「詩乃が出なきゃ読む意味ねーよ」って方は飛ばしてください。
新川との初コンタクト
入学式が無事に終わり。その直後に発表されたクラス編成では、俺と詩乃は別のクラスになっていた。代わりに……と言うか、原作では詩乃と同じクラスだった筈の新川くんと俺が何故か同じクラスになってしまった。さらに、何の嫌がらせか出席番号の関係で俺の隣の席に新川くんが座ってるんですがそれは。
まあ、何にせよ新川くんには色々と思うところがあってコンタクトを取らなければならないと思っていたので、いい機会と言えばいい機会なのだが……だが。
(話しかける切っかけがない……)
それに、個人的に用事があるとは言え、新川くんには話しかけにくい。
――いや、だって……考えてみてほしい。
焦点の合わない瞳で「アサダサンアサダサン」なんてリピートするような少年だよ? 「僕の朝田さん」とか言って詩乃に覆い被さって匂いを嗅ぐような少年だよ?
横目でチラリと隣を確認すると、他の生徒が各々帰る用意をしている中、新川くんは何かのゲームの特集をしているらしい雑誌を夢中になって読んでいた。
……ん? ゲーム?
もしかしたら――。なんて少しの希望を抱きながらそうっと新川くんが開いているその雑誌のページを覗き込む。すると、やはりと言うべきだろうか。俺の予想通りそのページに大きく載っていたのは『Gun Gale Online』についての記事だった。真ん中にデカデカと載っている、銃を構えたバニーガールが妙に印象的だ。何となく感動して、「へぇ」と思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
「!?」
俺のその声に新川くんが過剰な反応を見せた。見られたら不味いとでも思っているのか、慌てて雑誌を閉じようとする彼の手を抑えて、苦笑いを浮かべてみせる。
「ごめん、驚かせちゃったか。君、そのゲームやってるの?」
「……え、えぇと……、うん」
俺の言葉にオドオドしながらも頷く新川くん。実際は彼がGGOをしていることなど原作知識を持っているため百も承知だったが、これでGGOを一緒にやる口実が出来た。俺は身を乗り出して、新川くんへと笑いかける。
「俺もそれやろうと思ってるんだけどさ、何分勝手が分からなくて躊躇っちゃって。もし君が良ければ俺と一緒にそのゲームやってくれないかな?」
「……う、うん。じゃあ一緒にやる?」
「おっ、ありがと。よし、じゃあ今日の学校の帰りにでも買うわ。いつやる?」
辟易しながらも頷く新川くんに、俺は勢いにのって畳み掛ける。……でも、こういう勢いに呑まれやすい人って割りとカツアゲとかの対象にされやすいんだよな……。心無しか彼の未来の学校生活に不安を持ちながらも話す俺の心など露ほども知らずに、新川くんが嬉しそうに頷く。
「じゃあ、土曜日の――…そうだね、開始地点に11時でいい?僕のアバターはシュピーゲルで、金髪の男だから!」
「おう、土曜日の11時な? 分かった」
俺も新川くんの言葉に頷きながら、心の中の彼に対する評価を少し改めた。
新川くん――…意外と元から変態って訳でも無いかも。
因みに、帰りは勿論詩乃と一緒に帰りました。まる。
そして、何事もなく数日が経ち――土曜日。俺は慣れた手付きでアミュスフィアを装着して、GGOにログインした。因みに、時間はまだ10時半。約束の時間には早すぎると感じるかもしれないが、アバターの作成に大体30分はかかるだろうと見越してのこのログイン時間である。
「リンクスタート」
そう呟いた途端、俺の視界は見慣れた放射光で白く染まった。暫くして、白い空間に立つ俺に向けて音声アナウンスが始まる。
『Welcome to Gun Gale Online!』の文字に続き、音声アナウンスや出てくるウィンドウに従ってどの言語を使用するか、利用規約に同意するか等を選択する。因みに、ユーザー名はALOと同じ《Qoo》にした。そして、最後の質問である『容姿はランダム作成となります。よろしいですね?』という文字がウィンドウに出てきたので、迷わずイエス。
すると、一瞬で俺の体を白い光が包んだ。因みに、身長についての設定は、体に違和感が出来て動きに支障をきたすことがあるために現実世界と同期させている。どんな感じになるのかな、等とワクワクしながら結果が出るのを待っていると。暫くして俺を包んでいた光が消えると同時に、最後の音声アナウンスが流れた。
『それでは、Gun Gale Onlineをお楽しみください!』
今度は転移を表す青い光に包まれ、俺――《Qoo》ことクーは『Gun Gale Online』の世界へと参加した。
その世界で俺が最初に見たものは、黄昏色に染まる空だった。「ほへぇ……」等と気の抜けた感嘆の声を漏らしながら、辺りをぐるっと見回す。いくつもの金属質なビルが天をつくかのごとく聳え立ち、その一つ一つをガラス張りの空中回廊が繋いでいる。色鮮やかなネオンがビルの壁を埋め尽くさんばかりにキラキラと瞬く光景は、現実的で――しかし、何処か幻想的でもある。金属で舗装された道を闊歩する人達は殆どが男性だ。屈強そうな大男達がゴツゴツとした金属装備をつけて歩く姿は意外と様になっていて……街の中くらい外せば良いのに、等と微妙に場違いな感想が浮かぶのは俺だけだろうか。……というか非常にむさ苦しいので外していただきたい。
そんな事を考えながら約束の金髪の青年を探してキョロキョロとしていると、シュピーゲル君らしき優男を見つけた。同時に彼も俺に気付いたようで、手を振りながらこちらへと歩いてくる。にこやかにこちらへと来ている彼の反応からして、俺のアバターは変な外見だったりというわけでは無さそうだ。そのことに小さく安堵の息を吐き、俺はシュピーゲルへと頷いた。
取り合えず。GGO内で《シュピーゲル》、いや新川君が実際にどんな奴なのかを見極めないとな――
そんな風に考えながら。
詩乃が出てない!(禁断症状)