Road to death —死への道— 作:みんみん
「恨む、恨むぞダンブルドア……!」
ミッドナイトブルーの瞳の小柄な少女が虚ろな眼をし、壁に寄りかかりながら何かをブツブツ呟いている様は、ある人が見れば滑稽に、また別のある人が見れば恐ろしく思えたことだろう。
しかし、何事にも理由があるのだ。
この場合はとりあえず、ダンブルドアという大魔法使いな割に何処かどころか随分と抜けた老ぼれタヌキが悪いだけなのだ。
もう少し詳しく説明すると、ダンブルドアは今朝、ふくろう便で以下の内容をわたしに送りつけて来た。
親愛なるハリエット
わしとしたことが、ホグワーツ特急に乗るための切符を渡し忘れてしまったようでの。
同封したので、それを見て来るんじゃ。よいな?
ダンブルドアより
で、件の切符とやらには以下の内容が書かれていた。
キングズ・クロス駅
9と4分の3番線、
11時発 ホグワーツ特急
これを見れば誰だって慌てるだろう。
何せ、9と4分の3番線なのだ。マグルの駅員に聞いたとしても、警察を呼ばれるだけに終わる。
漏れ鍋の店主トムに聞こうにも、朝早くから仕入れに行っていて少なくともあと30分は帰らない。
そして、わたしはあと5分で出発しなければ時間に間に合わない。
まだ漏れ鍋に客もいない。
さて、困った。
「……とりあえずキングズ・クロス駅に行くか」
人に頼ることを早々に諦め、とりあえず現地に行ってみることにした。
魔法使いのホームなのだ、魔法使いが見つけられないはずがない。
そう確信して行ったものの。
「うわあ、本気で何処にあるんじゃい」
見つけられないはずがあった。
列車の出発まであと15分。ハリエットという名のこの少女にとって、幸運を見つけるのには広すぎる砂漠の中からたった一つの小さなオアシスを見つける以上に難しいことなのだ。
だが、とうの昔にわたしを見捨てたはずの運がついてきた。
わたしの耳に、魔法使い用語が飛び込んで来たのだ。
「毎年毎年マグルばっかりねえ、本当に混雑してるわ。ホグワーツ特急に間に合うかしら」
「ママ、これも全部ロンが悪いんだ。彼処でスキャバーズを忘れたりするから……」
「喧嘩売ってんのかフレッド!」
「うおおぅ、怖い。ロニー坊やの本気が見えたぞ」
「ジョージ!」
……最後の会話は気にしないとして。
彼らは9と4分の3番線の在り処を知っているらしい。
というか知らないわたしがおかしい。いや、魔法界のことを知らないわたしに教えないダンブルドアが悪いのだ。
と、何度目かわからない思考を巡らせながらわたしはその一家に近づこうと一歩踏み出す。赤毛が7つくらい集まった場所だ、距離にして二メートル。
しかし、さっきの運は、不運も一緒に連れてきてしまったらしい。
赤毛の家族とわたしの間をマグルの集団が横切った。その最後尾を見て焦る。とにかく長い。しかもわたしにはカートという名の荷物もあり、無理矢理横切るのは至難の業だ。
わたしは頭を高速回転させた。なんとしても赤毛一家を捕まえなければならない。そうじゃないと路上生活に戻らなくてはならなくなる。
これからの人生が掛かっているんだ、ハリー、ハリーアップ。
頭を振って思考を戻す。一種の現実逃避を始めていたようだ。
とにかく目の前の状況を確認するんだ。
わたしは最後に殺人鬼に襲われた時を思い出した。頭がどんどん冷静になっていくのを感じる。ミッドナイトブルーの眼を限りなく細める。
じっくり観察してみれば、マグルの集団もずっと続いているわけではない。おしゃべりなうっかりさんのせいで所々間が空いてしまっているところもある。
赤毛一家の末っ子の女の子がグズグズしている様で、まだ余裕で追いつける距離にいる。
長年の勘で間までの距離とどのタイミングで走り出せばいいかを瞬時に割り出す。
わたしはカートの角度を微調整すると、スタートの準備をした。
3、2、1——今だ!
わたしは床を蹴ると一メートルほどの隙間をすり抜けた。女の子達が驚いている様だが、気にしてはいられない。赤毛一家を探す。
「い……、ない?」
一家は消えていた。わたしの中の僅かな希望は打ち砕かれる。
「ホグ……ワーツに、いけな、いんだ……」
例えば、学校で凶悪な虐めにあっていた時、誰かが止めに入り、助けてくれたらどうだろう。やっと、この生活から抜け出せると、涙を流したくなるくらい嬉しいだろう。
今朝手紙を受け取るまで、わたしはそのような気持ちだった。
しかししかし、一ヶ月後その助けてくれたたった一人の友人が何処か遠くに転校し、また元の生活に戻らなくてはならなくなったら?きっと、涙も出なくなるくらい暗く、哀しい気持ちになり、呆然としてしまうだろう。
——今のわたしはそのような気持ちだった。
「——うちゃん! ——お嬢ちゃん!」
だから、誰かに肩を叩かれていたのにも気付けなかった。
突然のことに驚いたわたしが振り返ってみると、そこには先ほどの赤毛一家のお母さんが居た。
「オアシスぅ!」
「オ、オアシス? まあいいわ、貴女もホグワーツの生徒なんでしょう? 迷ってるのね、さあ行きましょ」
オアシスだ、砂漠の中のオアシスだ、ヒャッフウ!
わたしは心の中で小躍りした。
そして、赤毛のお母さんについてホームへと向かった。