ナンパ勇者と魔物たち   作:図らずも春山

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「何者ですか!?」

 二人は早速宿を出発した。それと同時に柔らかな日差しが二人を包む。それなりにでかい街だけあってまだ朝だというのに人が多い。

 セラは周囲の人間に視線を巡らせた。自分が魔物だと疑うものはいない。どうやらマント姿というのはあまり珍しくないみたいだ。

 

 活気のある商店街を抜け、幅の広い石段を少し登ると周りよりも一回り大きな建物がみえた。

 

「ここがクエスト受注所です」

 

 二人はその中に入っていった。

 

 受注所内には様々な人がいた。服装をルカと比べると周りの人は幾分かゴツいモノであった。

 

 ルカは真っ直ぐに大きな掲示版へと歩く。その掲示版にはたくさんの紙が貼られ、クエスト遂行者を募集していた。

 

 人の隙間を縫いながらやっと掲示版全体が見えるところまで来た。よく見るといろわけがされているようだ。

 

 ルカは掲示版の端から一つ一つクエスト内容を見ていく。そして赤色の紙を掲示版から引き剥がした。それを受付まで持っていく。

 

「こんにちは。今日はどういった内容のクエストを選ばれましたか?」

 

 快活そうな女性が対応に当たる。ルカは先程引き剥がした紙を女性に手渡した。

 

「……はい、このクエストで本当によろしいですか?」

 

 女性はルカに確認するよう紙を見せる。

 

「大丈夫です」

「それではこの契約書にサインをお願い致します」

 

 ペンを渡されたルカは契約書を一通り読むとサインを書き始めた。

 

「はい」

 

 書き終わったそれを女性に渡す。

 

「はい……はい、確かに。それではご武運をお祈りしています」

 

 そうしてルカは受付を後にした。

 

 二人は外に出た。

 

「なんのクエストを受けたの?」

「雑用クエストです」

 

 そう言ってルカは先ほどの紙をセラに見せた。

 

「庭の雑草の処理や、家の掃除などの手伝い……。これほとんど雑用じゃない……」

「それはそうですよ。お金なんて地道に稼ぐもんですから」

「へぇ……、じゃあ、頑張ってね」

 

 セラはクエスト受注書をルカに返す。

 

「いや、何言ってるんですか。あなたもやるんですよ」

「……え?」

「二人で行きますって契約をしてきたんですよ」

「え……えと、え……?」

「それじゃあ早速行きましょうか!」

 

 そうしてセラはルカに強制的に連れて行かれた。

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

「つかれたぁぁ……」

 

 クエストという名の雑用を終え、セラは宿に着くなりベッドに飛び込んだ。

 

「もー花粉で鼻がムズムズするよぉ……」

 

 セラは疲れからか普段は出さないぐずるような声を漏らした。

 

「いやぁ、お疲れ様でした〜」

 

 遅れてルカも部屋に入ってくる。その手に握られているのは薄汚れた銅貨1枚であった。

 

「あんだけ働いて銅貨がたったの1枚なのね……」

「そんなものですよ。まあ、言うて銅貨一枚は金銭十枚分ですからね」

「金銭……? お金は金貨と銀貨と銅貨だけじゃなかったの?」

「ええ、その他に銅銭、銀銭、銅銭があります。銅貨とかと一緒で銀銭は銅銭十枚分、金銭は銀銭十枚分ってな感じです」

「ふ〜〜ん……」

 

 セラはあまり興味なさげに返す。

 

「なんで昨日言わなかったのよ」

「え、まぁ……」

 

 言葉に詰まりルカは頭を掻いた。言わなかったことに特段深い意味はないのだが、なんでと聞かれると答えに詰まってしまう。

 

「…………くぅ」

 

 ルカが答えられずにいるとセラの口から可愛らしげな寝息が聞こえてきた。相当疲れたようだ。つい先程まで起きていたとは思えないほど気持ちよさげに寝ている。

 ルカは寝顔をみて微笑むと、素振りをしに外へ出た。

 

 

♦♦♦

 

 

「へっくち!」

 

 セラは自分のくしゃみで目を覚ました。鼻にはムズムズという感覚。どうやら花粉のようだ。

 

「おはようございます! 今日も行きましょう、仕事に!」

 

 そこに無駄にテンションが高いルカが声をかける。ものすごい笑顔である。

 

「……やだ」

 

 セラは寝ぼけ眼でそう口にした。

 

「…………」

 

 ルカはニコニコしながらセラに歩み寄る。無言の圧力である。しかしセラはそれに動じない。

 

「…………」

「…………」

 

 両者の無言の睨み合いが続く。

 

 そこでルカは秘策に出た。

 

「働かざる者……食うべからず」

 

 その言葉を耳にした途端、セラの表情が一変した。その瞳はルカをうらめしそうに見つめる。

 

 生唾を飲み込む音の後にセラは負けを認めたのであった……。

 

 

♦♦♦

 

 

 ルカとセラは朝食を済ませた後、街の外へと向かった。

 

「それで。今日はどういった内容の仕事なの?」

「ええとですねぇ……」

 

 ルカは受注書を広げた。

 

「キノコ取りですね。なんでもこのもうちょっと先の森に高級食材として取り扱われるキノコが生えているらしんですが、最近出現するようになった生物のせいで収穫がうまいこと言ってないみたいで……」

「その生物ってなんなのよ」

「うーん。よくわかってないみたいですね」

「大丈夫なの?」

「我々の目的は討伐ではなくて採集なんですから大丈夫ですよ……。それより見てくださいよコレ」

 

 ルカはそう言ってセラに受注書を見せる。ルカが指差す所にはキノコのイラストが書いてあった。

 

「デカッ」

「これ以上の大きさのやつだけをとってくれって……。どれだけでかいんですかねぇ」

「そんなチンケな袋で足りるの?」

「うっ……なんとかなりますって」

 

 二人はそんな風に話しながら目的地に向かって歩いていた。

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 生い茂る木々の枝を伝って移動する影が二つ。

それらは互いに合図を送り合いながら下を歩く標的との距離を詰めていく。

 

 標的が立ち止まる。それに合わせて立ち止まると、顔を見合わせて一気に飛び降りていった。

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

「ぬぬぬ〜」

 

 セラはマントを外し、羽を伸ばした。街からはだいぶん離れたので人に出くわす事はなさそうだ。

 

「あ~、やっぱり何も制限されてないのはいいわ~」

 

 ルカは受注書から顔を上げた。そして辺りを見回した。

 

「たーぶん、この辺なんですが……」

 

 それらしきものは見当たらない。辺りには木漏れ日が差し込むだけだ。

 

「まさかアンタ間違えたの?」

 

 セラはルカが手に持つ受注書を確認しようとのぞき込んだ。

 

 と。

 

 突然頭上の木から何かが飛び出してきた。その数、二つ。

 

 ルカとセラは咄嗟に後ろへ避けた。その間にそいつらは落ちてきた。

 

「何者ですか!?」

 

 ルカは叫ぶ。その二匹の容姿は人間のようであるが、そうではない。半人半獣と言ったところだ。頭からは角が生え、下半身は山羊の様な形状、毛が生えていた。

 

 その姿はまさしくサテュロスそのものであった。

 

 一体がセラと向きあった。

 

「な……なによ」

 

 サテュロスは突然セラを掴んで持ち上げた。セラは訳がわからず動くことができなかった。そしてサテュロスは囁いた。

 

「もう大丈夫だから……」

「なにが!?」

 

 担ぎ上げられたままセラはサテュロスに連れ去られてしまった。その場に残ったのはもう一体のサテュロスとルカ。

 

「え、え……あ、あの。あちらの方はあなたのお連れ様ですか?」

 

 ルカはおずおずとそう聞いたがサテュロスは無表情で答えは帰ってこなかった。

 

「あっ、もしかしておいていかれて怒ってらっしゃるんですか!?」

「……………………」

 

 ルカは顔色をうかがうが相変わらず無表情であった。

 

「あー、いや。別に気にすることないと思いますよ!? ほ、ほら。追いかけましょうよ! ちょ、あのー! お連れ様がー!!」

 

 残されたサテュロスはルカを睨んだ。そして小さな声で呟いた。

 

「……劣等種め」

「へ?」

 

 サテュロスは拳を軽く握りいまにも飛びかかってきそうな体制をとった。戦闘態勢である。

 

「え……ちょ……?」

「卑しいニンゲンめ……覚悟しろよ!」

 

 鋭く凍てついた視線がルカを貫いた。

 

 

♦♦♦

 

 

 セラを担いださサテュロスはとんでもない勢いで森の中を駆けていく。

 

「ちょ……ちょっと!離しなさいよッ!」

 

 セラは激しく羽をばたつかせ、サテュロスの中からなんとか逃れた。

 

「なんなのよ! いきなり現れて連れ去るだなんて!」

「……もう大丈夫だから。安心して」

「はい?」

 

 訳がわからずにセラは思わず聞き返す。それに対してサテュロスはおっとりとした表情で返した。

 

「あなたを誘拐しようとしていたあのニンゲンはもう追ってこないわ。だから安心していいの」

「あ……アイツ? アイツは別に悪い奴じゃないっていうかなんていうか……」

「可哀想に……。あなた騙されていたのよ。あのニンゲンはあなたを売りさばこうとしていたのよきっと」

 

 それを聞くとセラは眉をひそめた。

 

「だから、別にそういう事するような奴じゃないのよ……」

「それじゃああのニンゲンとは一体どのような関係なのよ」

「それは……」

 

 セラは答に詰まってしまった。痛いところを突かれた。

 

「それに……」

 

 セラが口を開く前にサテュロスが話し始める。

 

「あのニンゲンももうお姉様が処分しているはずよ……」

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

「卑しいニンゲンめ……覚悟しろよ!」

 

 鋭く凍てついた視線がルカを貫いた。

 

「くそっ……ボクの熱烈なファンがこんなところにもいたなんて……! コレだからイケメンはツライぜ!」

「ふん……。消えろ」

 

 サテュロスはそう呟くと一気に飛びかかってきた。突き出される拳。ルカはそれを素早く見切りすんでのところを片手で受け流した。

 しかし既に二発目は放たれていた。そのもう片方の拳はルカの左肩へと吸い込まれていく。 

 

「おわっ!?」

 

 重い一撃。ルカはそのままふっ飛ばされてしまった。なんとか受け身の体制をとり無事着地した。

 先程のパンチをもろにくらったルカの左肩はだらしなく垂れ下がり動かせなくなってしまった。それほどの威力だったのだ。

 

「こんな狂信的なファンは初めてですよ……」

 

 息をつく暇もなく次の攻撃がやって来る。ルカは半身になり回避を行った。

 大方の攻撃は避けれたが、それでもサテュロスのスピードは圧倒的に速く、ルカをじわじわと追い詰めていた。

 

「おい……ニンゲン」

 

 鋭く睨んだままサテュロスは口を開いた。

 

「ルカですよ。ルカ。もう、名前で読んでくれてもいいじゃないですかぁ〜」

 

 ルカの減らず口は相変わらずである。

 

「なぜその剣を使わないのだ」

 

 サテュロスはルカの腰に収められている剣を指差した。

 

「この私を侮辱したいのか?」

「いやいや、そんなつもりじゃ」

「じゃあなぜ! その剣を抜かないのだ!」

「信じているからです」

 

 ルカはキッパリと答えた。それにはサテュロスも思わず呆然とした。

 

「な、何をだ?」

「……マモノとニンゲンの共存です」

「はぁ?」

 

 思わず素っ頓狂な声をあげるサテュロス。

 

「お前自分で何言ってるのかわかってるのか?」

「ええ、もちろん」

「あのな、ニンゲン。いいか? マモノはマモノ。ニンゲンはニンゲンなんだよ。種族という根本的なモノが違えば共存はおろかともに手を取ることだってできねぇだろうよ」

「そういう考え方が間違ってるんですよ」

「はあ!? なんだと? 現に今! マモノとニンゲンの共存なんか出来てねぇじゃねぇかよ!」

 

 辺りにはサテュロスの声が響いた。木々の葉は風に揺られざわめきを生み出している。ルカは一呼吸置き、喋り始めた。

 

「種族が違うから? 笑わせないでくださいよ……」

 

 ルカは拳を握り、軽くうつむいた。

 

「種族が違うからなんだって言うんだよ! こうやって対等に喋ることだって出来る! なのになんで互いに、無条件に敵対しなきゃいけないんだよ!! 手を取り合うことだって、協力し合うことだって可能なはずなんだ……。なんで、戦わなきゃいけないんだよ……!」

 

 感情を表にし大きく息を乱すルカ。その眼の奥には堅い決心のような何かが見て取れる。

 

「確かに……確かにそういう考えをする奴がいるかもしれない……。だが今までニンゲンがどれだけ私達を苦しめてきた!? 何もしていないのに殺された仲間だっている!! それを今更綺麗さっぱり忘れて許せだと!?」

「あぁ、そうだよ!」

「はぁ!? どれだけ虫のいい話だよ! そんなんだからニンゲンはダメなんだよ!」

「そうじゃなきゃ話が進まねぇんだよ……! このくだらない報復合戦にドコかでケリをつけなきゃいけないんだよ……」

「…………」

「今まで誰もそのきっかけを作ろうとしてこなかった……。だから、俺がそいつを作るんだ……!!」

 

 荒い呼吸音がその場の空気を支配する。サテュロスはルカを睨みつけた。

 

「……ふん」

 

 一蹴するかのように鼻を鳴らした後、サテュロスはルカに背を向け歩きだした。

 みるみるうちにそのその姿は森の中へと消えていった。ルカは脱力し、大きなため息を吐き出した。柔らかな風がルカの体を撫でる。その風が聞き覚えのある声を運んで来た。

 

「ルカー!」

 

 その声はセラはのものだった。ルカは目を閉じ、ひとつ大きな深呼吸をした。

 

「ふへへ……」

 

 ルカは笑った。驚くほど人をムカつかせるような喜びに満ちた笑みだ。

 

「あっ! いた! ……って顔キモッ!」

 

 ルカを見つけたセラがかけよってきた。

 

「ちょっとアンタ、大丈夫だったの?」

 

 その言葉を耳にした途端ルカの目はキラキラと光り輝いた。

 

「え!? 心配してくれてたんですか!? 僕のことが気になって仕方なかったんですか!?」

「バッ……! 違うわよ!!」

「ちょっとぉ〜セッちゃん照れないでいいのよぉ〜顔真っ赤じゃないですかぁ〜デュフヘヘ」

「セッちゃんじゃないわよ! っていうか照れてもいないわよ!!」

「ん〜ッ! いいよその表情!」

「はいはい」

「冷たくしないでよセッちゃん〜」

「はいもういいから、依頼されたキノコ探すんでしょ? ほらもう! いくよ!! ……って顔キモッ!」

 

 そんなこんなで二人は再び森の中を歩き始めたのであった。

 

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