刻の召喚士   作:jnsto

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第4話「やましい気持ちなんて微塵しかない」

「ただいまー」

 

鼻を突く芳しい、温かい牛乳の香り。こういうのは現代でも異世界でも変わらない。自然と顔がにやけてくる。今日はシチューか。召喚術で疲れてしまったしちょうどいい。思いっきり食べてやろう。もう服を汚しちゃうくらいに。ここらへんでちゃんとまだ子供だっていうアピールをしておかないとな…!

 

「あら、遅かったのね。また精霊の森?あそこは魔獣が出ないからいいけど、調子にのって他の場所に行っちゃ駄目よ?」

 

母さんがエプロンを外しながら出迎えてくれる。ああ、それたまんない。ポニテ外す姿、髪を揺らす仕草、これは合法的にこの女を落とせと神が言っている。これは俺の願望じゃない。神が命じたのだ。神の正義と愛によるこの聖戦に、俺は勝利してみせる!

 

「わかってるよ母さん。それより今日はシチューなの?早く食べたいな!」

 

自分が出来る限界のかわいさで攻める。そうこの角度。上目遣いでまつ毛の奥から見上げるがポイントだ。いっても見た目はまだ10歳のオコチャマ、可愛げだけならそこら辺の愛玩動物にだって負けはしない。むしろ圧勝じゃね?だってこちとら27歳の知性を兼ね備えてるんだ。猫にも犬にもない知性的で完璧な頭脳線を展開してやる…!

 

いやあ、前世の母さんと比べるのもあれだが…いやまあ前世の母さんも別にそこまで酷いっていうわけではないとは思っているけど…やはり白人には勝ちようがない。生まれ持っての才能が違う。それに出るとこ出てるし。抱きつきたい。駄目だ、頭の中がいまだ思春期、理性が暴走しかねん…!クールに行こうぜリッカ、お前ならやれるはずだ…!

 

「………あら何…急に気持ち悪い…いつも本ばっかり読んで全然子供っぽくないのにこんなときだけオコチャマアピールしたって無駄ですからね。早く表で手を洗ってらっしゃい」

 

…日ごろの行いが悪いとこうなる。さすが俺のママン。俺の手なづけ方を心得てらっしゃる。その見下した目、ナイスだぜ。俺以外の子供だったら泣いてるところだ。その点俺はウルッときてる程度だもんね。

 

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

「さて…」

 

夕飯は美味しかった。なんだかんだ言っても子供が美味しそうにご飯を食べてる姿を見るのは好きらしい。思わず俺も惚れそうになった。いや、違う、そうじゃない。これからのことに集中しないと…俺の今後の人生全てが今この瞬間にかかってると言ったら相当な過言だけどそれくらいに気持ちで取り掛かろう。

 

自家の奥、台所を抜けて少し暗い廊下を抜けると、そこには父さんの書斎がある。

 

ここはうちの一族の家長しか入ることの許されていない、ぱっと見小さな図書館みたいなもんだ。流石に街の図書館と比べてしまうと見劣りしてしまうけど。でもまあ、もっと幼い頃から読んでいた普通に読んでいい本はあらかた読みつくしてしまった。

 

その点、ここにはまだまだ読みきれないほど本が沢山ある。…のだが、父さんが使っていなかったからだろう。ここはいつもずーっとかび臭いままだ。この暗さも相まって、ちょっとしたホラーだ。

 

8歳くらいの頃、ここ以外の家の本を読みつくした俺は、居ても立ってもいられずここに忍び込んだ。その度に父さんに怒られて叩き出されていたのだが、ある時たまたまウチに遊びに来ていた来ていた市長、リティナのお父さんに

 

『そこまで学びたいのなら使わせればいいじゃないか。どうせお前はここで本を読まないんだし。…全く、本を読まないことを叱るならまだしも、本を読むことを叱る馬鹿がどこにいる。何の知恵も知識もない馬鹿が沢山いるこのご時勢、立派じゃないか』

 

と少し強めに言ってもらえて、それから俺はここに自由に出入りできるようになった。

 

「今までは魔法をどうにかして使おうと思って魔法の本ばかり読んでたからな。あとは読んでたのは歴史書くらいか。…これは父さんに感謝しないとな」

 

ちなみに父さんは王都の学校で教鞭をとっている。主に歴史を教えているらしく、ここにも歴史の本は沢山あった。それも大体読みつくしたのでこの世界の成り立ちはなんとなく掴めている。

 

といっても、歴史と神話がごちゃまぜになっているような文献がとても多い。どれを信じたらいいかわからないのである程度流し読みしてるけど。

 

「でも今日からはそれも一旦やめだ」

 

召喚術についての本を探す。やはりラークの言ったとおり、召喚術について記載されている本は魔法の本に比べると格段に少ない。ていうかかなり探して一冊しか見つからなかった。そして、やっぱりこれ読んだことあるな。その時は専門的過ぎて応用が利かないと思って止めたけれど。

 

 

 

 

【契約紋(プロミス)・奴隷紋(スレイヴ)の構築方法】

 

魔法は全て詠唱(スペル)で行う。ということは奴隷紋(スレイヴ)と契約紋(プロミス)というのは全て召喚術の派生な筈だ。ということであれば、この本には召喚術についても量はすくないだろうが情報が記されているはずだ。そうに違いない。ていうかそうだ。そうであってくれ。

 

ていうかラークの話にもあったけど、この世界にも異世界転生物と同じく奴隷なんて存在するのか。どこまでテンプレなんだよ。あともうちょっとテンプレ通りに展開してくれ。本ばかり読んで何も力がこみ上げてくる様子がないのはちょっと悲しかったりするんだぜ…!まあそれはいい。記憶の中にあるあの文章をもう一度見てみよう。

 

「探してるのはまだ方法じゃないんだ…それ以前、それ以前のことだ…」

 

ひたすら本を読み進めていく。どちらかというともう最後のほうの、補足事項的な説明に差し掛かっている部分の章だ。

 

「…あったあった、これこれ」

 

この一文を探していた。このページの見出しは

 

 

 

●契約紋(プロミス)・奴隷紋(スレイヴ)の魔力消費について●

 

『契約紋(プロミス)・奴隷紋(スレイヴ)を用いて、契約者又は奴隷等に対して強制的に命令を聞かせる際、強制力が発生する。その強制力は自分の魔力を消費して発生させることが出来る。』

 

『命令をし、その命令に対して魔力を支払い、強制力を発生させることではじめて、契約者又は奴隷を命令に屈服させることが出来る。

 

『魔力が足りていない場合に、契約者又は奴隷等に対して命令を聞かせようとして、強制力がないので命令に従わせることはできない』

 

『これは召喚時にも同一で、契約者又は奴隷等を召喚する際、強制力を行使しなければならない。』

 

『召喚に多大な魔力を消費してしまうのは【契約紋(プロミス)・奴隷紋(スレイヴ)に魔力を流し転移召喚術を発動】することに加え【契約者又は奴隷等を召喚するという命令に従わせるための強制力】を発生させる必要があるためである。』

 

『以上のことから、召喚は非常に魔力効率が悪くその後の強制力の発動にも影響が出てしまうため、極力用いるべきではない』

 

 

 

ちゃんちゃん。酷い絞め方だ。召喚術に興味があるから読んでやっているというのに。

 

「まあいい。…じゃあ、ここで考察だ」

 

契約した魔獣に命令するとしよう。契約した魔獣のことを契約魔獣と呼ぶことにする。

命令の内容は"このくそ苦い水を飲め"だ。

 

契約魔獣に命令を遂行させるためには多大な"強制力"が必要。だが残念ながら俺にそれを支払うだけの魔力はない。俺は契約魔獣を命令に従わせることが出来ないということになる。

 

だがここで命令を"この甘くて美味しいジュースを飲め"にしてみたらどうか。

契約魔獣は嫌がらなかったと仮定しよう。果たしてそこに強制力は発生するのだろうか。

 

「…いや、しない筈だ」

 

ラークの家の走竜。こいつらに餌をあげているときラークは命令しているのだろうか。ほら、食え、的なことは言うだろう。だがそれを"命令"で"強制力"を発生させながら強制的に行っているとは考えづらい。強制する必要がないからだ。

 

そして、ここからの文章はもっと大事だ。

 

 

 

 

●契約者との魔力の共有について●

 

『契約者又は奴隷等に対して、契約させたもの(ここでは主と記載)は常に縁(リンク)を張ることが出来る。』

 

『この縁(リンク)の利点は【離れていても強制力を行使できること】【強制力に用いること以外の魔力を両者で共有できること】【念話が可能になること】である』

 

『この縁(リンク)はごく微量の魔力で維持できるので、時と場合に応じて縁(リンク)を行う、行わないの選択をすることが可能である。』

 

 

 

 

これ。【強制力に用いること以外の魔力を両者で共有できること】

 

とその前の文章

 

【『契約者又は奴隷等に対して、契約させたもの(ここでは主と記載)は常に縁(リンク)を張ることが出来る。】

 

まず【強制力に用いること以外の魔力を両者で共有できること】

これは俺の少ない魔力を補うことができる。"強制力"さえ使う必要がなければ、俺は契約すればするほど魔力が増え続けるわけだ。

 

 

 

 

そしてその次【契約者又は奴隷等に対して、主は常に縁(リンク)を張ることが出来る】

 

この本の書き方にももしかしたら間違いはあるかもしれないが"常に"の意味するところ。それは

 

「召喚していなくても、離れていても縁(リンク)は継続できる…」

 

それが示すこと

 

「1、縁(リンク)さえ張り続ければ魔力の総量が契約した分上がる」

「2、1により魔法が使えるかも知れない」

「3、"強制力"さえなければ"契約者の魔力を使って"召喚できる…」

 

あれ、これ俺の全ての問題が解決するんじゃないか…?つまり"強制力"さえ使わなければ俺の魔力は無限に広がリングなわけだ。あくまで仮定だから実践してみないことには意味はないけれど。

 

…俺には高い魔力を備えた、会話できる沢山の妖精(ともだち)がいる。強制なんてしない、嫌なことなんていわない。ただ、力を貸して欲しいだけだ。俺の異世界チートのために。やましい気持ちなんて微塵しかないんだからねっ。

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