Road to death —死への道— 作:みんみん
「——じゃあ、明日から来てちょうだい」
「わかりました。ありがとうございます」
わたしは店を出た。
わたしはカフェで仕事をすることになった。ウェイトレスだ。それなりに時給もいいし、夏の間は働き続けられるだろう。
リュックサックからパンを取り出してかぶりつく。そして、ふと目に留まった店に吸い寄せられるように入った。
そこは薄汚れたパブだった。中は暗く、不思議で溢れていた。物が宙に浮いていたり、勝手に洗い物がされていたりしているのだ。誰だって不思議だろう。
「お嬢ちゃん、名前は?」
店主と思われる人物が聞いてくる。
「ハリー」
「そうか。魔法使いなんだな?」
「えっ……あっ、わたし無宗教だから」
「いや、別に怪しげな宗教団体じゃないからな?周りを見ろよ、現代科学のなせる業か?」
そう言われ、わたしは再び周りを見る。
しばらく考え込むと、顔をあげて戸惑いながらもうなずいた。
「う、うん……じゃ、帰るね」
「オイコラちょっと待て、宗教団体じゃないって言ってんだろ!話を聞け!」
店主を胡散臭げに一瞬見て、わたしはため息をつきながらカウンターに座った。
「それでいい。……で、お前も魔法使いなんだ」
「あっ、急用を——」
「慌てるなって」
わたしが立ち上がろうとするが、一瞬で座らされてしまう。
店主はレモンスカッシュのコップをハリーの前に置いた。ハリーはためらわずにそれに口をつける。
「で?」
「で、ってお前な……。まあいい。俺達は魔法使い、それはわかったか?」
「よくわかったよ」
「んで、この店は、マグルっていう非魔法族が入れない魔法がかかっているんだ」
わたしはレモンスカッシュを飲み、うなずいて続きを促した。
「でもここに入れたってことは、お前も魔法使いなんだ」
「ほうほうなるほど、って——ブッ!」
わたしはレモンスカッシュを噴き出した。
店主はレモンスカッシュに向かって杖を振った。
「『デリトリウス、消えよ』」
噴出物がカウンターに落ちる前に全て消える。
わたしは驚いて店主を見た。
「それが魔法?どうやるの?」
「やる気になったか。っていうところでダンブルドアの登場だ」
聞いたことのない固有名詞の登場に、わたしは首を傾げながら店主の指差す方向を振り返った。
そこには、長身で白髪、ブルーの目に折れ曲がった鼻をした老人が店の入り口を潜っていた。老人は、半月眼鏡の向こう側からキラキラした目を覗かせながら言った。
「ほう、おかえりじゃ、ハリエット・ポッター」
彼が言った瞬間、店中の客が立ち上がってわたしを見ようと背伸びし始めた。
「ハリエット・ポッター?」
「おい、でも傷が無いぞ」
「はて」
ダンブルドアが首を傾げながらわたしの額に杖を向け、振った。
白い光線が額にぶち当たり、わたしは痛みに額を押さえた。
「うぅっ、痛っ!」
「おお、すまんのう、しかし傷跡は見えるようになったの」
痛みを堪えながら手を外すと、そこにはくっきりと稲妻型の傷があった。
ダンブルドアが目を一層キラキラさせながら言った。
「なんと立派な偽装呪文じゃ、杖無しでそれを行使とはなかなかのものじゃのう」
ダンブルドアの言葉に客は拍手喝采。流石ハリー・ポッターだ、闇の帝王を打ち負かしただけある、とまで言い出した。
もちろんわたしには、殺人鬼以外を打ち負かした覚えはない。よって、一番話がわかりそうな店主に聞く。
「わたしが何を打ち負かしたって?」
「闇の帝王だよ」
そのまま詳しい説明を受ける。
闇の帝王とは、11年前まで魔法界を恐怖に陥れていた闇の魔法使いだそうだ。
名前はヴォルデモート。暗黒時代、自分に反旗を翻した魔法使いを次々に部下死喰い人デス・イーターと共に苦しめ、殺していった。
また、「純血主義」とやらで、反マグルを掲げていたそうだ。同じ魔法使いを躊躇いなく殺すヤツだ、絶対にデモ運動だけには終わらなかったのだろう。そいつが1歳の少女ハリーに敗れたという。
わたしにも、「やあマグル諸君。ちょっと僕達にとって目障りだから地下にでも潜って消えてくれるかい?」という極悪殺人鬼は想像できず、問答無用で「アバダケタブラ!」だろう。
ん?アバダケタブラって何だ?
「アバダケタブラって何?」
わたしが聞くと、周りの魔法使い達が一斉に身じろぎした。そこで、悲しい顔をしているダンブルドアを見る。
「死の呪文じゃ」
死の呪文。嫌な響きと緑の光を連想させる呪文。それを考えるだけで吐き気がしてきた。
その、気味悪い緑の光は覚えている。それは、あの時の——。
パチン。
店内に軽い音が響く。
その正体は、わたしが指を鳴らした音だった。嫌なところに持って行きかけた思考を元に戻そうと、体が勝手に音を立てたのだ。
「んで?わたしはどうやって凶悪殺人鬼を倒したの。それも、1歳の身体で」
「それが謎に包まれているんじゃよ。まあ、そんなこたぁどーでもいいわい。ほれ、ホグワーツの入学許可証じゃ」
どーでもよくないわい。
しかし、わからないなら仕方がない。ダンブルドアが投げてきた封筒をキャッチする。
生まれてこのかた手紙なんぞもらったことがないが、開け方くらいは知っている。
わたしは封筒を開けた。
ロンドン、
漏れ鍋、
カウンター席の左端から二つ目の席
ハリエット・ポッター様
ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン勲章 勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員、マーリンの髭賞受賞
親愛なるポッター殿
この度はホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、
心よりお喜び申し上げます。教科書ならびに必要な教材のリストを同封いたします。
新学期は9月1日に始まります。8月2日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。
敬具
副校長ミネルバ・マクゴナガル
「マーリンの髭賞?」
「ああ、それは気にするでない」
そっすか。ていうか何で髭?
とりあえずその疑問は捨て、手紙の内容について確かめる。
「ホグワーツって、魔法を習う学校なの?」
「そうだとも。君には入学する資格がある」
「ああ、そりゃどうも。で、ふくろう便って?」
「そのことについては、今返事をしてくれれば構わんよ」
保護者の許可が無くて良いのだろうか。まあ、校長が言うなら大丈夫だろう。
そこで、わたしはホグワーツへ行くことのメリットを考え始めた。
まず第一に、寝泊まりする場所があるところだろう。全寮制だし、まず襲われる心配は無い。ホグワーツのセキュリティについてはまったく知らないが、紛いなりにも学校なのだ、安心できるはずである。
また、「闇の帝王」とやらが存在し、人を殺していったことから考えると攻撃の魔法などもあるのだろう。反マグル派がマグルのナイフで地道にひとりひとり殺していくはずがない、それは間違いないだろう。つまり、成人して路上生活に戻っても身を守る術があるのだ。いや、それ以前に魔法界で就職できる可能性も高いだろう。
というより、わたしにはその選択肢しか無いように思える。何故ならハリーは魔法界では英雄であり、魔法省とやらに就職できる確率も周りより1.1倍くらいは高いはず。これを利用しない手はない。
よし、決めた。
「じゃ、入学する方向で」
「そりゃ良かった。じゃ、トムよ、あとは任せたぞい」
「了解だ、アルバス」
店主に声をかけると、ダンブルドアはその場で1回転して消えた。どんな魔法だ?
「ハリーさんよ、部屋に案内するぞ。ついて来い」
わたしは困惑したままトムについて漏れ鍋の階段を上がった。