとしているだけでいい。起きたら色々終わってる。身体を差し出せ。傷つく前に傷つけたい」

「……ハムリンさん…話の腰を折らないでください……」

「……腰が………ぁっ……」

 

「…本当に愉快だなお前達は。歓迎するよ。お前達、先に相手をしてやれ」

 

何もなかったはずの暗闇から4人の魔族が現れる。金の髪をした少年、刀を持った大男、ドレスにジャケットを羽織った女、こちらを睨みつける細身の老人。どいつも尋常じゃない殺気を放ってくる。そしてどうやら、囲まれたみたいだ。

 

「…やる気満々だな」

「…こいつらを倒せたら相手をしてやる。まだ死ぬなよ、召喚士リッカ」

「ああ、玉座にふんぞり返って本でも読んでろ。続きが気になるところでぶったおしに行ってやるから」

「ふふ…楽しみにしてるよ」

 

魔王が暗闇に消える。4人の魔族には隙がなく、いつこちらに襲い掛かってくるかわからない。

 

「…遊びはここまでだ。準備はいいかお前ら」

「できていなきゃ、ここにいないよ」

「愚問だな。実験道具はいつも持ち歩いている」

「…終わらせる。…全てを」

 

俺が生まれてからこの世界は変わっただろうか。少しでも変わってくれていたら嬉しい。そう思うから、俺達は今日、ここで絶対に勝たなくてはいけない。

 

 

「夜鳴鳥の最終公演だ、聞き漏らすんじゃねえぞ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。