詩乃との出会い
「君を間違えて死なせてしまった。お詫びに何でも1つだけ特典付きで君を好きな世界に転生させよう」
「……はあ」
俺が彼の勢いに呑まれて頷くと、そのイケメン――神様は満足げに笑った。爽やかスマイルが妙に堂に入っている。そんな彼に向かって、俺は質問をするべく手を上げた。
「あの……まず今どういう状況なんです?」
とりあえず、状況説明お願いします。
その神様が言うには、俺を間違えて殺してしまったので、何でも1つだけ特典付きで好きな世界に転生させてくれる、というものらしい。どうやら最初の言葉が全てを物語っていたようだ。
不思議なことに、死んだ、と突然言われてもスッと納得できる自分がいた。普通なら混乱したり信じなかったりするだろうに。やはり自分のことは何となくでも自分で分かっている、ということか。
因みに、この時点で俺は既に行きたい世界を決めていた。そこは《ソードアート・オンライン》というラノベの中の世界である。俺にとっての、理想の世界。前世で、二次元、三次元含めて唯一心から好きになれた《彼女》の居る場所。
「じゃあ、行く世界はソードアート・オンラインの世界」
問題は特典だが、そんなのは――
「特典は、小学四年生の4月にシノン――朝田 詩乃の家の隣に引っ越すこと、で」
推しキャラのお隣さんに限る。俺は不敵にニッと口角を上げた。神様が少し意外そうな顔をする。
「珍しいね。大体無双系能力とか最初から好感度マックスとかをいう人が多いのに。それに時期まで指定する子なんて初めて見たよ」
そう言って首を捻る神様を見て、それでも別に良いけど、と俺は肩を竦めた。
「それじゃあ、面白くないでしょ? それに――」
そんな仮初めの好意……貰ったって嬉しくない。
そう口のなかで呟いた俺を再び意外そうな表情で数秒間見詰めると、神様はフッとシニカルに笑い、仰々しく頷いた。
そして、手に何処からか取り出した杖を握ると、それを俺にかざす。
「良かろう。汝の願い。聞き届けた」
こうして、俺――
――と言っても、物心つく前のことは全く記憶に無く。この人生での俺の記憶は、幼稚園から先のみだ。
そして、運命の時。小学四年生の4月。
親父の転勤により、俺達工藤家は家族全員で田舎の方に引っ越すことになった。
――そう、特典通り、朝田 詩乃……《シノン》の家の隣へ。
「来たばかりで疲れているかもしれないが、お隣さん方に挨拶しに行くぞ、幸人」
「はーい」
俺が荷物を詰めたリュックを二階にある自分の部屋に置いて、一息つこうと予め運ばれていたベッドに腰掛けた時、下から親父の声が聞こえた。
いよいよか、と期待しながら体を起こして部屋を出ると、俺は階段を駆け降りる。
お隣さん方、と言ってもこの家の隣にあるのは駐車場と朝田宅のみ。挨拶する相手は1つしかない。
「どちら様ですか?」
親父が朝田宅のインターホンを鳴らすと、すぐに幼い少女の声が応じた。精一杯大人っぽく言おうとしているのか、少し話し方に無理を感じる。
そういえば――、と記憶の中の原作知識を手繰る。この頃の詩乃は、確か精神が逆行した母親を一人で庇おうと必死になっていたはずだ。
少女の声だったことに少し困惑していた親父と母さんは、顔を見合わせるとすぐに表情を緩め。
「お隣に引っ越してきた工藤です。ご挨拶に来ました」
そんな態度の両親に安心したのか、安堵の息を吐いた気配がした後、インターホンはブツリと音を立てて切れた。暫くすると朝田宅のドアがゆっくりと開く。
顔を覗かせるのは、幼い少女。SAOのヒロイン、朝田 詩乃をそのまま小さくしたような外見をしていた。
二次元を三次元に起こす際に有りがちな違和感が驚くほどに無い。くっきりと整った目鼻立ちに、綺麗な黒髪。そして――
(あれ? 眼鏡は掛けてないのか)
この時は近眼じゃなかったとかそういうアレだろうか。
――いや、違う。頭の中の知識を懸命に引っ張り上げる。
(眼鏡は確かあの事件の後に心を安定させるために防具として特注するんだったっけな……)
あの事件は確か小学五年生辺りに起きたはずだ。
俺がボーッと視線を詩乃に向けながらそんな風に考えを巡らせていると、母さんが俺を見てクスクスと堪えきれないように笑った。
「あらあら、幸人ったらこの子に一目惚れでもしちゃったのかしら」
「ち、ちげーし!」
慌てて顔を紅くしながらも弁解して、ハッと気付く。
――反応が小学生みたいになってしまった!!
見た目的には小学生なのだから実際は問題ないのだが、中身を考えると余りにも子供っぽい反応をしてしまったことに、更に顔を紅くして俺は俯いた。
そんな俺の態度をどう受け取ったのか、さらに優しい笑みを浮かべる母さん。
ふと、クスクスという小さな声が漏れた。そちらへ目を向けると、詩乃が口元を手で隠し、肩を震わせて笑っている。
――可愛い。
俺がそんな彼女に見惚れていると、詩乃はこちらへと歩いてきてペコリと頭を下げた。
「朝田 詩乃。よろしく」
「えっ、あっ、おう。俺は工藤 幸人。よろしくな、詩乃」
そんなこんなで、俺と彼女――詩乃のお隣さんライフが始まったのだった。
結論。詩乃可愛い。